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AIがデマを見抜ける時代なのに、なぜ人はそれでもだまされるのか

もし今、あなたのスマホに「たった今起きた事故や災害」の写真が流れてきたら、あなたはどうしますか。信じて誰かに伝えますか、それとも一度立ち止まりますか。

先日の熊本地震でも、SNS上にはたくさんのうその画像や動画が飛び交いました。それを裏側で見破っている会社があると知ったとき、私はほっとすると同時に、ある疑問が浮かびました。

これほどAIの技術が進化した今でも、なぜ私たちはいまだにデマにだまされてしまうのでしょうか。それは、あなたの注意力が足りないからではありません。

公認心理師として日々「人の心の動き」と向き合ってきた立場から、今日はその理由と、明日から誰でもできる向き合い方について、じっくりお話ししていきたいと思います。


熊本地震で、実際に起きていたこと


熊本地震の被災地では、実際には別の場所や別の時期に撮影された映像を「今の熊本」だと偽って発信する投稿が確認されました。

こうしたデマを見分ける仕組みとして、報道で紹介されていたのがスペクティという企業が提供する「Spectee Pro」というシステムです。気象データや監視カメラ、自治体の避難情報に加えて、私たち一般の人々のSNS投稿までも情報源として取り込み、今どこで何が起きているのかを可視化しているのだそうです。熊本県庁でもこのシステムが災害対応に使われていたと報じられていました。

私がこの話でいちばん興味を引かれたのは、その先の「デマの見分け方」です。

AIだけでは足りない、最後に人の目が必要な理由


報道によると、Spectee Proのファクトチェックは、大きく3つの段階を踏むといいます。

まずAIが、過去のデマのパターンをもとに投稿の「怪しさ」を score化する。次に、投稿したアカウントの信頼性を確認する。そして、過去の災害映像を集めた大規模なデータベースと照合し、使い回された映像を見抜く。

ここまではほぼ自動化されているものの、最終的な判断は「アンカーチーム」と呼ばれる専任スタッフが人の目で行っているとのことでした。AIはまだ完璧ではないから、必ず人間が確認する。これは「Human-in-the-Loop」という考え方だそうです。

私はこの話を知って、率直に安心しました。同時に、こうも思ったのです。

これほど手厚い仕組みを持つプロの組織でさえ、最後は「人の目」を信じている。だとしたら、私たち一般の個人が、AIの真偽判定に丸ごと頼りきってしまうのは、実はいちばん危ういことなのかもしれません。

なぜ、AIがあっても人はだまされてしまうのか


ここからは私の専門である心理の視点でお話しします。

人がデマにだまされてしまう理由は、決して「情報を集める努力が足りないから」ではありません。私は、大きく3つの心の働きが関係していると考えています。

ひとつめは、感情が思考を追い越してしまうことです。恐怖や不安を感じているとき、人の脳は「じっくり検証する」よりも「早く反応する」ことを優先します。災害時にデマが広がりやすいのは、まさにこの状態が起きやすいからです。

ふたつめは、まわりに合わせたくなる気持ちです。多くの人がシェアしている投稿を見ると、それだけで「本当らしい」と感じてしまう。これは弱さではなく、人間が集団の中で生きるために備えている、ごく自然な傾向です。

みっつめは、自分が信じたいことを信じてしまう傾向です。もともと不安に思っていたことや、日頃から感じていた不満に合致する情報ほど、疑わずに受け入れやすくなります。

歴史をさかのぼると、1938年にアメリカで放送されたラジオドラマが、火星人の襲来を伝える臨時ニュースだと誤解され、多くの聴取者が本気で避難行動をとったという出来事がありました。当時はSNSもスマートフォンもありません。それでも、不安な状況の中で人は事実確認より先に行動してしまう。この人間の性質そのものは、80年以上たった今もほとんど変わっていないのだと思います。

心理職の現場で感じること


私はカウンセリング業務こそ行っていませんが、医療の現場で、健康や病気に関する不確かな情報に振り回され、必要以上に不安を募らせてしまう方をたびたび目にしてきました。

そうした方々に共通しているのは、決して「知識がない」ことでも「だまされやすい性格」だということでもありません。むしろ、真面目に向き合おうとするからこそ、不安な情報に強く反応してしまう。そんな印象を持っています。

だからこそ私は、デマにだまされることを「情報弱者だから」と片づける考え方には賛成できません。それは誰にでも起こりうる、人間の心の自然な反応だと捉えるところから始めるべきだと考えています。

だまされることは、弱さではない


ここまで読んで、「自分も過去にデマを信じて拡散してしまったことがある」と、心当たりのある方もいらっしゃるかもしれません。

その経験を、どうか責めないでください。それはあなたの注意力が足りなかったからではなく、人の心がもともとそういう仕組みで動いているからです。

大切なのは、過去の失敗を悔やむことではなく、次に同じ場面に出会ったときに、少しだけ違う行動を選べるようになること。それだけで、十分な変化だと私は思います。

今日からできる、3つの小さな習慣


Spectee Proの仕組みからヒントを得て、私たちが日常でできることを考えてみました。

まずは、心が大きく動いた投稿ほど、いったん深呼吸をして手を止めること。感情が強く揺さぶられたときこそ、判断が最も不安定になっているタイミングだからです。

次に、発信元を確認する習慣です。初めて見るアカウントなのか、過去にも同じような投稿を繰り返していないか。ほんの数秒見るだけでも、印象はずいぶん変わります。

最後に、ひとつの情報だけで判断せず、複数の情報源を照らし合わせること。これはプロのファクトチェックチームが最終確認で必ず行っている、地味だけれど最も確実な方法でもあります。

派手なテクニックではありません。けれど、この3つを意識するだけで、あなた自身も、そしてあなたの大切な人も、デマによる混乱から守ることができると、私は信じています。

AIの技術がどれだけ進化しても、最後に判断するのは私たち人間です。だからこそ、その判断を支える心の仕組みを知っておくことには、大きな意味があります。

あなたの「一呼吸置く力」は、思っている以上に大きな価値を持っています。今日からその力を、少しずつ育てていってください。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。

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