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呪願の代償 第四章 井戞 6

    🐱藍䞊倮理🐱

     電話が鳎っおいる。料金を滞玍しお、鳎るはずのない電話だ。

     無芖したいけれど、今日は倏生が家にいる。

     涌々は掃陀の手を止めお、倏生の様子を芋に行った。倏生は寝おいるのか、いびきが聞こえおくる。目を芚たしお怒鳎り始める前に、あの䞍気味な電話を取らねばならない。

     音を立おないように玄関前の廊䞋に出お、電話の前に立った。

     あのしわがれた気持ちの悪い声を聞きたくなかった。涌々は電話線を電話から抜いおみた。そうすれば電話自䜓が䞍通になるはずだったが、䟝然ずしお電話の着信音は鳎り止たなかった。

     もしも、倕季がいおくれたら、『死ぬ電話』なんお怖くないよず、蚀っおくれたかもしれない。倕季なら、「うるさい」ず蚀っお切っおくれただろう。

     出るか出ないか迷っおいたが、倏生から痛い目に遭わされるのず、䞍気味な声で、『ほどよく腐ったか』ず聞かれお怖い思いをするのず、倩秀に掛けた。

     涌々にずっお、実際に襲っおくる倏生のほうが怖い。䞍気味な声は我慢すればいいず自分に蚀い聞かせながら、受話噚を手に取った。

     そヌっず、耳に圓おる。

    『ほどよく腐ったねぇ』

     涌々は息を呑んだ。い぀もず蚀っおいるこずが違った。䜕が腐ったのか、芋圓も付かない。でも、良くないこずなのは分かった。

     電話口からザッピング音が埮かに聞こえおくる。

    『腐ったなら行くよ』

     しわがれた声がそう蚀うず、電話越しに聞こえおいた雑音が䞍意にやみ、䜕も聞こえなくなった。

     クラスメむトが話をしおいるのを聞く限り、『死ぬ電話』を取るず、死んでしたうらしい。

    『腐ったなら行くよ』ずいう蚀葉通り、このしわがれた声の䞻が家に来お涌々を殺すのか、事故か䜕かで死ぬのか、党く分からない。

     ただ埅぀しかないのかもしれない。

     受話噚を静かに眮いた涌々の胞が、ざわざわず隒いだ。あたり良い予感がしなかった。


     その倜、涌々は空腹で眠れなかった。最近、倏生が出掛けないため、小銭を集めお米などの食べ物ず亀換出来なかったからだ。

     お腹が空きすぎるず胃が痛くなっお吐き気がする。垃団の䞭で䞞たっお、䞀所懞呜に寝ようず頑匵っおいた。

     寝れば、空腹は感じない。楜しい倢ならもっず感じない。

     以前、こんな倢を芋た。

     月乃ず倕季がいお、いっしょに芋たこずもない町を散歩しおいる。倢の䞭でショヌケヌスの䞭でしか芋たこずがない、食品サンプルの料理の数々が、垭に着いた䞉人の前に䞊べられる。それが本圓に食べられお、奜きな物を奜きなだけ頬匵れるのだ。

