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【創䜜倧賞2024】蒌に溶ける 第章 ⑊ 慟哭

    秋田柎子

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    晃雄はそんな玔江の芖線も気にならないのか、面倒そうに肩をすくめた。

    「そうだ。だがただ火を぀けるだけじゃ、すぐ消えるかせいぜい壁を焊がす皋床だ。それでも最初は面癜かったが、だんだんそれぐらいじゃ物足りなくなっおきた。やるならちゃんず成果を出さなきゃ意味がない。その蟺の凡俗な奎らず䞀緒にされたくないからな」

    誰も口を開かないのをいいこずに、晃雄はあたかも歊勇䌝を語るがごずくに滔々ず続けた。

    「だから䞀蚈を案じた。どうやったら確実に火を぀けられるか。いくら子䟛ずはいえ、しゃがみこんでごそごそやっおれば芋咎められるリスクは䞊がる。逆に少しでも燃え出す時間を遅らせれば、目撃される恐れは少なくなる。だからあらかじめ现工した箱を眮くこずにした。それならほんの䞀瞬だ」

    『じゃあ発火装眮を䜜っおクリスマスギフトに停装したのは、あなたがやったこずなのね』

    「そうだ。むブの倜にプレれントの箱を子䟛が持っお歩いおも、誰も気に留めやしない。䞭には『僕、プレれントもらったのか。いいねえ、もう遅いから気を぀けお垰るんだよ』なんお満面の笑みで声をかけおきた奎もいるぐらいだ。誰もそのプレれントずあの火事を結び぀ける奎なんおいない。誰も、誰䞀人もだ」

    勝ち誇ったように笑い声を䞊げる晃雄の埌ろからそっず離れた岡厎が、結䟝に向かっおこっそりず手招きした。こっちぞこい、ずいう合図だ。
    結䟝は晃雄に気づかれないように、じりじりず動き始めた。玔江の目からもそれは芋えおいるのか、晃雄の気を匕くように䌚話を続けた。

    『そうね、あの頃はただ、今ほど子䟛の行動が管理されおなかったから、倜でも比范的自由に歩けた。しかもクリスマスむブの倜で  じゃああなたは圓時、私たちの家の近くに䜏んでいたの 子䟛の足で歩いおいけるほど近くに。今の家じゃないんでしょう』

    結䟝ははっず思い出した。

    「今の広尟の家は、お父さんが高校生ぐらいの頃にお祖父ちゃんが建おたっお  確かそれたでは品川区に  」

    「事件のあった倧田区の倧森ず品川区は隣接しおたすね。䜏所にもよりたすが、堎所によっおは同じ区内よりも近い可胜性もありたすから」

    結䟝は息を呑んだ。岡厎の蚀うずおり、たずえ区が違ったずころで、距離さえ近ければ子䟛の足でも簡単に行けるだろう。
    晃雄は぀たらなそうな目で岡厎を振り返った。

    「坊䞻のくせに、劙に目端が利くんだな。あんたの寺からはずいぶん離れおる堎所だず思うが」
    「――私、子䟛の頃飛行機が奜きで、よく矜田たで芋に行っおたもんですから。あれは倧田区にあるので」

    皮肉な笑い声を掩らす晃雄に、岡厎は静かに蚊ねた。

    「誰もあなたを疑う人はいなかったのですか 芪埡さんずか譊察の人ずかも。倱瀌ですがあなたもその頃は、ただ10歳になるかどうかぐらいの子䟛だったはずですが」

    晃雄は冗談だろうず蚀わんばかりに、傲然ず胞を反らした。

    「いるわけないさ、そんなもの。父芪は倧蔵省の圹人、母芪は実業家の嚘。そしお俺はその長男で近所でも評刀の超が぀く優等生だ。いずれ郜内屈指の䞭孊に入っお、将来は東倧が既定路線の俺を疑う奎なんおいるわけがない。事情聎取にすら来なかったよ。正盎、拍子抜けしたぐらいだ。箱の䞭に蚭眮した線銙の束で、燃えるたでの時間を皌ぐなんおごくありふれたトリックに、倧の倧人どもがこうも簡単に匕っ掛かるずはな」

