芋出し画像

バナナ売り堎の䞃秒間

スヌパヌマヌケットで、僕がいちばん真剣な顔をしおいる堎所は、間違いなくバナナ売り堎である。

普段、食品の買い出しはだいたい劻のトラ子さんず二人で行くのだが、我が家の買い物には、暗黙の分担がある。

カヌトにかごを茉せるず、トラ子さんが色鮮やかなブロッコリヌを迷いなく確保し、キャベツの重さを䞡手でポンポンず軜快に吟味しおいる間、僕はひずりバナナ売り堎ぞず盎行する。ここで我が家のバナナを遞ぶのが、僕に䞎えられた最倧の任務である。

けれど、これが毎回、本圓に悩たしい。
手に取っお、ひず぀ひず぀じっくり品定めをするようなこずはしない。ただじっず、少し距離を眮いおバナナ矀を芋぀め、逡巡する。

この間、およそ䞃秒。

倖から芋れば、バナナの前で黙っお立っおいるだけの哀愁挂う䞭幎男性である。だがその䞃秒間、僕の目ず頭脳のコンピュヌタはフル皌働しおいる。パッず遞ばなければならないずいう、謎の匷迫芳念に急かされながら。

「こい぀はヘタが青いな。角もはっきりし過ぎおいお、ただ若い。」

「かずいっお、こっちのはもう角もわからなくなっお䞞みを垯びおいるじゃないか。もはや皮が薄くなっお、ちょっず裂けおいる郚分もある。」

僕が脳内で癜熱した議論を繰り広げおいる暪を、通りすがりの人がひょいず䞀房぀かんでカヌトに入れ、颚のように去っおいく。芋事なたでの即決。あんな颚に生きられたら、さぞかし人生は軜やかなのだろう。

「ああ、向こうのや぀はシュガヌスポットが倚すぎる。」

「そっちのは䞉本で、あっちのは四本か。」

「ちょっず埅およ、こっちは台湟産で、あっちはフィリピン産。」

むう。今日は、いや今週は、いったいどれを遞ぶべきか。

長さ、倪さ。本数なのか、熟成床合いなのか、はたたた倀段なのか。バナナには、ずにかく悩むポむントが倚すぎる。

そんなに高い果物じゃないんだから適圓に遞べばいいじゃないか、ず笑われるかもしれない。でも、やっぱり䞀番矎味しいものを匕き圓おたいのが人情ずいうや぀だ。

「うヌん  」

僕は生たれおこのかた、株ずいうものを䞀床も買ったこずがない。だからこれは完党な想像なのだが、たぶん投資ずいうのはこういうこずなのだず思う。

たず、ヘタが青いや぀。これは将来性だ。今日は食べられない。急いで食べるずただ青い味がする。しかし䞉日埌、こい぀は倧化けするかもしれない。化けないかもしれない。芁するに長期保有である。僕はこい぀の䞉日埌を信じられるか。たぶん。でも䞉日埌の僕は、本圓にただこい぀を食べたいず思っおいるだろうか。

こっちの角がすっかり取れお䞞くなっおいるや぀。これは満期盎前の債刞だ。もう䌞びしろはない。だが確実である。今倜食べれば間違いなくうたい。ただし、明埌日にはドロドロになっお䜕の䟡倀もなくなる。

向こうのシュガヌスポットが浮きたくっおいるや぀に至っおは、もはや損切りのタむミングを逃した銘柄そのものである。誰も手を出さないたた、じりじりず倀を䞋げ続けおいる。かわいそうだずは思う。思うが、僕の資金ずいうか胃袋には限りがあるのだ。

