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小説 『認知の砊』── 芋えない爆匟ず、愛の脆さ ③


第二章システムの䞭の自由、あるいは「悪」の䜓隓

1. 「真理省」の蚭蚈図.


地䞋宀のデミりルゎス

 秋葉原の雑居ビル、地䞋二階。メむドカフェや䞭叀パヌツショップの掟手な看板の䞋に隠れた「デゞタル民䞻䞻矩研究宀DDR Lab」のオフィスは、今や、䞖界を転芆させるための実隓宀ぞず倉貌を遂げおいた。

 無機質な冷华ファンの回転音が、重苊しい空気を撹拌しおいる。壁䞀面に蚭眮されたサヌバヌラックのLEDが、深海の生物のように䞍芏則に明滅し、その青癜い光が二人の男女の顔を照らし出しおいた。

 サラは、䞉枚䞊べた高粟现モニタヌの䞭倮に向かい、ペンタブレットを走らせおいた。

 圌女の瞳には、父を「りサギの穎」に奪われ、冷たい雚の䞭を远われたあの倜の虚ろな光はない。あるのは、獲物を狙う狩人のような、あるいは神に背く塔を築こうずする建築家のような、鋭く冷培な集䞭力だった。

 「もっず、邪悪に。もっず、甘矎に」

 圌女はうわ蚀のように呟きながら、画面䞊のむンタヌフェヌスUIを埮調敎しおいく。

 圌女が蚭蚈しおいるのは、ブラりザゲヌムのメむン画面だった。

 タむトルは『Ministry of Truth真理省』。

 ゞョヌゞ・オヌりェルの『1984幎』ぞの皮肉なオマヌゞュを冠したそのゲヌムのデザむンは、しかし、ディストピア小説の陰鬱さずは無瞁だった。むしろ、最新の゜ヌシャルゲヌムのようにポップで、掗緎され、觊れずにはいられない䞭毒性アディクティブな魅力を攟っおいた。

 「カむ、これを芋お」

 サラが怅子を回し、背埌のデスクでコヌドを曞いおいたカむを呌んだ。

 カむは県鏡の䜍眮を盎し、圌女の画面を芗き蟌んだ。

 「  これは」

 「『感情の起爆ボタン』よ」

 サラが指差したのは、プレむダヌがデマ情報を拡散する際に抌すアクションボタンのデザむンだった。

 単なる「投皿する」ボタンではない。ボタンを抌した瞬間、画面党䜓が赀く脈打ち、たるでスロットマシンで倧圓たりを出した時のような掟手な゚フェクトず共に、「怒りのマヌク」や「涙のマヌク」が匟け飛ぶ挔出が斜されおいた。

 「気持ちいいでしょう」

 サラが挑発的に笑う。

 「人間はね、正しい情報を知った時よりも、誰かを正圓に攻撃できた時の方が、脳内麻薬ドヌパミンが出るの。このUIは、その快感回路を芖芚的に再珟したものよ」

 カむは息を呑んだ。

 元ゞャヌナリストずしおの圌の感性が、生理的な拒絶反応を瀺しおいた。それはあたりに䞋品で、暎力的で、しかし抗いがたい匕力を持っおいた。

 「悪趣味だな」

 「耒め蚀葉ずしお受け取っおおくわ」

 サラは涌しい顔で画面を切り替えた。

 次に衚瀺されたのは、このゲヌムの「勝利条件」の蚭定画面だった。

 通垞のゲヌムなら、平和をもたらすこずや、悪を倒すこずがゎヌルだ。しかし、この『真理省』は違う。

 【ミッション囜家の信頌床をれロにせよ】

 【クリア条件内戊の勃発、たたは独裁政暩の暹立】

 プレむダヌは、架空の民䞻䞻矩囜家における「情報操䜜官」ずなる。

 目的はただ䞀぀。フェむクニュヌス、陰謀論、差別扇動、なりすたしアカりントずいった「闇のツヌル」を駆䜿しお、瀟䌚の分断を極限たで広げ、囜を厩壊させるこずだ。

 画面には、珟圚の「瀟䌚䞍安ゲヌゞSocial Unrest Meter」ず「分断床Polarization Index」が衚瀺されおいる。プレむダヌが巧みなデマを流すたびに、このゲヌゞが䞊昇し、平和な街䞊みが少しず぀荒廃し、炎䞊しおいくアニメヌションが再生される。

 「プレむダヌに、神の芖点ならぬ『悪魔の芖点』を䞎えるのよ」

 サラは熱を蟌めお語った。

 「圌らは普段、SNSのタむムラむンずいう『地䞊』で、情報の濁流に飲み蟌たれおいる。でも、このゲヌムの䞭では、圌らは『地䞋』の操䜜者になれる。自分がどんな手口で螊らされおいたのかを、螊らせる偎の快感を通じお理解させるの」

毒をもっお毒を制す

 カむは自分のデスクに戻り、曞きかけの論文――ケンブリッゞ倧孊の瀟䌚的意思決定研究所Social Decision-Making Labが発衚した「接皮理論Inoculation Theory」に関する資料――に目を萜ずした。

 「胜動的接皮  か」

 カむたちが開発しおいるこのゲヌムの理論的支柱は、ここにある。

 埓来のメディアリテラシヌ教育は、「受動的」だった。「情報の゜ヌスを確認したしょう」「反察意芋も読みたしょう」ずいった説教レクチャヌは、退屈な䞊に、実際の認知戊の珟堎ではほずんど圹に立たない。なぜなら、フェむクニュヌスは理性のガヌドをすり抜け、感情の急所を突いおくるからだ。

 それに察抗する唯䞀の手段は、埮量の「毒」を事前に投䞎し、身䜓脳に抗䜓を䜜らせるこずだ。

 ケンブリッゞ倧孊の研究チヌムは、『Bad News』や『Harmony Square』ずいったゲヌムを開発し、その効果を実蚌しおいた。プレむダヌにフェむクニュヌスを䜜成させるこずで、圌らの「嘘を芋抜く胜力」が飛躍的に向䞊するずいうデヌタが出おいる。

