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本気じゃない方の、譲渡会。

赤井鳥です。

「二匹は無理だよ」

撤退撤退。
と土竜の背中を押して、本気の譲渡会の会場を出ようとしたとき、入れ違いでファミリーが入ってきた。
おそらく猫を飼いたいと言い出した女の子。優しそうなお父さん。明るいお母さん。

SNSで事前にチェックしていたのだろう。

「この子がKちゃんだ」
「Kちゃん可愛いねえ」

群がる家族の影で、Jが、鼻水をすすりながら垂れ目できょとんと見つめていた。

レンタルスペースを後にして、日曜だからほかのところでも譲渡会がやっていて、そこにも行こうということになった。

「ほかの譲渡会行ってきたの? よくないから、今度から気を付けてね?」
どこかの譲渡会をはしごしてきたことが気に食わなかったようである。派手な柄のワンピースを着たメイクの濃い金髪のおばちゃんが、到着するなり俺たちに上から目線で言い放った。
猫風邪がうつるかららしい。
感染症を気にする理屈はまあわかる。だが、おばちゃんの本心では、問題はそこではないと思っている気がした。

そこは、純血種限定譲渡会だった。
公民館の雑多な会議室のパイプ椅子の上に直置きされたケージには、純血種らしき猫たちが種類ごとに3、4匹ずつぎゅうぎゅうと詰め込まれていた。いわゆる猫を大量に飼っているおばちゃんの家の臭いがした。

傍らには、スマホをいじったままこちらを見ようともしない東南アジア系の女性スタッフが2人。
近寄ってきて、「この子はタイプが良くないからここに来た」と説明するおばちゃん。
タイプ? 血統の標準から外れているという意味? タイプが悪いけど、と軽い調子で繰り返されるその言葉に、なんだか頭がくらくらする。この子が猫の中でタイプが悪いんだったら、俺なんて劣等種中の劣等種である。

「この子、メインクーン。大きいでしょう。抱っこしていいですよ」
勧められるまま手に抱き上げたその子は、お腹の毛がバリカンで虎刈りのように剃られており、震えていた。怪我ではなく、絡まった毛玉を切っただけらしいが、今朝剃りたてみたいなその寒そうなお腹に胸が痛んだ。

「この子、持って帰っちゃってください」
別のおばちゃんが、気さくさを装って言った。

俺と土竜は絶句した。

審査も、飼育環境の確認もなし。
雑すぎん?

メインクーンだというその子を見つめた。目は合わない。とてもおとなしかった。

連れ出してあげなきゃいけないんじゃないか。
自分たちなら、幸せにしてあげられるんじゃないか。
湧き上がる衝動と使命感。
一方、勢いでこの子の命を背負っていいのか、というブレーキがかかる。

何より―――このタイプの人種と関わりたくないなあ、と思った。

結果、俺たちは逃げた。

公民館の重い扉を閉め、猫の臭いのしない外の冷たい空気を深く吸い込んだとき、心底ほっとした。
隣で、土竜が同じくすがすがしいような困ったような顔をしていた。

帰り道、話し合ってひとつの明確な基準を決めた。

「『人間として好きな人』から引き取ろう」


―――待てよ、田中さん、当たりじゃね?


次の記事に続く。



あとがき

サムネの写真は京都の安井金毘羅宮という有名な縁切り神社です。
えんがちょ。

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