#8 陥没乳頭は手術しておいたほうがいい?①―そもそも陥没乳頭だと授乳はできないの?
「乳首が陥没しているんですが、母乳ってあげられますか?」
妊娠中のママから相談されることは、しばしばあります。
陥没乳頭そのものは、助産師にとって珍しいものではありません。
乳頭が突出している人もいれば、平らな人もいる。
少し刺激すると出てくる人もいれば、引き出してもすぐ戻る人もいる。
いろいろな形があります。
ただ、妊娠して「母乳をあげたい」と思ったとき、
「この乳首で、赤ちゃんは飲めるのかな」
と、急に気になり始める人もいます。
では実際、陥没乳頭だと母乳育児は難しいのでしょうか。
今回は、陥没乳頭と授乳についてお話します。
そもそも「陥没乳頭」って?
陥没乳頭は、乳頭が乳房の表面より内側に入り込んでいる状態です。
程度には個人差があり、よく使われる分類では、
Grade 1:比較的簡単に引き出すことができ、その状態を保てる
Grade 2:引き出すことはできるけれど、戻りやすい
Grade 3:引き出すこと自体が難しい
とされています。
つまり、「陥没乳頭」と一言でいっても、みんな同じではありません。
そして授乳を考えるときには、乳頭の見た目だけでは分からないこともあります。
赤ちゃんは「乳首だけ」を吸っているわけではない
ここは、授乳を考えるうえで大事なところです。
赤ちゃんは、乳頭の先だけをくわえて母乳を飲んでいるわけではありません。
乳頭だけでなく、その周囲の乳房組織も含めて深く口に取り込み、舌や顎を使って母乳を飲み取ります。
だから、「乳頭が出ていない=赤ちゃんが吸えない」とは限りません。
実際、陥没乳頭があっても、そのまま直接授乳できる人もいます。
最初はうまく吸着できなくても、赤ちゃんの口が大きくなったり、授乳を重ねるなかで乳頭の状態が変化したりして、直接飲めるようになることもあります。
一方で、陥没の程度が強かったり、乳頭を引き出してもすぐ戻ってしまったりすると、赤ちゃんが乳房を深くくわえることが難しい場合もあります。
つまり、乳頭の形は授乳のしやすさに関係する要素のひとつではあるけれど、それだけで「授乳できる・できない」が決まるわけではないということです。
妊娠中から乳頭を出しておいたほうがいい?
そうなると、
「じゃあ、妊娠中から引っ張ったり、マッサージしたりして、乳首を出しておいたほうがいい?」
と思いますよね。
陥没乳頭や扁平乳頭に対しては、これまで、手指や陰圧を使って乳頭を引き出す方法や、ブレストシェルなどの装具を使って乳頭の突出を促す方法などが試されてきました。
でも、妊娠中からこうした方法を行えば、産後の母乳育児がうまくいくようになる、と言えるほどの根拠があるわけではありません。
陥没乳頭や扁平乳頭への介入を調べた研究でも、方法によって結果はさまざまで、「妊娠中に乳頭を突出させておけば大丈夫」と単純には言えないことが分かっています。
産まれてからできることもある
もし出産直後に赤ちゃんがうまく吸着できなかったとしても、
「やっぱり陥没乳頭だから無理だった」
と、その時点で決まるわけではありません。
・抱き方や赤ちゃんの位置を変える。
・乳房を支えながら、深くくわえやすい形をつくる。
・授乳前に一時的に乳頭を突出させる。
・必要に応じて搾乳する。
・場合によっては、乳頭保護器などの補助具を使う。
できることはいくつかあります。
どの方法が合うかは、乳頭の形だけでなく、乳房全体の状態、赤ちゃんの口の大きさや吸啜、母乳量などによっても変わります。
だからこそ、「陥没乳頭」という名前だけで判断するより、実際の乳房と、実際に飲む赤ちゃんを一緒に見て考えるほうが現実的です。
じゃあ、手術しておいたほうが安心?
ここまでくると、もうひとつ気になることがあります。
「将来母乳をあげたいなら、妊娠する前に手術して乳頭を出しておいたほうがいいの?」
実は先日、陥没乳頭の手術を実際に行っている先生のお話を聞く機会がありました。
助産師になって四半世紀。
陥没乳頭のある女性には何度も出会ってきましたが、手術する側の先生に直接質問できる機会は、ほとんどありませんでした。
乳管はどうするの?
手術しておけば、本当に授乳しやすくなる?
手術後の授乳って、実際どうなの?
聞いてみたいことが、たくさん!
陥没乳頭の手術を受けたママにはあったことはありますが、正直、保険診療で受けたママはひとりだけしか出会っていません。
ほぼ自費診療で受けたという方ばかり。
なので、事前に「40歳未満なら保険で手術できるらしい」と誘ってくださった助産師さんから聞き、『これは!』と参加したのでした。
……なんで40歳?
気になりませんか?
お話を聞いたあと、自分でもここは調べました。
そこには診療報酬制度が関係していることが発覚。
医療従事者なら「なるほど、そういうことか」と思う部分もあるかもしれません。
でも、これから手術を受けようとする人の立場で考えると、少し複雑な話でもあります。
そもそも、手術をすれば授乳しやすくなるのか。
手術で乳管はどうなるのか。
将来授乳したいなら、妊娠前に手術しておいたほうがいいのか。
そして、「40歳未満」と保険診療には、どんな関係があるのか。
次の記事では、陥没乳頭の手術について、制度と授乳の両方からお話したいと思います。
今日のまとめ
・陥没乳頭は、授乳のしやすさに影響することがあります。
・「陥没乳頭=母乳育児ができない」ではありません。
・乳頭の突出だけではなく、赤ちゃんが乳房をどのようにくわえ、実際に母乳を飲み取れているかも大切です。
・最初は直接飲むことが難しくても、産後にできる工夫はいくつもあります。
・「私は母乳をあげられないかも」と決めてしまう必要はないです。