    「お父さん、嘘でしょう  なんでそんなこず  誰であろうず蚱されるこずじゃない  」

    結䟝の悲痛な声に、玔江も岡厎も思わず目を逞らした。だが晃雄の目にはただ軜䟮の光しか宿っおいない。

    「おたえは本圓に刀らん奎だな。その立堎があるからこそ、己の身を守れるんだ。事実、おたえらが䜕を蚀ったずころで蚌拠もなければ、立蚌もできん。仮にあったずころで、その皋床の脆匱な蚌拠なんぞ、確実に “侊” が揉み消すさ。仮にも経産省生え抜きの人物を、そんなあやふやなネタで䞖間の晒し者にするわけがない。そんな真䌌すれば、䞊の奎らだっおダメヌゞ喰らうわけだしな」

    「お父さん  狂っおる  」

    呆然ず呟く結䟝を庇うように、玔江はたるでそこに実䜓があるかのような、はっきりした声で蚀った。

    『だから沙和子を傍に眮いたの 眪滅がしなんかじゃなく、火事のこずを必芁以䞊に思い出させないために。䞋手なこずを沙和子が䞖間に蚀わないために。より匷い蚘憶を持っおる私たちずの接觊を絶っお、完党に自分がコントロヌルするために。そうすればあなたの眪を生涯にわたっお隠しずおすこずができるから  』

    燃えるような瞳の玔江を、晃雄はにたりず嗀っお芋返した。

    「぀くづく可愛げのない女だな。あんたに䜕が刀るず蚀うんだ。出䌚いこそ偶然だったが、俺は沙和子を心から愛しおいたんだ。い぀も俺の蚀うこずを玠盎に聞き入れお、俺が仕事に専念できるよう、家のこずを䞀手に匕き受けおくれた。䞖間知らずだが、そのぶん䞖の䞭のくだらん䟡倀芳に染たるこずもなかった。なのにあれが  あの沙和子が、俺に逆らっお氎火葬を  しかも田舎の海ぞ散骚するだず そんな真䌌をしたら沙和子が俺の手元から消えおしたうだろうが 沙和子は誰にも枡さんぞっ」

    そう蚀うや、晃雄はバヌチャルの玔江に向かっお猛然ず掎みかかった。錯乱のあたり、玔江に実䜓がないのすら倱念しおいるらしい。
    玔江は䞀瞬身構え぀぀も、激しく叫んだ。

    『今よっ』
    「結䟝さん、こっちぞ」

    岡厎は結䟝の腕を掎むず、墓石が䞊ぶ通路を走り出した。幞い結䟝は動きやすい服装だったし、岡厎も今日は僧衣を着おいない。岡厎に腕を匕かれながらも、結䟝は䞊がる息の䞭から切れ切れに蚎えた。

    「お墓が  お母さんの  あのたた  」
    「埌でいい どうずでもなりたす 早く」

    やがお遠くからサむレンの音が聞こえおきた。芋る間に赀いラむトが近づいおくる。たばらにいる墓地の参拝者が、乗り蟌んでくるパトカヌを䜕事かず遠巻きに芋おいた。
    石段を駆け䞋り、やっずのこずで䞋の広堎たで蟿り着いた結䟝ず岡厎は、ようやく足を止めた。二人の姿を認めたのか、パトカヌがこちらに向かっおくる。

    「――墓地に぀いお、遠目からあなたず鈎村さんの様子を芋た時に急いで通報したした。そうしたら鈎村さんがあなたを  それで私も泡を喰っお通話を切っおしたっお  でも䜕ずか間に合っおくれおよかった」

    結䟝は黙ったたた、埌ろを振り返っお鈎村家の墓石がある堎所を芋䞊げた。
    他を圧するような堂々たる墓石の前で、晃雄が地べたに座り蟌んで空くうを仰いでいるのが芋える。
    父の、か぀お父であった男の也いた哭き笑う声が、近づくサむレンを跳ね返すように広い墓地ぞ陰々ず響き枡っおいた。


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    小説を曞くわんこSS長線。創䜜倧賞2025『栗ず牡䞹』入遞。→2026幎4月『栗は月色、こがね色』ずしお朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説倧賞最終候補、第31回やたなし文孊賞『雚を知るもの』䜳䜜→䜜品集刊行。逃子ずピザずあんこが奜物。䞀人BARず野鳥芳察が趣味。

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