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第2章 父になった日

    その日は、ただの夜だった。
    何も特別なことはなかった。
    でも、その一言で全部変わった。

    家で、洗い物をしながら電話してた。
    イヤホンつけて、手は動かして、
    子供たちは後ろでテレビ見たり、ゲームしたりしてた。

    いつも通りの、なんでもない時間。

    相手は、中学の頃からの友達。
    男女の壁なんて、とっくに越えてる。
    でも恋人じゃない。
    そんな距離のやつ。

    何気ない会話の中で、俺は言った。

    「やっぱまだ、嫁のこと愛しとるんよな」

    終わってるのは分かってる。
    裏切られたのも分かってる。

    それでも、気持ちだけ残ってた。

    そしたら、そいつは言った。

    「お前な、もう嫁はあんたに気持ち無いんやからさ。諦めなよ」

    その通りだったと思う。

    でも、そこで終わらなかった。

    「その愛情、子供に向けたら?」

    その一言だった。

    洗い物をしてる手が止まった。
    水の音だけが、やけに響いてた。

    あぁ、そうかって思った。

    ずっと、同じところで止まってた。
    戻らないものに、しがみついてた。

    でも、後ろにいるやん。

    ちゃんと、守るべきものが。

    その瞬間、全部が抜けた。

    もやもやが消えた。
    胸の中にあった重たいものが、スッと落ちた。

    楽になった。

    前が見えた。

    嫁に対する感情も、消えた。

    あんなに引きずってたのに、
    嘘みたいに、なくなった。

    振り返らなくてよくなった。

    俺はもう、過去じゃなくていい。

    そう思えた。

    あの日、俺は切り替わった。

    夫じゃなくて、父親に。

    それが、俺が父になった日だ。

    でも、ここからが本当のスタートだった。

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