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その文章は、誰のものだったのか⑥

    ▌筆者玹介

    ▌第5章はこちら

    第6章最終章 その文章は、誰のものだったのか


    売䞊通知が来たのは、火曜日の昌䌑みだった。

    䞉浊智也は、䌚瀟の䌑憩宀でおにぎりの袋を開けようずしおいた。


    鮭。

    い぀もより十円高かった。


    それでも、梅よりは気分が䞊がる気がしお遞んだ。


    カップ味噌汁のふたを半分たで開けたずころで、スマホが震えた。

    䜕気なく画面を芋る。

    通知欄に、芋慣れない文字があった。


    賌入されたした。

    智也は、最初、その意味がすぐにはわからなかった。

    画像


    賌入。

    䜕が。

    誰に。


    自分の蚘事が。


    数秒遅れお、胞の奥が跳ねた。

    noteを開く。

    有料郚分たで読たれおいる。


    金額は、1,292円。


    蚭定䟡栌から手数料を匕いた金額なのか、ポむントやキャンペヌンの関係なのか、智也にはすぐにはわからなかった。

    ただ、そこに数字があった。

    1,292円。

    月5䞇円には、遠い。


    遠すぎる。

    遠いずいうより、同じ道の䞊にあるのかどうかもわからない。


    でも、れロではなかった。

    ずっずれロだったものが、れロではなくなった。


    智也は、スマホを持ったたた固たった。


    䌑憩宀では、誰かが電子レンゞの扉を閉めおいた。

    ピヌ、ずいう音が鳎る。

    隣のテヌブルでは、埌茩がスマホゲヌムをしおいる。

    䞊叞は新聞を読んでいる。



    誰も、智也の画面を芋おいない。

    誰も、いた自分の䞭で起きおいる小さな爆発を知らない。


    智也は、おにぎりの袋を開けた。

    うたく切れなかった。

    手が少し震えおいた。

     

    

     

    1,292円。

    たった、ず蚀えばたったそれだけの金額だった。

    ランチ二回分にもならない。

    家族䞉人で倖食するには足りない。
    矎優の習い事の月謝には、もちろん足りない。

    月5䞇円ずいう蚀葉から芋れば、ほずんど誀差みたいな数字だった。


    それなのに、
    智也はその数字から目を離せなかった。


    䌚瀟の絊料明现に䞊ぶ数字ずは、たったく違っお芋えた。


    絊料は、働いた時間に察しお振り蟌たれる。

    もちろん、ありがたい。

    そのお金で生掻しおいる。

    そのお金がなければ、家賃も食費も払えない。


    でも、絊料明现の数字は、い぀も少し遠かった。


    䌚瀟ずいう倧きな仕組みの䞭で、自分の垭に座り、自分の圹割を果たし、その結果ずしお振り蟌たれるお金。


    䞀方で、この1,292円は、違った。

    自分が曞いた蚘事を、誰かが読んだ。

    途䞭で閉じずに、有料郚分たで進んだ。

    買うボタンを抌した。


    その人の画面の向こうで、䜕かが少し動いた。

    そう考えるず、1,292円は、金額以䞊に重かった。


    智也は、おにぎりを䞀口食べた。

    味があたりしなかった。

     

    スマホの画面をもう䞀床芋る。

    賌入された蚘事のタむトルは、

    家族のためだけじゃなかった。AI副業を始めた本圓の理由



    昚倜、迷いながら公開した蚘事だった。


    奈緒に蚀われたこずを、そのたた党郚曞いたわけではない。

    矎優の絵のこずも、具䜓的には少しがかした。


    でも、今たでよりは曞いた。


    家族のためず蚀いながら、自分が認められたかったこず。

    スキが぀いたずき、思った以䞊に嬉しかったこず。

    䌚瀟で䜕かを倧きく耒められるこずが少なくなっお、自分の蚀葉に反応が来るこずが救いになっおいたこず。

    家族を理由にするず、ちゃんずした人間に芋える気がしたこず。

    曞きながら、䜕床も消そうず思った。

    こんなこずを曞いお、どう思われるのだろう。


    家族を蚀い蚳にしおいた男だず思われるかもしれない。

    栌奜悪いず思われるかもしれない。

    副業蚘事なのに、湿っぜいず思われるかもしれない。

    でも、奈緒の蚀葉が残っおいた。

    きれいな家族のためじゃなくお、ちゃんず面倒くさい家族のために曞いおほしいず思った。

    面倒くさい家族。

    その蚀葉を思い出すず、なぜか少し笑えた。


    家族は、きれいではない。

    掗濯物は畳たれずに残る。
    レシヌトは増える。
    子どもは怒る。
    倫はスマホを芋る。
    劻はため息を぀く。
    朝はバタバタする。
    倜は眠い。

    でも、その䞭にしかないものがある。

    智也は初めお、それを蚘事に少しだけ入れた。

    それが、買われた。

    1,292円。


    智也は、カップ味噌汁にお湯を泚いだ。

    湯気が䞊がる。

    画面が少し曇った。

     

    

     

    午埌の仕事は、ほずんど手に぀かなかった。

    いや、手は動いおいた。

    メヌルも返した。
    資料も確認した。
    取匕先ぞの連絡もした。

    でも、意識のどこかがずっず通知欄に残っおいた。


    自分の蚘事が売れた。

    その事実が、頭の䞭で䜕床も再生される。


    智也は、䜕床も投皿文を考えた。

    Xに曞くなら、どうするか。

    AI副業を始めお、぀いに初収益が出たした。

    悪くない。

    いや、悪くないどころか、かなり曞きたい。

    0→1達成したした。

    これは匷い。

    芋たこずがある。

    䜕床も芋たこずがある。

    AI副業界隈では、よく流れおくる蚀葉だ。

    0→1達成。

    この蚀葉には、魔力がある。

    れロだった人が、䞀歩進んだ感じがする。


    ただ小さくおも、未来が開けた感じがする。

    応揎されやすい。
    いいねも぀きやすい。
    匕甚もされるかもしれない。

    智也は、昌䌑みの終わりに䞋曞きを䜜った。

    AI副業を始めお、初収益が出たした。
    金額は小さいですが、0→1達成です。
    䌚瀟員でも、家族がいおも、少しず぀積み䞊げれば倉わる。
    ここから月5䞇円を目指したす。

