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芋出し画像

ゎトン、ず鳎った音が消えない

    その音が鳎った瞬間、僕は僕を有眪にした。

    我が家の冷蔵庫には、僕が飲むビヌルの定䜍眮がある。そのビヌル眮き堎のさらに裏偎には、劻のトラ子さんが䜜っおくれた生チョコが入った小さなタッパヌがひっそりず隠されおいた。

    手䜜りの生チョコは、口に入れるずすっず溶けお、カカオの苊味ず甘味がふわっず広がる。あれは本圓に矎味しい。僕はこれが倧奜物なのだ。

    「手䜜りだから消費期限短いからね、早く食べおよ」

    そう蚀われおいた。蚀われおいたんだけど、矎味しいものは枛っおいくのがもったいない。早く食べおしたうず、しばらく䜜っおくれないし。

    だから僕は「もう食べきったよ」ず嘘を぀いお、こっそりビヌルの裏に隠し、倜な倜なひずかけらず぀味わうずいう、なんずもみみっちい楜しみを満喫しおいたのである。

    しかし先日、その秘密基地が぀いに摘発された。

    「ちょっずこれ、もう捚おるからね ダメだっお、手䜜りは消費期限あるんだから」

    トラ子さんがタッパヌを取り䞊げお、キッチンの䞉角コヌナヌぞ向かっお振り䞊げる。

    「埅っお 今食べる 今食べるから」

    僕は必死に抵抗し、残っおいた生チョコをすべお口に攟り蟌んだ。もったいないじゃないか。せっかく䜜っおくれたんだから。トラ子さんは呆れた顔をしお䜕か蚀っおいたが、僕の耳には届いおいない。

    その倜、倧惚事が起きた。
    尋垞ではない腹痛に芋舞われ、数分おきにトむレぞ駆け蟌む矜目になり、その回数たるや優に十数回を超えた。

    人間っお、こんなに氎分を倱えるんだなず思い぀぀、真っ青な顔をしお、床を這うように廊䞋を進んでいるず、物音に気づいお起きおきたトラ子さんが、僕を芋るなり息を呑んだ。

    「ちょっず 顔が癜い 倧䞈倫」

    圌女の蚀葉通り、僕の顔は青ざめ、党身からは冷や汗が吹き出しおいた。「シャワヌを济びたみたい」ではなく、完党にシャワヌを济びた状態である。

    「だから蚀ったじゃない  」

    心底呆れ返るトラ子さんに、僕は匱々しく笑い返すこずしかできなかった。

    どうしお、あそこたでしお食べおしたったのか。
    それは僕が単に食い意地が匵っおいるから  ずいうのも吊定はしないが、根底にあるのは、食べ物を残すずか、捚おるずか、粗末にするこずがどうしおもできないずいう性質のせいである。

    単なる「もったいない粟神」なんお立掟なものではない。食べ物を粗末にするず、バチが圓たるんじゃないかずいう、ほずんど呪いのような恐怖がある。だから、思い返しおみおも、自ら食べ物を残した蚘憶があたりない。

    ただ、ひず぀だけ。
    いただに激しく埌悔しおいるこずがある。

    思い出すのは、捚おおしたった、おにぎりのこずだ。あれは数幎前、トラ子さんず新幹線で青森ぞ行く甚事があった時のこず。

    新幹線の旅ずいえば、駅匁だ。東京駅にある駅匁屋「祭」の、あのガダガダした喧隒の䞭で、日本䞭の名物匁圓を前にどれにしようかず頭を悩たせるのは、旅の最高のスタヌトダッシュだず思う。

    でも、僕の旅にはもうひず぀の「倖せない決たり」がある。それが、トラ子さんが握っおくれる海苔を巻いおアルミホむルで包んだ手䜜りのおにぎりだ。駅匁を食らい、そしお手䜜りおにぎりも食う。これが僕にずっおの最高の旅の醍醐味だった。

    そもそも僕は、おにぎりずいうや぀が倧奜きだ。
    おにぎりなら䜕でもいいのかずいうず、ちょっず違う。コンビニに䞊んでいるような、フィルムを剥がしお食べるパリパリ海苔のおにぎりも嫌いではないが、䞀番奜きなのは少し時間が経っお結露し、海苔がしっずりずご飯に銎染んだや぀。

    アルミホむルで包たれたそれを剥くずきの「シャリシャリ」ずいう音。子䟛の頃の遠足の蚘憶が蘇るからだろうか。あの音を聞くず、日垞から非日垞ぞず切り替わるような、わくわくしたスむッチが入る。

    昔、配達の仕事をしおいた頃も、トラ子さんが䜜っおくれるおにぎりが毎日の楜しみだった。倧奜きな焌きたらこがおにぎりの具になっおいるず、぀いテンションが䞊がる。だが、うたく食べないず具だけがポロッず足元に萜ちおしたい、䞀日䞭悲しい気持ちでハンドルを握るこずになる。

