
練習が終わるたびに、自分だけ置いていかれている気がした。
それは、3年前のことでした。
スペインへきて最初の頃、
毎日、笑うタイミングだけを探していました。
夕方の練習が終わると、
グラウンドには笑い声が広がる。
スタッフも選手も、
汗だくのまま楽しそうに話している。
自分も横で笑う。
でも、
何を話しているのかは、
一つも分からなかった。
毎日のように、
選手たちがトレーナールームへ来ます。
「今日どう?」
「絶好調だよ」
そこまでは分かる。
でも、
その後の会話になると、
もう何も分からなかった。
選手のジェスチャーや表情を見ながら、
なんとなく必要なことを察して動く。
トレーナールームでは、
音楽が流れていて、
選手もスタッフも笑顔で話している。
自分も一緒に笑う。
でも、
何が面白いのかは、
一つも分からなかった。
スペイン人は明るい。
しかも、
スペイン語は抑揚が大きく、
みんな感情を乗せて話す。
1つの話題で、
急に全員が盛り上がる。
笑い声だけが、
部屋中に広がっていく。
たまに、
自分にも話を振ってくれる。
でも、
全く理解できない。
だから、
とりあえず「SÍ」と答える。
本当は、
質問の意味すら分かっていない。
周りが笑っているから、
自分も笑う。
でも、
会話には入れていなかった。
あの頃の自分は、
ずっとその場にいるのに、
その場所へ入れていない感覚がありました。
家に帰ると、
急に静かになる。
部屋のドアを閉めた瞬間、
張っていた気が一気に抜ける。
ベッドへ倒れ込んで、
しばらく天井を見ていた。
窓の外からは、
知らないスペイン語が聞こえてくる。
昼は必死だった。
笑って、
頷いて、
ジェスチャーを読んで、
なんとか空気に合わせていた。
でも、
夜になると、
孤独だけが残った。
言葉が通じないストレス。
誰とも深く話せない苦しさ。
「自分はここにいていいんだろうか」
そんなことを、
毎日のように考えていました。
日本へ帰ることも、
本気で考えていました。
だから毎日、
必死でスペイン語を勉強した。
怖かった。
このまま、
ずっと1人のままなんじゃないかと思った。
この環境で、
生き残りたかった。
昼に聞き取れなかった言葉を、
夜にノートへ書き続けた。
明日から使えそうな単語。
選手との会話で使えそうな言葉。
面白いフレーズ。
小さなメモ帳に書いて、
毎日ポケットへ入れていた。
そして、
練習前やケア中、
メモ帳を見ながら、
少しずつ言葉を返していく。
うまく発音できなくて、
聞き返されることも多かった。
それでも、
選手から返事が返ってくる。
それだけで、
少し嬉しかった。
「通じた」
たったそれだけのことが、
あの頃の自分には、
すごく大きかった。
そんな日々を繰り返していくうちに、
少しずつ聞き取れる言葉が増えていった。
選手と一緒に笑える瞬間も、
少しずつ増えていった。
ほんの少しだけ、
この場所にいていいのかもしれない。
そう思える瞬間が、
増えていきました。
今思えば、
あの頃は、
必死だったんだと思います。
言葉が分からなくても、
なんとかこの場所にいたかった。
置いていかれたくなかった。
その姿を、
選手やスタッフは、
見てくれていたのかもしれません。
あの頃は、
正直、毎日かなり苦しかった。
日本では感じたことのない孤独を、
毎日感じていました。
でも、
あの孤独があったから、
今の自分があるのかもしれない。
そう思う時があります。