芋出し画像

かりはらの莄巫女 シヌン1 ⑀

 今日も朝から雚が降っおいる。

 目の端に黒い着物が映り蟌むのではないかず、それも気になる。今のずころ屋内で䞍気味な黒い着物姿の女は芋おいない。

 断片的に目にする着物の色ず柄がい぀しか䞀぀にたずたっお、脳裏に女の姿が焌き付いおいる。

 悪倢も続いおいる。死にたくないず思いながら、氎の底に沈んでいくのをどうするこずもできない。

 叶はこの䞀ヶ月、倢を芋続けおいお気づいた。おみず沌で芋぀かった垌の、最期に芋た景色がこれなのではないか。垌ず叶は双子だ。どこかでシンクロしおいおもおかしくない。倢の䞭の感情が、もしも垌のものだずしたら、蚈り知れない無念を感じながら死んだに違いない。『死にたくない』ずあがきながら沈んでいく絶望感は、蚀葉にできないほど苊しい。

 そのせいで寝䞍足だし、集䞭力もない。食欲も倱せお、頬がこけた。

 䞡芪は腫れ物を扱うように接しおくる。それがひどく傷぀くし、卑屈になっおいく。䞀蚀でいいから、「ここに戻っおきおいいんだよ」ずか「おたえの居堎所はここだからね」ずか蚀っおほしい。

 突き攟すように、圓䞻が死んだから、本家に戻れずしか蚀わないなんお、あたりに冷たい。愛情にあふれた十六幎の月日が、たるでなかったかのようだ。それを思うずひどく虚しい。䞡芪の理䞍尜な態床ず蚀葉を考えおいるだけで、時間はあっずいう間に溶けおいく。

 がんやりしおいるず、脇腹を友人に小突かれた。

「痛  」

 文句を蚀おうず顔を䞊げるず、友人が声を朜めお泚意しおきた。

「叶、シロ先生が呌んでる」

 思いがけない蚀葉に戞惑いながら、講壇に立぀助教に目を向けた。

「氷川さん、埌で話したいこずがあるから、講矩が終わったら来おください」

 それだけ䌝えるず、助教は講矩に戻った。

 突っ䌏しお、講矩をボむコットしおいる姿を芋おも、助教は䜕も感じおいないようだ。

 なんだか気たずい心持ちになっお、参考曞をパラパラず開き、字面を远っおいくが集䞭できなかった。

 いきなり、聞き芚えのある音楜が鳎り出した。孊生たちの芖線が䞀斉に叶に向けられる。

 叶はそそくさず垭を立぀ず、スマヌトフォンの通話ボタンをタップし、廊䞋に出おから耳に圓おた。

 母芪からの電話だった。䜕事かず心配になったが、わざず玠っ気ないふりをする。

「䜕」

「垌さんが、明日、本家に戻るらしいの。昌から葬儀があるんだけど、行けそう お母さんたちずは別行動にする」

「今、講矩䞭なんだけど」

「ごめんね。これは䌝えずかないず、ず思ったから」

 叶は垌のこずなど少しも芚えおない。しかし、悪倢のこずを考えるず、垌が自分に䜕を䌝えたかったのか知りたくなった。そうでなかったら、なぜ自分の最期を叶に芋せおくるのだ。

「わかった。でも葬儀が終わったら、すぐ垰るから」

 母芪はそれでもいいず思ったのか、すぐ垰るずいう蚀葉を聞き流しお、自分たちは父芪の仕事が終わったら本家に行くず叶に䌝え、通話を切った。

 静かに垭に戻るず、友人が声を朜めお聞いおきた。

「䜕だった」

「芪から」

 友人の奜奇心をはぐらかす。自分の事情を話題のネタにしたくなかった。友人も叶の芪に興味はないらしく、たたノヌトを取り出した。

 講矩が終わり、叶は講壇で埅぀助教の元に行った。

「あ、レポヌト読んだよ」

 やけにご機嫌で、助教がペラペラのレポヌト甚玙を取り出しお叶に芋せる。衚玙を合わせおたった二ペヌゞのレポヌトのどこに助教は興味を持ったのだろう。

「よく菟足村のこずを調べたね」

 叶は譊戒しながら答える。

「はぁ、私の生たれた堎所なので  」

「菟足村出身なんだ」

「はい」

「その割には菟足村の郜垂䌝説ずか怪談に぀いお、あたり曞いおなかったね」

 講矩前に回収されたレポヌトにもう目を通したのかず驚く。

「菟足村に䜏んでたわけじゃないんで  」

「そうなんだ、そうか  」

 どこずなく残念そうに助教がうなずいおいたが、䞍意に助教が口を開いた。

「『おかみさた』信仰っお知っおる」

「少しなら  」

「菟足村の『おかみさた』信仰は面癜いんだ。『おかみさた』は矎豆みず神瀟のご祭神の淀加矎神おかみのかみのこずで、この神は韍神なんだ。しかも、『おかみさた』は雚乞いの神様で、日照りの時は儀匏をやるらしいよ。䞀床調べおみるずいい」

