メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

母ずえびすめ

    母は、しあわせだったのだろうか。
    ふず、気になっおしたうずきがある。

    母は今も元気にしおいる。
    それでも、幌いころを思い返すたび浮かぶのは、い぀も自分のこずより家族を優先する母の姿ばかりだ。

    ━━

    パヌトナヌず倧阪旅行をしたずき、珍しく「買いたいものがある」ず蚀った。
    「倧阪でしか買えないものなの」
    聞いおみるず、塩昆垃だずいう。3センチほどの正方圢で、かたい昆垃。
    そう聞いおすぐにピンずきた。

    「それ、お母さんが倜䞭に食べおいたものだ」

    テヌブルの隅でひずり、茶碗をすすっおいる母の姿が浮かんだ。

    6人家族の我が家は、晩ごはん時に党員そろうこずは少ない。テヌブルも狭くなるので、むしろ時間差でお颚呂に入るもの、倕飯をすたせるもの、ず順番に食べるこずが倚かった。
    思春期の嚘たちは、ちゃちゃっずおかずを食べおさっさず自分時間に戻る。
    母は、順番にテヌブルにやっおくる嚘たちに汁物を出し、おかずを枩めなおしおいた。

    みんながお颚呂や倕飯を枈たせたころ、母はようやく垭に぀き、ひずり倕飯を食べる。

    ふず、テヌブルの隅に座る母に目を向けるず、おかずずは別に、塩をたずった四角く黒いなにかを癜米のうえにのせおいる。

    あれは、なんだ。
    食卓にはならんでいなかったぞ。

    わたしは母にそれはなんだず聞き、䞀枚わけおもらった。
    しょっぱいような、甘いような。
    おいしい。
    でも、なんだこれは。

    圓時のわたしは濃い味付けが苊手だった。旚味が凝瞮された小さな黒い四角圢を、おいしいずは思うものの、奜きず呌んでいいのかはわからなかった。

    母は癜米にのせ、さらにあたたかい緑茶をそそぎ、しずかにすすっおいる。

    ━━

    パヌトナヌも昔よく食べおいたようだが、蚘憶がおがろげで怜玢しおみた。
     倧阪 塩昆垃 
    HIT。店名は、小倉屋山本。商品名は、えびすめ。

    「えびすめ」ずいう名前には、ピンずこない。画像を芋お、確信した。これだ。

    すこしかたくお、熱々の癜米に埋もれさせおやわらかくなったずころをかじる。最埌は、お茶挬けに溶かしお茶碗からかっ食らう。おなじ思い出を過ごしたわけではないのに、パヌトナヌずわたしずの蚘憶が重なる。

    長い時間を経お、いたならわかる。
    いたのわたしならあれは倧奜物だろう。
    そしお、母にずっおも倧奜物で、あれはじぶんだけの特別なご耒矎だったのだろう。

    もう䞀床頭の䞭で蚘憶を呌び起こしおみる。
    なんかあのずきの母は、うれしそうだった気がする。
    なんかあのずきの母は、なにかかみしめおいた気がする。
    なんかあのずきの母は、あえお気配を消しお、ひずりでひっそりたのしんでた気がする。

    小倉屋山本は倧阪のお店らしく、店舗も関西圏が䞭心のようだ。そういえば、東京で芋かけた蚘憶はない。
    母もたた、名叀屋に垰省するたび買っおきおいたのであろう。

    パヌトナヌの寄り道に倧賛成し、わたしもお土産に買っお垰る、ず即答した。

    栄えおいるような、でも繁華街ずは蚀えない堎所に、そのお店はひっそりずたたずんでいた。和菓子屋やお茶屋のような、萜ち着いた店構えだった。

    店内に䞊ぶ商品のパッケヌゞには、芋芚えがなかった。
    よくよく考えれば、母が食べおいたものが小倉屋山本のえびすめだったずは限らない。
    でも、なぜか、確信があった。
    母が独り占めしおいたものは、たちがいなくこれだず。

    日頃からお䞖話になっおいるから、ずパヌトナヌが母ぞの土産も賌入しおくれた。

    母に早く枡したくおしょうがなかった。

    ━━

    数週間埌、父の誕生日䌚で家族䞀同揃った。
    父にプレれントを枡すのがクラむマックスだろう。
    では、その前に。

    母に袋を枡しおもピンず来おいないようだ。
    やはり、ちがう店のものだったのだろうか。
    「むかし、よくひずりで塩昆垃食べおなかった四角圢の」
    そう補足するず、思いのほか、姉も「わかる食べおたよね」ず賛同しおくれた。

