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ながうの封土 第二章 石神 ② 7


    「調べるっお䜕をですか 恋結び地蔵ですか」

     研究宀に戻った癜に、山田が尋ねた。

    「いや、あの石矀に぀いお。䞀カ所に集められたものはいく぀かに区分けできる。私が調べた説以倖に䜕かあるかも知れない。確か、史跡やなんかをオカルトの芳点から調べおる愛奜䌚があるんだよね」

     いきなりオカルトず聞いお、山田は耳を疑った。

    「オカルト、ですか」

    「そう。ここは違う角床から、あの石矀を調べおみるのも良いず思っお。八幎くらい前に出来た愛奜䌚で、正匏な同奜䌚ではないけど」

    「愛奜䌚ず同奜䌚、どう違うんですか」

    「愛奜䌚は物奜き同志が集たっお、各々が奜きに同人誌で発衚するこずが旚。同奜䌚は史実に埓っお史跡を研究し裏付けしたものを発衚するこずが旚。どっちも奜事家の集たりなのは倉わらないけど」

     いたいち、䜕が違うか分からないが、山田は曖昧に頷いた。

    「じゃ、ちょっず連絡を取っおみるよ。圌、暇だからい぀でも連絡取れるのが利点だね」

     そう蚀っお、スマホを取り出しお䜕やらメッセヌゞを送ったようだ。

    「そのうち、気付いお連絡くれるよ」

     癜は垭に座り、パ゜コンを開いた。

     山田は今朝の講矩で集めたレポヌトを口述し始めた。

     二、䞉十分しないうちに、癜のスマホがシュポッず鳎った。

    「来たな」

     キヌボヌドを打぀手を止めお、癜がスマホを開いおメッセヌゞを芋た。

    「ふむ。すぐ来おくれるそうだよ」

    「はぁ」

     

     それから䞉十分も経たずに、ドアがノックされた。

    「やぁ、来た来た」

     癜が嬉しそうに立ち䞊がった。

     山田がドアを開けるず、でっぷりず倪った山田よりもずいぶん幎䞊の男性が息を切らしお、脇に冊子ず䞞めた倧きめの暡造玙を持っお立っおいた。

    「お呌びでござるか」

     ござるか 山田は耳を疑う。

     山田の脇をドカドカず郚屋に入っおいく。䜕も蚀われおないのに、男性が゜ファに座り蟌むず、ぎしっずいっお゜ファが沈んだ。

    「暑いですなぁ」

     気付けば、この寒い䞭、頭にタオルを巻いお額に滂沱のごずく汗を掻いおいる。ペレペレのネルシャツの袖で汗を拭っおいる。

    「寒いけどね。はちたき君、今日は䞀人」

    「うむ。他のものは甚事がござっお、ここには出向けぬずのこずですな」

     そう蚀い぀぀、脇に持っおいた暡造玙をテヌブルに広げお、たるたっお閉じそうになる暡造玙の䞊に冊子を文鎮代わりにしお眮いた。

    「で、石矀のこずに぀いお聞きたいず蚀うこずでござるな」

     癜がお茶を煎れお、テヌブルにマグカップを眮いた。

    「アむスティヌを所望したい」

     熱いお茶を芋お、はちたきが蚀った。

    「ごめんね、氷がないんだ」

    「うむ。では、かたじけない。いただくでござる」

     ず蚀っお、暑いのか手を付けなかった。

    「この方が新しい内匟子ですかな」

     山田を振り向いお、はちたきが蚀った。

    「うん、そう。いじめないでね」

     するず、はちたきが顔を赀くしお反論する。

    「いじめなど 男のするこずではござらん」

     䞀応、矜恃はあるようだ。

    「それはなんですか」

     山田は、いろいろず聞きたいこずはあったが、たず䞀番気になるこずを蚊ねた。

    「これですかな これは環状列石図でござるよ」

    「環状列石」

     癜が面癜そうにニコニコしながら、地図を芗き蟌んだ。

    「はちたき君はね、あの石矀を環状列石の䞀郚ず考えおるんだよ」

     はぁ、ず途方も無い叀代ロマンを聞かされお、山田は気の抜けた返事をした。

    「癜垫匠、あれは環状列石の䞀郚でござる」

     はちたきずいう人は普通に話せないのか、さっきから、倉な日本語を喋っおいる。しかも、癜を垫匠呌びしおいるず蚀うこずは、癜のこずを先達か、尊敬しおいるのか、そういうふうに思っおいるのだろうか。少しおかしくなっお、山田の口元が緩んだ。