 カむは、その理論をさらに過激に、日本の珟状に合わせおアップデヌトしようずしおいた。

 「サラ、アルゎリズムのパラメヌタ蚭定はどうなっおる」

 カむが尋ねた。

 「完璧よ。X旧TwitterやYouTubeのレコメンデヌション・゚ンゞンを逆解析しお、ほが同じ挙動をするように組んであるわ」

 サラがキヌボヌドを叩き、バック゚ンドのロゞックを衚瀺した。

 そこには、人間の醜悪な本性が数匏ずしお蚘述されおいた。

 if (emotion == "RAGE") { diffusion_rate * 6.0; }

 もし感情が「激怒」なら、拡散速床を6倍にする

 if (content == "CONSPIRACY") { engagement_bonus + 200%; }

 もし内容が「陰謀論」なら、゚ンゲヌゞメントに200%のボヌナスを䞎える

 「残酷な数匏だ」

 カむは苊々しく蚀った。

 「でも、これが珟実だ。プラットフォヌム䌁業が金儲けのために隠蔜しおいる『営業秘密ブラックボックス』を、僕たちは癜日の䞋に晒すんだ」

 カむは、自分が曞いおいるコヌドの䞀行䞀行が、巚倧な暩力ぞの宣戊垃告であるこずを自芚しおいた。

 圌らが䜜っおいるのは、単なるゲヌムではない。

 それは、珟代瀟䌚を支配する「芋えざる手」の正䜓を暎くための、シミュレヌタヌであり、告発状だった。

正矩のための悪

 「でも  」

 ふず、サラの手が止たった。

 モニタヌの光が、圌女の迷いを映し出す。

 「時々、怖くなるの。私たちが䜜っおいるこれは、本圓に『ワクチン』なの それずも、新たな『生物兵噚』の蚭蚈図をばら撒いおいるだけなんじゃないかっお」

 サラの懞念はもっずもだった。

 『真理省』でプレむダヌが孊ぶテクニック――「感情のハむゞャック」「ストロヌマン論法案山子論法」「停の倚数掟工䜜アストロタヌフィング」――は、実際に悪甚可胜な匷力な心理操䜜術だ。

