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戦国武士、転生したら関西弁のポニーでした【全話完結】

    【あらすじ】
    信玄公に仕えた誇り高き甲斐国の武士、加賀美左馬之助(かがみさまのすけ)。従兄弟と共に討ち死にした彼が次に目覚めたのは、小淵沢の乗馬クラブで飼育される木曽馬ポニー「プリン」の体だった! しかも心の声は、キレッキレの関西弁に。
    人間換算80歳のじじいポニーとして馬生を送るハメになった元坂東武士。周囲はガジェットオタクやエモ動画で一発狙う新人スタッフなど、クセ強の人間だらけ。元武士の記憶と機転を駆使して人間の凡ミスで引き起こされる数々の危機を救うプリン。徐々に分かり合えていく他の馬たちとの愛おしい日常。
    そんなある日、突然現れた因縁深き「オダ」の血を引く少女!? 元武士ポニーが奮闘する、笑いと涙の転生コメディ!

    第1話 《プリンちゃん》と呼ばれて──戦国武士だったワシが、関西弁のポニーに生まれ変わるなんて聞いてへん!

    【転生の瞬間】

    我が名は──加賀美左馬之助(かがみ・さまのすけ)。

    甲斐国(かいのくに)に生を受け、名高き武田信玄公に仕えて二十余年。

    武芸に励み、忠節を尽くし、幾度もの戦場を駆けたこの身に……悔いなど、あるものか。

    いざ、参らん──!!

    (ザシュッ!!!)

    (……暗転)

    《……》

    《……なんや、これ?》

    《体が重い……》

    《ていうか、なんか変やないか? 足!》

    《しかもなんで四本あんねん。手ぇどこ行ったん?》

    《……視界が低い。床が近すぎる

    ……なんやこれ。完全におかしいやろ》

    (ワサッ……ワサッ……と藁の上を歩く音)

    《……なんか爪先に重いもんついてるし》

    《……て、鉄?》

    《これ、もしかして、馬の……?》

    《……いや、まさか。ワシが、馬て。そんなバカな?》

    (すぐそばに水桶があることに気づく)

    《……ちょ、なんか水あるやん。とりあえず飲むか──》

    (水面にゆらりと何かが映る)

    《……は?》

    《……ちょ、待って》

    (ぴょこんと立った耳。長すぎる顔。くりくりの目)

    《……誰やこの馬ヅラ!?》

    (沈黙)

    《……いや、ワシやんかあああああああああ!!!!!!》

    《なに!? なんで!? どこで!?》

    《ていうか、なんで馬?、それに話し方、変やん!?》

    《ここ、地獄か!? それともギャグ漫画の中か!?》


    【ニンジンの屈辱】

    (馬房《ばぼう=馬の部屋》の扉の外から、女性スタッフの明るい声)

    「あっ、プリンちゃーん! おはよう〜♡」

    《……え、今なんて?》

    《……プリン?》

    《……誰がプリンやねん。お菓子か、ワシは》

    (スタッフが馬房《ばぼう》に顔を出す)

    「プリンちゃん、今日から外乗《がいじょう》デビューだよ〜、よろしくね〜!お客さん乗せて、トレッキングツアーに行くよ〜!大丈夫〜?」

    《……いや、ワシに聞いとらんやろ、それぇぇぇ!!!!!!》

    《ってか、ここどこ? 外乗《がいじょう》デビューって何?》

    (スタッフがニンジンを差し出す)

    「プリンちゃん、とりあえずニンジン食べる〜?」

    (ゴトッと桶に落ちるニンジン)

    《……なんや、ワシに向かって差し出しとるの、これ……ニンジンやんけ》

    《馬扱いも大概にせぇよ……いや、馬やけども!》

    《こんなもん、食えるか……! 武士に対する侮辱や!》

    (じー……と見つめる)

    《……けどまぁ、一口くらい……な……な? 武士も腹は減るし……》

    (ポリッ)

    《……う、うまっ!》

    《……って、うま!? ウマだけに!?》

    (バンッと自分でツッコむ)

    《やかましわァッ!!!!!》


    【ツアーデビューと関西弁の謎】

    (馬のつなぎ馬でトレッキングツアーに参加する親子連れに説明する牧場スタッフ)

    スタッフ:「はーい。皆さん『木曽馬《きそうま》トレッキング牧場』へようこそ!今からお馬さんを紹介します!はい、この子、名前はプリンねー」

    子供:「あっ、プリンちゃん、鼻鳴らしてる~♡かわいい~♡」

    《いや、ちゃう。これは抗議や。抗議のブーブーや。かわいいとかちゃうねん……いやまぁ、かわいく見えるのか……? ……いやでも!》

    (ブーブー再び)

    子供:「ふふ、なんかお話してるみたい~」

    《……あかん、通じてへん。いやもう、ええわ……好きに思といて……》

    (プリン、スタッフに連れられ列に加わる)

    スタッフ:「じゃ、プリンちゃんは最後尾でね~。よろしく~!」

    《……ああ、よろしくて……おお、ワシ今、馬として正式に「社会人デビュー」したわけか……はぁ……》

    (歩き出しながら)

    《……でもやな。ひとつ、どうにも気になっとることがあるんや》

    《ワシ……なんで?心の声、なんで関西弁なん?》

    《出身は甲斐国《かいのくに》やぞ!?関東やぞ!? 「であろう」とか「いざ参らん!」とか言うとったワシが──

    なんで今、「せやな」とか「ちゃうやん」とか言うとんねん!?!?》

    (動揺して足を滑らせる)

    子供:「きゃー! プリンちゃん、びっくりしたよ!」

    《ちゃうねん! ワシがびっくりしとるんやあああああ!!!》


    【草の匂い、あの戦場】

    スタッフ:「はーい、みなさん!ここで休憩タイムでーす。この原っぱね、戦国時代に武田信玄っていうすごい強い武将も通った場所なんだよ〜」

    参加者、子供:「えー、すごーい」

    (足元の草の感触にふと、過去の風景が重なる)

    (回想:戦場の草原。風が走る。馬のいななき)

    《あの匂い……》

    《あの戦……従兄弟の美加丸《みかまる》と走った……この道やったな……》

    (現在に戻る)

    《……あいつ、どうなったんやろな。あの戦のあと、生きとったんか……死んだんか……》

    《いや、もうええ。今さら知ったところで、どうにもならんやろ。でも……》

    (風が草を揺らす)

    《なんやろ、この風……どっかで、また会えるような気がしてな……》

    (列がゆっくり動き出す)


    【おじいちゃん、て!? 年齢据え置きの絶望……】

    (ツアー終了後。親子連れとスタッフの会話)

    子ども:「ねぇ、このお馬さん、なんさいなの?」

    スタッフ:「んー、プリンは……30歳くらいだね」

    子ども:「30さいって、おとな?」

    スタッフ:「うん、すごいおとな。人間だったら……80歳くらいかなあ(笑)」

    (プリン、静かに振り返る)

    《……なんで?なんでや?!……なんで転生してんのに年齢据え置きなん?しかも馬年齢30て、人間だと80の爺さんて、何やねん!!!》

    (鼻をブーブー鳴らす)

    子ども:「プリンちゃん、鼻鳴らしてる〜♡かわいい〜♡」

    《いや、ちゃう。これは抗議や。抗議のブーブーや……いやまぁ、かわいく見えるのか……? ……いやでも!》


    【夜が明けて、また一歩】

    (翌朝、厩舎前のつなぎ場。スタッフたちが手綱を準備中)

    スタッフ:「プリンちゃん、今日はトレッキング引率お願いしまーす! ……あ、ごめん、最後尾だった(笑)」

    《ちょい待ち! 今日は引率ちゃうんかい! ワシ、またいちばん後ろかい!》

    (列がゆるやかに動き出す)

    (足元の草を踏みしめる)

    《でもまぁ……草の匂いも風の感触も、悪うないな……》

    (前を歩く子どもが振り返る)

    子ども:「ママ、プリンちゃん、ちゃんとついてきてる〜!」

    母親:「うん、安心ね〜」

    (プリン、ゆっくり首を上下に振る)

    《……よっしゃ。しゃーない。今日はワシが最後尾(しんがり)、務めさせてもらいますわ》

    (風がそよぎ、草が揺れる)

    《いざ参らん……いや、行ってくるで……新たな馬生、第一歩や》

    第2話 ポニーをバカにした結果、命を救われ土下座しました

    【ワシ、案外《馬》やってけるんかも?】


    《……あれから、何日が経ったやろか。》

    《最初はパニクってばっかやったが、最近は草の匂いにも、蹄(ひづめ)の重さにも、慣れてきた……気がする。》

    《朝の空気が気持ちええとか、飼い(草)がうまいとか、馬らしいこと思えるようになっただけでも、ようやっとる方や》

    《……まぁ、いまだに馬語はわからんし、他の馬とは誰とも喋られへんけどな──》

    (ふっと鼻からため息)

    《……けど……案外、「馬」としてやってけるかもしれへん──》

    (しばらく、風の音だけ)

    《……って、なんやそれ。「やってける」て……ええんか、それで……?》

    《そもそも、ワシはなんで──こんな姿になったんやっけ?》

    《こんな草ばっか食う生活に、慣れること自体が……ちょっと怖いわ……》

    (でも、何も思い出せない。──いや、思い出したくない?)