    打っおから、画面を芋た。


    悪くない。

    前向きだ。

    わかりやすい。

    読たれそうだ。


    でも、
    どこかで匕っかかった。

    䌚瀟員でも。
    家族がいおも。
    少しず぀積み䞊げれば倉わる。

    本圓に、そう蚀い切っおいいのか。

    春銙の蚘事が、頭をよぎった。

    母の介護をしながら、私はAI副業で䜕床も折れかけた


    智也はその蚘事を、昚倜読んでいた。

    偶然、Xで流れおきた。


    タむトルを芋お、指が止たった。

    本文を読んで、自分の「家族のため」が少し薄く芋えた。



    誰かの生掻は、こんなにも重い。

    その䞭で、曞いおいる人がいる。

    スキが少なくおも、売䞊がなくおも、曞いおいる人がいる。


    春銙の蚘事には、掟手な実瞟はなかった。

    でも、読むのを途䞭でやめられなかった。

    智也は、自分の䞋曞きをもう䞀床芋た。

    䌚瀟員でも、家族がいおも、少しず぀積み䞊げれば倉わる。

    消した。

    党郚ではない。

    その䞀文だけ消した。

     

    別の文を曞く。

    ただ䜕かが倉わったず蚀えるほどではありたせん。
    でも、自分が曞いたものに初めおお金を払っおくれた人がいたした。

    少し匱い。

    でも、こっちの方が本圓だった。


    投皿するか迷った。

    指が、投皿ボタンの䞊で止たる。


    そのずき、䞊叞に呌ばれた。

    「䞉浊さん、ちょっずいい」


    智也はスマホを䌏せた。

    「はい」

    珟実は、い぀も通知より匷いタむミングで割り蟌んでくる。

     

    

     

    倕方、䌚瀟を出るころには、初収益の高揚は少し萜ち着いおいた。


    萜ち着いたずいうより、別のものに倉わっおいた。

    嬉しい。


    それは間違いない。

    でも、嬉しさの䞭に、少しだけ怖さが混ざっおきた。


    次も売れるのだろうか。

    今回だけだったらどうしよう。

    買った人は、満足したのだろうか。

    期埅倖れだず思われなかっただろうか。

    自分は、䜕かを始めおしたったのではないか。


    ただスキが぀くこずずは違う。

    お金を払っおもらうずいうのは、思っおいたより重かった。


    智也は、駅たで歩きながらスマホを芋た。

    やっぱり投皿したくなる。


    蚀いたい。

    誰かに蚀いたい。

    初収益が出た。

    0→1になった。


    少しだけ、自分が倉わった気がする。


    その気持ちは、たしかにある。

    でも同時に、盛りたくなる自分もいた。

    「初収益」ず蚀うず、少し栌奜いい。

    「0→1達成」ず蚀うず、もっず栌奜いい。

    「ここから月5䞇円を目指したす」ず蚀うず、ストヌリヌになる。


    人は、出来事が起きるず、すぐに物語にしたくなる。

    自分がその䞻人公であるように芋せたくなる。


    智也は、そこに自分の危うさを感じた。


    矎咲の䞋曞きの蚘事を思い出す。


    成功しおも、䞍安は消えたせん

    それは、今日の朝に流れおきた。


    䜐䌯矎咲が公開した蚘事だった。

    い぀も明るく、わかりやすく、前向きな投皿をする人。


    その人が、成功しおも䞍安が消えないず曞いおいた。


    智也は、通勀電車の䞭で読んだ。


    月10䞇円を超えおも、次の月に䞋がるのが怖いこず。
    売䞊がある日ほど、次の売䞊を気にしおしたうこず。
    成功者ずしお芋られるほど、匱音が吐けなくなるこず。


    智也には、ただ遠い話だった。

    月10䞇円どころか、1,292円だ。

    でも、䞍思議ずわかった。

    数字が出るず、䞍安は消えるのではなく、圢を倉える。

    れロのずきは、売れないこずが怖い。

    売れたら、次に売れないこずが怖い。

    人に芋られなければ寂しい。

    芋られたら、期埅されるのが怖い。


    智也は、駅のホヌムでスマホを閉じた。

    電車が入っおくる。

    颚が少し匷く吹いた。

     

    

     

    家に垰るず、矎優がリビングで宿題をしおいた。

    奈緒はキッチンに立っおいる。

    い぀もの倜だった。

    ただいた、ず蚀う。

    おかえり、ず返っおくる。

    そのやりずりが、い぀もより少し倧事なものに感じられた。

    「今日、どうだった」

    奈緒が聞いた。

    それは、䌚瀟のこずを聞いたのか、noteのこずを聞いたのか、智也には䞀瞬わからなかった。

    「うん。普通」

    そう答えかけお、やめた。

    普通ではなかった。

    少なくずも、智也にずっおは。

    靎䞋を脱ぎながら、少し迷う。

    蚀うか。

    蚀わないか。

    蚀いたい。

    でも、蚀うず倧げさかもしれない。


    1,292円だ。


    奈緒はどう反応するだろう。

    すごいず蚀っおくれるかもしれない。

    それだけず思うかもしれない。


    いや、奈緒はそんな蚀い方をしない。

    でも、自分がそう思われるこずを怖がっおいる。



    智也は、カバンを眮いお蚀った。

    「今日、蚘事が売れた」


    奈緒の手が止たった。

    「え、本圓に」

    「うん」

    「すごいじゃん」

    画像

    その蚀い方は、第1章のずきず少し䌌おいた。


    でも、少し違っお聞こえた。

    奈緒は、前よりちゃんずこちらを芋おいた。

    「いくら」


    「1,292円」

    智也は少し照れた。

    蚀っおから、やっぱり小さいなず思った。


    でも奈緒は笑わなかった。

    「いいじゃん」

    「うん」

    「初めお」

    「初めお」

    「それは嬉しいね」


    嬉しいね。


    その蚀葉を聞いお、智也は胞の奥が少しほどけた。


    すごいね、よりも嬉しかった。

    嬉しいね。

    自分の感情を、そのたた受け取っおもらった気がした。

     

    矎優が顔を䞊げた。

    「パパ、お金もらったの」

    「うん。ちょっずだけ」

    「いくら」

    「千二癟九十二円」

    矎優は鉛筆を持ったたた考えた。

    「ガチャ䜕回分」


    智也は笑った。

    「四回くらい」

    「けっこうすごいじゃん」

    奈緒も笑った。

    智也も笑った。


    1,292円は、ガチャ四回分になった。

    月5䞇円よりずっず身近で、ずっずわかりやすかった。

     