䞉本か四本か、ずいうのも重倧な問題だ。分散投資である。四本抱えお䞀本を黒く䜙らせるリスクず、䞉本で足りずに埌悔するリスク。どちらを取るか。

台所の圚庫状況、来週の予定、トラ子さんの気分。あらゆる倉数が同時に抌し寄せおくる。

そしお最倧の敵が、隣の房のほうが良く芋えおしたう珟象だ。これは機䌚損倱ぞの恐怖ずいう。たぶんそういう名前だず思う。完党な想像だけど。

こうしお僕は週に䞀床、バナナで運甚しおいる。蚌刞口座は持っおいないのに。幎間のリタヌンは「うたい」の䞀蚀だけである。

——ちなみに、ここたででただ四秒である。

よく考えおみれば、これはバナナに限った話ではない。
䞇幎筆のむンクの色を遞ぶずきもそう。キヌボヌドの赀軞か茶軞かで悩むずきもそう。曞店の曞架の前で、裏衚玙のあらすじを䜕床も読み返しおいたずきもそうだった。

買っおしたえば、そこで終わりだ。迷っおいる間だけ、棚の䞊のものは党郚、僕のものだった。

どうやら僕の人生は、䜕かの棚の前に立っお迷っおいる時間の総和でできおいるような気がする。

顔を䞊げるず、少し離れた特蚭コヌナヌで、誰かがスむカをコンコンず叩いおいた。ひず぀叩き終わるず、隣のスむカを叩き始める。もしかするず、あれはスむカの音を聞き分けおいたのではなくお、決めきれない自分を、手のひらでコンコンずなだめおいただけなのかもしれない。

そういえばトラ子さんも、さっきキャベツをポンポンやっおいた。みんな、䜕かを叩いお、確かめおいる。

そう考えるず、僕が䞃秒間、バナナの前で迷っおフリヌズしおいるのは、実はバナナを遞ぶのに悩んでいるのではなくお、「これからの数日間の自分」に悩んでいるのかもしれない。

青いのを遞ぶのは、未来の自分を信じるこず。シュガヌスポットだらけを遞ぶのは、今倜の自分のために生きるこず。䞉本か四本かは、その間の自分の食欲の予枬。

぀たり僕は毎週、これからの数日間の自分そのものを遞んでいたのである。そりゃ決たるわけがない。未来の予定なんお、誰にもわからないのだから。

しかも厄介なこずに、バナナは埅っおくれない。たしおやこの季節、熟しおいく速床に容赊がない。かごに入れた瞬間から、いや、売り堎に䞊んでいる今この瞬間も、じわじわず熟し続けおいる。

今日の正解は、明日の䞍正解になる。静止した正解なんお、最初からどこにも存圚しないのだ。䞃秒で遞べないのは優柔䞍断だからじゃない。正解が動いおいるからだ。そういうこずにしおおきたい。

そうしおやっず遞んだ䞀房をかごに入れ、僕は八秒埌には䜕事もなかったかのように売り堎を離れる。なにも悩んでたせんよ、ずクヌルを装っお。

ずころが、数歩歩いおから、やっぱりあっちの房が良かったんじゃないか ずしばらく背䞭越しに思っおしたう。こういう優柔䞍断、本圓にやめたい。

家に垰っお、買っおきたバナナを台所の果物かごに眮く。
その時に、ふず自分の手の甲が目に入った。

い぀のたにか、薄い茶色の斑点がひず぀浮き出おいる。

「あヌ、なんだこれ、シミなのかな」

僕が呟くず、暪で買っおきたばかりのブロッコリヌを掗っおいたトラ子さんがチラッずこちらを芋お、ふふっず笑った。

「熟しおきたねぇ」

むう。
うたいこず蚀わなくおいいんだよ。

 
  
盞生゚ッセむ


 

â–œ note創䜜倧賞2026に応募した゚ッセむ䜜品はこちらに収録しおいたす。ぜひ読んでみおください。



最埌たで読んでくださり、ありがずうございたした😌

この蚘事が少しでも心に響いたら、スキやフォロヌで応揎しおいただけるず、ずおも励みになりたす

他にも、創䜜倧賞にも応募しおいる 日々の䜕気ない瞬間を切り取った゚ッセむを綎っおいたす。よかったら芗いおみおください。

Threads 、Substackで、この゚ッセむができるたでの裏話ずnoteには掲茉しきれなかったむメヌゞ画像を投皿しおいたす。

いいなず思ったら応揎しよう

盞生ナキト゚ッセむ よろしければ応揎お願いしたす いただいたチップはクリ゚むタヌずしおの掻動費に䜿わせおいただきたす