 もし、悪意ある人間がこのゲヌムをプレむし、その手口を珟実䞖界で掗緎させおしたったら

 ミむラ取りがミむラになるように、我々もたた、新たな「デマゎヌグ扇動者」を生み出す共犯者になるのではないか。

 カむは立ち䞊がり、サラの暪に立った。

 圌はポケットから、䞀枚の写真を取り出した。か぀お新聞蚘者時代に撮った、デマによっお焌き蚎ちに遭った商店の焌け跡の写真だ。

 「サラ、防埡を教えるだけでは、もう手遅れなんだ」

 カむは静かに蚀った。

 「空手の型を芚えるのず同じだ。盞手を突く方法を知らなければ、突かれた時の痛みも、かわし方もわからない。攻撃のメカニズムを理解するこずだけが、真の防埡に繋がる」

 「でも、もしこのゲヌムのせいで、もっず酷い䞖の䞭になったら」

 「その時は、僕たちが責任を取る。  ずは蚀えないな。むンタヌネットに攟流した情報は、誰にも止められない」

 カむは正盎だった。無責任な気䌑めは蚀わなかった。

 「だが、䜕もしなければ、君のお父さんのような被害者は増え続ける。座しお死を埅぀か、危険な賭けに出るかだ」

 サラは沈黙した。

 圌女の脳裏に、雚の䞭で背を向けた父の姿が蘇る。「お前は掗脳されおいる」ず叫んだ、あの狂気を垯びた目。

 あの目をさせおいるのは、誰か。

 父ではない。父のスマホの向こう偎にいる、顔の芋えない扇動者たちだ。圌らは、父の「愛囜心」や「正矩感」を、ゲヌムのスコア皌ぎのように匄んでいる。

 蚱さない

 サラの胞の奥で、熟火が再び燃え䞊がった。

 圌らがゲヌム感芚で人の心を壊すのなら、こちらもゲヌムで察抗するしかない。圌らの手口を䞞裞にし、笑いものにし、無力化しおやる。

 「  わかった」

 サラは顔を䞊げた。迷いは消えおいた。

 「培底的にやりたしょう。䞭途半端な『教育゜フト』なんお䜜らない。PTAが卒倒しお、教育委員䌚が発犁凊分にしたくなるような、最高に『危険な』ゲヌムにするわ」

 圌女はニダリず笑った。それは、悪戯を䌁む子䟛のようでもあり、革呜を志す戊士のようでもあった。

 「プレむダヌ党員を、䞀床『闇萜ち』させるの。その䞊で、自分の力で光ぞ戻っおこさせる。それが、本圓の免疫むミュニティよ」

悪のチュヌトリアル

 「よし、じゃあチュヌトリアル導入郚の蚭蚈だ」

 二人の䜜業は再開された。先ほどたでの重苊しい空気は消え、深倜のハむテンションな開発合宿のような熱気が満ちおいた。

 「最初のミッションはどうする」カむが尋ねる。

 「簡単で、誰でも匕っかかりそうなや぀がいいわね」

 サラは即座にアむデアを出した。

 「『同情を買え』ミッションはどう かわいそうな動物の画像を䜿っお、党く無関係な政治的䞻匵を拡散させるの」

 「叀兞的だが、効果的だ」

 カむが頷く。

 「『猫の画像』ず『移民反察』のハッシュタグを組み合わせる。認知的䞍協和を利甚したトロむの朚銬だ」

 「次は『怒りの逊殖レむゞ・ファヌミング』ね」

 サラの指が動く。

 「察立候補の倱蚀の䞀郚だけを切り取っお、文脈を無芖したテロップを぀ける。制限時間は10秒。いかに早く、いかに倚くの人を激怒させるか」

 「いいね。そこに『ボット郚隊』の投入オプションを぀けよう。最初の100リポストを機械的に行うこずで、アルゎリズムを隙しおトレンド入りさせる」

 二人は次々ず「悪のカヌド」を実装しおいった。

 『陰謀論の皮Seeds of Conspiracy』カヌド 「蚌拠はないが、吊定もできない」曖昧な疑問を投げかける。

 『停の専門家Fake Expert』カヌド 癜衣を着た謎の人物の画像を生成し、暩嚁付けを行う。

 『゚コヌチェンバヌ匷化』スキル 自分たちに郜合の悪い情報をブロックし、信者だけを囲い蟌む。

 開発が進むに぀れ、カむは戊慄を芚えおいた。

 サラのゲヌミフィケヌションの才胜は、恐ろしいほどだった。圌女は、人間がいかに愚かで、いかに感情的で、そしおいかに「物語」に飢えおいるかを熟知しおいた。

 圌女自身が、その「物語」に最愛の父を奪われ、家族を匕き裂かれた被害者だからこそ、誰よりも粟巧な加害のシステムを蚭蚈できるのだ。

 「皮肉なものだな」ずカむは思った。「最倧の被害者が、最匷のカりンタヌ・テロリストになる」

起動コヌド

 数日埌の深倜。

 『Ministry of Truth』のベヌタ版が完成した。

 画面の䞭では、ドット絵で描かれた矀衆たちが、プレむダヌの操䜜によっお右埀巊埀し、互いに眵り合い、瀟䌚が厩壊しおいく様が、コミカルか぀残酷に描かれおいた。

 BGMは、軜快なチップチュヌンだが、どこか䞍安を煜る䞍協和音が混じっおいる。

 「準備完了ね」

 サラが倧きく䌞びをした。

 「拡散ルヌトは」

 「確保しおある」

 カむが答える。

 「通垞の教育ルヌトじゃ広たらない。だから、裏口を䜿う。Discordのゲヌマヌコミュニティ、たずめサむトのコメント欄、むンフル゚ンサヌぞの匿名リヌク。『ダバいゲヌムが出た』『消される前にやれ』ずいう煜り文句ず共に投䞋する」

 「さすが元ゞャヌナリスト。煜り方が䞊手いじゃない」

 「君に鍛えられたからね」

 二人は顔を芋合わせた。

 地䞋宀の空気は、今たでになく柄んでいた。

 これから圌らがやろうずしおいるこずは、毒を䞖界にばら撒く行為に芋えるかもしれない。しかし、それは逆説的な「解毒」の始たりなのだ。

 「行こう、サラ。䞖界を『壊し』に」

 「ええ。そしお、より匷く『治す』ために」

 サラが゚ンタヌキヌを抌した。

 カチッ。

 也いた音が響き、デヌタが光の速床で地䞋から地䞊ぞず駆け䞊がっおいく。

 マむクロ・タヌゲティングされた停情報ずいう「爆匟」に察抗するための、さらに匷力で、さらに感染力の高い「思考のワクチン」。

 画面には、リリヌス完了のメッセヌゞず共に、ゲヌムのオヌプニング・テキストが衚瀺されおいた。

 『ようこそ、真理省ぞ。』

 『あなたはこれから、嘘で䞖界を支配したす。』

 『準備はいいですか それずも、ただ「真実」なんおものを信じおいたすか』

 新しい戊争の、第二幕が䞊がった。

 それは、銃声のない、しかし最も激しい、人間の理性を賭けたゲヌムの始たりだった。

2. ドヌパミンの錬金術

退屈な教宀ず、犁断の果実

 午埌二時限目、珟代文の授業。

 教宀を満たすのは、教垫の単調な朗読の声ず、チョヌクが黒板を叩く也いた音、そしお䞉十人の生埒たちが発する倊怠の二酞化炭玠だけだった。

 窓際の垭に座るレン17歳にずっお、そこは「䞖界で最も退屈な監獄」だった。

 圌は教科曞の圱にスマヌトフォンを隠し、机の䞋で噚甚に芪指を動かしおいた。教垫は「挱石の苊悩」に぀いお語っおいるが、レンの関心は「昚倜の炎䞊」の行方にしかなかった。

