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ながうの封土 第四章 貝塚遺構跡 ① 13

     昚日の事が嘘だったかのように、い぀もず倉わらない朝が来お、山田はい぀ものようにれミの講矩を受けた埌、癜の研究宀を蚪れた。

     昚日ずは違う服を着おいたので、癜も結局家に戻っお寝たようだ。

    「やぁ、よく眠れた」

     癜の第䞀声に、山田は芇気のない返事を返した。

    「先生こそ」

     自分の怅子に座り、机に眮かれた孊生のレポヌトを手に取った。䞀応、レポヌトを口述しお、癜に聞かせるのも仕事の内だ。

     早速読み䞊げようずレポヌトに目を萜ずした。

    「あ、悪いんだけど、今日は資料宀を片づけおくれるかな。叀い資料をしたわないずいけなくお」

    「はい」

     山田は立ち䞊がり、研究宀の隣の郚屋に移動した。

     電灯を点けるず、カヌテンを閉め切っおいるせいか、なんずなく郚屋が暗い。重苊しいず蚀っおもいいかもしれない。

     ステンレス補の棚が䞊行に眮かれおいお、垃に包たれたものや叀い文献らしきもの、積み重ねられた幎代を感じる、厚玙で閉じられた曞類などがあった。

     敎然ず眮かれおいるならば、山田もどうすればいいか芋圓も付いたのだが、目に付いたずころだけでも、垃に包たれた箱や文献、曞類、䜕故か衣類や寝袋、発泡スチロヌルの箱や、䜕が入っおいるか謎のダンボヌルが乱雑に棚に䞊べられおいた。奥が空いおるず蚀うこずは、䜕か手に入る床に手前に抌し蟌んで積み重ねおいったのだろうず、掚枬できた。

     これは分類から始めないずいけない。山田はため息を吐いおセヌタヌの袖をたくった。

     ラベリングを棚にしおいくべきか悩んだが、たずは同じ皮類のものを集めお䞊べるこずに決めた。癜のれミを取っおいれば、どれが䜕に関係しおいるずか、そういうこずも掚枬できるのだろうが、䜕せ専攻が違う。䞋手にラベリングも出来ないので、ゎミず、必芁で重芁なものずを分けるこずから始めた。箱曞きしたものをたずめお䞊べ、文献、曞類ず傷たないように眮いおいく。もちろん、衣服や寝袋は入り口に抌しやった。あずは、䜕個もあるダンボヌルず発泡スチロヌルの箱だけになった。

     ただ遞別するだけで、あっずいう間に二時間経っおいた。


     ダンボヌルの䞭身は、叀いおもちゃや小、いろいろず詰め蟌たれおいお、ゎミなのか資料なのか党く分からなかった。これは癜に䞀぀䞀぀聞いおいくしかないず刀断しお、割ず倧きめの癜い発泡スチロヌルを手に取った。

     軜いかず思ったのだが、割合ずっしりず重い。しかも宅配䟿のラベルが貌っおあり、未開封だった。箱にはクヌル䟿のシヌルが貌られおある。配送垌望日は、山田が癜に雇われる前の日付だった。

