【短編小説】メニューが多すぎる料理店
探偵の俺は、最近できた近所の料理店に足繁く通っていた。その料理店はとても料理が美味いのだが、それ以前にメニューが豊富、というか多すぎる料理店だった。和食、洋食は勿論のこと、イタリア料理やフランス料理、アフリカ圏のよく知らない料理まで全て提供していた。俺は変だなと思いつつも、たまに全く名前の知らないような料理を注文して食べるという、新しい楽しみを堪能していた。店主は下田さんという日本人の方だった。バイトとかは雇っておらず、店を一人で回しており、いつも俺は誰か雇ったらいいのにな、なんて思っていた。俺はやがて店に通い続けたことで下田さんに認知され始め、仲良くなった。
「ホントにこの店ってメニュー多いですよね」
俺はある日、店に入ると下田さんにそう話しかけた。
「え、ええ?そうですかい?」
「そうですよ。普通、こんなに品揃えの良い店なんてないですよ」
下田さんは明らかに動揺していた。なんだ?俺は何かマズいことを訊いてしまったのだろうか。幸い、この時間帯に客は俺しか来ていなかった。
「下田さんはどこでこんなに料理を学んだんですか?」
俺は下田さんが答えにくい質問だったのだろうと察して、別の質問を投げたが、この質問でも下田さんは動揺するばかりであった。
「ちゅ、注文どうしますか?」
下田さんから話を変えてきたので、俺はひとまず、食べたことのないガンボという料理を注文した。下田さんは奥の厨房に行くと、しばらくして俺にガンボを提供してくれた。
「ありがとうございます。へー、ガンボってこんな料理なんですね。シーフード?とか、下田さんってこういうのどこから仕入れてるんですか?」
俺はしつこいかなと思いつつ、流れるように質問を投げかけた。しかし、下田さんはまたもや動揺するばかりである。俺は下田さんが何か隠していると感じていた。探偵の勘として、何かを感じていた。俺はガンボを完食すると、お会計の際に下田さんに鎌をかけてみることにした。今、他に客のいない時間であれば、迷惑をかけることはないだろうし、下田さんも俺が探偵をしていることは以前の会話で知っているはずなので、遊び心で鎌をかけても悪い冗談ぐらいに捉えてくれるだろうと考えていたのだ。
「下田さん、私は探偵ですよ。ここまで何度かした質問でわかるでしょう?私が何を言いたいのか」
俺がそう言うと、あからさまに下田さんは怯えていた。
「私は警察ではないので、正直に言ってくれませんか」
俺はリカバリーの気持ちで優しく声をかけると、下田さんは観念したように大きく息を吐いた。
「流石、探偵さんですね。わかっていたんですね」
そう言うと下田さんは奥の厨房でゴソゴソとすると、しばらくして厨房から、下田さんと全く同じ服を着た人型の生物が出てきた。俺は驚きたかったが、唖然として声が出なかった。
「そうです。私は宇宙人なのに地球で料理店を営んでいました」
下田さんが宇宙人?俺は言いたいことがたくさんあったが、動揺をグッと堪え、下田さんの話を聞いた。
それは、下田さんが地球の料理への強い憧れを持っており、満を持して料理店を始めた熱い話であった。下田さんはたくさんの料理を研究し、成分なども研究したらしい。しかし、お店そのものについての研究はあまりしていなかったため、文化を問わず様々な料理を提供できることが一般的ではないという認識が、下田さんにはなかった。下田さんは純粋にたくさんの料理を作りたいがために、メニューを増やしたようだった。そして、この店の調理工程は、宇宙ではよく使われている成分を注入することで料理が出来上がる、いわゆる原材料自体をあまり必要としない調理法だったのだ。俺は全てに合点がいった。
「なるほどね。そういうことだったんですね」
「このことはご内密に……」
不安そうな下田さんに対し、俺は罪悪感を覚えたが、そもそも、あの質問が鎌をかけたのだと思われたくないため、俺は感情を抑え、クールに店を去った。
「下田さん、勿論ですよ。私もこの店好きなのでね。それではまた」
俺は店を出て、角を曲がると、ゼエゼエと息を吐いた。背中の汗もびっしょり。下田さんよりも絶対に俺の方が動揺していた。