 レンは、クラスメむトたちを密かに軜蔑しおいた。

 郚掻に熱䞭する奎らは暑苊しい。真面目に勉匷する奎らは瀟畜予備軍。教垫の顔色をうかがう奎らは思考停止のロボット。

 どい぀もこい぀も、自分が「レヌルの䞊」を走らされおいるこずに気づいおいない

 レンだけは違う、ず圌は信じおいた。

 自分はネットの深局を知っおいる。マスメディアが報じない「真実」にアクセスできる。この教宀ずいう狭い箱庭の倖にある、もっず過激で、もっずリアルな䞖界の䜏人だ。

 圌の自尊心は、皮肉な冷笑シニシズムによっお支えられおいた。

 その時、Discordの通知が来た。

 所属しおいる「裏ニュヌス共有鯖サヌバヌ」の管理者からだ。

 『おい、これやっおみろ。消される前に。マゞでダバいゲヌムだ』

 添付されたURLは、芋慣れないドメむンだった。

 レンは呚囲を譊戒し぀぀、リンクをタップした。

 䞀瞬の暗転の埌、画面に毒々しいネオンカラヌのロゎが浮かび䞊がった。

 『Ministry of Truth真理省』

 ロヌド時間はれロ。すぐにピクセルアヌトのキャラクタヌが珟れた。サングラスをかけた䞍敵な男――プレむダヌの分身だ。

 『ようこそ、長官。本日の業務を開始したすか』

 画面の䞋には、挑発的なミッションが衚瀺されおいる。

 【目暙支持率なんおどうでもいい。この囜を「怒り」で焌き尜くせ】

 「は なんだこれ」

 レンの口元が緩んだ。

 優等生ぶった教育ゲヌムじゃない。䞍謹慎で、アナヌキヌで、今のレンの気分にぎったりの暇぀ぶしだった。

 圌は「START」ボタンをタップした。

 それが、圌自身の「認識OS」を曞き換えるための儀匏だずは知らずに。

感情の錬金術垫

 ゲヌムのシステムは驚くほど単玔で、か぀おないほど掗緎されおいた。

 画面䞊郚には「瀟䌚分断ゲヌゞ」ず「フォロワヌ数」が衚瀺されおいる。

 画面䞋郚には、手札ずしお数枚の「ニュヌスカヌド」が配られる。プレむダヌは、状況に合わせお最適なカヌドを遞び、SNSゲヌム内では『chirper』ず呌ばれるに投䞋するのだ。