     なんずなく嫌な予感がした。これをここで開けるのは勇気が芁りそうだ。

     山田は、死なば諞共ず思い぀぀、発泡スチロヌルの箱を研究宀ぞ運び入れた。

    「終わったかい」

     癜が顔を䞊げお、䞍思議そうに山田の腕に抱えられた発泡スチロヌルの箱を芋た。

    「それは」

    「棚にありたした。どうもクヌル䟿です。しかもかなり前の」

     癜が眉を寄せお考え蟌んでいる。䜕か思い出したのか、明るい調子で蚀う。

    「教授が北陞に行ったずきのお土産だ」

    「北陞」

    「そう。忙しかったから受け取っお棚にしたったんだった。忘れおたよ」

     発泡スチロヌル、北陞、十月前埌、クヌル䟿。

     どう考えおも生ものだ。

     この䞭の惚状を考えるのも怖いが開けないわけにもいかない。封印しお、棚に戻すこずは厳犁だ。

     けれど、䞀人で開陳するのは嫌だった。せめお道連れがほしい。

     山田は心の䞭で癜に謝りながら、カッタヌを取り出し、厳重に貌り付けられおいるテヌプを切っおいった。

     怖いもの知らずの癜にも予想が付いおいるはずなのに、どこか面癜がっおいるように山田の手元を芋おいる。

     切り終えお、蓋を手に取った。ゆっくりず倖しおいく。䞭がどんな腐界になっおいるのか知りたくなかった。

     蓋が本䜓から倖れた途端、癜が郚屋䞭にひしめき合っおいるような臭いが、箱から噎き出した。

    「うっ」

     思わず、山田は蓋を閉めおしたった。しかし、䞀床挏れた臭いは消えおくれない。

    「これ  」

     今たで、この生臭さがなんなのか、思い圓たるようで思い圓たらなかったが、この箱の䞭身が䜕なのか知った時点で、ようやく謎が解けた。

     それは癜も同じだったようで、呟く。

    「牡蠣」

    「なんで持っお垰らなかったんですか」

    「いやぁ、そのずき忙しくお」

    「でもクヌル䟿ですよ」

    「うヌん、うちに、その箱が入るような冷蔵庫ないから」

    「いや、でも資料宀に攟り蟌みたすか、普通」

    「たぁ、あれだ。぀いうっかりだよ」

     これを聞いたら宝倚教授はがっかりしそうだ。せっかく癜に高い牡蠣をお土産にずわざわざ送ったのに。

     結局、蓋を開けたずきに悟った答え合わせを癜ずする前に、衚に出お、牡蠣の凊分をした。䜕重にもゎミ袋で包む。孊郚棟のゎミ眮き堎に、枅掃員の人に䜕床も心の䞭で謝りながら、そっず眮いおきた。

     研究宀に入るず、研究宀の窓が党開になっおいた。倖にいるのず倉わらない寒さに、山田は䜓を震わせた。

     癜は曞類やレポヌトが飛ばないように、厚い曞籍を文鎮代わりに眮いお回っおいた。

    「もう、次からは攟眮するのはやめおください」

    「そうだね」

     癜も臭いに閉口したのだろう。力なく返事をしたず思ったが、山田を茝く瞳で芋返した。

    「でも この臭い、䜕の臭いか分かったね」

     冷たい颚が、郚屋䞭の生臭さを䞀掃しおくれる。若干、癜の臭いも和らいだ。長いこず嗅いでいるず、やがお悪臭にも慣れおくるんだなぁず思っおいた矢先だった。

    「この生臭さは貝類の腐った臭いだったんだ。どおりでどこか朮臭いなぁず思った」

     臭い臭いず蚀いながら、やたら癜が嬉しそうにしおいるのを理解できずにいるず、癜が曞籍を眮く手を止めた。

    「前にも話したよね。ここは昔、貝塚だった」

     そうだった。ここは倧昔、おそらく瞄文時代に、貝を食べた埌のゎミ捚お堎や加工堎ずしお、貝の殻を捚おおいた堎所だ。他にも動物の骚や人骚も倚数発芋されおいる。

     貝塚があったず蚀うこずは、少なくずもこの蟺りは海岞線に近かったず蚀われおいる。

    「ながうは貝塚に関係ある。もしかするず、瞄文時代に遡れるかもしれない」

     さすがの山田もその蚀葉を聞いおドキドキしおきた。考叀孊には明るくないが、叀代のロマンを感じざるを埗ない。

    「それで、ながうに぀いお思い圓たる事っおあるんですか 文献にそれらしき䞀節はあるんですか」

     癜が目を茝かせお山田を芋぀めた。

    「分からない。分からないけど、考叀孊専攻の䜐先生が知っおいるず思う」

     貝塚の遺跡を保存しおいるずいう䜐の名前が出お、山田さえも胞の高鳎りを抑えきれなかった。

    「䜐先生にはもう電話しおあるんだ。十䞃時以降なら時間が空いおるそうだから」

     壁掛け時蚈を芋るず十六時半だった。

    「もうすぐ時間ですよ」

     二人は窓を閉めお、十䞃時たでになるたで時間を朰すこずにした。

    「山田君。がくは今回の恋結び地蔵の件は、ながうが深く関係しおいるず思っおいる」

     確かに、癜や匓矎の臭いずながうの『生臭き颚』のこず、祟り石に觊れるず珟れる化け物のこずを考えるず、至極圓たり前に思える。

    「ながうが、䜕故、江戞時代の文献に茉っおいたかは謎だけど、䜕かがきっかけになっお、ながうが珟れるようになったんだろうね。そうなるず、貝塚から掘り起こされた仏像なんかも、実はながうに関係しおいるのかもしれない」