    (鼻を鳴らして、頭を振る)

    《……アカン。そないなこと考えても、今はどうにもならへん──》

    《まずは、生きのびることや。それだけや。》


    【なんやこのチャラ馬撮り男は……!】


    (と、そこへ、牧場の遠くからけたたましい足音)

    「うおっ、プリンおったー!! よっしゃ、今日こそ撮れ高バク上げやでぇ〜!」

    《……なんや?このうるさい声は……?》

    (現れたのは、キャップを後ろ向きにかぶった若者。サングラスをかけたままスマホを構えて突撃してくる)

    「どーも!乗馬界のTikTok王こと、ユウトでーす!今日は激レア地味馬プリンを密着してみた〜!」

    《……誰が「地味馬」や。てかあんた誰や?しかも密着て、なんやそれ──》

    (ユウト、スマホ片手にプリンに近づきつつ)

    「あ、そーいや、はじめましてっスね。オレ、今月から新人スタッフで入ったユウトでーす!……ま、よろしくってことで?」

    (ニヤッと笑ってウインクする)

    「てかさー、プリンって名前、ちょっとウケるよね〜。見た目シブいのに、名前スイーツかい!みたいな(笑)」

    (プリン、鼻をブーブー)

    《……舐めとんのか。なんで馬なった途端、こんなガキに「よろしくってことで」されなあかんねん……》

    (ユウト、プリンの顔面に超接近して動画を回しながら)

    「このなんとも言えん目の焦点!無表情!無抵抗!まさに仏!え、これって馬?観音様?」

    《うるさいわ!誰が観音様や!》

    (しかし声は届かない。プリン、ブーブー鼻を鳴らす)

    「おー、ブタみたいに鼻鳴らしてる!これはコメント欄狙えるわー!」



    【なんやこの無表情スキャン魔は……!?】


    (その後ろから、地味なメガネ男子がのそっと現れる)

    ユウト:「来た来た!待ってたよー。おーい成田くーん、例のやつ持ってきた?」

    (現れたのは、メガネに無表情、細長い箱を抱えた青年)

    成田:「おはようございます。ユウトさん、今日は風が少し強いので風切り音対策に指向性マイクも……」

    ユウト:「いやそういう専門トークはあとでいいから! てかさ、ここのポニー──この子ね、めっちゃ絵になるの!」

    (プリン、無言でユウトをにらむ)

    ユウト:「この横顔とかマジで《令和の名馬》感あるから!」

    成田:「……この陰影、LiDARでとったら解像度、めっちゃ出そうですね」

    ユウト:「でた、出たよ〜成田くんの《すぐスキャンしたがる病》!」

    成田:「正確には《立体認識フェチ》ですね」

    ユウト:「いやもう。フェチの名前が怖いわ」

    (プリン、片耳だけピクリと動かす)

    成田:「あ、プリン。僕、成田っていって、撮影と解析担当です」

    (そう言ってプリンに向かって、ペコリと軽く頭を下げる)

    成田:「センサー貼るのも、慣れてるんで。安心してください。あと……」

    (成田が鞄をごそごそ探る)

    成田:「ご褒美に、有機ニンジンも持ってきました。糖度12度です」

    《……こいつ、なんや。無表情やのにやたら手が込んどる……》

    (プリン、少しだけ腰を引く)

    ユウト:「そういうとこが怪しいって言われんのよ、成田くん……!」

    (成田のメガネがキラリと光る)

    《……前途、多難や……》


    【おいこら!厩舎の前でバーナー使うなや!】



    (厩舎の裏手。木陰にバーナーや焚き火台のような機材が広げられている)

    ユウト:「てか成田くんって、なんでこの牧場に来たの? 前、何してた人なん?」

    成田(キリッと眼鏡を押し上げる):「元は都内のIoT系スタートアップにいて、今でもハード系は得意。あと3Dプリンタも自宅に3台ありますね」

    ユウト:「え、やば。バリ意識高くない? でも、なんでまた急に牧場?」

    成田:「馬って《未開拓のデバイス》じゃないですか」

    ユウト:「デバイス扱いなの?馬……」

    成田:「これからの時代、《騎乗体験》にもデータが要る。心拍、筋電、馬体カメラ、GPS。ぜんぶIoTで《見える化》できるはずなんすよ。クラウド連携も余裕だし」

    ユウト:「うわ〜! なにそれめっちゃおもしろい!」

    成田:「でもまずは基礎からってことで。今は馬房掃除とブラッシング担当ですね……」

    ユウト:「あ、やっぱり最初そこからかー(笑)」

    (ユウト、焚き火セットを持ち出してくる)

    ユウト:「でもさ! オレ的にはもっとヒトの感情に訴える路線でいきたいわけ。たとえば、夕焼けバックに焚き火の炎、そこに草を食むプリン……とか」

    成田:「ショート動画?」

    ユウト:「でしょ!! 《#エモい馬》タグでバズらせたら、うちの牧場フォロワー増えるっしょ!? で、これ見て!」

    (ドヤ顔でバーナーを取り出す)

    ユウト:「てか見て! この火起こしバーナー、マジすごくない? オレさ、今度BBQ動画も撮ろうと思ってさ〜」

    成田:「バーナー、厩舎の前で使うの......? 消火器ちゃんと確認してからにしたほうがいいですよ......」

    ユウト:「え、成田くんってそういうとこほんま真面目やな〜。でも大丈夫やって。これ火力調整できるし!」

    (プリン、厩舎の奥からじっと様子を見つめる)

    《......またアホなもん持ち出してきおった......》

    《火って......火ぃて......あかんやつやろ、厩舎の前でバーナー使うとか......》

    《ちゅうかこの成田いう男、いちおう止めるけどぜんぜん押しきれてへんやん。》

    《ワシの警戒レベルがまた一段、上がったわ......!》

    (ユウト、勢いよくバーナーに点火)

    ボッ!!!

    成田:「うわっ! ちょ、火力強っ!」

    ユウト:「あれ? あれ? あれ? 待って待って!! あっつ!! やばいやばいやば......!」

    (バーナーの火が強すぎてシートの端に燃え移る)

    ユウト&成田:「うわあああああ!!!」(大パニック)


    【しゃあない......ワシがやるしかない!!】


    《......あかん、誰も気づいてへんやん!》

    《あーもう!! これあかんやつや!! ワシが止めんで誰が止めるんや!!》

    (プリン、即座に馬房をふさいでいる2本の横棒に頭突きをくらわせる)

    バキッ!!

    (バーナーの炎が焚き火台からはみ出し、近くの敷きマットに燃え移る)

    ユウト:「やっば! 火ぃついた火ぃついた!! どどどどどど、どーすんのこれ!!」

    成田:「ちょ、待って消火器どこ!? いや、マジでやばいってこれ!」

    (スタッフ詰所は無人。誰もいない)

    (厩舎の中──)

    (プリン、柵の内側から首をぐいっと伸ばし、しなりを使って)

    バキンッ!!!

    (ついに柵の鍵が吹っ飛ぶ)

    《──よっしゃ、開いた!!》

    (プリン、馬房からダダダダッと飛び出す)

    《火ぃはあかん。あれだけはほんまに、あかん!!》

    《ワシにはわかる! 馬屋に火が入ったら最後、みんな......!!》


    【ワシは逃げてへん!出陣や!!】


    (プリン、まっすぐスタッフ詰所へ向かって全速力)

    (その姿に子どもが「うわー! 馬が逃げた!」と叫ぶ)

    《ちゃう!! 逃げてへん!! これは──出陣や!!》

    (ガランと開いた詰所のドアに鼻で突撃)

    ガチャーン!!

    (置きっぱなしの非常ベルのスイッチに、鼻先をぶつける)

    ピギャアアアアアアアアアーーーー!!!