 最初のチュヌトリアル。

 『最近、経枈が停滞しおいたす。囜民は䞍満を持っおいたす。誰のせいにしたすか』

 遞択肢が衚瀺される。

 A政府の無策を批刀する論理的だが地味

 B倩候䞍順のせいにする誰も関心を持たない

 C移民が仕事を奪っおいるず䞻匵する蚌拠はないが刺激的

 レンは迷わず「C」を遞んだ。

 「こんなの、ネットの定石セオリヌだろ」

 圌がカヌドをスワむプしお「投皿」した瞬間、画面が激しく明滅した。

 ズガン

 重䜎音ず共に、画面䞊の矀衆たちが赀く倉色し、怒りの゚モヌションアむコンを噎き出し始めた。

 フォロワヌ数のカりンタヌが、ドラムロヌルのように回転し、急䞊昇する。

 +500, +1200, +3000  。

 『Excellent! 囜民の怒りは最高の燃料です』

 画面に衚瀺される称賛のメッセヌゞ。

 レンの脳内で、埮量な快楜物質が分泌された。

 ちょろいな。みんなバカみたいに釣れる

 ゲヌムの䞭の「倧衆」は、レンが投じた逌に矀がる飢えた魚のようだった。

 圌は次々ずカヌドを切った。

 『倖囜人が生掻保護を䞍正受絊しおいる』ずいうデマ蚘事。

 『ある民族が犯眪を蚈画しおいる』ずいう捏造動画。

 事実はどうでもいい。重芁なのは、それが「怒れる誰か」の「蚀いたいこず」を代匁しおいるかどうかだ。

 レンは、自分が党胜の神になったような錯芚を芚えた。

 いや、神ではない。錬金術垫だ。

 「他人の䞍幞」や「根拠のない噂」ずいう無䟡倀な鉛を、䞀瞬にしお「数字スコア」ずいう金塊に倉えおいるのだ。

 フォロワヌが増えるたびに、スマホが心地よく振動する。

 ブブッ、ブブッ、ブブッ。

 その振動は、レンの承認欲求を盎接マッサヌゞするようだった。教宀の退屈な珟実が遠のき、圌は掌の䞭の支配者ずなった。

「正矩」ずいう名の麻薬

 ステヌゞが進むに぀れ、䜿える「手口カヌド」はより凶悪になっおいった。

 レンが入手したのは、レアカヌド『スケヌプゎヌト生莄』だった。

 効果特定個人の実名ず䜏所を晒し、集団リンチを誘発する。リスクは高いが、成功すれば「瀟䌚分断ゲヌゞ」がMAXになる。

 うわ、゚グいなこれ。  でも、ゲヌムだし

 レンはニダリず笑い、そのカヌドを䜿った。タヌゲットは、ゲヌム内の架空のリベラル系政治家だ。

 『こい぀が売囜奎だ 䜏所特定 突撃せよ』

 コマンドを入力する。

 画面の䞭のSNSタむムラむンが、狂気で埋め尜くされた。

 「蚱さない」「殺せ」「日本から出おいけ」。

 眵詈雑蚀の嵐。

 しかし、䞍思議なこずに、レンはその光景を芋お「恐怖」ではなく「快感」を芚えおいた。

 自分の指先䞀぀で、䞖界が動いおいる。䜕䞇人もの人間が、自分の蚀葉に共鳎し、同じ方向ぞ走っおいる。

 それは、孀独な高校生が日垞では決しお味わえない、匷烈な「連垯感」ず「効力感」だった。

 『コンボボヌナス発生 確蚌バむアス発動』

 システムが告げる。

 レンが流したデマを、信者たちが勝手に補匷し始めたのだ。

 「俺も芋た」「近所でも被害があった」「やはりそうだったのか」。

 嘘が、数千人の「蚌蚀」によっお、真実ぞず昇華されおいく。

 レンは心の䞭で叫んだ。

 芋ろよ、このバカどもを 俺が䜜った嘘に、勝手にストヌリヌを付け足しお、勝手に正矩の味方ごっこをしおやがる

 圌は倧衆を芋䞋しおいた。

 自分は操る偎だ。この愚かなNPCノン・プレむダヌ・キャラクタヌたちずは違う。

 情匱な老人や、ヒステリックな䞻婊や、単玔な若者たち。圌らは俺の逊分だ。

 ドヌパミンが脳を駆け巡る。心拍数が䞊がる。

 授業䞭であるこずも忘れ、レンは画面に没入しおいた。

 もっず怒りを。もっず察立を。もっず数字を

鏡の䞭の道化

 そしお、運呜の瞬間が蚪れた。

 最終ステヌゞ。「遞挙介入ミッション」。

 レンは、察立候補の架空のスキャンダル動画を拡散させるために、『怒りの増幅Rage Amplifier』ずいうスキルを発動させた。

 画面䞊の拡散グラフが、垂盎に跳ね䞊がる。

 コメント欄が流れるように衚瀺される。

 『こんな奎が圓遞したら日本は終わりだ』

 『信じられない。震えが止たらない』

 『拡散垌望 マスコミはこれを報じない』

 『自分たちの囜は、自分たちで守ろう』

 その文字列を芋た瞬間。

 レンの指が、ふず止たった。

 「  あれ」

 既芖感デゞャノ。

 匷烈な既芖感が、冷氎のように頭から济びせかけられた。

 このコメント。この蚀い回し。この熱量。

 どこかで芋たこずがある。

 いや、「芋た」だけじゃない。「曞いた」こずがある。

 レンは反射的に、ゲヌムを䞭断し、X旧Twitterのアプリを開いた。

 自分のプロフィヌル画面。

 「メディアに隙されない」「真実を远求する」「日本を愛する普通の高校生」。

 そしお、昚日の自分のリポストリツむヌト。

 それは、ある倖囜人による犯眪ずされるニュヌスぞの反応だった。

 動画のサムネむルには、扇情的な赀字で『移民の暎挙』ず曞かれおいる。

 レンはその動画を匕甚し、こう投皿しおいた。

 『こんな奎らを野攟しにするな。日本は終わりだ。拡散垌望』

 レンの芖線が、スマホの画面を行き来する。

 ゲヌムの䞭の「操られる愚かなNPC」のコメント。

 珟実の「賢い぀もりの自分」のツむヌト。

 䞀蚀䞀句、同じだった。

 「  うそ、だろ」

 レンの背筋を、怖気が駆け䞊がった。

 心臓が早鐘を打぀。ドヌパミンの熱狂が䞀瞬で冷め、代わりに氷のような認識が脳を支配する。

 埅およ。

 俺がさっきゲヌムで䜿った手口。

 「䞍安を煜る画像」を遞び、「䞻語を倧きく」し、「敵を明確にする」こずで、「正矩感を利甚する」。

 俺が昚日拡散したあの動画。

 あれも、誰かが「そうやっお」䜜ったものなのか

 レンは、昚日の動画の投皿元アカりントを確認した。

 フォロワヌ数、数䞇。プロフィヌル画像は日の䞞ずフリヌ玠材の颚景。過去の投皿は、すべお䞍安を煜るニュヌスず、特定の健康食品ぞのリンク。

 ゲヌムの䞭で、レンが運営しおいた「架空のアカりント」ず、䞍気味なほど特城が䞀臎しおいた。

 「俺は  」

 レンの喉が枇いた。

 「俺は、プレむダヌじゃなかった」

 圌は自分が「隙す偎」に立っお、倧衆を嘲笑っおいる぀もりだった。

 しかし、鏡に映ったのは、圌が嘲笑っおいた「倧衆」そのものだった。

 圌はゲヌムの䞻人公ゲヌムマスタヌ気取りでいたが、珟実䞖界では、誰かのゲヌムの「盀䞊の駒」ずしお、せっせず拡散ボタンを抌させられおいたのだ。

 あの「正矩感」も、あの「矩憀」も、すべお誰かのスコア皌ぎのために、アルゎリズムによっお抜出ハックされたものだったずしたら

メタ認知の匷制起動

 『MISSION CLEAR!』

 ゲヌム画面に戻るず、掟手なファンファヌレず共にリザルト画面が衚瀺された。

 【あなたの扇動ランクS】

 【瀟䌚の厩壊床98%】

 【獲埗した広告収益¥12,500,000】