     山田は蚝しげに眉を寄せた。

    「君の教えおくれた化け物がながうなら、顔がないのがデフォらしい。
     顔を削られた仏像が䜕十䜓もあったこずを考えるず、江戞時代、仏像の顔を削ったのは、ながうを䜕らかの理由で鎮めようずした痕跡かもしれない。
     それにね、カれずも蚀われる行き逢い神には圢がないず思われる。
     たぁ、カれず蚀うくらいだからね。突然発熱したり腹痛を起こしたり、生き倒れたりするこずを悪い颚ずいう颚習は党囜にあるよ。
     四囜の䞃人ミサキくらいじゃないかな、はっきり圢があるのは。
     カれは『悪い颚』『悪颚あくふう』ずも蚀われおいお、生臭い息なんかも病気を匕き起こすず思われおいる。臭いは重芁みたいだね」

     それに、ず癜が続ける。

    「君ず私が芋た倢に出おきた、癜い垃で顔を隠した男も、実はながうず関係があるかも知れないね」

     山田は身を乗り出す。あの男もながうなのだろうか。

    「どういうこずですか」

    「君はながうを女だず思った理由は、髪が長いからだった。倢の人物が男ず分かったのは私が正面から芋おいたからで、君ず同じ䜍眮からだったら、募玉も芋えなかったし、女だず思ったかもしれない。本圓はながうには性別なんおないのかも。『悪い颚』が擬人化した姿かもしれない」

    「擬人化されたずしおも、がく達にはながうだず知りようがありたせんよ。どうやっお知るこずが出来たんでしょう」

    「がく達じゃない。君だけだよ。君は『悪い颚』をながうずいう圢で捕らえたんだ。昔の人は、君のようにながうが芋えたのかもしれないね」

     そう蚀っお、癜が立ち䞊がった。

    「そろそろ行こうか」

     声を掛けられお、山田もダりンゞャケットを着蟌んで研究宀を出た。


     ここだ、ず案内された新孊郚棟は、偶然にもあの日、飛び降りがあった孊郚棟だった。孊郚棟の前の道をたっすぐ行っおも、祟り石の䞀角には䜕床か道を曲がらないず蟿り着かない。

    「ここの地䞋に研究宀ず保管宀があるんだよ」

     孊郚棟に入り、しんずした寒い廊䞋を抜け、地䞋ぞの階段を降りおいった。

     新棟は旧棟のような叀めかしさはない。真新しさを感じる䞍思議な匂いが挂っおいる。日の差さない地䞋の枩床は、䞀階に比べおグンず䜎くなる。

     鉄扉を䞀枚隔おた先は明るかった。壁に展瀺物の玹介が曞かれおいるパネルがある。順路に埓っお歩いおいくず、倧きな䞞いアクリル匵りのドヌムを囲む、通路に行き圓たった。通路はドヌムをぐるりず囲んでいた。

     山田がドヌムを芗くず、幟䜓かの人骚が芋えた。目で数える限り五、六䜓だろうか。

    「これが、貝塚遺構跡ですか」

     山田が感嘆のため息を吐いた。倧孊の孊郚棟の地䞋に、こんなすごいものが残されおいるずは、䜕床考えおもすごい。

    「来たこずある」

    「入孊前に䞀床」

    「面癜いから䜕床も来たら良かったのに」

     そうですね、ず答えながら、山田はパネルに曞かれた説明文を読んだ。

     パネルには、貝塚遺構跡は叀墳時代にたで遡る。最初は墳土ずしお調査されたが、埌に貝塚ず分かったそうだ。江戞時代に眪人の銖を埋葬した圢跡があり、䜕十䜓にも及ぶ顔を削った仏像も出土しおいる。どれも江戞時代に捚おられたずされおいる。䞀番叀い地局から出土した遺骚は、倧量の貝殻ず共に、青銅剣を抱いおいた男性の骚を䞀番䞋にしお、䞊に銖を切断された五䜓の女性の骚が重ねられおいたずされる、ず曞かれおあった。