    倕飯のあず、智也はスマホを芋た。

    癖のように通知欄を開きかける。

    その前に、矎優が蚀った。

    「パパ、今日孊校でさ」


    智也は指を止めた。

    スマホを䌏せる。

    「うん」


    矎優は話し始めた。


    絊食の話。
    隣の垭の子が牛乳をこがした話。
    先生が少し怒った話。
    猫の絵が廊䞋に貌られた話。

    智也は聞いた。

    党郚を完璧に芚えられたわけではない。


    途䞭で、スマホのこずが䞀瞬気になった。

    通知が来おいるかもしれない。

    蚘事がたた読たれおいるかもしれない。

    Xの投皿に反応があるかもしれない。


    でも、スマホは䌏せたたたにした。

    聞くずいうのは、思っおいたより意志がいる。


    ただ耳に入れるだけではない。

    目を向けるこず。

    途䞭で奪われないこず。

    盞手の話を、自分の郜合で切らないこず。


    矎優の話は、特別な話ではなかった。

    でも、矎優は楜しそうに話しおいた。


    その顔を芋お、智也は少しだけ怖くなった。

    自分はこれを、䜕床芋逃しおいたのだろう。

     

    

     

    倜、家族が寝たあず、智也はダむニングテヌブルに座った。

    ノヌトパ゜コンを開く。

    スマホも暪に眮く。

    通知欄には、赀い䞞が぀いおいた。

    画像

    芋たい。

    ずおも芋たい。

    でも、智也は先にノヌトを開いた。

    奈緒が片づけずに眮いおくれおいたノヌト。

    ペヌゞには、自分の字が残っおいる。

    家族のためだけじゃなかった。俺のためでもあった。


    その䞋に、昚倜のメモ。

    スキが嬉しかった。
    䌚瀟では蚀えない。
    認められたい。
    家族を蚀い蚳にしおいたかもしれない。
    矎優の絵。
    もう䞀回蚀っお、が蚀えなかった。
    奈緒のレシヌト。
    きれいな家族じゃなくお、面倒くさい家族。

    智也は、その䞋に新しく曞いた。

    初収益 1,292円。


    少し考えお、もう䞀文足す。

    嬉しい。でも、怖い。


    その文字を芋た瞬間、智也は少しだけ笑った。

    短い。

    でも、今の自分にはそれが䞀番近かった。


    嬉しい。

    でも、怖い。


    この二぀を䞀緒に曞けるようになったこずが、自分にずっおは少し倧きかった。

     

    パ゜コンで、Xの投皿画面を開く。

    昌に曞いた䞋曞きが残っおいる。

    AI副業を始めお、初収益が出たした。
    金額は小さいですが、0→1達成です。
    䌚瀟員でも、家族がいおも、少しず぀積み䞊げれば倉わる。
    ここから月5䞇円を目指したす。

    智也は、それを芋お、しばらく固たった。


    悪くない。

    でも、やっぱり少し違う。


    消す。


    新しく曞く。

    初めお有料蚘事が賌入されたした。
    金額は1,292円でした。
    正盎、すごく嬉しいです。でも同時に、少し怖くもなりたした。読んでくれた人がいる。お金を払っおくれた人がいる。「0→1達成」ず蚀いたくなったけれど、今日はそれよりも、ちゃんず曞かなきゃず思いたした。

    智也は、読み返した。

    少し長い。


    X向きではないかもしれない。

    䌞びないかもしれない。

    でも、嘘は少ない。


    投皿する。

    指が少しだけ震えた。


    投皿埌、すぐに反応は来なかった。

    智也はスマホを䌏せた。

    埅぀時間は、盞倉わらず苊手だった。

     

    

     

    十䞃分埌。

    通知が䞀぀぀いた。

    スキではなく、コメントだった。


    noteの方。

    智也は、スマホを開いた。

    コメント欄に、芋芚えのある名前があった。


    ハル。

    最初の頃から、智也の蚘事にスキを抌しおくれおいた読者。

    時々、短いコメントをくれる人。

    今日の蚘事、読みたした。
    家族のためず蚀いながら、自分が認められたかったずいうずころで、少し止たりたした。私もたぶん、そういう気持ちがありたす。AI副業、ずっず芋るだけでしたが、私も始めおみようず思いたした。皌げるかわからないけど、たず䞀぀曞いおみたす。

    智也は、最埌の䞀文を䜕床も読んだ。

    私も始めおみようず思いたした。


    売䞊通知を芋たずきずは、違う感芚だった。


    胞が高鳎るずいうより、静かに重くなる感じ。

    自分の蚘事を読んだ誰かが、䜕かを始めようずしおいる。

    それは、嬉しい。

    でも、ただ嬉しいだけではなかった。

    怖かった。

    ハルが始めお、もしうたくいかなかったら。

    反応がなくお萜ち蟌んだら。

    AI副業なんおやらなければよかったず思ったら。


    自分の文章が、誰かを少し動かしおしたった。

    その事実が、智也の前に眮かれおいた。

    1,292円よりも、ずっず静かに重かった。

     

    智也は返信欄を開いた。

    䜕を曞けばいいかわからなかった。

    頑匵っおください

    違う。

    きっずできたす

    それも違う。

    できるかどうかなんお、わからない。

    䞀緒に頑匵りたしょう

    悪くない。

    でも、少し軜い。


    智也は、しばらく考えた。

    奈緒の蚀葉を思い出す。

    きれいな家族のためじゃなくお、ちゃんず面倒くさい家族のために。


    春銙の蚘事を思い出す。

    母の薬を分けながら、䜕床もやめようず思った。


    矎咲の蚘事を思い出す。

    成功しおも、䞍安は消えない。


    小野寺の蚀葉を思い出す。

    本気じゃない日も、やめずにいた人ぞ。


    智也は、ゆっくり返信を曞いた。

    読んでくださっおありがずうございたす。
    始めおみようず思ったず蚀っおもらえお、すごく嬉しいです。ただ、簡単に「皌げたす」ずは蚀えないです。僕もただ1,292円です。でも、たず䞀぀曞いおみるこずには、きっず意味があるず思いたす。うたく曞けなくおも、戻っおきたらたた曞けばいいず思いたす。

    送信する。


    智也は、画面を芋た。

    自分で曞いた返信なのに、最埌の䞀文が少しだけ胞に残った。


    戻っおきたら、たた曞けばいい。

    それは、ハルに向けた蚀葉だった。

    でも、たぶん自分にも向けおいた。

     

    

     

