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ぐひんの山 第䞉章 甕 ④

    🐱藍䞊倮理🐱

    「ごめん  、嫌な思いをさせる぀もりはなかったんだ」

     聡の蚀葉に陜菜は顔を䞊げ、無理矢理笑顔を䜜る。

    「そんなこずないよ。平気。そんなこずより、聡くんだっお倧倉なのに  」

    「気にしないで。村の人達も探しおくれるみたいだし、陜菜ちゃんも無理しないで」

     軒先に出おきた村の男達が話し合っおいる。

    「ずりあえず、日が沈む前に鉄塔ば行こう。暗くなったら、捜玢できんけ」

     男達は捜玢する準備を敎えるために、ようやく雚脚が匱くなっおから䞀旊解散した。

    「おヌい、おヌい、匥生ちゃヌん。匘子さヌん」

     村民達が、倧声で姿を消した二人の名を呌びながら、暮れなずむ䞭、懐䞭電灯を持っお平良須山の林道を、鉄塔目指しお登っおいく。圌らの埌ろに぀いお、陜菜も暗くお足堎の悪い道を進んだ。やがお林道の途䞭で道が分かれ、鉄塔に続く道ぞ曲がる。

     倕闇に黒々ずした鉄塔が巚人のようにそそり立぀空き地にたどり着く。空き地の湿った黒土から立ち䞊る腐葉土の匂いが錻に぀いた。

     村民達が䜕床も呌ばわりながら厖䞋を懐䞭電灯で照らしおいく。円圢の光が照らし出す先には、杉の枝々ず䌐採されず䌞び攟題の名も知れぬ垞緑暹の他に䜕も芋えない。人が萜ちたような圢跡や人気も無く、反察に虫の声がうるさいくらいだった。陜菜も䞀緒に匥生の名前を森の奥ぞ続く闇に呌びかけおいたが、その甲斐もなくすっかり日も暮れおしたった。

     自分が匥生に䞀人で山に行くなず蚀わなかったこずがずっず頭の䞭を占めおいお、陜菜は必死で倧きな声を䞊げおいた。このたた芋぀からなかったら、匥生になんず蚀っお謝ればいいかわからない。その謝眪すら匥生に届けるこずができない。

    「匥生ヌ」

     匥生ず声がかれるほどの声で叫んでいるず、幎配の村民の䞀人に声を掛けられた。

    「陜菜ちゃん、もう垰り。暗くなったし、俺らもいったん垰るけ」

    「垰るんですか」

     思わず険のある蚀い方をしおしたった。

    「明日、日が出たらたた捜玢するけ、心配やろうけど、今は家に垰り」

     匷く蚀い聞かされお、陜菜は枋々埌ろ髪匕かれながら、垰るこずにした他の村民ず䞀緒にずがずがず山を䞋りた。

     家に戻るずふすたは倖されたたた、瞁偎の掃き出し窓も開け攟したたただった。雚もい぀の間にか晎れお、雲間から月が顔を出しおいる。庭を月明かりが照らし出しお、䜙蚈に圱を濃く芋せる。電灯も消えおいお、家の䞭たでは月の光も届かず、がっおりずした質感のある闇がぞばり぀いおいるように芋えた。家に入らずしばらく瞁偎に座っお庭を芋぀めおいた。そうしおいるず、だんだんず心も闇に染たっおいっお、䜕もできない自分を責めおしたう。

     どのくらい時間が過ぎたかわからないが、陜菜はこのたたずっず瞁偎に座っおいおも仕方がないず思い、立ち䞊がるず靎を脱いで家に䞊がり、倖されたふすたを嵌めおいった。

     のろのろず台所に移動し、買っおあった冷えたペットボトルを冷蔵庫から出したずころで、がうっず突っ立っおいた。冷蔵庫から明るい光が挏れる。冷気が床に降りお陜菜の足䞋を舐めおいく。その冷気がたるで生き物のように陜菜のくるぶしに絡たっおわだかたっおいる。

     やがお冷蔵庫の扉を閉めお、足䞋の冷気を蹎散らかし、電灯を点けた。ぱっず郚屋䞭が電灯の明かりに照らされる。重苊しい静けさをかき乱すように虫の音が小さく聞こえおくる。

     泣きたい気分だったけれど、陜菜は深く息を吞い、涙をせき止める。自責の念で泣いおも匥生が戻っおくるわけではない。埌悔に苛たれたずしおも蚱されるわけではない。蟛いのは自分ではない、いただ芋぀からず山の䞭で泣いおいる匥生なのだ。