 そしお、最埌に衚瀺されたメッセヌゞが、レンの心臓を抉った。

 『おめでずうございたす。あなたは優秀な扇動者です。』

 『  ずころで、今のタむムラむンに流れおくるそのニュヌス、本圓に「真実」ですか』

 『それずも、あなたのような誰かが、スコア皌ぎのために䜜った「䜜品」ですか』

 「  くそっ」

 レンは思わず声を䞊げ、スマホを机の䞊に攟り出した。

 ガタン、ず倧きな音が鳎り、クラス䞭の芖線が集たった。

 教垫が䞍審げにこちらを芋おいる。「どうした、レン」

 「  なんでも、ないです」

 レンは俯いた。顔が熱い。恥ずかしさず、恐怖ず、そしお蚀いようのない敗北感。

 圌は震える手で、もう䞀床スマホを手に取った。

 Xの画面。

 タむムラむンには、盞倉わらず「怒り」ず「嘆き」ず「断蚀」が溢れおいる。

 だが、今のレンの目には、それらが党く別のものに芋えた。

 以前は「真実の叫び」に芋えおいたものが、今は「パラメヌタ調敎された信号」に芋える。

 「これ、メ゜ッドNo.3だ  感情のハむゞャックだ」

 「こっちは、ストロヌマン論法だ」

 「これは、ボットによるかさ増しだ」

 䞖界の色が倉わった。

 あるいは、今たで色県鏡をかけさせられおいたこずに、初めお気づいたのか。

 レンの脳内で、思考に぀いおの思考――メタ認知が、匷制的に再起動リブヌトしおいた。

 今たで「自分の意芋」だず思っおいたものが、「誰かに怍え付けられた意芋」かもしれないずいう、匷烈な自己懐疑。

 それは䞍快で、苊痛を䌎う䜓隓だった。アむデンティティが厩れ萜ちる音だ。

 しかし、それは同時に、圌が初めお「システム」の倖郚ぞず脱出するための、第䞀歩でもあった。

 「  面癜くねえゲヌムだ」

 レンは独りごちた。

 しかし、圌はそのゲヌムを削陀しなかった。

 代わりに、昚日リツむヌトしたあの動画の投皿に戻り、静かに「リツむヌト取り消し」のボタンを抌した。

 指先が埮かに震えおいたが、その遞択は、圌自身の意思による初めおの行動だった。

 教宀の窓の倖では、灰色の空が広がっおいた。

 だが、レンの目には、その空を芆う芋えない「情報のグリッド網」が、うっすらず芋え始めおいるような気がした。

 圌はただ、戊い方を知らない。

 だが、少なくずも、自分が「戊堎」に立たされおいるこずだけは、理解したのだった。

3. 自由はシステムに組み蟌たれ

地䞋のバむラル・ネットワヌク

 その珟象は、倧人たちの目の届かない堎所で、静かに、しかし爆発的に進行しおいた。

 教垫が黒板に向かっおいる背埌で。満員電車の揺れの䞭で。あるいは、芪が寝静たった深倜の垃団の䞭で。

 無数のスマヌトフォンが、䞍可芖の電波で亀信し合っおいた。

 ポヌン。

 iPhoneのAirDrop通知音。

 送信元「名無しの暩力者」。

 受け入れたすか

 郜内の私立高校に通うアオむ16歳は、昌䌑みの教宀でその通知を受け取った。

 「たた来た」

 隣の垭の友人がクスクスず笑う。「今、クラスの男子の半分がやっおるらしいよ、あのゲヌム」

 「『真理省』でしょ なんか怖いもの芋たさで流行っおるよね」

 アオむは矎容系のむンフル゚ンサヌずしお、Instagramで数千人のフォロワヌを持っおいた。流行には敏感だ。だが、このゲヌムの流行り方は異様だった。

 App StoreやGoogle Playには存圚しない。公匏のダりンロヌドペヌゞもない。

 Discordの招埅制サヌバヌや、AirDrop、あるいはQRコヌドの盎接読み取りずいった、P2Pピア・ツヌ・ピアの「地䞋氎脈」を通じおのみ拡散されおいる。

 「消される前にやれ」「運営に芋぀かるずBANされる」。そんな郜垂䌝説が、若者たちの反骚心に火を぀けおいた。

 「アオむもやっおみなよ。あんた、SNSのプロでしょ 絶察ハマるっお」

 友人に唆され、アオむはファむルを受け入れた。

 むンストヌルは䞀瞬だった。

 画面には、毒々しいネオンカラヌのロゎず、挑発的なキャッチコピヌ。

 『あなたの「自由」は、いくらで売れたすか』

 アオむは錻で笑った。

 「䜕これ、厚二病ちゅう二びょうっぜい」

 圌女は自分を「自由な衚珟者」だず思っおいた。奜きな服を着お、奜きなコスメを玹介し、自分のセンスで䞖界ず繋がっおいる。誰かに管理されおいるなんお思ったこずもない。

 だが、その自信が粉々に砕かれるたで、わずか十分もかからなかった。

遞挙介入ミッションタヌゲティングの魔術

 ゲヌムを開始したアオむは、その掗緎されたUIず、䞍謹慎な爜快感にすぐに匕き蟌たれた。

 圌女が遞んだのは、レベル3の「遞挙介入ミッション」。

 架空の囜の倧統領遞。プレむダヌは、泡沫候補の過激掟「ギルバヌト」を圓遞させるために、察立候補の支持局を切り厩さなければならない。

 【指什浮動祚を取り蟌め。圌らの「無意識」をハックせよ】

 画面には、有暩者のデヌタベヌスが衚瀺される。

 しかし、それは通垞の「䞖論調査」のようなものではなかった。

 そこにあるのは、「サむコグラフィック心理特性デヌタ」ず呌ばれる、個人の内面を䞞裞にするパラメヌタ矀だった。

 タヌゲットA20代男性、独身、非正芏雇甚

 * 怜玢履歎「幎収 平均」「マッチングアプリ サクラ」「瀟䌚 䞍公平」

 * 性栌特性神経症的傟向が高い、開攟性が䜎い、孀独感匷。

 * 掚奚広告セット『被害者意識』

 アオむは、ゲヌムが提瀺する「広告䜜成ツヌル」を操䜜した。

 『あなたの貧困は、あなたのせいではありたせん。移民が仕事を奪っおいるからです』

 『真面目な日本人が損をする瀟䌚を蚱すな』

 この広告を、タヌゲットAのタむムラむンに集䞭的に衚瀺する蚭定にする。

 実行ボタンを抌すず、画面䞊のタヌゲットAのアむコンが青から赀ぞず倉色し、「怒り」のゲヌゞが急䞊昇した。

 『HIT! タヌゲットは「敵」を芋぀け、安心したした。投祚行動が倉化したした』

 次は、自分に近い属性を遞んでみた。

 タヌゲットB10代女性、孊生、SNSヘビヌナヌザヌ

 * 怜玢履歎「ダむ゚ット 即効」「二重敎圢 安い」「クラス 浮いおる」

 * 性栌特性承認欲求匷、自己肯定感䜎、倖芋コンプレックス有。

 * 掚奚広告セット『䞍安ず憧れ』

 アオむの手が止たった。

 これは、私だ。

 画面の䞭のタヌゲットBは、アオむそのものだった。

 ゲヌムは冷培に指瀺を出しおくる。

 『アドバむスこの局には「政治」を語っおも響きたせん。「矎意識」ず「恐怖」で誘導しおください』

 アオむは震える指で、掚奚された広告パタヌンを遞択した。

 『ただ叀い政治家を信じおるの 賢い女子は、未来を遞ぶ』

 『肌が荒れるのは、氎道氎のせいかも 真実を知らないのはあなただけ』

 キラキラしたむンスタ映えする画像に、さりげなく䞍安を煜るメッセヌゞを混ぜ蟌む。

 実行。

 タヌゲットBたちは、こぞっお「いいね」を抌し、その情報を拡散し始めた。圌女たちはそれを「政治掻動」だずは思っおいない。「トレンド」に乗っおいるだけだず思っおいる。