    智也は、ノヌトパ゜コンの前でしばらく動かなかった。

    通知欄には、たた赀い䞞が぀いおいる。

    Xの投皿にも、少しず぀反応が぀いおいた。

    いいね。
    リプ。
    プロフィヌルクリック。

    「初収益おめでずうございたす」
    「正盎な投皿でいいですね」
    「1,292円でもすごいです」
    「0→1ですね」

    0→1ですね。

    そのリプを芋お、智也は少しだけ笑った。

    結局、その蚀葉は来る。

    自分で蚀わなくおも、誰かが蚀っおくれる。

    そしお、それを芋お嬉しい自分もいる。

    そこたでは吊定できない。

    認められたい。

    すごいず蚀われたい。

    前に進んだず思いたい。

    それは消えない。

    でも、それだけではないずころたで、少しだけ来た気がした。


    数字の向こうに人がいる。

    ありきたりな蚀葉だった。

    でも、初めおその蚀葉が少しわかった。

    1,292円の向こうに、誰かがいる。


    ハルのコメントの向こうに、ただ名前も顔も知らない生掻がある。

    その人が、䜕かを曞こうずしおいる。


    自分の文章が、そのきっかけのひず぀になったかもしれない。

    智也は、ノヌトにもう䞀行曞いた。


    数字より先に、人がいる。


    曞いおから、少し恥ずかしくなった。

    きれいすぎる。

    でも、消さなかった。

    きれいすぎる蚀葉でも、今の自分がちゃんず匕っかかっおいるなら、残しおいい気がした。

     

    パ゜コンの画面を開く。

    新しいnoteの䞋曞きを䜜る。

    タむトル欄は、空癜。

    智也は、しばらくそこを芋おいた。


    月5䞇円。

    初収益。

    0→1。

    AI副業。

    家族のため。

    認められたい。


    蚀葉が、頭の䞭にいく぀も浮かんでは消える。

    その䞭で、ひず぀だけ残った。

    智也は、タむトルを打った。


    月5䞇円より先に、僕がAI副業で取り戻したかったもの


    打った瞬間、少しだけ怖くなった。

    倧げさかもしれない。

    䜕を取り戻したのか、自分でもただはっきりわからない。

    でも、曞かなければわからないこずがある。

    曞く前に答えがあるわけではない。

    曞きながら、やっず自分の䞭から出おくるものがある。

    智也は、本文を曞き始めた。

    AI副業を始めた理由を、僕はずっず「家族のため」ず曞いおきたした。
    それは嘘ではありたせん。でも、党郚でもありたせんでした。

    そこたで曞いお、手が止たった。

    画面の右䞋に、AIの入力欄が開いおいる。

    い぀ものように頌むこずもできる。

    この蚘事を読みやすく敎えおください。

    そう打ちかけお、やめた。

    春銙の蚀葉を思い出す。

    小野寺の講座で芋た蚀葉を思い出す。

    AIに曞かせるのではなく、敎えさせる。

    でも、敎えすぎない。

    智也は、入力欄にこう曞いた。

    この文章を、きれいにしないでください。
    ただ、読んだ人が䞀歩進めるように敎えおください。

    送信する前に、少しだけ笑った。

    AIにこんなお願いをする日が来るずは思わなかった。

    でも、今はそれが䞀番近かった。


    智也は、送信した。


    画面に返事が衚瀺され始める。

    その文字を埅ちながら、智也はハルのコメントをもう䞀床芋た。

    私も始めおみようず思いたした。

    たった1,292円。

    でも、その金額よりも重いものが、通知欄の䞭にひず぀混ざっおいた。


    


    AIの返事は、い぀もより少し遅く感じた。

    実際には、数秒だったのだず思う。

    でも、その数秒の間に、智也はいく぀ものこずを考えおいた。

    この文章は、誰のものになるのだろう。


    自分が曞いたのか。

    AIが敎えたのか。

    奈緒の蚀葉が入っおいるのか。
    矎優の絵が入っおいるのか。
    ハルのコメントが入っおいるのか。
    春銙の蚘事や、矎咲の䞋曞きや、小野寺の講座の蚀葉たで、どこかで混ざっおいるのか。

    画面に、AIの返事が衚瀺された。

    もちろんです。
    文章の枩床は残したたた、読者が読み進めやすいように敎えたす。

    智也は、その䞀文を芋お少しだけ笑った。

    AIは、い぀も瀌儀正しい。

    倜䞭でも、疲れおいおも、機嫌が悪くおも、同じように返事をしおくる。

    そこが䟿利で、少し怖くお、今は少しだけありがたかった。


    衚瀺された文章を、智也はゆっくり読んだ。

    ずころどころ、敎いすぎおいる。

    「人生を倉える䞀歩」
    「倧切な気づき」
    「読者の皆さんぞ」

    そういう蚀葉が出おくるず、智也は消した。

    自分の文章に戻す。

    少し䞍栌奜なたたにする。


    「家族のため」ずいう蚀葉を削ったずころに、奈緒の声を少しだけ入れる。

    「月5䞇円」ずいう蚀葉の近くに、1,292円の数字を眮く。

    「認められたかった」ずいう蚀葉を、消さずに残す。

    曞いおは止たり、盎しおは戻す。

    AIは䜕床でも敎えようずする。


    智也は、そのたびに少しだけ厩した。

    それは、AIに逆らっおいるずいうより、自分の文章を取り戻す䜜業に近かった。

     

    

     

    春銙の蚘事が公開されたのは、その日の倜だった。

    タむトルは、倉わらなかった。

    母の介護をしながら、私はAI副業で䜕床も折れかけた


    春銙は公開ボタンを抌したあず、すぐにスマホを䌏せた。

    芋ない。

    しばらく芋ない。

    そう決めおいた。

    でも、䞉分埌には芋た。


    スキは、ただ0だった。

    春銙は、スマホを䌏せた。


    五分埌に、たた芋た。

    スキが1になっおいた。


    知らないアカりントだった。

    プロフィヌルには、䜕も曞かれおいない。

    アむコンも初期蚭定のたた。


    それでも、春銙はそのアカりントを䜕床も芋た。

    誰かわからない。

    でも、誰かが読んだ。

    母は、隣の郚屋でテレビを芋おいた。

    い぀もより音量が小さかった。

    春銙は、キッチンでコップを掗いながら、胞の奥が少し震えおいるのを感じおいた。

    たった1。

    でも、その1は、前のスキ3ずは少し違った。

    蚘事をきれいに敎えお埗た反応ではない。

    自分が怖いず思ったタむトルを、消さずに出したあずに぀いた1だった。

     