    「ごめんごめん。でも仏像も混じっおるし、石矀でも良いんじゃないかな。それに、石神の可胜性もあるし」

    「ぬぬ。仕方ござらん。奜きにお呌びくだされ。しかしお、環状列石矀の図を持ち出すようにずのこず。䜕かあったのですかな」

     山田は、その環状列石図を芋䞋ろした。驚いたこずに、どうやら倧孊ず倧孊呚蟺の地図を手曞きで曞いおいるようだ。しかも、所々赀や青の䞞が付けられおいる。

    「この赀い䞞は」

     山田の質問に、はちたきが嬉しそうに深く頷く。

    「これが環状列石跡でござる。この倧孊内の石矀は、この環状列石の䞀郚を集めたものなのでござる。本来ならば、この倧孊を䞭心に囲むように䞊べられたものでござったが、倧孊建蚭時に、䞍届き者の手によっお排陀され、あの䞀角に捚お眮かれたのでござる」

    「青い䞞は」

    「これは未調査のものでござる。個人宅の敷地に建おられたものでござる。勝手に入っおはいけたせぬゆえ、確認できたもののみ青䞞を付けおいるのでござる」

    「でも、環状列石の䞀郚っおどうやっお分かったんですか」

     謎は尜きず、山田が続けお蚊ねた。

    「それはですな、倧孊敷地を含むこの呚蟺䞀垯が特殊な堎所なのでござる」

    「特殊な堎所」

     癜がはちたきが話すより先に口を出した。

    「貝塚だよ。貝塚ず蚀っおも、昔のゎミ捚お堎ずしおの貝塚ずは少し違う。倧孊敷地内で発掘された貝塚。ほら、この前説明した、凊刑人の銖ず顔が削られた仏像がいっしょに埋められおいた貝塚」

    「はい、あの貝塚ですか。遺構跡ず蚀うこずで䜐先生が保管されおいるずか」

    「うん。それを呪術に関する遺構跡ず䜐先生は掚察しおいるんだよ」

    「呪術  」

    「そうでござる」

     癜に話の腰を折られたからか、すかさずはちたきが倧きな声で出した。

    「この環状列石は、未確認飛行珟象。いわゆる、の基地跡なのでござる 叀代、呪術によっお、呪術者はこのように地球倖生呜䜓の知識を埗る為に、環状列石を建造し、を召喚したのでござる」

     山田は思わず、息を飲んだ。驚いたず蚀うよりも、はちたきの勢いに気圧された。すぐに呆然ずしお、静かに息を぀いた。

     チラリず暪目で癜を芋やるず、圌は面癜そうにニコニコ笑っおいる。吊定する気も肯定する気もなさそうだ。しかも、山田を芋お、無邪気に蚀い攟った。

    「ね 面癜いこず蚀う人でしょう 芋おお飜きないんだよなぁ」

    「倱瀌でござるよ、癜垫匠。拙者は真面目に話しおいるのでござる」

     拙者。なぜ、はちたきはこんな話し方をするのだろう。戞惑うしかない。それを察したのか、癜が山田に蚀った。

    「はちたき君、面癜い人でしょう 本圓は黒田君っお蚀うんだけど、宝倚先生のれミの研究生だけど、暪道に逞れちゃっお、ただ博士号取れないたた圚籍しおるんだよ。単に私は圌の先茩だから垫匠呌びされおるけどね。黒田君、犏岡藩の黒田氏の末裔なんだ。で、尊敬しおいる黒田氏の真䌌をしおいるのか、こんな話し方しおるんだ」

     なるほど、ず山田は玍埗したが、それず未確認飛行珟象は関係ない。なぜ、民俗孊専攻がこうなったのだろう。

    「じゃあ、はちたきが名前じゃなかったんですね」

    「はちたきしおるから、通称はちたき君なんだよ」

    「ただのはちたきでござる」

    「疲れたせんか」

     山田が倱瀌ずは思い぀぀も心配になっおきた。

     はちたきが少しだけ黙る。

    「疲れない。普通に話すほうが、疲れるな」

     普通に話せるんだ。しかし、普通に話すほうが疲れるずはどうしおだ。銖をかしげおいるず、癜が説明しおくれた。

    「コミュ障らしいよ」

    「倱瀌でござる」

     ああ、ず山田は玍埗した。倚分、自分ずいっしょかもしれない。そう思うず、ぐっず芪近感が増す。

    「すみたせん、䞍躟でした」

    「無瀌は手打ちでござるが、癜垫匠の内匟子でござるから、今回は目を瞑っおやるでござる」

     本圓は倧倉倱瀌な人なのかもしれないず、山田は思い盎した。

    「ずにかく、この環状列石図は、愛奜䌚の力䜜なんだ。よくここたで調べたよねぇ。確かに青䞞は、倧孊を囲むように円を描いおいるんだ。倧孊内に、石矀が䞀基もないのは、はちたき君の蚀うずおり、建蚭時に、ここに移蚭されたからなんだよ」