    (けたたましい警報音が場内に響き渡る)

    (ユウトと成田、あたふたしながらバケツリレーで火を消そうとするが、なかなか消えない)

    ユウト:「うわっ、やばっ!! 警報鳴ってる!通報ボタン押した!?」

    成田:「ていうか、火消えてー......」

    (スタッフたちが走ってくる)

    スタッフ:「何してんのあんたたち!? 火!? 馬房開けたの誰!? 非常ボタン!?」

    ユウト:「ち、ちが......ちが......」

    (その時、プリンがゆっくりと振り返る)

    (顔に灰をつけながら、仁王立ち)

    全員:「......プリン............?」


    【燃える馬房、そして──英雄、爆誕】


    《......ワシや。全部、ワシがやった》

    (スタッフ全員、立ち尽くす)

    (火騒ぎ騒動後、スタッフたちが火を消し止め、騒然とする中)

    (プリン、鼻先から薄く煙を立てながら、ゆっくりと振り返る)

    (たてがみには非常ベルのスイッチの破片がぶら下がっている)

    (その姿はまさに──)

    《英雄、爆誕》

    (沈黙)


    【プリン《さん》やぞ!!】


    ユウト:「......ぷ、プリンさん......ッ!!」

    (ズシャァァアァ!!と勢いよく土下座)

    (地面にめり込むくらい勢いよく)

    ユウト:「ナメてましたァアアァア!!!!」

    成田:「いや、そんな音立てて謝る!?」

    ユウト:「俺......プリンさんを、ナメてた......地味なポニーとか言って......ッ!! すいませんでしたアアア!!!」

    (プリン、遠い目)

    《......ああ、ようやく「さん」付けか。遅いわ......遅すぎたわ......!》

    成田:「火災報知器、大事っす......(ぽつり)」

    《......この2人、足して2で割っても全然あかんやつや......!》

    (現場に駆けつけた他のスタッフたちが、息を切らしながら走ってくる)

    スタッフA:「火事!? 馬房!? え、誰が知らせ......」

    スタッフB(プリンを見て):「......あれ? えっ......プリンちゃん?」

    スタッフA:「柵、開けて......自分で来たの......?」

    (みんな、一斉にプリンを見る)

    (プリン、前髪を風になびかせながら、もしゃもしゃと草をひと口)

    《......ふふん。たまたまやけどな》

    スタッフC:「......いやこれ、中に人入ってない? てか、マジで《プリン先輩》じゃん」

    成田「え、じゃあうちの馬、完全にIoTより上位互換ってことっすね……?」

    全員《......》


    【......あれ、今ボス馬......鼻、鳴らした?】


    (馬たちの馬房から、控えめなヒヒン......という鳴き声)

    (隣の馬が少しだけ首を傾けてプリンを見つめる)

    (向かいのボス馬が、鼻を鳴らし......初めて、軽く一声)

    《......お?》

    (プリン、周囲を見渡す)

    《......なんや、ちょっとだけ、他の馬に見直された......んか?》

    (ユウト、両手をついたまま天を仰ぎ)

    ユウト:「......こんなことなら最初から敬っとけばよかったぁ......!」

    成田:「いや、オレ最初から《AI説》は唱えてたし」

    ユウト:「成田くん、それ言いたいだけだろ!!」

    成田 : 「......やっぱIoTより、まず火災報知器っすね」

    (スタッフたち、苦笑)


    【......他の馬たちに......認められたんか?】


    (星が出はじめた夜空。馬房の窓からプリンが顔を出して見上げる)

    《......馬として、ちょっとは役に立てたんやろか?》

    《馬扱いされるの、いややと思ってたけど......》

    (そよ風がたてがみを揺らす)

    (鼻をフンと鳴らして、静かに寝わらに身を沈める)

    (馬たちも静かに鼻を鳴らす中)

    《あいつ......ボスまで......鼻、鳴らしてくれよった。まさか、これって──「挨拶」か?》

    《......まぁ、悪ないな》

    (プリン、草を咀嚼しながら小さくつぶやく)

    第3話 元武士ポニーにガジェット!?しかもエモ動画ってなんやねん!


    【......この道、見覚えあるで......?】


    ──ざっ、ざっ......。

    (蹄が踏みしめるたびに、細い山道に乾いた砂の音が広がる)

    (観光客を背に乗せて外乗トレッキングを進むプリンはじめ木曽馬たち)
     
    《このルートは始めてやな》

    《......しんがりかぁ。いつのまにか、定位置やな》

    《かつては「乗る側」やった人間──それも武士として、軍列の先陣に立っていたわしが、いまは列の最後尾を歩く馬とは、なんか不思議やな》

    《それに火事の一件から変化があった気いするわ。登り坂でちょっと足がもたついた時や急カーブの前とか、前の馬が尻尾振って合図くれた気いする》

    《会話は……まだできへんけどな。馬語は相変わらずチンプンカンプンや。けど──

    《……なんか……ありがたいわ》

    《たとえ言葉が通じんでも──》

    《……案外、通じ合えるもんなんやな。馬社会って、意外と……ええやん》

    《最初は正直だいぶしんどかったけどな……》

    《……まぁまぁ、うまくやっとる。馬として……》

    (風が、稜線を越えて吹き抜け、草の匂いが鼻をくすぐる)

    《……ええ匂いやな。さっきまで馬房にいたときより、ぐっと澄んでる感じするわ》

    (ふと前方に小さな切通しが見える)

    《──……あれ?》

    《この分岐……どっかで……》

    《──信玄公の棒道《ぼうみち》*やないか……!》

    *「信玄の棒道」とは戦国武将の武田信玄が整備した甲斐国(山梨県)の軍道である


    【……馬のチート覚醒?……】


    《……この尾根筋……あの時、峠を越えて、夜のうちに抜け道を通った……》

    (視界に入った一本の切株に、ふと記憶が重なる)

    《ああ、あそこや──あの左手の道。あそこから山腹に入れば、敵の背後を衝けた……》

    (思わず、左の山道に視線を向けるプリン)

    《……いや、今日は「奇襲」やない。ただの外乗トレッキングや》

    《けど……よう覚えとるわ。風の流れで、谷の底に水場があるのを察したもんや──》

    (プリン、鼻をひくつかせて)

    《……あかん。鼻の性能が前よりええ気がする……いや、馬やからか……?》

    (落ち葉の下の水脈の匂い、風に乗る花粉のざらつき──)

    《……この感覚、前世にはなかった。「馬」になったからこそ、ようやく気づけたことや》

    (プリンのたてがみがふわりと風に舞う)

    《……昔は、よう走った道。今は歩いとる。自分の足で。馬として──》


    【……ユウトよ「エモいショート動画」やめい!……】


    (プリンが前世の記憶と馬の感覚を味わっている最中──)

    「よし……今だ! 夕陽、逆光、影、うん、完璧……!」

    (前を歩く馬上から何やらスマホをぐいっと掲げて構える若者──)

    《……ちょい待て、あの声……》

    ユウト:「……えーと《風になったポニー》……いや、《草原に刻まれし魂》……あ、これイケるやん!!」

    (スマホ片手に、プリンの方に体をねじって動画を撮ろうと身を乗り出す)

    ユウト:「プリンさん!ちょいこっち見て!《無言で過去を背負う戦国の馬》みたいな雰囲気で!」

    《……なにゆうてんねんこの若造は……》

    (プリン、完全スルーで歩き続ける)

    ユウト:「あれ? 無表情……? 逆にそれエモいかも!」

    (前の馬が軽く首を振る。プリンがまたチラとユウトを睨む)

    《……せっかくええ感じで回想しとったのに、全部台無しや……!》

    ユウト:「あー待って!その今の目線! 《たそがれポニーの眼差し》タグでいけるいける!!」

    《タグてなんや!タグて……!》

    (揺れながら撮影を続けるユウトの乗る馬が軽くつまずく)

    「うおっ!」

    (ユウト、前のめりにズサッと振り落ちそうになる)

    (スタッフが遠くから注意)

    「ユウトくーん! スマホはほどほどにしてー!」

    「はーい!てかマジでバズらせたいだけなんすよお〜〜〜!!」

    (プリン、ため息)

    《……ったく、記憶に想いはせてたのに、一気に「撮影現場の小道具感」や……》

    (ユウトがスマホを一旦しまい、ようやく静かになる。トレッキングの列が静かに森の小道へと入っていく)


    【……美加丸、おまえ、今どこにおるんや】


    (──プリン、ふたたび遠くを見つめながら、記憶の底へ)

    《……美加丸《みかまる》……。おまえ、今どこに……》

    (木漏れ日が、ゆっくりと揺れる)

    (草を踏む音だけが、耳に心地よく響く)

    《あの戦の夜、わしは討ち死にした。──従兄弟のあの子を置いて》

    (まだあどけなさの残る少年──年若い従弟。利発でいつもわしの背を追いかけていた)

    《あの子のこと、わしは弟のように想うていた》

    (左馬兄(さまにい)様と慕ってくれた声が、風に混じって聞こえた気がした)

    《もし、もう少しだけ慎重に戦を進めていれば──》

    《もし、もう少しだけ、強くあれたなら──》

    (ゆるやかな山道を踏みながら、胸の奥がじわりと軋む)

    《……今のワシなら、守れたかもしれん……あの子を。我が一門を……》

    (けれど──)

    (馬の目は涙をこぼせない)

    (ただ、風をまっすぐに見つめる)

    (風がそっと、たてがみを揺らす)

    《あれから、どれだけの時が流れたんやろか……》

    《──すまん、美加丸《みかまる》……。おまえの無事を願うことしか、できんのや》

    (プリン、静かに鼻から息を吐く)

    《……けど、この風だけは……あの頃のままやな》


    【なんか背中、熱ない!?】


    (記憶に想いをはせる──静かな時間)

    (──ぷつっ……ピコン)

    《……ん?》

    (プリンの背中が、熱くなってくる)

    (電子音のような「ピッ、ピッ」という音が)

    《……な、なんや!? 背中が……背中が熱うなってきた!?》

    (背筋にピリッと走る違和感。毛の中に──何かがある)

    《まさか……こ、これは……呪符か!? 封印か!? あるいは毒矢か!?!?》

    (突然ユウトがイヤホンで通話を始める)

