
「香水つけてる?」 | せりふ三題噺
「香水つけてる?」
彼が訊いた。
声がかすかに震えていた。
私は人工香料が嫌いで、普段は決して香水なんてつけない。
「ええ。心境の変化……かしら」
微笑んで、彼の隣に腰を下ろす。
彼がグラスを置くと、氷がひとつ、からんと鳴った。
その香りは、寸分違わなかった。
彼の浮気相手が愛用しているものと。
(文字数:140)

香りは証拠ではない。だが、氷の音は沈黙を割る。震える声、隣に置かれたグラス、微笑みに隠された心境の変化――私は二人の関係を説明しない。甘い香りと冷たい疑念を、激情の筆致と断裂した幾何学のなかで衝突させた。裏切りは、画面の中央ではなく、見た者の喉元で鳴るのだ。
お読みいただきありがとうございます
怖いですね、妻から浮気相手の香水の香りがするんですよ? 絶対知ってるヤツですよ、怖い怖い
上記企画に参加させていただきました
※セリフのみでの参加となります
おまけ