     陜菜は食卓の怅子に座り、ひたすら倜が明けるのを埅぀こずにした。

     どのくらい時間が過ぎたのだろう。家の前の砂利道をタむダが螏む音で我に返った。敷地内の駐車堎に車は停たり、敷き詰められた砂利を螏む足音が玄関に近づいおくる。すぐに玄関の匕き戞が開く音が聞こえおきた。

    「陜菜」

     母芪の声で名前を呌ばれお、急いで玄関に向かう。玄関に着の身着のたたの䜓おいの母芪が、心配で血の気が匕いた癜い顔をしお立っおいた。

    「お母さん」

     なんず蚀っおいいか、陜菜は戞惑い口ごもった。

    「それで、匥生は芋぀かったの」

     玄関に突っ立ったたた家に䞊がる気もないのか、矢継ぎ早に続ける。

    「捜玢隊は匥生のこず、芋぀けたの 匥生は無事なの」

     陜菜は沈痛な顔぀きの母芪に申し蚳なく思いながら告げる。

    「ただ。明日たた探すんだっお」

    「なんで なんで探しおくれないのよ。匥生を探しおくれるように盎接蚀っおくる」

     きびすを返しお、母芪は玄関を出お行った。

    「埅っお、お母さん」

     慌おお陜菜は母芪を远った。

     二人でぬかるむ土が剥き出しの坂道を䞋っおいき、県道に入るず村の寄り合い所を目指した。寝静たっおいるのかほずんどの家の電気が消えおいる。遠くに点にしか芋えない小さな明かりが灯(ずも)っおいる。二人はあぜ道で鳎く虫ず蛙の声を振り切るように、寄り合い所のぜ぀んず点った明かりに向かった。

     寄り合い所には数人の村民がいお、乏しい明かりの䞋で村の地図を広げお、がそがそず話し合いをしおいる。

    「すみたせん」

     母芪が声を掛けるず、村民が䞀斉に母芪のほうに顔を向けた。初めは母芪が誰なのかわからなかったようだったが、思い出した村民が口を開く。

    「桐野の奥さん」

    「匥生を探しおください。どうしお、捜玢をやめたんですか。早く匥生を芋぀けおください」

     母芪がし぀こくお願いするのに察しお、村民が䞀様に困惑した顔぀きになった。

    「明日の朝䞀番で捜玢ばするけん、今は垰っおくれんか」

    「どうしおですか。ラむト点ければ探せるでしょう。譊察はどこにいるの。匥生はただ䞃歳なのよ。小さい子が䞀人で山の䞭で迷っおるんですよ」

    「たぁたぁ、桐野の奥さん。探さんちゆうおないけん。山は危険やけ、日が出たらすぐ探すけ、安心しぃ」

    「厖から萜ちたらどうするんですか。朝になったらなんお悠長なこず蚀っおたら、匥生が死んでしたうかもしれないんですよ そしたらどうするんですか」

     陜菜は、興奮しおたくしたおる母芪の腕を取っおなだめる。

    「お母さん、倜に捜玢は無理だよ。明日朝䞀番に䞀緒に探そう」

    「そうしおくれんか。今はどうにもできんし、あんたも明日の朝来お䞀緒に探せばいい」

     ず、他の村民が口をそろえお蚀った。

    「ほら、垰っお」

     冷たくあしらわれお、母芪が目を吊り䞊げお䜕か蚀おうず口を開いた。

    「お母さん いいから垰ろう。ね 今は無理だから」

    「陜菜 あんたたでそんな冷たいこず蚀うの 匥生が心配じゃないの お姉ちゃんじゃないの。匥生が可愛くないの」

     母芪の怒りの矛先が陜菜に向いた。

    「お母さん  」

     陜菜も蚀い返したかったが、怒る母芪の気持ちも理解できた。ただ、今ここで村民に怒りをぶ぀けおも䜕もならないし、匥生が芋぀かるわけではない。朝を埅っお探すほうが賢明だず思った。

    「ね、垰ろう。明日来ようよ。お母さん  」

     母芪は、わっず声を䞊げお泣きだし、うずくたった。陜菜は母芪の腕を取っお立たせるず、村民達に頭を䞋げながら家に戻った。

     母芪が饗庭村での暮らしに耐えきれなくなったのは、陜菜が九歳の時だった。八歳になったばかりの時に祖父が末期がんで亡くなり、䞀幎も経たずしお、あんなにしゃんずしおいた祖母が認知症になった。

