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第10話|崩れ出した日常

    「ピッ」

    送信ボタンを押したあと、送ったメールを何度も読み返す。

    「これでよかったんだ」
    「私は間違ってない」

    心の中で何度もそう言い聞かせた。

    既読はつかない。

    でももう、後戻りはできない。

    胸の奥が、ザワザワと落ち着かない。
    これは期待なのか、それとも不安なのか。

    でも少しだけ、どこか気持ちが軽くなった気もしていた。



    翌日。

    「本気でやるなら、今なんじゃない?」

    落ち着いた声は、妙に説得力がある。

    「君にはお客さんがついてる。いい店舗見つかれば、絶対できるよ」

    具体的な数字。
    初期費用。
    利益率。

    数字を叩く音と、現実味のある言葉が、私の中の迷いを次々と消してゆく。

    ”私、できるかもしれない”

    この感覚、いつぶりだろう。




    家に帰ると、子どもが飛びついてきた。

    「ママ、あのね」

    と、嬉しそうに抱きつき、小さな手の温もりが触れたとき、少しだけ胸が痛んだ。

    「守るために、決めたはず」

    けれど一方で、自分で何かを壊し始めている、そんな気もしていた。




    久しぶりに、家族で夕食を囲んだ。

    缶ビール片手に、夫がふと口を開く。

    「お前最近、忙しそうだな」

    なぜだかドキッとした。

    「う、うん。まぁ、ちょっとね」

    視線を逸らしたその瞬間、心の中に小さなトゲがチクッと刺さった気がした。

    ”忙しいのは嘘じゃない”

    そう、自分に言い訳をしながら、次に浮かんだ言葉を隠すように飲み込んだ。



    久しぶりに家族3人で過ごす夜。

    真ん中で横たわる子どもは、私と夫の手を同時に握った。

    あたたかくて、柔らかい小さな手。

    けれど。子どもを通して、夫の温もりはもう伝わってこない。

    ”私は、一体何を選ぼうとしているんだろう”

    眠れずに、ただ天井を見つめる。

    きっと、あの時、動き出した歯車は、音を立てて回り始めていたのだと思う。

    ”もう、止められない”

    けれど、まだ私以外、

    誰も、その音に気づいてはいなかった。




    数日後。

    メールが気になって、仕事の合間何度も携帯を確認するようになっていた。

    返事はまだ来ない。

    けれど、不思議と焦りは感じていなかった。

    あのとき送ったメッセージは、自分の中で一つの線を引いたからかもしれない。

    戻れない。
    いや、元の場所にはもう戻らない。

    そう決めてしまった自分がいた。



    店では、いつも以上に明るく振る舞っていた。

    笑って、話して、グラスを交わす。

    「なんか最近、調子いいね」

    常連のお客様にそう言われ、自然と笑顔がこぼれる。


    「ありがとうございます」


    口にした言葉とは裏腹にその奥で、少しずつ何かが変わっていくのを感じていた。



    “ここじゃない”


    ふと、そんな感覚が脳裏をよぎる。

    これまで必死にしがみついてきた場所なのに、
    足元が、少しずつ浮いていくような感覚があった。




    帰宅すると、リビングの空気がいつもより重かった。

    テレビはついているのに、音だけが小さく響いている。

    夫は無言で画面を見つめたまま、こちらを見ようとはしない。



    「……た、ただいま」


    小さく声をかけたが、返事はない。



    そのままキッチンに立ち、わけもなく冷蔵庫を開け、中身を確認しながら


    私は“ここにいる理由”を探していた。



    「ガチャッ」


    背後で、ドアを開ける音がした。


    振り返ると、夫が立っている。



    「お前、最近帰り遅いよな」



    低く、抑えた声。



    夫は責めているわけではない。


    けれど、その言葉の奥にある感情を、私は感じていた。


    「あ、うん。…仕事だから」


    短く答える。


    それ以上、何も言いたくなかった。



    少しの沈黙のあと



    「……本当にそれだけ?」



    その一言に、心臓が強く打つ。



    ”疑われている”



    わかっていたはずなのに、実際に言葉にされると、息が詰まりそうになる。



    「え?どういう意味?」



    少しだけ強い口調になった。



    「いや、別に」


    そう言って、夫は視線を逸らす。



    それ以上は何も言わない。



    けれど、その沈黙は何よりも重かった。



    “もう、限界かもしれない”



    頭のどこかで、そんな言葉が浮かぶ。



    でも同時に、


    “私たちはまだ壊れていない”


    そんな感覚も残っていた。


    だからこそ、苦しい。



    その夜。


    子どもが寝たあとも、リビングの空気は相変わらず重い。



    会話はない。



    視線も交わらない。



    同じ空間にいるのに、



    まるで別の場所にいるような感覚。



    私はスマホを手に取り、あのメッセージの画面を、もう一度開く。



    既読は、ついていない。



    けれど――



    そのとき。



    画面が、ふっと切り替わった。



    「既読」



    小さな文字。



    たったそれだけなのに、



    胸の奥が、強く揺れる。




    何かが、動き出す。



    直感だった。



    家の中の重たい空気と、外の世界へと引き寄せられる感覚。



    そのどちらもが、私を同時に引っ張っていた。



    守りたいもの。


    手放そうとしているもの。



    少しずつ、曖昧になっていく。



    私は、どこへ向かおうとしているのか。



    答えは、まだ出ていない。



    けれど、

    もう引き返すことだけは、できない。

    そして私はまだ、
    この選択が何を壊してしまうのか、

    わかっていなかった。


     
     
    🔸現役ノンアダチャトレ(平均月収20万) 🔸夜職歴15年以上既婚チャトレ歴18年目 🔸経験をシェアする人🤲 ※本アカウントはAmazonアソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 尚、文章の校閲にAIを活用していますが、内容は全て筆者が執筆しています。

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