    その埌、コメントが぀いた。

    私も母の通院に付き添っおいたす。
    AI副業のこずを調べおは、䜕もできないたた寝る日がありたす。
    この蚘事、私のこずかず思いたした。

    春銙は、画面を芋たたた動けなかった。

    私のこずかず思いたした。

    矎咲の蚘事で芋たような蚀葉。

    成功者のコメント欄に䞊んでいた蚀葉。

    それが、自分のずころに来おいた。

    春銙は返信を曞こうずした。

    ありがずうございたす。

    そう打っお、消した。


    泣きそうです。

    そう打っお、消した。


    しばらく迷っお、こう返した。

    読んでくださっおありがずうございたす。
    私も、䜕もできないたた寝る日がありたす。
    でも、今日はこの蚘事を消さずに出せたした。
    それだけでも、少し進んだこずにしおおきたす。

    送信したあず、春銙はスマホを䌏せた。

    今床は、少し長く芋なかった。

    芋るのが怖かったわけではない。

    いや、怖くはあった。

    でも、それ以䞊に、さっきのコメントをしばらく胞の䞭に眮いおおきたかった。

    スキがいく぀増えるかよりも、その䞀文が今は倧きかった。


    母が隣の郚屋から蚀った。

    「春銙、お茶ある」

    「あるよ」

    春銙は立ち䞊がった。


    冷蔵庫を開ける。

    麊茶を泚ぐ。

    グラスの䞭で氷が鳎った。

    䜕も劇的には倉わっおいない。


    母の薬もある。
    䌚瀟もある。
    明日の朝も早い。
    売䞊はただない。

    それでも春銙は、ほんの少しだけ軜かった。

    自分の文章が、誰かの䞭で止たった。

    それだけで、今倜は続けおもいい気がした。

     

    

     

    矎咲は、公開した蚘事の反応を芋おいた。

    成功しおも、䞍安は消えたせん

    画像

    䞉か月間、䞋曞きの䞀番䞋に眮いおいた蚘事。

    䜕床も開いお、䜕床も閉じた蚘事。


    公開したあず、矎咲はすぐ埌悔した。

    出さなければよかったかもしれない。


    成功者なのに匱音を吐いおいるず思われるかもしれない。
    月10䞇円を超えおいる人の䞍安なんお、莅沢だず思われるかもしれない。
    䞍安たでコンテンツにしおいるず思われるかもしれない。

    そう思った。


    けれど、コメント欄には、思っおいた蚀葉ずは違うものが䞊び始めた。

    成功したら楜になるず思っおいたした。
    でも、そうじゃないんですね。

    売䞊が出たあずも怖いずいう蚀葉に救われたした。

    矎咲さんでも䞍安なんだず思ったら、少し安心したした。

    矎咲は、ひず぀ひず぀読んだ。

    その䞭に、短いコメントがあった。

    成功者の話じゃなくお、人の話ずしお読めたした。

    矎咲は、そのコメントを芋た瞬間、息を止めた。


    成功者の話じゃなくお。

    人の話。

    矎咲はスマホを眮いた。


    キッチンには、朝のマグカップがただ残っおいた。

    息子の氎筒も、流しの暪に眮いたたただった。

    倫からは、今日は早く垰るずLINEが来おいた。


    矎咲は、返信を打った。

    了解。今日はカレヌにする。


    送っおから、少し笑った。

    い぀もの生掻だった。


    成功しおも、䞍安は消えない。


    でも、䞍安を曞いたからずいっお、成功が党郚壊れるわけでもなかった。


    矎咲は、䞋曞き䞀芧を開いた。

    䞀番䞋にあった蚘事は、もうそこにはない。

    公開枈みの蚘事ずしお、読者の前に出おいる。

    空いた堎所に、少し颚が通ったような気がした。

     

    矎咲は、新しい䞋曞きを䜜った。

    タむトルは、ただ決たっおいない。


    本文の最初に、こう曞いた。

    数字を芋るこずを、私はたぶんやめられたせん。
    でも、数字の向こうにいる人を芋倱わないようにはしたいです。

    曞いおから、画面を閉じた。


    今日は、もう続きを曞かなくおいいず思った。

    息子が垰っおきたら、たぶんたた蚀われる。

    「ママ、たたスマホ」

    そのずきは、少しだけ長く目を合わせようず思った。

     

    

     

    小野寺陞の販売ペヌゞには、ただあの䞀文が残っおいた。


    本気じゃない日も、やめずにいた人ぞ。


    申蟌率は、思ったほど䞋がらなかった。

    むしろ、少し䞊がっおいた。

    陞はその数字を芋お、拍子抜けした。

    匷く煜らなければ売れないず思っおいた。

    痛い蚀葉で背䞭を抌さなければ、人は動かないず思っおいた。


    でも、そうではない日もあるらしい。


    もちろん、これが偶然かもしれない。

    時期がよかっただけかもしれない。
    講座内容が広たっただけかもしれない。
    春銙の蚘事の玹介が効いただけかもしれない。


    陞は、冷静に考えようずした。


    デヌタずしお芋るなら、ただ刀断するには早い。

    母数が少ない。
    比范条件も揃っおいない。
    怜蚌が必芁。

    そう考える自分は、ちゃんずいた。

    でも、もう䞀人の自分は、少しだけ安心しおいた。


    匱い蚀葉でも、届くこずがある。


    売るために匷くしすぎなくおも、来おくれる人がいる。

    陞は、春銙からのメッセヌゞをもう䞀床読んだ。

    怖いですが、消さないで出しおみたす。

    そのあず、数時間埌にもう䞀通来おいた。

    コメントが来たした。
    私のこずかず思いたした、っお。
    ただ売れおはいないですが、今日はそれだけで少し救われたした。

    陞は、しばらく画面を芋た。

    売れおはいないですが。

    講垫ずしおなら、ここで次の導線を考える。

    コメントから有料蚘事ぞどう぀なげるか。
    プロフィヌルをどう敎えるか。
    次の蚘事をどう出すか。

    もちろん、それは倧事だ。

    でも、今すぐその話をするのは違う気がした。

    陞は返信した。

    それは倧きいです。
    今日は、たず届いたこずをちゃんず受け取っおください。

    送信しおから、少しだけ苊笑した。

    自分がそんなこずを蚀うようになるずは思わなかった。

    届いたこずをちゃんず受け取る。

    それは受講生だけでなく、自分にも必芁なこずだった。

     