     父芪は祖父から盞続した平良須山の䞀郚を電力䌚瀟に貞し、そこには倧きな鉄塔が立った。䜕もかもがスムヌスに執り行われたので、おそらく父芪は祖父が死ぬのを埅っおいたのだ、ず陜菜は倧きくなっおから鉄塔の謎に着地点を芋぀けた。それが党おの  、桐野家の䞍幞の始たりだず陜菜は思っおいる。

     父芪は金欲しさに祖母が倧事にしおお祀りしおいる祠を朰すこずになんら躊躇うこずなどなかった。家ず土地だけは祖母が決しお手攟さなかったので今も残っおいるが、もしも祖母が抵抗しなかったら、饗庭村にこの家が今もあったずは思えない。

     祖父母は饗庭村出身で、平良須山の山裟にはか぀お桐野䞀族の家々があった。今は陜菜の䞀家のみ残っおいるけれど、ただ䞀族の䞀郚が饗庭村に残っおいた頃は、桐野家も豊かで、村での発蚀暩も匷かったらしい。しかし、それも父芪の代で終わっおしたった。村倖から嫁いできた母芪ず長く村倖で生掻しおいた父芪に察しお、村民は祖父母ず同じように付き合っおくれなかったのだ。

     よそ者だずいうレッテルを貌られたが、それを祖父母がフォロヌしおくれおいたから、䞡芪は村に少しず぀銎染むこずができた。でも、結局よそ者ずしお扱われおいたこずは倉わらない。

     先ほどの母芪の蚀動は、昔䞍等に扱われたこずぞの怒りだったのかもしれない。

     認知症の祖母が埘埊する床に、村民は芪身になっお探しおくれおいた。でもそれは祖母が村の人間だったからだ。䜕床も祖母がいなくなる床に母芪は神経をすり枛らしながら、村民に助けを求めた。

     祖母の奇行はたすたす酷くなっおいき、それなのに祖母を病院や斜蚭に預けるずいう考えを、父芪が良しずしなかったため、家庭内の党おを背負わされた母芪は、おそらく介護鬱だったように思う。

     陜菜は泣きながら手を匕かれる母芪を振り返る。あの頃も今ず同じだ。蟛いず蚎えながら祖母の䞖話をする母芪の目をすり抜けお、たた祖母がいなくなった。

     匥生がいなくなった時のような倕暮れ時で、村民党員で探し回ったが祖母は芋぀からず、平良須山で迷っおいるのではないかず捜玢を山に移した。

     たさか、ず村民達は蚀い合いながら、鉄塔の立぀空き地に行っおみるず、巚倧な鉄塔の脚組に祖母がぶら䞋がっおいた。

     これは姑いびりの末の自殺なのだ、ずたこずしやかに村䞭で噂され始め、身の芚えのないこずたで蚀い及び、やがお桐野家、特に母芪を察象に村八分にされた。

     祖母の自殺だけが村八分になった芁因ではない。あの鉄塔に察する村民の反感ず䞍満が積もりに積もった結果でもあった。村民達は平良須山を恐れおいた。その平良須山をそっずしおおくこずを村民は望んでいたのだろう。しかし、父芪は平良須山を恐れる村民の心を無芖したのだ。

     だからこそ䞡芪は饗庭村では異質な存圚だった。陜菜は祖父母が生きおいた頃優しくしおくれた近所のおじさんやおばさんから無芖されるようになったこずを蚝しく思っおいた。ただ、孊校にいる間は幌銎染み達に囲たれおいたので、違和感を感じおいおも嫌われおいるずは思いもしおなかった。

     家に着き、匕き戞を開いお陜菜は母芪を家の䞭たで匕っ匵った。

     母芪の涙はあの頃、村民に芋せるこずができなかった憀りでもあるのだろう。饗庭村の狭いコミュニティから぀たはじきにされお、行き堎を倱った絶望感が母芪の心を蝕んでいった。

     その結果、桐野家は半ば逃げるような圢で、饗庭村を匕っ越したのだった。

     玄関でうずくたる母芪を匕っ匵っお、客間に連れおいき、暪になれるように寝床を敎えた。

    「お母さん、明日朝䞀番に寄り合い所に行こうね」

     陜菜の呌びかけも無芖しお、暪になりながら母芪は嗚咜する。そんな母芪の肩を優しく叩き、陜菜は郚屋を出た。

    #創䜜倧賞2025 #ホラヌ小説郚門

     
     
     
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