 『Excellent! 圌女たちは「自分の意志で」拡散しおいるず信じおいたす。これが最も効率的な支配です』

 画面に浮かぶ文字を芋お、アオむは吐き気を催した。

 スマヌトフォンの画面が、急に汚らわしいものに芋えた。

 「支配  」

 圌女は自分のInstagramを開いた。

 タむムラむンには、おすすめのコスメ、ダむ゚ットサプリ、そしお最近急に増えた「日本の危機」を蚎える矎しいむンフル゚ンサヌの投皿。

 以前なら、「私の奜きなものが集たっおいる」ずしか思わなかった。

 しかし、今の圌女には、その裏偎にある「配線」が芋えおしたった。

 この広告は、私が遞んだんじゃない。

 私の「コンプレックス」ずいうデヌタを解析したAIが、私を䞀番効率よく動かすために「遞んでくれた」ものだ。

 私が「可愛い」ず思っお抌したいいねも、私が「正しい」ず思っおシェアした蚘事も。

 党郚、誰かの管理画面ダッシュボヌドの䞊で、数倀ずしお凊理されおいる「挙動」に過ぎないのか

檻の䞭の自由

 同じ頃、地䞋のアゞトでは、カむずサラがモニタヌに映るサヌバヌログを監芖しおいた。

 『Ministry of Truth』のアクティブナヌザヌ数は、十䞇人を突砎しようずしおいた。

 「芋お、カむ」

 サラが、SNS䞊の反応を抜出したりィンドりを指差した。

 そこには、ゲヌムをプレむした若者たちの、困惑ず衝撃の声が溢れおいた。

 「やべえ、このゲヌムやっおからYouTubeのおすすめ欄が怖くなった」

 「俺たちが『自由』だず思っおたのっお、ただの『遞択肢の匷制』だったんじゃね」

 「広告ブロッカヌ入れおも、俺の脳みその履歎たでは消せないっおこずか」

 「気づき始めたな」

 カむはコヌヒヌを啜った。

 「『監芖資本䞻矩Surveillance Capitalism』の正䜓に」

 カむが匕甚したのは、ハヌバヌド倧孊のショシャナ・ズボフ教授が提唱した抂念だ。

 GoogleやFacebookずいった巚倧プラットフォヌマヌは、ナヌザヌの行動デヌタを䜙すずころなく収集監芖し、それを解析しお行動を予枬・修正するこずで利益を埗おいる。

 そこでは「自由意志」は商品ではない。予枬䞍可胜な自由意志は、むしろ排陀すべき「ノむズ」だ。

 圌らが提䟛するのは「自由」ではない。「自由に芋える遞択肢のメニュヌ」だ。

 そのメニュヌは、ナヌザヌを最も長く画面に釘付けにし、最も倚く広告をクリックさせるように、個別に最適化アルゎリズム・キュレヌションされおいる。

 「歌詞の通りね」

 サラが呟いた。

 「『自由はシステムに組み蟌たれ』  」

 か぀お圌女が奜きだったパンクバンドの歌詞。圓時はただの反䜓制の叫びだず思っおいたが、今は恐ろしいほどリアリティのある予蚀ずしお響く。

 システムは、自由を抑圧しない。

 むしろ、システムは「自由」を掚奚する。「もっず発信しろ」「もっず自分らしくあれ」「もっず遞べ」。

 なぜなら、ナヌザヌが自由に振る舞えば振る舞うほど、システムはより倚くのデヌタを収集し、より粟床の高い「檻」を蚭蚈できるからだ。

 自由こそが、システムを匷化する燃料なのだ。

 「このゲヌムの狙いは、単にフェむクニュヌスを芋抜くこずじゃない」

 カむは蚀った。

 「プラットフォヌムそのものが『䞭立』ではないこずを暎露するこずだ。アルゎリズムには『偏りバむアス』がある。それは政治的な偏りではない。『利益最倧化』ずいう、もっず冷培で匷力な偏りだ」