     それ以䞊に、月乃ず倕季の笑顔を芋ながら、楜しく䌚話をしおいるこずがもっず楜しかった。

     突然、月乃ず倕季が、すっくず怅子から立ち䞊がった。

    「どこに行くの」

     涌々は二人を芋䞊げお䞍思議そうに蚊ねた。

    「もう行かなきゃ」

     倕季が蚀った。

    「ママも行かないず」

     途端に寂しさず哀しさが涌々の胞に広がった。

    「行かないで」

    「でもね、私達、涌々ずは違う堎所にいるから無理なんだ」

     倕季が困ったように笑った。

    「埅っお、涌々も連れおいっお。ママずお姉ちゃんずいっしょに、涌々も行く」

     月乃が眉をハの字に䞋げる。

    「涌々は生きおるから無理よ。頑匵っお。偎にいるから。ずっず偎で涌々を芋守っおるから」

    「嫌だ」

     涌々は月乃のワンピヌスを握り閉めた。

    「嫌だ嫌だ 涌々も連れおいっお」

     こんな苊しい堎所に眮いおいかないで。倧奜きな二人ずいっしょなら、どこでも構わないから連れおいっおず、涌々は泣いた。

     泣きながら目を芚たした。い぀の間にか眠っおいたようだった。

     悲しい䜙韻が胞に残っおいる。がんやりず倢の蚘憶を反芻しおいるず、突然、異質な音が聞こえた。

    『腐ったか』

     その声を耳にしお、キュッず涌々の心臓が瞮んだ。

     しわがれた声が、台所に通じるドアの向こうから聞こえおくる。

     嘘。本圓に来た

     涌々は恐怖に䜓が固たった。垃団の䞭で䞞たったたた、「ママ、ママ」ず必死で念じ続けた。

     ガチャガチャずドアノブが回されおいる。ドアに鍵はない。声はのんびりず、『腐ったか』ず繰り返しおいる。い぀ドアが開けられおもおかしくない。

     ママ 助けお

     涌々は電話のお化けのせいで自分が死んでしたったら、もう二床ず月乃や倕季に䌚えない気がした。

     ガチャガチャず揺れるドアを芋る勇気が涌々にはなかった。けれど、裏庭が芋える窓がカタカタず鳎っおいるのに気付いた。

     固たった䜓をなんずか動かし、垃団から顔を出す。

     窓に、黒髪で顔が隠れ、四肢が歪んだ月乃がぞばり぀いおいた。銖を巊右にかくんかくんず揺らしながら、窓からすり抜けお郚屋に入っおきた。四぀ん這いになっお、折れ曲がった手足をゆっくりず動かし、涌々ににじり寄っおくる。

     倕季は月乃が助けに来おくれたのだず、あの怖いお化けから守っおくれるず、嬉しくなっお、月乃にすがり぀く。

    「マ」

     ママず蚀おうずした時、涌々の耳元で月乃が、『すず こえださないで かくれお』ず、掠れたか现い声で蚀った。

     銖が折れおいるせいで、たずもに話せないのだろう。涌々は玠盎に垃団から這い出しお抌し入れに隠れた。

     ガチャガチャ回されおいたドアが、軋みながらゆっくりず開く。

    『ほどよく腐ったねぇ』

     嬉しそうなしわがれた声が、抌し入れに隠れた涌々にも聞こえた。

     ずりずりず䜕かを匕きずる音がする。抌し入れの前を通り過ぎ、ズリズリず音を立おながら、郚屋の䞭をめぐっお、涌々を捜しおいるようだった。

    『腐った臭いがするねぇ』

     声はどこずなく嬉しそうだ。

     少しず぀ずるずるずいう音が抌し入れに近づいおくる。

     ママ

     涌々はぎゅっず目を぀ぶっお、心の䞭で叫んだ。

    『邪魔をするな』

     しわがれた声がむラむラずした様子で蚀い攟った。

     ふすた越しに声を聞くだけで、涌々には䜕が起こっおいるのか分からない。

    『ぎゃ』

     䞀蚀叫ぶず、ずりずりず抌し入れから遠ざかっおいく。ふすたのわずかな隙間から、癜い光が挏れお芋えた。

    『邪魔するな』『邪魔するな』『邪魔するな』

     声が䜕重にも重なっお郚屋に響いた。こんなにうるさく叫んだら、倏生が起きおくる。涌々はそれも怖くお、抌し入れの䞭でじっず息を殺しおいた。

     やがお、『邪魔するな』ずいう声も遠ざかり、䜕も聞こえなくなった。

     涌々はじっず蹲っお時間が経぀のを埅ち続けた。

     月乃の声が聞こえない。出おも良いのか悪いのかも分からなくお、じっずしおいるず、ふすたが音を立おお激しく開いた。倏生が郚屋に入っおきお、涌々の垃団を蹎っおいるようだ。

     散々足で垃団を螏みにじったり蹎ったりする音がしおいたが、倏生の舌打ちが聞こえたず思ったら、たたふすたが閉められた。

     倜䞭に目芚めお、安眠しおいる涌々をたたき起こしたくなったのかもしれない。理䞍尜だけど、倉わっおしたった倏生の行動は、涌々にずっお予枬䞍胜だった。

     たた、倏生が来るかも知れないず思い、涌々は、畳んで抌し入れに仕舞った倕季の垃団に寄り掛かっお、その倜は抌し入れで眠った。


     翌朝、抌し入れから這い出しお、涌々は、めちゃくちゃに乱れた自分の垃団を眺めおから、倕季の䜍牌に目をやった。ラムネ瓶が倒れお、今にも床に萜ちそうになっおいる。

     涌々は慌おおラムネ瓶を立お盎すず、䜍牌の右暪に䞊べた。

     手を合わせお、倕季に祈る。

    「お姉ちゃん、おはよう。昚日はママが来おくれおお化けを退治しおくれたよ」

     䜍牌の巊隣に立おかけた、昔の家族写真に写る倕季が、涌々に埮笑んだように芋えた。


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