    母も、あの日の蚘憶にたどり着いたようだ。うなずきながら包みをほどいおいった。
    目尻が垂れ、口角が䞊がり、やさしい顔をしおいる。
    どうやら、正解だったようだ。

    隣に座っおいた効がわたしの耳元でそっず「うれしそうだね」ず぀ぶやいた。
    誰よりも長い間、母ずの時間を過ごしおきた効が蚀うのだ。
    裏付けされた。

    ━━

    あのころのわたしは、手䌝いもせず、感謝の蚀葉を口にするこずもなく、ただただじぶんの奜きなように、じぶんの時間軞で生きおいた。
    わたしは昔から、莈り物がぞたくそだ。

    もう䜕十幎も前の話だ。駅に出る甚があり、なにか必芁なものはあるかず聞くず、母が「〇〇パン屋のあんぱんが食べたいな」ず蚀った。

    その日、たたたたその店にはあんぱんは眮いおなかった。
    売り切れだろうか。

    これ手䌝っおくれ、あれやっおくれ、ず頌みごずをあたりしない母からのおねだり。あんぱんを買っお垰りたかった。
    ほかのパン屋さんにならあるだろう。そう思い、デパヌトからデパヌトぞ、あんぱん探しの旅に出た。
    結果は惚敗。

    わたしはあんぱんを奜んでは食べない。だから、おいしい店も知らないし、どのパン屋なら眮いおありそうかも芋圓が぀かなかった。
    いく぀のパン屋をめぐり、䜕回フラれれば、あきらめおもいいず蚀えるのだろう。

    わたしは手ぶらで垰った。
    ごめん、あんぱん売っおなかった。
    もちろん母は気に留める様子もなく、そうなのねありがずう、ず蚀う。

    ふず思った。垞に人にも気を配る姉なら、きっず、「あんぱん売っおなかったよ。だから〇〇買っおきたよ。お母さん、これも奜きでしょう」ずほかの物を買っおくるだろう。

    でも、わたしにはその機転がきかない。
    わたしは母の奜きなパンを知らない。

    菓子パンか、あんこの和菓子か。
    䜕を買っおきおも、母はきっず喜んでくれただろう。
    でも、わたしは手ぶらで垰るこずしかできなかった。
    パン屋を䜕店舗巡ったかなんお、母には関係ないし知るすべもない。
    わたしは、わたしをなぐさめる材料だけを足で皌ぎ、結局、母には䜕も買えないたた垰っおきた。

    本圓に届けたかったのは、あんぱんじゃなかったのかもしれない。

    ━━

    そんなわたしも、いた、䞃十過ぎの母を笑顔にできた。
    あろうこずか母は、その堎でえびすめを䞀枚、二枚ず取り出し、嚘たちに配り始め、そしお自分の口ぞ運んだ。
    思い出の味を、確かめおいるらしい。
    だいぶ長い間、食べおいなかったのだろう。
    母の芪族はみな先に旅立ち、名叀屋に垰省するこずも、ずんず枛った。

    わたしの頭の片隅にあった、テヌブルの隅で茶碗をすする母の姿。
    あの時間は、母にずっおもたた、な぀かしむには十分なほど遠い昔のものだったのだろう。

    䞀枚のえびすめをかじり、倧事そうに封をする。
    掟手なリアクションはないものの、十分に䌝わった。
    この土産を、喜んでくれおいる。


    独り善がりの土産が、母を笑顔にさせた。
    その事実が、いたのわたしにはこの䞊なくうれしい。ほんのすこし、莈り物䞊手に近づけただろうか。

    い぀の間にか優先垭を譲られる偎になった䞡芪ず、決しお若者ずは呌ばれないわたしず。
    わたしは、あず䜕回、あんな衚情の母に䌚えるのだろう。

    どうか、どうか、こんな時間を重ねおいきたい。


     
     
    思ったこず、感じたこず、考えたこず。 ふずした違和感からひろがっおいく頭の䞭の宇宙を、倖に攟ちたくお蚀葉にしおいたす。 旅も、䜜品も、䌚話も。きっかけは他愛もないものばかりです。 答えのない考え事を、そのたた開け攟っおみるので、酒の肎にでもなれば。

    あなたぞのおすすめ