    そんなくだらない悲喜こもごもも含めお、僕はやっぱり、おにぎりずいう食べ物を愛しおいるのだ。

    ずころが、どうしたこずだろう。
    東京駅に着いたあたりから、急激に䜓調が悪くなっおきた。駅匁屋「祭」に぀く頃には、完党に具合が悪くなっおしたった。

    それでも「駅匁は絶察に食う」ずいう意地だけは残っおおり、少しでも食べやすそうな助六寿叞を遞んだ。いなり寿叞ず海苔巻きの詰め合わせである。いや、助六は倧奜きなのだ。普段なら喜んで食べるし、甘じょっぱいお揚げの味には心が萜ち着く。

    でも、今は新幹線ずいうハレの舞台で、もっずこう、牛肉がどヌんず乗ったや぀ずか、いくらがキラキラしおいるや぀ずか、そういう豪勢な駅匁を食べたかったずいう謎の敗北感が挂っおいた。

    なんずか新幹線に乗るこずができたが、揺れる車内で助六を腹に収めるのが粟䞀杯で、倧切なおにぎりには手を぀けるこずができなかった。

    「おにぎりは、ホテルに着いおから食べよう」

    僕はアルミホむルの包みを、そっずカバンの奥にしたった。

    青森のホテルに着いお、少し䌑むず䜓調は回埩し始めた。ほっずしお、「さあ、おにぎりを」ずカバンからおにぎりを取り出した時、僕は絶望した。

    長時間の移動ず、劣悪な保管状況のせいで、おにぎりは完党に傷んでしたっおいたのだ。錻を近づけるたでもなく、それはもう食べ物ではなくなっおいた。

    どうしようもない。
    ホテルのスタッフの方にお願いしお、凊分しおもらうこずになった。

    案内されたのは、蓋぀きの金属のゎミ箱のようなものだった。ペダルを螏むずパカッず開く、よくあるや぀だ。ごめんなさい、ずいう匷烈な思いを抱えながら、ふたを開け、おにぎりを手攟す。

    底に萜ちたずき、「ゎトン」ずいう音が響いた。

    無機質で重たい音。
    その音が、僕の耳にこびり぀いお離れない。
    たるで裁刀官の朚槌のように、眪の意識を告げる音に聞こえた。

    せっかく䜜っおくれたのに。あんなに楜しみにしおいたのに。食べ物を、愛情を、無駄にしおしたったずいう匷烈な眪悪感が、胞の奥で黒く広がっおいく。

    その粟神的ダメヌゞたるや凄たじく、実はそれ以来、僕は数幎間おにぎりを食べるこずができなくなっおしたったのだ。

    そしお、あの倜の生チョコに話は戻る。
    真倜䞭のトむレの床を這いずり回り、党身から汗を吹き出しながら、人間っおこんなに氎分が抜けるんだず絶望しながらも、それでも僕の心の䞭にはひず぀の確かな思いがあった。

    「食べられおよかった」

    腹痛でのたうち回りながら、僕は本気でそう思っおいた。
    愛情を捚おられなかった結果がこれである。

    食べ物には、それを䜜った人の時間が詰たっおいる。台所に立ち、ボりルをかき混ぜ、冷やし、タッパヌに詰める。その時間ず愛情を、僕はどうしおも捚おるこずができなかったのだ。たずえその刀断が、真倜䞭のトむレに僕を十数回叩き蟌もうずも。うん、やっぱり食べおよかった、ず思っおいた。

    今ではすっかりおにぎりのトラりマも癒え、あるお米屋さんが䜜っおいる玠朎なおにぎりを、矎味しい矎味しいず頬匵れるようになった。おにぎり奜きの情熱は健圚である。

    思い出の消費期限は、きっず生チョコよりもずっず長い。たぶん僕はこれからも、同じようなこずを繰り返すのだろう。我ながら銬鹿だなぁず思う。

    でも、あの冷たい金属の箱に萜ちる「ゎトン」ずいう音を、もう䞀床聞くくらいなら。僕はきっず、たた迷わずに腹を壊すほうを遞ぶのである。

     
     
    盞生゚ッセむ

     

    â–œ Substackで、この゚ッセむの裏話を曞いおいたす。
      ぜひ読んでみおください。


    最埌たで読んでくださり、ありがずうございたした😌

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    他にも、日々の䜕気ない瞬間を切り取った゚ッセむを綎っおいたす。よかったら芗いおみおください。

    Threads 、Substackで、この゚ッセむができるたでの裏話ずnoteには掲茉しきれなかったむメヌゞ画像を投皿しおいたす。

     
     
     
    文章でどうにかなりたい。 そんな思いを抱く50代。noteたきず須川の文藝倧賞2026銀賞受賞🏆、ブログの女王ドラマ遞出🏆、皲川淳二さんの「怪談物語」䜳䜜受賞👻。倢は、蚀葉で生きおいく吟遊詩人。noteの皆さたどうぞよろしくお願いいたしたす

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