    ユウト:「──あ、もしもし成田くん、聞こえてる?すげーなこのセンサーパッチ! モフモフの下でもちゃんと反応してんじゃん」

    《……え……? センサーパッチ……?》

    《え、待って。誰の話しとる? ワシか!?》

    (プリン、立ち止まり、ブルルと首を振る)

    (背中に違和感のあるあたりを、首をひねってなんとか確認しようとするが、届かない)

    《……ワシやないかー!センサー!! 背中になんか貼られてるやんけ!!》

    《──待てよ……。朝、馬房で……あいつ……》

    (フラッシュバック:無言でブラッシング中の成田、無表情、わずかにメガネが光る)

    《無言で背中触っとったやんけ!!》

    《喋らんと!笑わんと!メガネだけ光らせて、そんでペタッと!?》

    《なんちゅうやつや……!間者か!? 闇の組織か!?》

    (パニックになりつつ、体をブルブル震わせるが取れない)

    ユウト:「動加速度が?上昇?まじで!? てか、怒ってるかもって(笑)すげーさすが成田くん『ポニーの気持ち見える化計画』!」

    《やめろおおおおお!! ワシの気持ちを「見える化」すなああああ!!》

    (プリン、怒りのあまり鼻を荒らし地面を蹴る)

    《ワシを……ワシをなんや思てるねん!!!》

    (その姿を、ユウトが前方から動画で撮影)

    ユウト:「うおお、今の跳ね、超エモ!! 逆光入った!神っ!!」

    (──風のなかで佇んでいた元武士、完全に心の平穏を失う)


    【ワシは道具ちゃうぞ、プリンやぞ!!】


    (トレッキングが終わり、馬房に戻れたプリン)

    (背中につけられたセンサーは取り外されたが──)

    (ガジェット成田の眼鏡が、最後にキラッと光った)

    《……なんや、あの目……。笑ろてへんのに、ちょっと笑ろてるやないか……なんか企んどるのか?……!》

    (ふと、視界の端に映るユウトの姿)

    ユウト:「いや〜〜今日撮れ高ヤバすぎて草ァ!! 《逆光ポニー、風に舞う》やばくね!?編集燃える〜〜!!」

    《……こっちはマジで燃えかけとったわ……》

    《……ええかげん、もう寝かせてくれや……》

    成田:「いやデータは波形が重要なんだってば!」

    ユウト:「エモさに波形とかいらんのよ!! 感情が大事なの!感情が!」

    (成田とユウトの話し声が次第に遠ざかっていく。)

    《ったく、2人とも……変な方向にやる気だけはあるんやから》

    (藁の上に、ゆっくりと身を沈める)

    (からだが、ずしりと重たい。今日もよぉ働いた)

    (ふと、さきほど歩いた棒道の記憶が、また浮かぶ)

    (けれど──)

    《……いやいや、あかんあかん。過去の話は、もうええねん。》

    《……今は、馬として──》

    (鼻先に近づいた乾いた藁の匂いをふっと吸い込む)

    (草の甘み。風のやわらかさ。蹄に残る土の感触)

    《人間のときは、気づかんかったもんな……》

    《──馬の五感って、こんなにも繊細なんやな》

    《……昔、自分乗っとった軍馬、道具やった。ワシにとって、馬は》

    《──今思えば、ひどい話や》

    (ゆっくりと、目を閉じる)

    《けど今は、違う。この身体で、この速さで、景色を──ちゃんと味わえてる》

    (フン、と鼻を鳴らして寝わらに頭を預ける)

    (まぶたが重たくなる)

    (しばしの静寂──そして)

    《……まぁ、今日も……悪うない……》

    (プリン、深く眠りに落ちていった)


    【いや、休日ぐらい放っといてぇや!】


    (翌日。馬休日のプリンは放牧中)

    (──だったのに)

    「プリ〜〜ンさぁ〜〜ん!! 風と草原が、呼んでるよ〜〜!!」

    (遠くから、チャラい声と共に駆けてくるサングラス男ユウト)

    (そしてその横には──例のガジェット系メガネ男子成田)

    《……あかん、あいつら来よった……今日は休みや言うたやろが……!》

    成田:「スロー撮影OK。あとBGM素材として、今の録音ね」

    《なにをしてんねん……》

    (プリン、渋々草を食み始めるが──)

    (ふと、昨日通った棒道《ぼうみち》のこと、記憶の中の美加丸《みかまる》の姿が脳裏に蘇る)

    《美加丸……今、どこにおるんや……》

    (目がわずかに潤む──が)

    成田:「あ、今、心拍が上昇中ですね」

    《え?心拍て?いや、待て待て……これ、まさか──》

    (そっと前肢を見つめる)
    (そこに、ぴったりと巻かれた──)

    《アップルウォッチ、ついとるがなァァァ!!?》

    《……なんで!? どうやって!? どのタイミングで着けたん!?!》

    ユウト:「泣いてるっぽいね!このアングルいいじゃん、悲しみのポニー、きたコレ!」

    《…………》

    (プリン、ブチ切れ)

    《放牧中くらい、ひとりにさせぇぇぇや!!!》

    (地を蹴って、一気に爆走!!)

    (風を切り、草原を突っ走るプリン──ユウトと成田、ぽかーん)

    成田:「すごい……今のデータ、神がかってる……」

    ユウト:「走るポニー、逆光!髪!風!……録れてた!? 録れてたよね!?」

    (プリン、遠くの草むらでひとり草をはみ、鼻をフンと鳴らす)

    《……こうして馬として歩くのも、悪ない思うたけど──》

    《……やっぱ、放っといてくれんとムリやわ!!》

    (爆走を続けるプリン)

    (──その背を夏の風がそっと追いかけた)

    第4話 宿敵の娘に飼われるなんて、聞いてへん!!


    【深夜、悪夢と気配】


    (馬房で眠るプリン。夢の中で、あの戦場──草がなびき、馬が倒れ、叫び声が響く)

    《美加丸ぅぅぅ!! 下がれ!! まだ早いぞ! 突撃は──》

    《うぬっ、織田の将、かほど卑怯な手を使うとは、恥を知らぬ輩よ!!──》

    (視界が赤く染まり、ザシュッという音。プリンが呻き声と共に目を覚ます)

    (夜の厩舎。静けさの中、ふと人の気配)

    (がちゃ……と控えめな金具の音。プリンは小さく息を呑む)

    (扉の外、誰かの気配。うっすらと月明かりの中、後ろ姿のシルエットが一瞬見える)

    《……誰や、今の……?》

    (後ろ姿の人物は何も言わず、すっと闇に紛れて去る)

    《……まるで……見張られとったような気がする……》

    (プリン、ふたたび目を閉じながら)

    《あの鋭い眼光の感じていうか……どこかで……見たこと、あるような……》


    【ここはぬかるむ、通る道は一つ──!】


    《──その朝の外乗は、いつも通りのはずやった》

    《空は晴れ、風もぬるくて、子どもらの笑い声が列にのぼって──》

    《……けど、あの雲……なんや、変や》

    先導スタッフ:「前方、いったんストップ!みんな、慌てないで!大丈夫だから!」

    成田:「無線つながりません! 電波弱すぎます!」

    《ぬかるみの匂いや……雨、来るで》

    先導スタッフ:「うわっ!道、崩れてる!?」

    ユウト:「え、引き返せる?あっちの道ももう……」

    《戻るのも危ない。このままやと、子どもらも馬も危険や》

    《──でも、この地形……なんか見覚えある》

    《あの丘の向こう──そうや、水場の手前に、抜け道があったはずや》

    (プリン、鼻を鳴らしてスッと列の前へ)

    成田:「……えっ、プリンさん?」

    《あかん、誰かが道を示さな。ワシが行くしかないやろ》

    (ざっ、ざっ……)

    子どもA:「あれ? プリンちゃんが前に出てる!」

    成田:「いやいや、勝手に動いたら──」

    先導スタッフ:「……ちょっと待って、今《武士》みたいな口調聞こえなかった?」

    ユウト:「えっ、プリンさんの中に人間入ってる説、再燃っすか……!?」

    成田(無表情):「それはないです。骨格的に」

    《「骨格的に」て……どこで判断しとんねん》

    《けど、もう迷ってる時間はない》

    《風が教えとる。この先に、道はある》

    《──ここはぬかるむ。通る道は、一つや》


    【なんでそのタイミングで《戦国武士口調》やねん!】


    (プリン、足を止める。先頭から見下ろす小さな谷──)

    《一歩間違えば、滑って馬も人も転げ落ちる。けど──》

    《この先に、通れる道がある。かつて、夜襲をかけたあの夜と同じ》

    《……ワシの勘じゃない。記憶や。確かな、前世の戦場の記憶や》

    《──ここや。ここを抜ければ、必ず戻れる》

    (プリン、グッと首を下げ、ぐるると低く鼻を鳴らす)

    (そして──踏み出す)

    (先を行く馬に、子どもたちを乗せた馬も自然とあとを追う)

    先導スタッフ:「……な、なんかすごい、統率感……」

    ユウト「プリンに全員ついていってる……!」

    (成田、手元のセンサーパッドを見ながらぽつり)

