ショートショート 「なんのはなしですか」 #なんのはなしですか
「おい、前崎。こっち来いよ」
宮本先輩が手招きした。
僕は小走りで休憩室の先輩の向かいに座る。
先輩はティッシュBOXから一枚をヒラリと抜き取り、テーブルにふわっと敷いた。
「何ですか、これ?」
僕の問いをさらりとかわし、先輩は筆ペンの先をティッシュに下ろした。
「まぁまぁ、いいから。とりあえず聞けって」
ゆっくりとペン先が走る。
「まず横画を引いて、縦画を二本並べて下ろす……っと」
淡い白に黒い線が伸びる。左上には小さく『艹』が戴かれた。
「それから、縦画、横折れ、底を閉じる横画の順で小ぶりな『口』を書いて、そのすぐ下に横画を二本。で、『口』の上線の中央から左へ大きく払って、右下は短く払う……っと」
ティッシュの左半分に『𦰩』が浮かび上がる。
「さて、ここから部首だ。この漢字は右側が部首。前崎、もう分かるよな?」
「難の漢字……ですよね?」
「正解。まぁ、分からない方がヤバいよな?」
「先輩……あの、なんのはなしですか?」
「難の話だよ。いいから聞けって」
先輩は続ける。
「右の部首は『隹』な。頂点に短い点、その左下に短い斜めの左払い。その下に長い縦画をストンと下ろす……っと」
達筆とは言い難いが、妙にスラスラと書き進めていく。
「上から横画を三本並べて、中央に縦画を一本。最後に一番下の横画で全体を閉じる……はい、『難』」
ティッシュの角を指でつまみ、ヒラリと揺らす。
「先輩……本当に意図が分からないんですけど。なんのはなしですか?」
「お前は何でも難しく考えすぎなんだよ」
「はぁ……」
「お前は、このティッシュに書かれた文字みたいに、薄く軽くあるべきなんだ」
「先輩……。なんのはなしですか?」
完
(本文695字)
あとがき
「なんのはなしですか」に再度挑戦しました。ティッシュ字を混ぜ込んでみたら、AIから『習字のくだりがクドい!三割削れ』と言われたけど、なんのはなしですかっとそのまま上げてみた。え?オチもユルい?
なんのはなしですか。
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#難のはなしですが
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