
映画の備忘録/ボーはおそれていた!
アリ・アスター監督作品『ボーはおそれている』の自宅鑑賞した感想を、今更ながら、愛と憎しみを込めてたっぷり綴らせて頂きます。★
長い悪い夢、という言葉をここまで可視化大成功させた映画というのは、実は少ないのではないでしょうか。
夢オチ結末や「なんか夢みたいな映画」というのは山のようにありますが、この作品はそういうジャンルに分けられないと考えます。
鑑賞後、わたくしに残ったのはこの果てしなく救われない悪夢に約3時間もついやしてしまったという後悔。しかも、
「ボーという主人公の悪夢のような映画を観た」
という感覚ではなく、
「昼寝したら見ず知らずの男の長すぎて悪すぎる夢を見てしまった」
という気持ち。
わたくしは映画ではなく夢を見たのです。悪夢。長〜い、悪〜い夢を見せられました。アリ・アスター監督、ほんとうにあなたはやってくれますね。
★
そもそも2024年日本公開の本作を今更ながらレンタルDVDで観て感想綴っている時点で、この末恐ろしい監督の新作を年月経てようやく見届けられた、というわたくしの現状は理解して頂けているでしょうか。
まず、ここに辿り着くまでの経緯をさらっとお話しますね。アリ・アスター監督初の長編映画にして21世紀最高のホラー映画と評された2018年日本公開『ヘレディタリー/継承』、それに続いた2020年日本公開『ミッドサマー』に関しても、わたくし、映画館で観た訳ではございません。両作品共にAmazonプライムビデオ鑑賞でした。
「映画は映画館で観るもの」という主観ではありませんが、まあできれば映画は映画館で観たい方です。テレビ画面で観るより感動は倍になり迫力は倍以上になると思っております。映画館という場所はそのような魔法が使えるのです。
若い頃映画館スタッフとして働いていた事もあり、これは声を大にして言いたい。そりゃ映画館で観る方が良いに決まってますよ。というか映画制作って映画館での収益あって成り立っているのですからこの世から映画という娯楽がなくなってほしくなければ「大人ひとり2000円なんて高い」とか言ってないでさっさと売店でポップコーン買って映画館鑑賞して下さいな。
↑なんて事言いましたが、わたくしはアスター監督作品を映画館では観なかった。何故か。この監督を応援したくないのか。違う。嫌いだからか。違うと思いたい。
うん、もうこれにつきる「こわいから」!!!
そう⋯⋯、ほんとうにこわい作品というのは、予告編の時点でトラウマを生むのでした。予告編でこの監督をはじめて知った時、ただならぬこわさをしっかりと感じ取らせて頂きました。
で、映画館鑑賞する事で迫力増しになるのなら、そんなに迫力を出さないで欲しい作品に関しては自宅のテレビ画面あるいはスマホ画面でちんまりと観た方がよいのでは? と思い至りAmazonプライムで観ましたが、画面が小さくてもしっかりと迫力あってしっかりとこわかったです。
それだけアスター監督は人知を超えた才をお持ちという事でしょうね。恐ろしい才能です。本作の特報映像をご存知でしょうか。笑顔を浮かべたアスター監督、何て言ったと思います?
『みんな、どん底気分になればいいな♪』
ですって。人知を超えてます。素晴らしいですね。
★
前2作に関しては『ヘレディタリー/継承』は勿論恐ろしかったですが、わたくしは『ミッドサマー』にやられました。
1週間食欲を失っただけではあきたらず2〜3週間、いや1ヶ月以上はトラウマ場面が網膜に張り付いていた感ぢ。湧き出てくる恐怖を拭おうにも拭う事叶わず鑑賞から数年経った今日現在まで記憶から無くなる事はないあの白い地獄⋯⋯。
宗教の習わしのため崖から飛び降りた老夫婦(の潰れた身体まで見せるか普通)、乙女の陰毛入りケーキ(なんて事思いつくんだよしかも食べさせるなよ)、儀式化された性行為(こころの底から、見てはいけないものを見てしまった気がした)⋯⋯。🐯🐴にならない人なんていないのでは?
そんな消えないこころのキズ創りを大得意とするアスター監督の最新作なんて(しかも179分なんて!)、大迫力の映画館で観るべきではないと判断した2024年公開当時のわたくし。ボーという男はとりあえず1年間寝かせ、配信&ディスク販売化されても寝かせ続け、ついに重い腰をあげてレンタルDVDをプレーヤーにおとしたのがこないだの休日、缶酎ハイをひとつあけたお昼過ぎ。
意を決してDVDを借りても、アルコールでもまわしてないとまともに鑑賞できないと思ったのと、酔いで眠気がきてうっかり眠ってしまえばそれはそれでこの作品とは縁が無かったという事に(そして萎えて観ないまま返却)できるから良い、と思ったのです。
結果、その判断が「昼寝したら見ず知らずの男の長すぎて悪すぎる夢を見てしまった」になるとはつゆ知らず⋯⋯。
★★
少〜し前置きが長くなりましたが、ここからようやく、映画の感想を綴ってゆきます。
(これは諸々を配慮したレビューではなく、アリ・アスター監督に対する敬意を込めた愚痴なので、時にネタバレも入りますよ!)