    成田:「心拍、呼吸、すべて安定。脳波も……ぶれない。まるで──《目的》を持ってるかのようですんね」

    ユウト:「え、でもプリンって、そんなリーダーシップタイプじゃなくね?」

    成田:「いや、プリンさん……今、完全に《先導馬》してますよ」

    先導スタッフ(小声で):「……いや、さっき《通るべき道はただ一つのみ》って聞こえたんだけど……?あの馬、喋った?」

    ユウト:「マジ? 口動いてた?」

    成田:「発声器官的には不可能……のはずですけど」

    ユウト:「いやいや、もうこれは《中に人間入ってる説》再燃っしょ!」

    (ブチッ)

    (プリン、鼻で思いっきり草を鳴らして睨む)

    《うるさいわ!!!》

    (プリンのしっぽがビシィと風を斬る。何故か皆、ぴたっと黙る)

    (そのまま列はプリンを先頭に、斜面の細道を一歩ずつ進んでいく)

    (滑らないように足を選びながら──)

    (風が、湿り気を運んでくる)

    《あかん、もうすぐ本降りや》

    《けど──あと少しで、抜けられる》

    《──見えてきた。あの林の向こうや》


    【英雄、帰還す──でもなんか様子おかしない?】


    (プリンを先頭にした隊列が、無事に木曽馬トレッキング牧場へ戻ってくる)

    スタッフA:「戻ってきた!全員無事だ!」

    スタッフB:「先頭、プリン!? え、プリンが……導いたの!?」

    (子どもたちがプリンを撫でながら歓声)

    子ども:「プリンちゃんありがとう〜!」「ヒーローだぁ!」

    ユウト:「え、撮れてた?今のすごくない!?英雄ポニー爆誕って感じ!」

    成田:「……GPSログ、完全に最短ルートでした。偶然とは思えない精度……」

    先導スタッフ:「中に人、入ってる説……本格的に検証した方がいいかも……」

    (プリン、しっぽでバシィ!)

    《またそれかい!!》



    (その日の夜、厩舎にて)

    (何頭かの馬たちが、顔を出して──プリンの方を見ている)

    (その中に列の先頭を歩いていた馬がいる)

    《……よくやったな》

    (──え?)

    (確かに、聞こえた)

    (馬の声が──言葉として、はっきりと)

    (つづいて、もう一頭)

    《あんたが先に立ってくれたから、みんなついて行けた》

    《鼻、鳴らしてくれたよね。合図な》

    (口を動かさず、ただ目を合わせ、鼻を鳴らし、しっぽを振る)

    (──けど確かに、聞こえる)

    (まるで、風が通訳でもしてるかのように──馬たちの想いが、言葉になって届いてくる)

    《……あれは戦だったな。おまえさん、前に立ってくれたな》

    (プリン、小さく目を細め)

    (ふ、と鼻で笑う)

    《……ようやく、通じたんやな。ワシら──馬同士やもんな》

    (次の瞬間──風がふわりと吹いて、ざわめきが消える)

    (まるで、魔法が解けたように)

    (さっきまでの《言葉》が、ふつうの嘶きに戻る)

    (──プリンは黙って、草を一口食む)


    【え、ワシ、売られるってマジなん……?】


    (朝。馬房に陽が差し込む。プリンが眠そうに目を開ける)

    《……ふぁ〜あ……今日は放牧か。よう寝たわ。昨日の出来事が夢のようやわ……》

    (スタッフの足音が近づいてくる)

    ユウト「プリンさんおはよー。もうすぐお別れなんてさみしーよ!」

    成田「そうそう、でもいいとこに譲渡されて良かったよね」

    《……え? い、いま……なんて? お別れ?譲渡……?》

    《え、なに?なんでそんな顔するんや?》

    ユウト:「……なんか、プリンさん、ほんとに行っちゃうんだね……」

    成田:「ああ……ほんと、最後に立派な姿、見せてくれたね……」

    《最後に立派な姿って、どういう意味?ワシどうなんのや?》

    (ユウトと成田、二人がかりでいつもより丁寧に手入れしてくれる)

    《え、え、ちょっと待ってや。……譲渡……されるんか!?》

    《ワシ、なんも聞いてへんねんけど!? 昨日の英雄ムーブどうなったん!?》

    (そこに少女がひとり現れる)

    少女「おはようございまーす」

    ユウト「あ、おはよー。プリンの様子見にきたの?」

    少女「はい。プリンを連れて一緒に帰るの、楽しみです」

    (少女の目がギラリと光る)

    《……なんや、この視線……なんか……圧がすごい……!》

    (プリン、じっとその少女を見つめ返す)

    《ま、まさか……この子がワシを引き取る主やというんか……?》

    (ユウトと成田は少女と話している)

    《ま、まじか……ワシ、ほんまに譲渡されるんか……!?》

    《……っていうかこの子、なんや、どっかで……》

    (視線がぶつかる──少女、表情変えずプリンを見据える)

    《……いやいやいや、ちょっと待て。なんでこんなに目力が強いねん!?》

    《普通の子どもの目やないぞ、これ!?》

    《討ち死にした時のあやつに似とる……まさか、まさか……!》

    (プリン、鼻をぶぅぶぅ鳴らしながら不安に駆られる)

    《ほんまに、ほんまに引き渡されるんか……?》

    《なあユウト、成田、これどういうことか説明してくれや!?》

    《なあ、ユウト、成田……って、?》

    (振り返るプリン)

    《って、おらへんのかい!》

    (鼻、ブーブー)


    【いざ、参らん、敵陣へ!】


    (翌朝。スタッフたちのにぎやかな声)

    「おはようございまーす! プリンちゃん、今日はいよいよ出発だよー!」

    「そうそう、移籍先が決まったんだって! よかったねえ、プリンちゃん」

    (子どもたちが2〜3人、騒ぎながら寄ってくる。その中に──じっとこちらを見る少女。)

    子どもA:「このポニー、オダッチの家のクラブに行くんでしょ?」

    少女:「うん、そうだよ。うちの親がやってるクラブの馬になるんだよ」

    (プリン、ビクッ)

    《……オダッチ……!? うちの……!?》

    スタッフ:「オダちゃんちは大きな乗馬クラブだからねえ。プリンもいい余生が送れるよ〜」

    《……オダッチ……!? ……オダちゃん!?》

    《──オダ……! 織田……!! 織田信長の「オダ」かぁぁぁあああ!!!》

    《まさか……この童……武田家の宿敵、織田の者であったか!!!!》

    《くっ……図られた……。全ては仕組まれておったというのか……!!》

    《ワシが──このワシが、よりによって織田に囚われるとは……!!》

    《おそらくは、信長公の血を引く者……いや、信孫(しんそん)か!? あるいは転生した信長そのもの……!?》

    《あかん……あかんでこれは……!》

    《あの土砂災害ですら、もしかして「陽動」やったんちゃうか……?》

    《あの混乱の中で評価を上げさせて、全部うまく誘導されとったんか……!?》

    《ワシは──宿敵、織田の馬として──この草を喰うことになるのか……! 無念……無念なり……!》

    (鼻、ブーブー)


    【いざ往かん。さらばじゃ!】


    (場面:木曽馬トレッキング牧場の駐車スペース。馬運車がスタンバイしている)

    (プリン、出発準備中。スタッフがいつもより丁寧に誘導している)

    《……なんや……今日はやけに優しいな……別れの前の静けさってやつか……》

    (ふと、馬運車の車体に視線を向ける)

    (ロゴ:OD STABLES)

    《……OD……!?》

    (文字を凝視するプリン)

    《オ……D……!? 「OD STABLES」……まさに織田の厩舎やないか……!?》

    (鼻、ブーブー。額から冷や汗)

    《まさか、ここまで堂々と……隠す気ないんか!?》

    (すれ違うスタッフたちは普通に談笑)

    (プリン、少女の方を見る)

    (少女も鋭い目でプリンをじっと見ている)

    (視線が重なる)

    (──一瞬、時間が止まる)

    《この目……》

    《なんや、どこかで……》

    《──そうや……あいつに似とる》

    (記憶がぶわっとよみがえる)

    (戦場の記憶──夜明け。倒れた左馬之助を見下ろす、馬上の人影)

    (その将の目──光を帯びた、冷たい目)

    《あの夜……最期にわしを見下ろしとった、織田の将の目に……!》

    《あの目ぇや……》

    (少女の目がフッと細められる)

    《まさか──転生して、また巡り会ったんか!?》

    《わしを殺したあの敵将が、今度は……少女として転生して、ワシを飼うんか!?》

    《なんちゅう因縁や!!》

    (バタン、と馬運車の扉が開く)

    スタッフ:「じゃあ、プリンちゃん乗せまーす。気をつけて行ってらっしゃーい!」

    (引かれて馬運車へ)

    (乗り込む直前、少女が一言つぶやく)

    少女(小声で):「……楽しみにしてるから」

    (プリン、凍りつく)

    《──ひいいいいいぃぃ!!》

    《完全に刺客の言い方やん、それえぇぇええええ!!!!》

    (プリン、馬運車に乗せられる。バタンと閉まる)

    (車体に大きく「OD STABLES」の文字)

    (馬運車のエンジン始動。)