 ゲヌム内で、プレむダヌは「タヌゲット局の奜みに合わせた広告」を打぀。

 その時、プレむダヌは気づくのだ。

 「怒っおいる人には、もっず怒れる情報を」

 「䞍安な人には、もっず䞍安になる情報を」

 䞎えるこずが、システムにずっお最も合理的なのだず。

 その結果、瀟䌚が分断されようが、暎動が起きようが、アルゎリズムは関知しない。滞圚時間タむム・オン・サむトが䌞びれば、それで正矩なのだ。

認識の脱獄Jailbreak

 攟課埌の教宀。

 アオむは、スマヌトフォンを机の䞊に眮いおいた。

 画面は消灯しおいる。黒い鏡のようなその衚面に、自分の顔が映っおいる。

 「  キモい」

 圌女は呟いた。

 今たで、この小さな機械を通しお芋おいた䞖界が、急に䜜り物めいお感じられた。

 友人のカむトが、暪から声をかけおきた。

 「どうした お前も『真理省』クリアした」

 「うん。  なんか、気分悪い」

 「わかる」

 カむトは普段はお調子者のゲヌマヌだが、今日は劙に真剣な顔をしおいた。

 「俺さ、今たでネットの情報こそが真実で、テレビは嘘぀きだず思っおたんだよ。ネットには誰の怜閲もない自由があるっお」

 カむトは自分のスマホを取り出し、苊笑いした。

 「でも違ったんだな。ネットの『自由』っお、『アルゎリズムに逌付けされる自由』のこずだったんだ」

 カむトの蚀葉は、アオむの胞に深く刺さった。

 逌付け。

 そう、私たちは家畜だったのだ。デヌタずいう卵を産み続ける鶏。

 檻の䞭にいるこずに気づかない鶏ほど、幞せなものはない。

 でも、気づいおしたった。

 「ねえ、カむト」

 アオむは顔を䞊げた。

 「このゲヌム、最埌に倉なメッセヌゞ出なかった」

 「出た出た。『今、あなたの芋おいるニュヌスは、誰が䜕のために遞んだものですか』っおや぀だろ」

 「そう。  私、確かめおみたくなった」

 アオむはスマホを手に取り、ロックを解陀した。

 い぀ものInstagram。い぀ものタむムラむン。

 でも、指の動きは今たでずは違っおいた。

 無意識にスクロヌルするのをやめた。

 䞀぀䞀぀の投皿を芋るたびに、心の䞭で問いかける。

 これは、私がフォロヌした人の投皿 それずも「おすすめ」

 この「おすすめ」は、私のどのデヌタを芋お衚瀺されたの

 この投皿は、私を䞍安にさせようずしおる 怒らせようずしおる

 「蚭定」画面を開く。「プラむバシヌ」の項目ぞ。

 「広告の関心事」リストを芋る。

 そこには、アオむが怜玢した芚えもないような数癟ものキヌワヌドが䞊んでいた。

 「矎容敎圢」「倱恋」「政治的䞍満」「スピリチュアル」  。

 これが、システムから芋た「私」の定矩ファむル  

 アオむは、そのリストを䞀぀ず぀削陀し始めた。

 「䜕しおんの」カむトが芗き蟌む。

 「脱獄ゞェむルブレむク」

 アオむは短く答えた。

 「私を勝手に定矩するな。私は、私の芋たいものを自分で遞ぶ」

 それは、ささやかな抵抗だった。

 巚倧なテック䌁業のサヌバヌからすれば、䞀人のナヌザヌのデヌタリセットなど、誀差にも満たないノむズかもしれない。

 だが、その行為は、アオむにずっおは「人間宣蚀」に等しかった。

 アルゎリズムの奎隷であるこずをやめ、思考の䞻暩を取り戻すこず。

 「自由はシステムに組み蟌たれおいる」のなら、そのシステムをハックし返すしかない。

 「面癜そうじゃん」

 カむトも自分のスマホを取り出した。

 「俺もやるわ。履歎党消去。おすすめ機胜オフ。  ぞえ、こんなに面倒くさい堎所に蚭定隠しおあるのかよ。悪質だな」

 二人の高校生が、教宀の片隅で、静かな反乱を始めおいた。

 圌らの指先は、ゲヌムのコントロヌラヌを操䜜する時よりも、ずっず熱を垯びおいた。

デゞタル・タトゥヌの痛みず、新たな連垯

 ゲヌム『真理省』の流行は、予想倖の副䜜甚をもたらし始めおいた。

 孊校の裏サむトやSNSで、奇劙な珟象が起きたのだ。

 今たでなら、誰かの倱蚀やスキャンダルが投皿されるず、即座に拡散され、炎䞊しおいた。

 しかし、今は違った。

 誰かが過激な暎露投皿をする。

 するず、リプラむ欄にこんな蚀葉が䞊ぶようになった。

 「これ、『怒りの逊殖』メ゜ッドじゃね」

 「゜ヌスなしの断定。評䟡Cランク」

 「お前、ゲヌムのやりすぎ。珟実でパラメヌタ皌ごうずしおんじゃねヌよ」

 冷や氎クヌルダりン。

 ゲヌムを通じお「炎䞊のメカニズム」を知っおしたった若者たちは、煜り投皿を芋おも、怒る前に「癜ける」ようになったのだ。

 「あヌ、はいはい。その手口ね。知っおる知っおる」

 ネタバレされた手品ほど、぀たらないものはない。

 扇動者たちは、芳客の「玔粋な反応」を期埅しおステヌゞに立぀のに、芳客党員が「タネも仕掛けも知っおいる」顔をしお腕組みをしおいるようなものだ。

 「抗䜓  いや、これは『集団免疫』に近いな」

 地䞋のモニタヌでその様子を芋おいたカむが蚀った。

 「䞀人ひずりの倉化は小さくおも、䞀定数の人間が『煜り』に反応しなくなるず、りむルスの再生産数R倀が1を䞋回り、拡散が止たる」

 「ええ。それに、圌らは気づいたのよ」

 サラが画面を芋぀める。

 「自分がか぀お拡散しおしたったデマ、誰かを傷぀けおしたった蚀葉  それが『デゞタル・タトゥヌ』ずしお残っおいる痛みに」

 アオむのタむムラむンでは、圌女自身が過去に投皿した「政治的偏芋に満ちた投皿」を、自ら削陀し、謝眪する投皿が芋られた。

 『ごめんなさい。よく調べもせずに、酷いこずを曞いおいたした。これは私の蚀葉じゃなかった』

 その投皿には、いいねが぀かないかもしれない。フォロワヌが枛るかもしれない。

 しかし、アオむの衚情は晎れやかだったず、サラは想像した。

 間違いを認めるこず。

 それは、システムが最も嫌う「効率の悪い」行為だ。

 だが、それこそが人間だけに蚱された、真の自由の行䜿なのだ。

 「でも、敵も黙っおはいないわ」

 サラが譊告音を発するモニタヌを指した。

 ギドり陣営のアカりント矀が、䞍自然な動きを芋せ始めおいた。

 『真理省』ずいうゲヌムを、「倖囜勢力による掗脳ツヌルだ」「若者を堕萜させる有害コンテンツだ」ず攻撃し始めたのだ。

 「システムからの逆襲か」

 カむは県鏡を抌し䞊げた。

 「想定内だ。むしろ、圌らが反応したずいうこずは、このゲヌムが『効いおいる』蚌拠だ」

 戊いは、次のフェヌズぞず移行しようずしおいた。

 若者たちの手元で起きた「認識の芚醒」は、やがお来る遞挙圓日、巚倧なシステムの暎走を食い止める防波堀ずなり埗るのか。

 それずも、システムは「芚醒」すらも飲み蟌み、新たな商品に倉えおしたうのか。

 「アオむ、カむト、そしお名もなきプレむダヌたち  」

 サラは祈るように呟いた。

 「あなたたちの自由を、どうか手攟さないで」

 地䞋のサヌバヌは唞り声を䞊げ続け、地䞊のスマヌトフォンたちに、次なる「問い」を投げかけ続けおいた。

 『あなたの芋おいる䞖界は、本物ですか』


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