    陞は、昔の有料蚘事を開いた。

    ChatGPTで副業を始める完党ロヌドマップ

    今も、非公開にはしおいない。

    ほずんど売れない。

    内容も叀い。

    でも、消せなかった。

    売䞊0だった自分がそこにいる。

    完党ロヌドマップなんお、倧げさなタむトルを぀けた自分がいる。

    恥ずかしい。

    でも、その恥ずかしさも含めお、今の自分の䞀郚だった。

    陞は、その蚘事の冒頭に远蚘を入れた。

    この蚘事は、今読むず未熟です。
    それでも、圓時の僕は本気で曞いおいたした。
    売れなかった蚘事ですが、ここから始たりたした。

    保存する。

    画面には、短く「保存したした」ず衚瀺された。

    陞は、リングラむトのスむッチを入れなかった。

    今日は、自分を明るく芋せなくおもいい気がした。

     

    

     

    奈緒は、智也の䞋曞きを読んだ。

    本人が「読んでみる」ず蚀ったからだった。

    以前はこっそり読んでいた。

    今回は、食卓で智也がノヌトパ゜コンをこちらに向けた。

    「ただ途䞭だけど」

    そう蚀った智也の顔は、少し緊匵しおいた。

    奈緒は、怅子に座った。

    矎優はリビングで宿題をしおいる。

    テレビは぀いおいない。

    郚屋は、い぀もより静かだった。

    タむトルを読む。

    月5䞇円より先に、僕がAI副業で取り戻したかったもの

    奈緒は、少しだけ眉を䞊げた。

    「倧きく出たね」

    智也は苊笑いした。

    「自分でも思っおる」

    奈緒は本文を読んだ。

    家族のためず蚀っおいたこず。
    でも、本圓は自分が認められたかったこず。
    スキが぀いお嬉しかったこず。
    1,292円が想像より重かったこず。
    矎優の話を聞き逃したこず。
    奈緒に蚀われた蚀葉。
    家族を蚀い蚳にしおいたかもしれないこず。


    奈緒は、ゆっくりスクロヌルした。

    途䞭で、手が止たった。

    家族のためず曞けば、僕はちゃんずした人に芋える気がしおいたした。
    でも本圓は、家族を倧切にしたかったのず同じくらい、自分のこずも誰かに芋おほしかったのだず思いたす。

    奈緒は、その䞀文をしばらく芋た。

    画面の䞭にいる智也は、前より少し栌奜悪かった。


    でも、前より近かった。



    きれいな家族ではない。

    面倒くさい家族がいた。

    レシヌトを芋おため息を぀く自分もいた。
    猫の絵を持っお立っおいた矎優もいた。
    スマホを芋おしたう智也もいた。


    奈緒は、最埌たで読んだ。


    「どう」

    智也が聞いた。

    奈緒は、少し考えた。

    耒めすぎるず、智也は安心しすぎる気がした。


    厳しく蚀いすぎるず、今床は閉じおしたう気がした。


    「前より、智也がいる」

    奈緒は蚀った。


    智也は、少しだけ目を䌏せた。

    「そっか」

    「うん」

    「読みにくくない」

    「ちょっず読みにくいずころはある」

    「やっぱり」

    「でも、党郚きれいにしなくおいいず思う」

    奈緒は、パ゜コンの暪に眮かれたノヌトを芋た。

    家族のためだけじゃなかった。俺のためでもあった。

    その文字が、ただ残っおいる。


    奈緒は続けた。

    「読みにくいずころに、本音が残っおるずきもあるから」


    智也は、少し驚いた顔をした。

    「奈緒、線集者みたいだね」

    「掗濯物線集者」

    「䜕それ」

    二人は少し笑った。


    矎優がリビングから蚀った。

    「䜕笑っおるの」

    「パパの文章」

    「たた文章」

    矎優は呆れた顔をした。

    でも、怒っおはいなかった。


    智也は矎優の方を芋た。

    「あずで、今日の宿題芋せお」

    「あずでっおい぀」

    「この文章盎したら」

    矎優の目が少し现くなった。

    智也は、すぐに蚀い盎した。

    「いや、今芋る」

    奈緒は、䜕も蚀わなかった。


    矎優は少し勝ち誇ったような顔をした。

    「じゃあ、こっち来お」

    智也はパ゜コンを閉じずに、でも手を離した。


    垭を立぀。

    その動きは、ほんの少しぎこちなかった。

    でも、奈緒はそれでいいず思った。

    完璧な倉化ではない。

    ただ、次の䞀回を遞び盎しただけ。

    家族は、そういう小さな修正でできおいる。

     

    

     

    ハルが初めお投皿した蚘事のタむトルは、短かった。

    うたく曞けないけど、始めおみたす


    智也は、その蚘事を倜に芋぀けた。

    ハルがコメントで知らせおくれたわけではない。

    ただ、noteのタむムラむンに流れおきた。

    アむコンは、以前ず同じだった。

    プロフィヌルには、少しだけ文章が増えおいた。

    AI副業を勉匷䞭。
    曞くのは苊手ですが、たず䞀぀出しおみたす。

    智也は、蚘事を開いた。


    文章は、短かった。

    芋出しも少ない。

    有料蚘事でもない。

    収益化導線もない。

    AI副業のノりハりずしお芋れば、匱い。


    でも、智也は最埌たで読んだ。

    ずっず芋るだけでした。
    すごい人の蚘事を読んで、私には無理だず思っおいたした。でも、今日、完璧じゃなくおも曞いおいいのかもしれないず思いたした。皌げたわけじゃないです。でも、久しぶりに、自分で䜕かを始めた気がしたした。


    智也は、その最埌の䞀文を芋お、しばらく動けなかった。


    久しぶりに、自分で䜕かを始めた気がしたした。

    それは、ハルの文章だった。


    でも、どこかで自分のこずでもあった。

    智也は、スキを抌した。


    コメント欄を開く。

    䜕を曞こうか少し迷った。

    始めおくれおありがずうございたす。

    違う気がした。

    自分が始めさせたようで、少し傲慢だった。

    玠敵な蚘事でした。

    悪くはない。

    でも、もう少しだけ本圓のこずを曞きたかった。

    智也は、こう曞いた。

    読みたした。
    完璧じゃないたた出した感じが、すごく䌝わりたした。
    僕もただ途䞭です。
    お互い、戻っおきたらたた曞きたしょう。


    送信する。



    すぐに反応はなかった。

    それでよかった。


    蚀葉は、すぐに返っおこなくおも、どこかに残るこずがある。

    智也は、そう思えるようになっおいた。

     

    

     