    《……これが、戦(いくさ)か……》

    《馬運車とは……すなわち、戦地へ向かう駕籠(かご)よ……》

    《この身が再び、織田の地で命を使う日が来ようとは……》

    《だが……やる。やるぞ、ワシは。今度こそ……見誤らん。負けん。絶対に。──たとえ相手が、宿敵、織田の娘でも!!!!》

    (鼻、ブーブー)

    (馬運車が走り出す。見送る人々の列の中──)

    (ユウトが、帽子を脱いで頭を垂れている)

    ユウト(小声で):「……プリンさん、今までマジでありがとうっす……」

    (その横で、成田が静かにゴーグルを拭っている)

    成田:「……あの反応。なんか、好きでしたね」

    (二人の姿をプリンは車内から静かに振り返る)

    《……おぬしら……》

    《まったく騒がしいやつらやったけど──》

    《……ワシ、ちょっとだけ、名残惜しいわ》

    (首をすこしだけめぐらせ、鼻をふん、と鳴らす)

    《馬たちよ、ユウト、成田、さらばや。生きよ、無事でな》


    第5話 ブロンドと薔薇の日々、そして──ざまぁ再び


    【敵陣に囚われの身となっても......】


    (日が沈む頃、ODステイブルのロゴが入った馬運車《ばうんしゃ》で新たな牧場へと運ばれてきたプリン)

    《……もう夜やな。こっからが、ほんまの戦かもしれんな……》

    (──夜。厩舎《きゅうしゃ》の明かりは落ち、しんとした静けさが漂っている)

    (ひとつの馬房から、様子をうかがうかすかな音)

    (プリン、そろりと鼻で横木を押し上げる)

    《……おらんな。あの娘はどこ行ったんや……?》

    (そっと外に出るプリン。耳を澄ませながら、慎重に蹄を運び──厩舎の通路をうろつく)

    《織田の者が……?ワシを買うたっちゅうことは、なんらかの策が……》

    「お前、そこで何してる?」

    (不意に低い声。振り返ると、影のように立つ大柄な馬──その名はカスパル)

    《うおおおッ!?》

    「おっ、お主も織田の馬やな!!」

    「お前、馬房を抜け出すとは、物好きだな。織田? なんの話だ?」

    「せやから、ここはオダッチ、つまり織田の陣地やんな?あの子、目が信長そっくりやったし、馬運車のロゴ「OD」やったし、ここは──》

    カスパル:「オダ?は?ODっていうのは、オクダイラのODだ。奥平って書く」

    《……オクダイラ……!? オクダイラ、奥平!?ほな、織田やないんかい!!》

    カスパル:「今は《ローズガーデン乗馬クラブ》って名前だ。昔の登録名が《奥平ステイブル》。あのロゴはその名残だ」

    《お、お、織田信長と、なんの関係もあらへんやないかぁぁぁああ!!》

    《……オクダイラ、だからオダッチって!!》

    《うわあああ……この緊張感、全部ムダやったんかい……!!》

    《なんでや……昨日まで戦国時代気分で生きとったワシが、今バラ園て……まったく戦の匂いがせんやん……!!?》

    (プリン、へなへなとその場にへたりこむ)

    (カスパル、静かに見下ろす)

    「お前、面白い奴だな。名は?」

    「プリンや。ついこないだまで、《英雄ポニー》とか呼ばれとった」

    「プリンか。なるほど、妙に年季の入った目をしていると思った」

    (プリン、カスパルに視線を向けながら)

    「おぬし、ここで一番の古株か?」

    「まあな。この厩舎での序列なら、私がボスということになる」

    《カスパル……かっこええなあ。ようやくまともなやつに会えた気がするわ》


    【なんやねん、この厩舎のキャラ濃すぎやろ!】


    (深夜の厩舎内。カスパルがプリンの隣人(隣馬)たちを紹介する)

    「紹介しよう。お隣さんはラク。元競走馬で、ここに来てまだ日が浅い」

    (すらりとした肢体の若い鹿毛馬。どこか落ち着かず、視線が泳いでいる)

    《……若いな。美加丸と、同じくらいの歳やろか》

    (プリン、ふと目を細める)

    「そして──向かいは栗毛のマリリン。面倒見はいいが、気は強い」

    《……マリリンて、伝説の女優みたいな名前やな。尾花栗毛(おばなくりげ=たてがみと尾がブロンドの馬)、今まで出会わんかったタイプや》

    (マリリン、キッと睨みつけてくる)

    《うわ、目ぇ合うた……! 怖!》

    (マリリンからラクに視線をそらすと、ラクは気まずそうに草を噛んでいる)

    《……なんや、ビビっとるな……ワシと似た空気、馬に転生した頃のワシそっくりや》

    (カスパル、プリンに向かって微笑みながら静かに言った)

    「我々としては、お前さんを歓迎している。何か困ったことがあったら相談しろ……今日はいい夜風だな。少しずつ、この空気に慣れていけ」

    (プリン、小さく鼻を鳴らす)

    《なんや、ちょっとだけ──生きててよかった気がしてきたわ……》


    【なんで?なんで?お前らがおんねん!!!】


    (翌朝。朝日が差し込む厩舎に、聞き覚えのある騒がしい声)

    ユウト:「おっはようございまーす!プリンさーん!!いや〜まさか、俺らも転職成功して、今日からここのスタッフっすよ!」

    《……え?……えええ!?》

    ユウト:「求人サイト見てたら出ててさぁ、俺たちでローズガーデン乗馬倶楽部の映え動画バズらせようぜっ☆って応募したら、速攻採用っすよ!」

    (プリン、じりじりと後ずさりながら)

    《なんやそのノリ……面接どうなっとんねんこの牧場……!》

    ユウト:「てかプリン、また会えてマジ運命じゃね? カメラ持ってくるから今日も頼むねっ!」

    (その後ろから、ガジェット成田がぬっと現れる)

    《え?ユウトだけやないの?なんで成田までなんでいんの?いや待て。その目、なんか覚えあるぞ……》

    (無言。無表情。手にはタブレット端末)

    (──そして、プリンの背中にそっと視線)

    (プリン、ビクッとする)

    《まさかまた、なんか貼りつけとらんやろな!?ガジェットつけんなや!!》

    (成田、タブレットに目線を落とし、静かにタップ)

    (画面には、昨日の「心拍数ログ」)

    《おいおいおい……無言で記録とるなや……怖いんじゃぁぁぁぁ……!》

    (プリン、じわじわと心拍が上がるのを感じる)

    ユウト:「ねえ成田くん、それって昨日の? やっぱプリン、感情の波動出してるよね! このままデータ取れたらさ、AIでポニーの気持ち翻訳できる説ない?」

    《アカン。バーベキュー禁止令の次は、ワシの心まで丸裸かい……》

    (プリン、ため息まじりに首を垂れる)

    《……この2人、またしても足して2で割っても、全然あかんやないか……!》


    【マリリンが……変や。ワシ、気になるんや】


    (ある日の昼下がり。放牧から戻ったマリリン。プリンがちら、と視線をやる)

    (フゥフゥ……とやや重たげな呼吸。肩で息をし、耳もやや後ろ向き)

    《……あれ? なんや……様子がちゃう。》

    (マリリン、ちらとプリンを見るが、すぐ顔をそむけ──そのまま、ふっ、と息を詰まらせる)

    《……おい。まさか、腹痛いんか……?》

    (プリン、すぐさま事態の異常を察知。鼻を鳴らし、マリリンに一歩近づく)

    《おい、マリリン! 大丈夫かいな……!》

    (マリリン、小さく身をすくめる。ブルル、と体を震わせるが、反応は鈍い)

    《あかん。これ、ようない。──人間に知らせな……!》

    (バンッ! と音を立てて前肢を地面に叩きつけるプリン)

    (ユウトと成田が振り返る)

    ユウト:「ん? プリン?」

    (プリン、首をぐいっとマリリンの方へ向け、ヒヒーンと鋭く短く鳴く)

    (ドドッと前肢で地面を踏み鳴らす)

    ユウト:「え、なに? あっち? マリリンが……?」

    成田:「……体調異変を訴えてると、解釈すべきですかね?」

    ユウト:「いやいやいや、馬が他の馬の体調わかるとか──そんな超能力ある?」

    《信じろよ!! 前にも火事、止めたやろがい!!》

    (だが、ふたりは首を傾げながらその場を離れる)

    《……ほんま、またスルーか……。あいつら、懲りへんな……》


    【夜の見回りや! 出陣や!!】


    (夜。しんとした厩舎。風の音がすっと抜ける)

    (プリン、目を閉じていたが──ぴくりと耳が動く)

    (ゼェ……ゼェ……と、苦しげな呼吸音が、闇の奥からかすかに)

    《……マリリン!? やっぱりや……アカン、危ない!!》

    (バシィン!と背中を使って横木に体重をかける)

    (ガコンッ! 音を立てて横木が外れる)

    (プリン、一歩ずつ確かめるように、しかし静かに──足音を潜めて脱走)

    《……もっぺんやることになるとはな……でも、今度は遊びちゃう》

    (ダンッ、ダンッ、と蹄を鳴らしながら駆けだす)

    (ぱあっと開けた通路、夜の空気が肌を打つ)

