
思い出す|シロクマ文芸部
[908文字]
コンビニの面々は、はじめての頃を思い出す
思い出す 店長初日 背筋伸び
夜のコンビニに人々が次々と訪れる。
「いらっしゃいませ!」
7の文字がプリントされたグリーンの制服を着た椎名 琴音の声が響く中、矢代 航平は商品の補充に追われている。温かい飲み物と温める食品が特に人気で、商品棚からどんどん減っていく。
「すみません、からあげとポテトをお願いできますか?」
琴音は航平を振り返った。
「わかった」
しばらくすると客足がいったん途絶え、店内が静かになった。琴音と航平は、この束の間の休憩を利用して、商品の整理と在庫確認を始めた。
「最近、俺たちよく働くよね」
航平が言った。商品を整理しながら、彼は棚の奥を覗き込んでいた。
「ほんとです。何かに操られてる様ですよ」
琴音は笑顔で返した。
「あ、そうそう。今度の川柳のお題は『思い出す』から始まるんです」
琴音は突然話題を変えた。
「うーん、『思い出す 初めてのレジ 手が震え』」
航平は考え込むような表情で言った。
「あー分かる。緊張しましたよ」
「俺も。最初の商品なんだったけっな……」
航平は天井を見上げながら記憶を探った。
「あ、俺はおにぎりとペットボトルのお茶だ」
「意外と普通ですね」
「椎名さんは?」
「えー。言いたくないです」
琴音は少しもじもじしている。
「何、どうして」
「……エッチな雑誌でした」
琴音は小声で告白した。
「あ、そうなんだ」
航平は思わず目を逸らした。
店長は、近くのATMの上で積み上げていた伝票をまとめながら、その会話を聞いていた。そして店長を任された日のことを思い出していた。
ある日突然、オーナーから突然の昇進を告げられた。レジの使い方や在庫管理はなんとかマスターしていたものの、スタッフの管理や売上の責任を任されるのは別問題だった。
「大丈夫、君ならできる」
オーナーの言葉を支えに、何とか初日を乗り切った。
そんな日を思い出して、彼は小さくつぶやいた。
「思い出す 店長初日 背筋伸び」
店長は自分のつぶやきを誰にも聞かれていないことを確認すると、少し照れくさそうに笑みを浮かべた。蛍光灯の静かな明かりの下、琴音と航平は商品棚の整理を続けながら、自分たちの初々しかった頃の思い出に浸っていた。外では冷たい夜風が吹いていたが、店内には温かな空気が満ちていた。
お読みいただきありがとうございます
いつもアルバイトの二人のことだったので、今度は店長を深堀したくなりました
上記、この話の前のエピソードです
上記企画に参加させていただきました