    最終蚘事は、翌日の倜に公開した。

    月5䞇円より先に、僕がAI副業で取り戻したかったもの


    公開ボタンを抌す盎前、智也は深く息を吞った。

    䜕床も読み返した。

    削った。
    戻した。
    AIに敎えおもらった。
    たた自分で厩した。
    奈緒に読んでもらった。
    矎優の宿題も芋た。
    途䞭で寝た。
    朝、たた盎した。


    完璧ではない。

    でも、今の自分が差し出せる文章にはなった。


    本文の最埌は、こう曞いた。

    AI副業で月5䞇円を目指すこずは、悪いこずではないず思いたす。

    僕も、ただ目指しおいたす。生掻が楜になったら嬉しい。家族ず少し遠出できたら嬉しい。絊料日だけを埅぀自分から、少し倉われたら嬉しい。

    でも、その前に僕が取り戻したかったのは、たぶん、自分の蚀葉で䜕かを始める感芚でした。

    AIは、僕より速く文章を曞きたす。僕よりきれいにたずめたす。僕よりそれらしい蚀葉を遞びたす。

    でも、僕の絊料明现を芋たずきの冷たさは、僕が差し出さないず出おこない。

    嚘の絵を芋逃した情けなさも、劻に蚀われた蚀葉の痛さも、初めお1,292円が売れたずきの嬉しさず怖さも、僕が枡さなければ文章にはならない。

    だから、AIに曞いおもらうのではなく、AIず䞀緒に、自分が芋ないふりをしおいたものを文章にする。それが、今の僕にずっおのAI副業です。

    月5䞇円には、ただ遠いです。たぶん、䜕床も止たりたす。

    たた通知を芋すぎる日もあるず思いたす。うたく曞けなくお、消したくなる日もあるず思いたす。

    でも、戻っおきたら、たた曞けばいい。

    続けるずいうのは、たぶん、そういうこずだった。

    智也は、最埌の䞀文を䜕床も芋た。

    戻っおきたら、たた曞けばいい。


    それは、ハルぞの返信から出おきた蚀葉だった。

    でも、春銙にも、矎咲にも、小野寺にも、奈緒にも、そしお自分にも向いおいる気がした。

    智也は公開ボタンを抌した。


    蚘事が公開される。

    画面に、短く衚瀺される。

    投皿したした。

    それだけだった。

    花火も鳎らない。
    音楜も流れない。
    人生が倉わる効果音もない。

    ただ、文章がひず぀、倖に出た。

    智也は、しばらくその画面を芋おいた。

     

    

     

    反応は、すぐには倧きくなかった。

    スキがひず぀。

    次に、二぀。

    しばらく止たる。

    智也は、以前なら䜕床も曎新しおいただろう。


    いや、今もした。

    䜕床かはした。

    完党に倉わったわけではない。

    通知欄の赀い䞞を芋るず、やっぱり胞が動く。

    でも、前ほど振り回されおはいない気がした。

    いや、振り回されそうになったずき、少しだけ戻っおこられるようになった。

    それくらいの倉化だった。

    十分だった。

     

    コメントが぀いた。

    春銙だった。

    読みたした。
    「戻っおきたら、たた曞けばいい」に救われたした。
    私も、止たりながら続けたす。

    智也は返信した。

    僕も止たりたす。
    でも、たた曞きたす。

    次に、矎咲からスキが぀いた。

    コメントはなかった。

    でも、数分埌、Xで矎咲が蚘事を匕甚しおいた。

    AI副業は、AIに文章を任せるこずではなく、自分の生掻を芋぀め盎すこずでもある。
    この蚘事、ずおも正盎でした。

    智也は、その投皿を芋お、手が止たった。

    矎咲に読たれた。


    第2章で遠くに芋えた成功者。

    その人が、自分の蚘事を読んでいる。

    嬉しかった。


    でも、前のように舞い䞊がるだけではなかった。


    ありがたい。

    そう思った。

    その蚀葉が、玠盎に出おきた。


    小野寺も、短くリプをくれた。

    この䞀文、いいですね。
    「戻っおきたら、たた曞けばいい」
    これ、かなり本質だず思いたす。

    智也は、画面を芋お少し笑った。

    講垫っぜい。

    でも、嫌ではなかった。

    ハルからも、コメントが来た。

    私も今日、二぀目の䞋曞きを曞きたした。
    ただ公開できおいたせん。でも、消さずに残しおいたす。

    智也は返信した。

    残しおいるだけでも、続いおいるず思いたす。

    送信したあず、自分の蚀葉に少し驚いた。

    残しおいるだけでも、続いおいる。


    そんなふうに、自分にも蚀っおいいのかもしれない。

     

    

     

    その倜、智也はスマホを持っおリビングに座っおいた。

    通知欄には、赀い䞞が぀いおいる。

    蚘事の反応は、少しず぀増えおいた。

    倧バズではない。

    ランキングに入ったわけでもない。

    月5䞇円に近づいたず蚀えるほどでもない。

    でも、いく぀かのコメントが来おいた。

    自分も家族のためず蚀いながら、自分が救われたかったんだず思いたした。

    AIに曞かせおいる぀もりが、自分が䜕を曞きたいのかわからなくなっおいたした。

    1,292円の話がリアルでした。

    智也は、ひず぀ひず぀読んだ。

    前なら、数字を先に芋おいた。

    スキの数。
    閲芧数。
    フォロワヌ数。

    今も芋る。

    芋ないわけではない。

    でも、コメントを読む時間が少し長くなった。

    数字の奥に人がいる。

    ノヌトに曞いたその蚀葉は、ただ少しきれいすぎる。

    でも、今日の智也には、そのきれいさを信じたい理由があった。

     

    「パパ」

    矎優の声がした。

    智也は顔を䞊げた。

    矎優が、リビングの入り口に立っおいる。

    手には、孊校のプリントを持っおいた。

    「今日ね、垭替えした」

    智也のスマホが震えた。

    通知欄の赀い䞞が、画面の端で光った。


    矎優は話し始めおいる。

    「でね、隣がさ  」


    智也の指が、䞀瞬だけ動きかけた。


    芋たい。

    誰からの通知だろう。

    ハルかもしれない。
    矎咲かもしれない。
    知らない誰かのコメントかもしれない。
    たた賌入されたのかもしれない。

    胞が動く。

    智也は、その動きを感じた。


    感じたたた、スマホを䌏せた。


    テヌブルの䞊に、画面を䞋にしお眮く。

    「ごめん」

    矎優が止たった。

    「え」

    智也は、矎優を芋た。

    「もう䞀回蚀っお」

    画像

    矎優は、少し䞍思議そうな顔をした。


    それから、少しだけ笑った。

    「だから、垭替えしたの」

    「うん」

    「隣が、前に牛乳こがした子で」

    「たたこがしそう」

    「そう。絶察こがす」


    矎優は笑った。

    智也も笑った。


    奈緒がキッチンからこちらを芋おいた。

    䜕も蚀わなかった。

    ただ、少しだけ口元が緩んでいた。

     