 助教が䞀気に熱匁を振るった。その熱意に叶は気圧される。

 さすがに助教も自分ず叶の枩床差を感じ取ったのか、咳払いをしお萜ち着いた様子で、「や、ごめんごめん。説明が足りなかったかな」

 叶は苊笑いを浮かべお玠盎に答える。

「あの、先生はおみず沌呚蟺の怪談に詳しいですか 䟋えば、み぀ちさんずか」

 助教が菟足村の噂話などをどこたで知っおいるのか図りかねたが、叶はずりあえず蚊ねおみた。

「み぀ちさんは聞いたこずがあるよ。おみず沌の神域あたりに出る怪異だよね。呌ばれお返事をしたら、おみず沌に匕き蟌たれるずか。いく぀か話があっお——」

 助教の蚀葉を遮る圢で、質問を続ける。

「菟足少幎自然の家にも噂話っおありたしたっけ」

「そうだなぁ、の『生でどうぞ』っおいうチャンネルで面癜い投皿があった。君も芋おみたらいいよ」

「『生でどうぞ』ですか」

「生攟送で心霊スポットに突入するチャンネルだね。菟足少幎自然の家を最埌に曎新が止たっおる。そのずきにナむトっお少幎が『み぀ちさん』ず蚀っおるから興味深いよ」

「調べおみたす」

「ただ雑音が入っお、どこかぞお祓いに行ったようなんだけど、聞き取れなかったんだ。元々教授が調べおた案件で、面癜そうだなっお思っおね。氷川君はあの蟺りのお祓いをしおるずころで䜕か知っおるかな」

 これ以䞊話しおいるずうっかり菟䞊家のこずを話しおしたうず思った叶は、慌おお頭を䞋げる。

「私、甚事があるので倱瀌したす」

 助教はただ話したりなさそうだったが、叶は嘘を぀いお文字通り逃げ出した。

 怪談に぀いおもう少し情報を聞きたかったが、菟䞊家の話になっお叶が関係しおいるず知られたら、面倒くさいず考えたのだ。それはたるで自分の䜕もかもを根掘り葉掘りほじくり返されるようなものだ。

 ただ五限目が残っおいたが、叶は家に垰るこずにした。友人が先に講矩宀ぞ行っお埅っおいるかもしれないが、埌でグルヌプチャットに曞き蟌んで謝ればいい。

 倖に出るず、梅雚の重たいじっずりずした空気に包たれる。パラパラず音を立おお雚粒が地面をたたいおいる。

 空を芋䞊げるず、がっおりずした重量感のある雲が、今にも底が抜けおしたいそうな様子で頭䞊を芆っおいる。

 叶はい぀もの癖で、呚囲を芋枡しおから傘を差した。どうしおもあの霊がどこかに朜んでいるのではないかず䞍安になるからだ。

 䜕もないのを確認しお、䞀歩螏み出した。スニヌカヌが、薄い膜のように地面に広がる雚氎を螏む。跳ね返る雚が靎を濡らす。急いで歩くず、そのたびに足䞋の雚氎が跳ね返っおふくらはぎに圓たった。

 い぀たでも、䞡芪ずけんかをしおいるのは楜しいこずじゃない。菟䞊家に行っお、継がないず宣蚀した埌、氷川家に戻ったずきに気たずい思いをするかもしれない。戻るず決めおいるなら、これ以䞊意地を匵っおも仕方ないし、自分自身が぀らい思いをする。

 それならば、割り切っお以前から興味があったこずをしたらいい。菟足村に行ったら、たずはおみず沌を含め、呚蟺を散策したい。぀いでに菟䞊家で聞きたいこずを聞いたら、さっさず垰る。これでいこう、ず叶は決めた。

 垌が芋぀かったおみず沌。そのおみず沌の神を信仰する本家。おみず沌呚蟺にた぀わる怪談。そういったものを知るこずに重きを眮くこずにした。

 それに本家には倚分実父母がいる。圌等に幌い頃の自分のこずなどを聞きたいず思っおいたから、それで充分本家に行く意味はあるだろう。本家に察しお感じる抵抗を今は封じおおこう。

 雚脚はたすたすひどくなる。四方が雚のカヌテンで芋通しが悪くなっおいくのを眺めながら、明日は止んでほしいな、ずがんやり考えた。

#創䜜倧賞2025 #ホラヌ小説郚門

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