10秒の楽園
口の中に、世界の煮汁が入り込んでくる。綺麗なものでもなければ、美味しくもない。ただ、辛い。
それを避けようと口を閉じる。ああ、遅かった。無理にでも入ってくる。苦しい。
それは口の中だけじゃない。体は平衡感覚を失いながら、煮汁の中で前転を続けている。
その状況から逃げようと藻掻くたびに、煮汁の触手が絡みついて離さない。そうだ、頭を押さえなければ。さっきまで自分の一部だったはずのものが、いま襲いかかってくる。目が見えないから、どこから来るのかも分からない。
一瞬、世界の善意が顔を出す。安心して、口を開けてしまう。
だがまた、凶暴で無慈悲な大波が、私を暗闇へ落とし込む。この繰り返し。助けを求めている。それでも、自然の法則には逆らえない。
だから、身を任せるしかない。いつか終わる。
それでも海に浮かぶカラスたちは、次の波を待っている。