わたくし、なんとか本作を見届けるために下調べをしまくりました。トラウマになる事を限りなくさけるためにネタバレを受け入れ、ある程度のストーリーが解った上で鑑賞する事によりこわさは半減すると考えたのです。ウィキペディアは勿論、あらゆる人々の映画レビュー、丁寧に書かれたネタばらし、ありがたかったです。ネタバレ族のみなさん、ありがとうございました。
まずはじめに、トラウマ度について。
『ボーはおそれている』全体のトラウマ度はヘレディタリー&ミッドサマーには及ばないと考えます。それが良い事なのか悪い事なのかは人の感じ方次第だと思いますが、🐯と🐴にならぬよう気をつけて鑑賞したわたくしには幸いでした。
が、その長い悪い夢からさめた夕刻時には、ヘレディタリー&ミッドサマー鑑賞後とは全く違う不安に襲われました。そして、この作品に不安を感じたという事実がまた不安をもたらすという事に気が付いてしまい、訳も解らず身体は重く鬱のよう。わたくしがふたり暮らしでなかったら、その鬱度は刻一刻と増して翌日は仕事を休んでいたかもしれません。帰宅したパートナーが謎に落ち込んでいるわたくしの子守をしてくれたおかげで鬱にならずに済んだようです。
さてさて何故、世界的に評価の高過ぎる前2作よりも不安感が勝ったのか。それは『ボーはおそれている』が3作の中で最も現実にあってもおかしくはない設定だからです。
『ヘレディタリー/継承』はこれまでにないホラー映画と讃えらても一応ゴースト要素は強めなので非現実に捉えられる=現実味を感じにくい。
『ミッドサマー』に関しては規模の大き過ぎる&人格無視し過ぎているカルト集団に巻き込まれる、という設定は恐ろしいけれどなかなか自分にはふりかかりそうもない不幸だろうとなり非現実として解釈ができます。
しかしながら『ボーはおそれている』、この作品だけはとっても現実的なのです。
地獄のような治安の街だとか突如劇団員になってるボー、またお父様があのような形状だったりするのは一見非現実的ですがそれら突飛な見せ方はあくまで不安症ボーの妄想なのでまさに現実世界ギリギリの男の悪夢。つまるところ、不安をかかえる人間なら誰にでも起こり得る物語なのでした。
ボーは元来からの不安症故に、あらゆる出来事の最悪を考えついてしまいます。現実と被害妄想の区別がつかず生活している人間はこのような毎日を過ごしているのかと思うと心底ぞっとしますね。ぞっとしてから、決して他人事ではない事実に気が付き更にぞっとしました。
自分は不安症かと問われると決してボーほどの不安症ではないであろう事は確かなのですが、人間って誰でも不安に思う事柄は必ずあって、その度合いがおかしくなってしまうのなんて簡単な事なんですよね。病というのは明日は我が身です。そんな人の常のような不幸をまざまざと見せつけてくるのがアスター監督。あのさらっとした面長の顔面の、スマートでオシャレな眼鏡の奥には研ぎ澄まされた人間解剖用のメスが潜んでいるのでしょうね。
★★
はじめから終わりまで(終わってからも尚)不安がついてまわる本作、果たして面白いのか面白くないのかと言われると、これはほんとうに人の捉え方次第だと思いますがわたくしはちっとも面白くなかったです。何故ならばわたくしは見知らぬ男の長い悪い夢を見たから。長く続く悪夢に心底不安にさせられて、面白い訳ないじゃないですか。
ただこの『ボー』、映画レビューによると「ブラックコメディ」と捉えている人もいて、案外面白がって観た人も多くいるんだなという印象。
それはボーがとことんついていないどころか運という概念を通り越した境地の不幸をリズムよく見せてくれるものですから、他人の不幸をあくまで他人の不幸としてだけ客観視できる冷静な人は不安になる事なく観れるのかもしれません。あるいは不安症とかけ離れているようなスーパーポジティブシンキングな人は。もしくはほんとうにこの映画をコメディとしてしか認識できない人は。ううむ、十人十色とはまさにこれ。
アスター監督のインタビューで、
「この映画を観て、不安症という不幸を味わってほしい」
というようなお言葉がありました。どうやらアスター監督自身が酷い不安症らしいのです。要するに、不安症ではない人々にこの辛さを見せつけてやりたい、だってこんなにやりきれないのだから、という切望から出来上がった映画だととらえられます。
つまるところ制作の意図としては、わたくしのように映画鑑賞後しっっっかりと不安に陥ったタイプはアスター監督にとって「してやったり」なのでしょう。まんまと監督の餌食になった不安症予備軍という事なのでしょうが、では本作をコメディのように楽に鑑賞できた人々には歯を食いしばる思いなのではないでしょうか。
この映画を観て「あ~めたくた楽しかった!おかわり!」となる人なんていないで欲しい、と思ってお創りになったハズ。
故に、この映画は楽しくなかったという感想はわたくしの中では大正解。けなしている訳ではなく評価を下げる訳でもなく、堂々とここにそう書けちゃうのでした。
★★★
これだけアリ・アスター監督におびえ、トラとウマに変化しつつも下調べまでして、鑑賞後にはやりきれず鬱ったりして……。一体どうして、そうしてまで観てしまうのでしょうか。
ほんとう、どうしてなのでしょうね🐯
自分でもわかりません🐴
こわいものやグロいもの、イミフなもの系統に全く感心を抱かない人種というのも一定数います。わたくしの母親なんかはまさにそのタイプで、昔からよく
「わざわざこわいもの見る意味がわからな〜い!」
と、心底理解できないふうに言い放ちます。
ほんとう、その通りなんですよね。
わたくしだってできるなら、そっち側の思考になりたいもんです。
どうしてもそっち側の考えにはなれないアングラと背中合わせで生きる人々は永遠にアスター監督の餌食。「見たら後悔する見たら後悔する見たら後悔」と脳内でこだましていようが見ないという選択ができないため、こうして2年越しにボーという男を起こすはめになったのでしたとさ。
★★了★★
追記…★…わたくしがボーを寝かしている間にアスター監督、期待の新作を出しているんですよねえ。さ~て今度は何年寝かしてからみようかなっと★