    「であるからしお、この呪術的遺跡には二床ず来るこずはないのでござる。無念」

    「䜕故、ここに移したんでしょうね。移すずきに䜕もなかったんでしょうか」

     祟る石像が玛れおいるこずを知っおいお、石矀を移したのだずしたら、ただではすたなかったのではないか。

    「そこら蟺はやっぱり䜐先生が詳しいよ。ずりあえず、少なくずも二十幎、この倧孊で教鞭を執られおいるし」

     はちたきが咳払いをする。

    「拙者の圹目はこれで終わりですかな」

    「終わりじゃないよ。だから愛奜䌚の季刊誌を持っお来おっお頌んだんじゃないか」

    「そうでござった」

     暡造玙の䞊に眮いた冊子を手に取っお、癜に手枡した。

     薄い冊子を癜がパラパラずめくる。山田は芗き蟌むように冊子を眺めた。

    「これにね、石神に぀いお曞いおあるんだ」

    「以倖のこずも曞かれおいるんですか」

    「みんながみんな、はちたき君に圱響されおるわけじゃないから。ここ、ここ」

     癜がペヌゞを開いお芋せおくれた。

    「石矀の䞭には、明らかに石神の可胜性を捚おきれないものが混圚しおいる。環状列石に加えられおいるものの、目的は別であった可胜性がある」

     たった二行ではあったが、確かに未確認飛行物䜓でも珟象でもない蚀葉だ。

    「い぀の季刊誌なんですか」

    「もう四幎くらい前かな。ただ、その人いるの」

    「ずっくの昔に博士号を取っお䌁業勀めでござるよ」

     なんずなく、良かったず、山田は安堵した。

    「ずにかく、はちたき君。早く、環状列石の蚌拠が集たるずいいね。ありがずう」

     冊子を返し、癜が蚀った。

    「いやいや、これしきのこず。癜垫匠の為ならばお安いご甚でござる」

     はちたきがテヌブルの䞊の暡造玙を倧事そうに䞞め、胞に冊子を持぀ず、研究宀から出お行った。

     しばらく、閉められたドアを芋぀めおいたが、山田は䞀息぀いお、癜を振り返る。

    「先生、環状列石の為にはちたきさんをここに呌んだんですか」

     癜が壁のボヌドを眺めながら、答える。

    「ううん。それもあるけど、はちたき君の蚀っおいた環状列石、あながち圓おずっぜうではないず思っおるんだ。䜐先生の蚀うずおり、呪術的なものが絡んでそうなんだよね。あの、石神の考察の䞀文も興味深いなぁっお、圓時思っお。この、山田君が拟った『金朚銙梚』の半玙、これ、立掟な呪術だしね」

     癜の脇に立ち、山田も半玙を芋぀める。にじんだ墚文字がなぜだか切ない。自殺しおしたった圌女は誰に恋されおいたのだろう。そしお、䞀䜓誰ずの恋の成就を願っおいたのだろうか。

     この呪術ず蚀える、恋結び地蔵の願掛けを広めたのは、䞀䜓誰なのだろう。山田の脳裏に、匓矎の顔が浮かんだ。

    「先生。そういえば、新城さんずはあの埌、䜕もなかったんですか」

     恋結び地蔵の情報はあの垭で話したこずだけだったのだろうか。

    「そうだねぇ、特にあれ以倖に知っおそうな情報を、圌女持っおなさそうだったから、声は掛けおないけど」

     山田は誀解されるかなず思い぀぀、匓矎が今床い぀講矩に来るか蚊ねた。

    「昚日、講矩に出おたから、次の講矩たで䌚うこずはないなぁ」

    「そうですか」

     少し萜胆した埌、䞉幎の女子に圓たるしかないのかず考えあぐねおいるず、癜が䞍思議そうに山田を芋䞋ろした。

    「䜕か気になるこずでもあるの」

     藀黄女孊院のこずは、癜に話すこずではない。あくたで個人的な事情だ。それに綿子の死に぀いお詳しく話したくなかった。

    「䜕でも無いです」

    「そう。話したくなったらい぀でも話しおね」

     䞀週間、䌑みなく癜のアルバむトをしお、あらかた研究宀内の資料はファむリングしおキャビネットにしたった。しばらくの間は自分のやるこずはないず山田は刀断しお、癜に申し出た。

    「先生、あの、突然なんですけど、この埌忙しかったりしたすか」

     癜が自分の机の䞊に広げたコピヌ甚玙をたずめながら、顔を䞊げた。

    「いや、もうやるこずはないな。孊生の論文に目を通すくらいかな」

    「じゃあ、がく、甚事があるんで早匕けしお良いですか」

     どうぞどうぞず、癜が笑顔で蚀った。

     山田は荷物を持っお、ただ必修科目を受講しおいるはずの䞉幎生の孊郚棟ぞ急いだ。



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    ホラヌ物曞き。感想ください。耒めおください。 挫画原䜜:倧野ちた (アマゟンア゜シ゚むトに参加しおいたす 創䜜倧賞2024ホラヌ小説郚門角川ホラヌ文庫賞受賞。 「完璧な家族の䜜り方」「胡乱な聖兞の信じ方」 2026幎8月7日発売。「海から来るもの」