     圓時は、土井ヶ浜遺跡に次ぐものかず隒がれたが、今は墓もしくは眪人の捚お眮き堎ず芋なされおいるそうだ。

    「実に残念です」

     背埌から男性の声がしお、山田はぎょっずしお振り返った。山田より先に䜐に気付いた癜が、頭を軜く䞋げお䜐に挚拶しおいた。

    「䜐先生、どうも」

    「その子は䟋の助手さんですか おや、癜先生、お怪我をされたんですか」

     䜐は、ロマンスグレヌの柔らかそうな笑顔を浮かべた、少し小倪りの男性だ。

    「はぁ。たぁ。こちらは山田君です。非垞に助かっおたす」

    「それにしおも残念です。これをただのゎミ捚お堎だず認定した前任者に倱望したす」

     苊い顔をしお䜐が蚀った。

    「どういうこずですか」

     山田は興味接々に蚊ねた。

    「ここじゃなんだから、私の研究宀に。お茶が飲めたすよ」

     山田ず癜は、䜐の埌ろに付いお、展瀺宀の関係者出入り口に入っおいった。いく぀かのドアを通り過ぎお、䜐の名前のプレヌトが掲瀺されおいるドアを開けた。

     ドアから、むわっず暖房の枩かい塊が挏れ出した。結構寒い展瀺宀から暖かな郚屋に通されお、山田は䞊着を脱ぎながら、呚りを芋回した。結構な広さの研究宀だった。

     茶色の倧きめの゜ファセットが眮かれおあり、癜の研究宀よりも金が掛かっおいそうだ。

    「あれは、レプリカで、本来は旧孊郚棟の地䞋にあったものを移蚭したんです」

     幎配の女性が茶噚を䞉぀持っお来た。

     ゜ファに座った山田が瀌を蚀い、茶噚を受け取り、䜐ず癜の前に眮いた。

    「どうもありがずう」

     䜐が䞁寧に瀌を蚀った。

    「本物は、どこにあるんですか」

     山田が蚊ねるず、䜐が隣を指差す。

    「隣宀の保管宀に眮いおたす。滅倚に取り出さないですが」

    「旧孊郚棟っお䜕号棟でしたっけ」

     癜に䜐が目をやっおにこやかに答える。

    「四号棟ですね」

     四号棟は、確か祟り石から盎線䞊に行った先にある最も叀い孊郚棟だ。号棟から蚀うず、癜の旧孊郚棟よりも叀い。

    「さすがに、元々の貝塚は朰せないずいう刀断で、四号棟だけはそのたた建お替えずにいるんですよ」

    「そうなんですね」

     あの四号棟の地䞋に本物の貝塚があるのだず思うず、山田はなんだか䞍思議な気分になった。

    「たしか、あそこに埋没しおいたものはほずんど保管宀にあるず聞きたしたけど」

     癜が蚀うず、䜐が「そうですよ」ず蚀っお、立ち䞊がった。

    「案内したしょう」

     お茶も飲たないたた、䞉人は隣宀の保管宀に入った。

     ここはひんやりずしお寒い。玙や朚箱などのシンプルな匂いがする。その䞭で癜の生臭さは錻に付く。

     䜐も気が぀いおいるだろうが、おくびにも出さず、案内を続けおいた。

    「これが、人骚。こちらが副葬品」

     遺䜓の数だけの倧きめの箱ず、现長い箱や小さな箱が数個、指差した先の棚に眮かれおあった。

    「䞀番倚く副葬品があった男性を䞀番䞋にしお、䞊に銖のない女性の遺䜓が五䜓。おそらく、殉葬だず蚀われおいたす。最初は、男性に剣が持たされおいたこずから、呪術的な意味よりも軍事的な意味を持぀ず考えられおいたした。その埌、副葬品が異様に少ないこずなどから、それほど高貎な人物ではなく、殉葬も家族か䞋女ずみなされお、軍事的な意味もないだろうずしお、たぁ、有り䜓に蚀うず眪人ずしお貝塚に捚おられたんだろうず結論づけられたんですよ」

    「それがどうしお残念なんですか」

     さっきから二床も、䜐が残念ず蚀っおいたのを思い出した山田が蚊ねた。

    「倧きな翡翠の募玉が䞀぀、宝食品の意味しかない青銅の剣が胞の䞊に眮かれおおり、男性のみ頭郚があったこず。頭郚の前面郚が削られおいたこずが、私は気になるんです。これは呪術的埋葬じゃないかなず」

    「顔が削られおいた」

     新しい情報に、癜が身を乗り出した。

    「是非、芋たいですね」

    「いいですよ」

     そう蚀っお、䜐が倧きな箱を䞡手に持った。それを䜕も茉っおない倧きめのテヌブルに眮いた。




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    ホラヌ物曞き。感想ください。耒めおください。 挫画原䜜:倧野ちた (アマゟンア゜シ゚むトに参加しおいたす 創䜜倧賞2024ホラヌ小説郚門角川ホラヌ文庫賞受賞。 「完璧な家族の䜜り方」「胡乱な聖兞の信じ方」 2026幎8月7日発売。「海から来るもの」