魔王軍入軍記録 ――余白に息をする場所
秋分の日
昼と夜の長さがちょうど半分ずつになる今日、羊皮紙のような一枚の証書を受け取りました。

記録執行官(クロニクラー)
そう書かれた紙片の隅には、血の色の封蝋のような認証印が押されています。
肩書きは大層ですが、剣を振るうわけでも、声高に理想を叫ぶわけでもありません。
与えられた役目は、ただ見て、ただ書き留めること。
固有スキルとして記された『白紙の因果(タブラ・ラサ)』の文字を指先でなぞりながら、私にできるのは、確かにそれくらいなのだと思いました。
人は誰しも、たくさんの理由や正しさで自分を塗りつぶして生きています。
けれど、ここに来てしまえば、そうした余計な彩りは剥ぎ取られ、誰の掌の上も一度は真っ白に戻される。
何ひとつ書かれていない余白から、もう一度だけ、自分の呼吸を確かめ直すように。
鏡を覗くと、頬杖をついた見慣れた顔が、冷えた空気の中に浮かんでいました。
耳元でかすかに揺れる白い花と、夜の色に沈む肩口。
魔王ノアが治めるこの場所で、私はただの記録者として息をします。
誰が傷つき、誰が何を失い、静寂の中にどんな言葉を落としていったのか。
評価も断罪もせず、ただこぼれ落ちた破片を拾い集めて、淡々と綴っていくだけです。
今日から、私の場所はここになりました。