    (事務所前。灯りの下、ふたりの人影)

    《見つけた!》

    (ドドドドドッ!!と駆け寄り、事務所前でズバンと両前肢で地面を連打)

    ユウト:「うわっ!? 出たァ!? プリン、またかよ!!」

    成田:「……夜間、また脱走。しかも今回は……様子が違う」

    (プリン、ビシッとマリリンの馬房の方角を向き、静かに一点を見据える)

    (そのまま、グッと鼻を鳴らし──小さくヒヒィンとひと鳴き)

    ユウト:「……え、あっち? マリリン? まさか……!」

    (ユウト、真顔になって厩舎へダッシュ)

    (成田も一拍遅れて後を追う)


    【これは危険なやつや!獣医を呼べェェ!!】


    (マリリンの馬房──干し草の上に、マリリンが崩れるように横たわっている)

    (首がわずかに痙攣し、脚がピク、と痙攣する)

    ユウト:「やばい! これ、疝痛(せんつう)だよ!腹痛がってる! すぐに処置しないと……!」

    成田:「獣医呼びます! すぐ!」

    (スマホを取り出す成田。手元が震えている)

    (その間にも、マリリンの呼吸は浅く、苦しげに波打つ)

    (しばらくして──獣医とクラブスタッフが息を切らして駆け込んでくる)

    スタッフ:「どうなってる!? 今は!? ……プリンが知らせたって、本当か!?」

    (馬房の中。獣医が迅速に注射の準備を始める)

    (スタッフが汗を拭いながらプリンを見る)

    スタッフ:「ほんとうに、プリンが……異変を?」

    獣医:「痛み止め入れます。これで少し楽になるはずです」

    (ぶるっと全身が震え、浅く鼻を鳴らすマリリン)

    (心配そうに見つめるプリン)

    《怖ない。耐えるんや、マリリン。がんばるんや!!》



    (翌朝、回復に向かっているマリリン。向かいの馬房から見つめるプリン)

    スタッフ:「マリリン、よくがんばったね。もう大丈夫だよ」

    (そのとき──ゆっくりとマリリンがプリンの方を見つめる)

    (うっすらと開いた瞳。まだ少し霞んでいるが、確かに見つめ返してくる)

    マリリン:「……あなたが……助けてくれたの?」

    (プリン、静かに鼻先を近づける)

    (ふいに、マリリンの声が──言葉が──確かに、胸に響いた)

    マリリン:「……ありがとう。プリン」

    《……あ──》

    《いま、はっきり聞こえた……。言葉としてでも、翻訳でもない。》

    《馬の声が……そのまんま、心に届いた……!》

    スタッフ:「本当に……すごい馬だな、おまえは」

    (そのとき──どこからともなく、微かな蹄の音)

    (暗がりの馬房から、ぽつりぽつりと──声があがる)

    「……ありがとうプリン」

    「……命の恩馬だな」

    「カッコよかったよ、プリン」

    (驚いて振り向くプリン)

    (声の主たちは──向かいの馬房、隣の馬房、奥のほうの見えない馬房──)

    (皆、静かに彼を見ていた)

    《……馬としての「言葉」が……こんなにも……》

    《通じ合えるんやな、ワシにも──もう……》

    (胸の奥が熱くなる)

    (風が、やさしく厩舎の隙間を通り抜ける)

    (プリン、しばらくじっとしてから──ゆっくり背筋をのばす)

    (そして、ひとつ、静かに鼻をブ、と鳴らした)

    (それは──この世界で、馬として生きるという「誓い」のように響いた)


    【ざまぁ再び──今度は正座付きや!】


    (翌朝、クラブ事務所前。朝の光が差し込む中、空気はピリリと張り詰めていた)

    リーダー:「で、ユウトくん、成田くん。──昨日のマリリンの異常に、なぜ気づけなかったの?」

    ユウト:「そ、それは……その、気のせいかと……いや、なんかプリンがヒヒーンって鳴いてて……でも、まさか……」

    成田:「……異常検知センサーには反応がなかったので……」

    リーダー:「あんたたち、履歴書に《経験者》《テクノロジーで馬の健康管理》って書いてたよね?」

    ユウト:「いや……あの……僕、ただ、プリンの動画で一回バズっただけでして……!」

    成田:「……センサー、まだβ版で……ファームウェアの更新、昨日……忘れてました……」

    リーダー:「言い訳すんなあああああ!!!」

    (ビシッと指が走る)

    (ユウトと成田、即座に地面に正座)

    ユウト:「す、すみませんでした!! 疝痛を、馬の命を……軽く見てました……!!」

    成田:「……ここで、ここで、イチから経験、積ませてください……」

    (遠くから静かに彼らを見つめるプリン)

    《なんや、完全に地べたに額こすりつけとるやないか……あいつら、あの火事以来やな……》

    (ユウト、恐る恐る顔を上げる)

    ユウト:「プリンさん……命の恩馬っすよね、マジで……! 」

    (プリン、ため息をつくように鼻を鳴らす)

    《あぁもう……ワシ、ツッコミのしがいがあるわ!》

    (静かに風が吹く朝。プリンは顔を横に向けて、ゆっくりと歩き出す)

    《……でも、まぁ……悪ないな。こないして、しょうもない奴ら相手に「ワシ節」を響かせとるだけでも──》

    (振り返ると、ユウトと成田はまだ正座のまま、リーダーに頭を下げている)

    《……うん。これはこれで、ちょっとだけ……楽しいかもしれへんな》


    (その背に、マリリンのやわらかい声)


    「プリン……ほんとに、ありがとね……」

    (プリン、ちょっと照れくさそうに)


    《……あかん、こんなん言われたら、生きとってよかった思うやろ……!》


    (朝の陽が、ゆっくりと厩舎を照らし始めていた)

    第6話 観察されてます、プリンさん。ユウトは嫉妬で限界です


    【この馬若いな……美加丸と、同じくらいやろか】


    (朝の放牧場。夜露がまだ地面に残るなか、陽が静かに差し始める)

    (カスパルに連れられ、プリンは二頭の馬に近づく)

    (そのうちの一頭──小柄で俊敏そうな若馬が、落ち着かない様子で左右をきょろきょろ)

    (耳がせわしなく動き、足元を小さくかき込み続けている)

    《……あいつ、名前はラクか。たしか元競走馬やったな》

    (気ばかり急いて、何かに追われるような目をしている)

    《若いな……美加丸と、同じくらいやろか》

    (ふいに浮かぶ、懐かしい名前)

    (けれど、その顔は──なぜか、霞がかかったように、うまく思い出せない)


    【心配せんでええ。ワシも、最初は怖かった】


    (プリン、ゆっくりとラクに近づく)

    《おーい。どうしたんや、落ち着かへんな?》

    (ラク、びくっ、として振り向く。瞬間的に距離を取ろうとするも、踏みとどまり──目だけが不安げに揺れている)

    《……こないだ、カスパルさんに紹介された木曽馬さん……?》

    《そうやけど、ワシはプリン。「さん」づけなしでええで。気安うな》

    (少し冗談めかして言う。プリンの声色に、ラクの耳がぴくりと動く)

    《……ボク、ここ、来る前思ってたのと全然違って……》

    《ああ、せやろな。においも風も、音も、全部ちがう》

    (プリン、ふっと視線を空に向ける)

    《急に場所変わって、知らん馬ばっかりで、不安やったやろ》

    (ラク、わずかにうなずく)

    《……それに、当たり前みたいにこうしろって言われるけどうまく動けなくて、またがっかりされて……。今までずっと、そうだったから……》

    (声がかすれて、最後のほうは聞き取りづらい)

    《……そっか。──おまえ、ようがんばってきたんやな》

    (プリン、草をひとくち、音を立てずにかむ)

    《ワシも、最初は怖かった》

    (ラク、そっとプリンの顔を見る。その目に、少しだけ迷いが薄らいでいた)

    《けど、そのうち分かってくるんや。風のにおいとか、足元のやわらかさとか──》

    《……誰が味方で、誰が敵かとか?》

    《せや。馬にも、人にも、そういうもんはある》

    (風がふっと通り抜ける。ラクの鼻が小さく鳴って──その呼吸は、さっきより少し静かだった)

    (放牧場にしずかな時間が流れる)


    【なんで毎朝、こっそり見に来てんの……?】


    (数日後の朝。馬房の扉が、わずかな軋みとともに静かに開く)

    (プリンは目を細めて見る──現れたのは、あの少女、オダッチことローズガーデン乗馬クラブの経営者の娘)

    (音を立てず、まるで風のように忍び寄るその姿)

    《……また、あの子か……。ほんま、毎朝よう来とるな……》

    (オダッチは何も言わず、ただじっとプリンを見つめている)

    (声もかけず、手も伸ばさず、まるで何かを探るように……)

    《……なんや……その目……こっちの心を見透かすような……》

    (プリン、じっと見返しながら、ほんの少しだけ首を引いた)

    (──遠巻きに見ていたユウトと成田が、事務所の窓からヒソヒソ)