    スマホは、䌏せたたただった。


    通知は消えおいない。

    赀い䞞は、そこにある。

    戻れば、たた芋られる。

    返信もできる。

    数字も確認できる。

    蚘事も盎せる。

    明日たた曞ける。


    でも、今は矎優の話を聞いおいる。

    それだけのこずだった。

    たったそれだけのこずが、少し前の智也には難しかった。

     

    矎優の話は、長かった。

    垭替えの話から、絊食の話になり、猫の絵がただ廊䞋に貌られおいる話になり、最埌はなぜかクラスの金魚の名前の話になった。

    智也は党郚を完璧には芚えられなかった。

    でも、聞いおいた。

    途䞭で、䜕床か笑った。

    奈緒が味噌汁を枩め盎す音がした。

    郚屋には、生掻の音があった。

    スマホの光ではなく、台所の明かりが食卓を照らしおいた。

     

    話が終わったあず、矎優は満足したようにリビングに戻っおいった。


    智也は、䌏せたスマホを芋た。

    ただ赀い䞞は぀いおいる。

    でも、すぐには開かなかった。

    ノヌトを匕き寄せる。

    最埌のペヌゞに、䞀行だけ曞いた。


    戻っおきたら、たた曞けばいい。


    その䞋に、少し迷っお、もう䞀行足した。

    戻る堎所を、なくさないように。


    智也はペンを眮いた。

    この文章が、誰のものだったのか。

    ただ、はっきりずはわからない。


    AIの力も借りた。

    奈緒の蚀葉も借りた。

    矎優の絵も、ハルのコメントも、春銙の痛みも、矎咲の䞍安も、小野寺の迷いも、どこかで混ざっおいる。

    でも、混ざっおいるからこそ、
    自分のものではないずは思わなかった。


    自分だけで生たれた文章なんお、たぶん最初からない。


    誰かの蚀葉に匕っかかり、生掻の䞭で傷぀き、数字に揺れ、通知に振り回され、それでももう䞀床戻っおきお曞く。

    その途䞭に、自分の文章はできおいく。


    智也は、スマホを手に取った。

    ただ開かない。

    ただ、暪に眮いた。


    奈緒が食卓に味噌汁を眮いた。

    「冷めるよ」

    「うん」

    智也はうなずいた。


    倜は、ただ少し残っおいた。

    曞くこずも、ただ残っおいた。

    生掻も、ただ続いおいた。

     

    戻っおきたら、たた曞けばいい。

    続けるずいうのは、たぶん、そういうこずだった。




    あずがき

    AI副業は、魔法ではない。でも、䜕かを始めるきっかけにはなる。


    ここたで読んでくださり、ありがずうございたした。

    『その文章は、誰のものだったのか』は、
    AI副業で倧成功する人だけを描いた物語ではありたせん。


    むしろ、この物語に出おくる人たちは、みんな途䞭にいたす。

    • 月5䞇円を目指しながら、ただ1,292円の智也。

    • 成功しおいるように芋えお、䞍安を抱え続ける矎咲。

    • 努力しおいるのに報われず、それでも本音を曞こうずした春銙。

    • 売る偎に立ちながら、自分の蚀葉の匷さに迷う小野寺。

    • 家族のためずいう蚀葉の裏で、今ここにいる家族を芋おほしかった奈緒。

    • そしお、読むだけだった堎所から、最初の䞀文を曞き始めたハル。


    誰かが劇的に人生を倉えたわけではありたせん。

    でも、少しず぀倉わりたした。


    スマホを芋る前に、嚘の話を聞く。
    怖いタむトルを、消さずに残す。
    成功しおも䞍安だず曞く。
    匷い売り文句を、少しだけ匱くする。
    「家族のため」だけではなく、「自分のためでもあった」ず認める。
    完璧ではない文章を、倖に出しおみる。

    たぶん、続けるずいうのは、
    こういう小さなこずの積み重ねなのだず思いたす。

    AIは、文章を速くしおくれたす。
    敎えおくれたす。
    タむトルを考えおくれたす。
    構成も出しおくれたす。

    でも、自分が䜕に傷぀いたのか。
    䜕を悔しいず思ったのか。
    䜕に救われたのか。
    誰に届けたいのか。

    そこだけは、やっぱり自分の䞭から出すしかありたせん。

    AIに曞いおもらうこずはできたす。
    けれど、AIに人生を代わりに感じおもらうこずはできたせん。

    だからこそ、AI時代の文章には、逆に「その人」が出るのだず思いたす。

    きれいな文章かどうか。
    正しいノりハりかどうか。
    収益に぀ながるかどうか。

    それも倧切です。

    でも、その前に、
    その文章の䞭に、自分がいるか。

    この物語で描きたかったのは、そこでした。

    AI副業は、魔法ではありたせん。

    始めたからずいっお、すぐに皌げるわけでもありたせん。
    努力しおも、反応が少ない日もありたす。
    誰かの成功が、たぶしくお苊しくなる日もありたす。
    通知欄の赀い䞞に、心を持っおいかれる日もありたす。

    それでも、戻っおきたら、たた曞けばいい。

    䞀床止たっおもいい。
    䞋曞きのたたでもいい。
    スキが少なくおもいい。
    うたく蚀葉にならなくおもいい。

    たた戻っおきお、少しだけ本圓のこずを曞けたなら、
    それはもう、続いおいるのだず思いたす。

    この物語が、
    AI副業を始める人だけでなく、
    䜕かを曞こうずしおいる人、
    䜕かを続けようずしおいる人、
    䞀床止たっおしたったけれど、たた戻りたいず思っおいる人に届いたら嬉しいです。

    月5䞇円より先に、取り戻したいものがある。

    それはきっず、
    自分の生掻を、自分の蚀葉で芋぀め盎す感芚なのだず思いたす。

    読んでくださり、本圓にありがずうございたした。

    戻っおきたら、たた曞けばいい。

    この蚀葉を、私自身にも残しおおきたす。



    ▌筆者玹介

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