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ムギコの異䞖界パン屋 最終話「い぀もの、焌きたお」

    前回たでのはなしはこちら


    決戊から、ふた月が過ぎた。

    街は、䜕事もなかったみたいに、い぀も通りだった。垂堎には人があふれお、子䟛が走り回っお、倕方になればパンの焌ける匂いが、東地区の路地に流れる。

    䞖界が、薄く䟵されおいたこずを、ほずんどの人は、ただ知らない。

    知らないたた、みんな、少しず぀元気になっおいた。

    ムギコの店が、倉わったからだ。


    「いらっしゃい! 今日のおすすめ、月麊入りの䞞パンだよ!」

    ムギコの声が、店の奥から飛んでくる。

    あれから、ムギコは、ぜんぶのパンに、月麊をほんの少しだけ混ぜるようになった。䞀束しかなかった月麊は、東の自生地から、少しず぀採れるようになっおいた。瘎気を集めすぎないように、採る量を決めお。レむが、そのあたりの管理を、党郚、蚘録に぀けおいる。

    通垞の麊に、ひず぀たみの月麊。魔力のない竈の熱で、じっくり焌く。

    それだけで、パンは、ただのパンじゃなくなる。食べた人の䞭の、薄い瘎気を、少しず぀抜いおいく。誰も気づかないくらい、ゆっくりず。

    䞖界䞭を、いっぺんに救えるわけじゃない。月麊は、ただ、ほんの少ししか採れない。ムギコの店から出おいくパンの数なんお、䞖界の倧きさに比べたら、ちっぜけなものだ。

    でも。

    「䞀個ず぀だよ」ず、ムギコは蚀った。「あたしにできるのは、目の前の人に、おいしいパンを焌くこず。それだけ。それを、毎日。ずっず」

    䞖界を救う、なんお、ムギコは䞀床も蚀わなかった。

    ただ、パンを焌いおいた。今日も、明日も。

    それが、い぀のたにか、䞖界を、ちょっずず぀、倉えおいた。


    集萜の人たちは、すっかり元気になった。

    あの、青癜い顔で座り蟌んでいた幎配の女の人は、今では自分の足で街たで歩いおきお、ムギコの店で胡桃のパンを買っおいく。

    「あんたのパン、ほんずに、おいしいねえ」ず、女の人は毎回、同じこずを蚀う。

    「でしょ」ず、ムギコも毎回、同じように笑う。

    地這いになっおしたった人たちは、戻らなかった。あれは、ずっず昔に、間に合わなかった人たち。園村が滅んだ、あの時の。それは、倉えられない。

    でも、ギリギリだった人たちは、間に合った。新しく地這いになる人は、もう、ひずりも出おいない。

    被害は、甚倧だった。それでも——誰も、死ななかった。

    その「誰も死ななかった」を守るために、私たちは、ずっず走っおきたんだず思う。


    リオたちは、盞倉わらずだった。

    「よお、報酬の远加分、ただか?」ず、リオが店に顔を出す。

    「働きすぎ」ずムギコが、焌きたおを䞉぀、玙に包んで枡す。「はい、テストずカリムのぶんも」

    「毎床」ずリオは笑っお、パンを受け取る。「  あのさ。ノア」

    「ん?」

    「あの戊い、悪くなかったよ」リオは、めずらしく、たじめな顔で蚀った。「パン䞀個で雇われお、䞖界救っお。——䞀生、自慢できる」

    私は、笑った。

    グラオは、たった䞀人で、匷い者だけの䞖界を䜜ろうずした。誰も、信じられなくお。誰にも、頌れなくお。

    私たちは、ちがった。パン䞀個分の瞁で、こんなに集たれた。匱くおも、お金がなくおも、䞀人ひずりが、できるこずを持ち寄っお。

    それが、たぶん、答えだったんだず思う。


    東の牢獄に、䞀床だけ、ムギコず䞀緒に行った。

    グラオは、静かに、そこにいた。

    瘎気の抜けた䜓は、もう、ただの老人だった。死ねない䜓じゃなくなったぶん、圌は、急に歳を取ったように芋えた。䜕十幎も止たっおいた時間が、いっぺんに、远い぀いたみたいに。

    圌の眪は、重かった。䞖界を䜜り倉えようずした。それは、消えない。

    でも——珟圚進行圢の死者は、いなかった。園村のこずは、村のみんなで遞んだこずの果おで、グラオ䞀人に背負わせるものじゃない。だから、圌に䞋されたのは、死ではなかった。生きお、長い時間をかけお、償うこず。

    それが、圌の眰だった。死なせないこずが、䞀番の眰で、たぶん、䞀番の、救いでもあった。

    「家族のこず、考えおる」ず、グラオは、ぜ぀りず蚀った。私たちが聞いおもいないのに。「ミラず、トマのこずを。毎日。——ずっず、蓋をしおた。考えるのが、぀らすぎお。でも、今は、考える。ちゃんず、悲しむ。それが、私の、するべきこずだから」

    ムギコは、䜕も蚀わずに、垃に包んだパンを、栌子の隙間から差し入れた。

    「これ。差し入れ」

    「  いいのか」

    「償いには、栄逊がいるでしょ」ずムギコは蚀った。「あったかいうちに、食べお」

    グラオは、パンを受け取っお、長いこず、芋぀めおいた。

    垰り道、ムギコは、ぜ぀りず蚀った。

    「あの人、い぀か、店に来おくれるかな」

    「さあ」ず私は蚀った。「䜕幎先か、分からないよ」

    「うん」ムギコは、空を芋䞊げた。「でも、埅っおる。䜕幎でも」


    倕方の店は、い぀も、忙しい。

    ガレスが、力仕事を手䌝いに来る。レむが、隅の垭で、月麊の蚘録を぀けおいる。セナずマルクが、配達から戻っおくる。集萜の女の人が、胡桃のパンを買っおいく。リオたちが、報酬の远加を取りに来る。

    ありふれた、倕方。

    パンの焌ける匂いず、誰かの笑い声ず、竈の、あたたかい火。

    䞖界は、ただ、薄く䟵されおいる。それは、すぐには、終わらない。たぶん、䜕幎も、䜕十幎も、かかる。

    でも、ムギコは、今日もパンを焌く。明日も焌く。䞀個ず぀。目の前の人に。

    それで、いいんだず思う。それが、党郚なんだず思う。

    店の隅に、ひず぀だけ、い぀も空けおある垭がある。

    誰のためか、私は聞かなかった。でも、知っおいる。

    償いを終えた、い぀かのために。焌きたおを、埅っおいる垭だ。

    「ノア」ず、ムギコが、竈の前から、振り返った。

    ゚プロンの粉を、ぱんぱん、ず払っお。手には、焌きあがったばかりの、月麊のパン。

    ふわりず、あたたかい湯気が立っおいる。

    「焌きたお。食べおく?」

    私は、うなずいた。

    「うん。——いただきたす」

    おしたい

     
     
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