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そして誰も社債を信じられなくなった

    武智倫太郎

    孫のマジック債

    第一章:幻の自社株買い
     2025年初夏。株主総会の壇上で、孫正義は例によって『世界を救う』スライドを背に、声高らかに宣言した。

    『自社株買いを実施します! 1兆円ですッ!』

     会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
     投資初心者たちはX(旧Twitter)でつぶやいた。

    『やっぱ孫さんは神』
    『自信の表れ! SBG爆上げくる!』

    ...…だが現実には、その1兆円は存在しなかった。
     未来の夢と希望を担保に調達した資金であり、株価を吊り上げるための、『焼き畑資本政策』に過ぎなかった。

    第二章:利払いの季節がやってきた
     その年の秋、五年前に振り出した社債の利払い期が訪れた。
     しかし、手元に残っていたのは、数百億円のみ。しかも、その資金すら自社株買いで消えていた。

     幹部会で孫は叫んだ。

    『新しい社債を出せばいいじゃないか!』

     誰かがつぶやいた。

    『それ……借金で借金を返すやつでは……?』

     だが、誰も止められなかった。なぜなら、役員報酬は株価連動型だったからである。

    第三章:買い手ゼロの債券
     SBGは満を持して発行した。

    第66回 無担保マジカル社債(通称:孫ボンド)
    額面:6,000億円
    利率:2%(やや控えめ)

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    特典:トラベルポーチ&孫語録PDF(非売品)

     しかし...…『買い手ゼロです……』

     営業担当者の報告は冷たかった。
     AIですら『リスク過多』と断じ、マーケットは沈黙した。

    第四章:孫、魔法を思いつく
     追い詰められた孫は、突然、ホワイトボードに数式を猛スピードで書きなぐった。
     チョークの音だけが、幹部会議室に響く。

    (社債 × ∫(希望+幻想)dx + 信仰心²) ÷ (現金−収益期待) × √自己愛 − δ(現実感)
    = lim 負債→0 (市場信仰の極限値)
    ⇒ ∀ 借金 ∈ 無限大, 存在証明なし

     彼は振り返り、晴れやかな顔で言った。

    『これで、すべての借金は消えるッ!!』

     経理部長が、震える手でメモを取った。

    『……これは“Beautiful Mind”じゃなく、“Dangerous Mind”では……?』

     続けて孫は叫んだ。

    『そうだ、"自社債"買いをすればいいんだッ!!』

     経理部が震え声で問う。

    『でも、手元資金ゼロですよ……?』

     孫は笑った。

    『大丈夫。信用がある』

    第五章:幻の帳簿マジック
     数日後、SBGは記者会見を開いた。

    『我が社は社債を全額、自己買い取りに成功しました!』

     ジャーナリストたちがざわつく。

    『手元資金は?』

    『ありません。しかし、AIで帳簿上の買い取りをシミュレーションしたところ、感情価値ベースでの相殺が可能と判明しました!』

    『……それって、数字をいじっただけじゃ?』

     孫は満面の笑みで答えた。

    『数字とは、信じる者の心の中にあるものです』

    最終章:そして誰も利払いできなくなった
     金融庁が動いた。

    『SBGが自社債を自己資本で買ったというが、残高が変わっていない。どういうことか?』

     答えは、帳簿の最下段に小さく記されていた。

    ※この処理は『想像上の将来キャッシュフロー』を担保に評価しています。

    ──Valuation Engine™ by VisionFund AI 3.1β

     最終的にSBGはAIによる『自社債買い』を帳簿上で完了し、現実の社債ホルダーたちは、何も受け取ることなく市場から消えた。

    エピローグ:そして誰も社債を信じられなくなった
    『これからは、自社債すらも信じた者の手元にしか存在しない時代が来るんです』...…そう語った孫の姿を、誰も見ることはなかった。

     社債ホルダーたちは口々にこう言った。

    『あれって……マジックじゃなくて、詐欺だったんじゃ?』

     だが、あまりに意味不明だったため、誰も訴えられなかった。いな、謎すぎて訴状を作れる弁護士すら、存在しなかった。

     そして誰も、社債を信じられなくなった。

    武智倫太郎

    べ、別にあんたなんかに読んでほしくて書いたんじゃないんだからねっ!!

    ……でも……。
    夢物語にだまされて、
    口先だけのペテン師に騙されて、
    生成AI以下のアナリストに踊らされて、
    手数料ビジネスのエサになったりしたら──

    ……泣くから。
    ほんとに、泣くからね……!

    23ページしかないよ?
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    武智倫太郎

     
     
     
    情報工学者/週刊バブルウォッチ編集長/『哭きの禿』原作者。 AI、金融、国際政治から日常の珍事まで、真面目に調べて、おかしく書く。 代表作『ボルガレナのボルチンスカヤ』 https://note.com/aiethics496/n/n8d4f9aef7c04

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