    ユウト:「……最近さ、あの子、毎日プリンさんのとこ行ってない?」

    成田:「……ええ。ルーティンになってますね。無言で来て、無言で立って、無言で去る……」

    ユウト:「俺、昨日チラ見したけど、5分くらいガチ見してたんだよ……! 怖くね!?」

    成田:「まぁ……馬目線でいうと、《観察》されてる感は否めませんね」

    ユウト:「それよ。《エモ動画の英雄》プリンさんの横にずーっと居座ってさ!!……」

    成田:「ユウトくん、嫉妬……してるんですか?プリンさんとあの子に」

    ユウト:「はあ?成田くん、やめてよ。嫉妬なんてするわけないでしょ?」

    (ユウトのねっとりした視線に気づいたプリンが、しっぽでバサッと一蹴)


    《……お前、映え目的で来るなや。下心見えとんねん》


    (ユウト、ひそかに項垂れる)

    【そないに、優しゅうせんでもええのに……】


    (翌朝もオダッチは、誰に告げるでもなく、静かにやってくる)

    (無言のまま馬房の中に入ると、棚からブラシを取り出し、そっとプリンに近づく)

    (プリン、一瞬だけ首をあげるが──その気配に、警戒心が揺らぐ)

    (少女の手が、軽やかに、迷いなく、たてがみの根元に触れる)

    (静かに毛をとかし、埃を払い、汚れをやさしく落としていく動き)

    (ごしごし、ではなく……さらさら。まるで、記憶の中の風のような)

    《……そないに、優しゅうせんでもええのに……なんや、くすぐったいやないか……》

    (プリン、気づけば目を細めている)

    《あかん!!……気持ちええとか、思ってもうてる……!!》

    (思わず鼻をふんと鳴らして我に返る)

    《ちょ、ちょっと待てワシ。まだこの子の正体、分かってへんやろ……?》

    《もしかしたら、やっぱり裏かいてほんまに織田の者かもしれへんやん……!》

    (オダッチは最後まで何も言わず、ブラシを丁寧に棚に戻し、また静かに立ち去る)

    (プリン、去っていく背中を見つめながら、ひとつ鼻を鳴らす)

    《……なんやねん、あの子……》

    《ほんまに織田やないなら……何者や……?》


    【何も言わんでもええ】


    (翌朝。馬房にやわらかな光が差し込む頃)

    (扉がそっと開く)

    (静かな足音──オダッチが、今日も無言で現れる)

    (プリンが目を細めて見つめると、少女は変わらぬ無表情のまま、すっと手を伸ばす)

    (たてがみにふれる指先は、迷いなく、どこまでも静か)

    《……また、お前か。よう飽きへんな……》

    (少女は、軽くブラッシングをすると、無口頭絡《むくちとうらく》をプリンにつける)

    《……散歩か。しゃあないな。付き合うたるわ》

    (ゆっくり歩きながらオダッチと林道に出る。)

    (朝の空気を切りながら、並んで歩くふたり──)

    (ときどき、少女がふと立ち止まり、空を見上げる)

    (そのたび、プリンも止まって──そしてまた、歩き出す)

    (言葉はない。でも、足音はぴたりと揃っていた)

    《……なんやろな。言葉は交わしとらんのに……》

    《せやけど、不思議と──わかる気がする》

    (風がふわっと吹いて、少女の髪が揺れる)

    (その隣を歩くプリンのたてがみも、ふわりと)


    (少女が横目でプリンを見る。プリンも、ちらりと目を向ける)


    (ふたりの目が、そっと、静かに重なる)


    《……言葉は、いらん》


    《でも──届いとる。確かに、心まで》


    (草の匂い、風の音、歩幅、間)



    《まるで、ずっと前から知っていたみたいや》



    《誰が何も言わんでも、ここにあるもんは──ほんまもんや》



    (そのまま、朝の光のなかを、ふたりは並んで歩いていく)

    第7話 じじいのポニーやけどなぁ......──そして朝は来る

    【戦(いくさ)のこと、霞んできたな……でも、それでええ】


    (朝の放牧場。朝露が光を反射しながら、ゆっくりと消えていく)

    (プリン、ぼんやりと草をはむ)

    《……ええと、ワシの名は、左馬之助《さまのすけ》……苗字は何やったっけな?》

    (ふと首を上げて遠くを見るが、風景はただ静かで穏やか)

    (すぐ近くにいるマリリンとラクが、小さく鼻を鳴らす)


    《なぁ、聞いてくれるか? 昔な、ワシ──》


    (……そこから先が、出てこない)


    (戦《いくさ》の記憶、刀の重さ、最期──)


    (それらが、まるで霞の向こうにあるように、ぼんやりと遠い)


    (けれど、不思議と不安はない)


    《……まぁ、ええか。もう、そないに思い出さんでも》


    (最後に見た昔の夢の中で、美加丸が──ほんの少し笑った気がした)


    (不思議と、気持ちが軽くなる)


    (あれ以来、戦の夢は──見ていない)



    【わかっとるんや、この足音──あの子や】


    (少し離れた場所から、ユウトと成田がいつものようにこそこそ)

    成田:「……センサー反応、今日も安定してます。心拍、呼吸、耳の向き。すべて《落ち着き》の数値ですね」

    ユウト:「いや〜プリンさん、最近まじで大物感あるっす……オーラが違うというか……てか、あの子と通じ合ってる説、濃厚じゃない?」

    成田:「……見てくださいこの数値。これはもう《信頼関係成立モード》ですね」

    ユウト:「やば……そっちもバズりそう……てか、俺とも築いてくださいよー、信頼関係。ねぇ、プリンさーん……!」

    (ユウトが飼葉置場からぬっと顔を出し、手を振る)

    (……しばらく無反応だったプリンが、片耳だけユウトへ向け──)

    (そして鼻を「ふんっ」とひと鳴らし)

    成田:「……これは《無言の圧》です」

    ユウト:「えっ、ちょっとプリンさん!? 俺、何かしました……!?」

    (プリン、しっぽでパシンと一閃)

    (ユウト、見えない何かに打たれたように沈む)

    《……せやから言うたやろ。下心ありきで来るやつは、信頼されへんねんて》

    (それでも懲りないユウトは、成田のセンサー越しにプリンを眺めながらつぶやく)

    ユウト:「……でも、あの子、マジで毎朝来てんのすごくない?なんか……運命っぽいというか……」

    成田:「……ただの《日課》かもしれませんけどね」

    ユウト:「夢、壊さないでよ成田くん……!」


    (2人のやりとりを背に、プリンはそっと目を細める)


    (地面の震えも、風の切れ方も、音を立てない歩き方も)


    (プリンは、それだけでわかる)


    (振り向かなくても、そこに《あの子》がいる)


    (──ユウトが様子をうかがっている)





    ユウト:「……ミカちゃん、そろそろ……あ、来た」




    (オダッチ──本名は、奥平ミカ)


    (少女はプリンにそっと近づき、たてがみに手を伸ばす)

    (言葉も、気配もない。ただ、指先だけが確かに存在を告げる)

    (プリンは目を閉じて、それを受け入れる)

    (風が通り抜ける──その音は、どこか懐かしかった)

    《……せや。この目、ワシは間違えとった。せやけど、今はわかる》

    《──ワシが守りたかった「お前」や》

    ──美加丸──

    (プリン、ひとつ鼻を鳴らす)

    《でもな、いっこだけ納得いかへんとこ、あんのや》

    《なんで?なんで、お前だけ少女に転生なんや?……ワシはじじいのポニーやのに?……》

    《……理不尽やーーーー!!!転生ガチャ、引き直しさせてーな!!!……》

    (プリン、鼻をブゥブゥ鳴らす)

    (でも、鼻を鳴らしたその音は、どこかくすぐったそうで)

    《怒りも恨みも、湧いてこん。ただ、ほんまに──あたたかかった》

    エピローグ 《……まぁ、ええ朝やな》


    (シャク、シャク……シャク)

    ユウト:「うわ、全員そろって草いってる……プリンさんまで!」

    成田:「《群れ一体型・安定摂取モード》ですね」

    ユウト:「なにそのモード名……てか、カスパルさんが真ん中陣取ってるの、王感やばくない?」

    成田:「全員、半径3メートル以内で同時に咀嚼開始してます。これはもう《黄金の隊列》です」

    ユウト:「……その実況、需要ある? てか、マリリンがプリンさんの近く寄ってる。なんかちょっと、いい雰囲気……」

    成田:「ラクも、耳だけプリンのほうに向けてます。無言の好意ですね」

    ユウト:「うらやましい……プリンさん、完全にここのエースじゃん……」

    (シャク……シャク……)

    成田:「この空気、SNSに上げたら#静寂の絆ってタグでバズりそうですね」

    ユウト:「お願いだから変なタグつけんなよ……でも……なんか、いいな。こういう朝……」

    (少し離れた場所で、カスパルが「ふっ」と鼻を鳴らす。近くにラクやマリリンもいる)

    (みんな、黙々と草を噛み続ける)

    (シャク。シャク。シャク)

    (プリン、ゆっくりと顔を上げる)

    《……まぁ、ええ朝やな》

    《ここがいまの戦場なら──》

    《なんや、ワシ……ちょっと楽しみになってきたで》

    《じじいのポニー、

    ……やけどな》

    (完)


    #創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門

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