
AIで人を置き換えない。シニアや介護の現場を「遊び」で支えるウェブアプリ図鑑(日々更新中)
どんな仕事をしてるのか?と聞かれたら、最近は「人を支える小さなゲームです」と答えています。昔の歌や暮らしを思い出すクイズ。名画をゆっくり眺める間違い探し。どこを触っても失敗にならない介護レクリエーション向けのタッチ遊び。
どれも登録もインストールもいらず、リンクを開けばその場で遊べます。正直、一つひとつは地味です。ただ、この小ささは狙ってそうしています。
AIの仕事は人を速く働かせることだけじゃない
AIの話になると、「何人分の仕事が減るか」「どこまで自動化できるか」ばかりが注目されます。効率化を否定するつもりはありません。でも、AIの使い道はそれだけではないはずです。
細かい文字が読みづらくなった。複雑な操作はどうも苦手だ。施設のレクリエーションで、失敗を気にせず参加できるものを探している。今日は調子がいいから、少しだけ何かやってみたい。
こういう場面で困りごとが生まれるのは、たいてい「仕組みに人が合わせる」ことを求められるからです。だったら、仕組みのほうを人に合わせればいい。そのための道具としてAIを使いたいのです。
私が進めている「AIアルケミア」はここから始まりました。掲げていることは一つだけ。
AIで人を置き換えるのではなく、人の可能性を拡張する。
だから、難しい技術を見せるより、誰かが迷わず触れること。社会課題を大きな言葉で語るより、実際に動くものを先に公開すること。この順番だけは守るようにしています。
なぜ「ゲーム」なのか
「支援」という言葉は、ときどき重たいものです。「支援される側」に置かれるのが嫌な人もいますし、健康や認知機能に関心はあっても、「訓練」「予防」と言われた途端に身構える人もいます。
ゲームなら「ちょっとやってみようか」で始められます。家族からリンクが届いても、説明書なしで遊べる。正解すればうれしいし、間違えてももう一回やりたくなる。隣の人と笑ったり、昔の話が始まったりもします。
ゲームで何もかも解決するとは思っていません。
ただ、参加の入口をやわらかくすることはできる。これは感覚だけの話でもなくて、米国AARPの調査では、50歳以上のゲームプレイヤーは約5,240万人。50歳以上の45%が月1回以上遊び、その84%はスマートフォンで、いちばん好まれているのはパズル・ロジック系(73%)でした。
高齢者は複雑なアクションより、短時間で覚えられるカジュアルなゲームを好む、という研究報告もあります。
もう一つ、気にしている数字があります。
WHOは孤独と社会的孤立を公衆衛生上の優先課題に挙げています(WHO: Social Isolation and Loneliness)。米国公衆衛生局長官の勧告(2023)では、慢性的な孤独・孤立が高齢者の認知症リスクをおよそ50%高めるとされました(勧告全文・PDF)。「一緒に遊ぶ」「結果を見せ合って話す」きっかけを作れるゲームは、この問題への小さな入口になり得ると考えて作っています。
先に断っておくと、ここで紹介するゲームは医療機器ではありません。治療・診断・認知症予防といった効果を保証するものでもなく、楽しみや会話、日々のちょっとした活動のきっかけとして作っています。
公開中の「支えるゲーム」(日々更新中)
1. ひらめき脳トレ/ひらめき錬金術

画面に並んだ色と形を見て、「同じ色」「違う形」といった条件に合うものを選ぶゲームです。見た目は単純なのに、条件が変わると、頭では分かっているのに指が迷う。その感覚を短時間で味わえるようにしました。文字は大きく、操作は迷わないように。
遊ぶ:
https://hirameki-brain-training.vercel.app/
対象:シニアを含む、気軽な脳トレや判断ゲームを楽しみたい人
状況:公開済み
設計の根拠:
高齢者を対象にしたゲーム型認知トレーニング研究のメタ分析では、処理速度(効果量g=0.23)や選択的注意(g=0.40)などに小〜中程度の改善が報告されています
ただし効果には限界もあるので、本作は「訓練機器」ではなく、色と形の判断を短時間で楽しむ娯楽と割り切って設計しました
2. 左右タッチ

画面の指示を見て、左右の大きなボタンをタッチするゲームです。「右」と出たら右を押す基本ルールのほか、あえて反対側を押すモードや、文字ではなく色で判断するモードもあります。1回5問で終わるので、長い集中はいりません。
遊ぶ:
https://sayu-touch.vercel.app/
対象:説明書を長く読まず、短時間で遊びたい人
状況:5問チャレンジ版を公開済み
設計の根拠:
「文字の意味」と「位置や色」が食い違うと反応が遅れる現象は、心理学で約90年研究されてきた「ストループ課題」として知られています(米国心理学会の解説)
こうした「反応の切り替え・抑制」の力は加齢とともに低下しやすいことが、生涯を通した実験研究で示されています(BMC Psychology, 2024)
高齢の方でも練習でストループ課題の成績が改善したという報告があるので(研究例)、1回5問、気軽に繰り返せる形にしました
3. 毎日なつかしクイズ

昭和の暮らし、歌謡曲、昔のテレビ番組、ことわざなどをテーマにした4択クイズです。1日3問だけ。同じ日に何度も解くのではなく、「今日の問題」を楽しむ形にしました。狙っているのは正解そのものより、「これ、覚えてる?」という会話です。
遊ぶ:
https://natsukashi-quiz.vercel.app/
対象:60〜80代のシニアと家族
状況:公開済み
設計の根拠:
昔の記憶を語り合う「回想法」は介護の現場で広く使われていて、コクラン・レビューでも、認知症のある人の生活の質・コミュニケーション・気分を(効果は小さいながら)改善しうると報告されています(Cochrane Review)
「全員が同じ今日の問題を解いて、結果を見せ合う」Wordle型の仕組みは、毎日の習慣になりやすいことが知られています
米AARPの調査では、50歳以上で月1回以上遊ぶ人の約45%がほぼ毎日遊んでいます。「1日3問だけ」は、この毎日の習慣を無理なく支えるための設計です
4. 名画で間違い探し

ゴッホや広重などの名画を眺めながら、絵の中の違いを探すゲームです。急がせません。絵をゆっくり見る時間そのものを楽しんでほしいからです。差分は自動生成に頼らず、一つずつ確認しながら作りました。現在は9作品、合計43か所。
遊ぶ:
https://meiga-spot-difference.vercel.app/
対象:シニア、名画が好きな人、落ち着いて遊びたい人
状況:公開・継続改良中
設計の根拠:
5. やさしいタッチアプリ

画面に現れる落ち葉やシャボン玉に触れて、変化や音を楽しむタッチ型の遊びです。得点もゲームオーバーもありません。どこをどう触っても何かしら反応が返ってきて、「できなかった」で終わらない。介護施設や家庭のタブレットから、そのまま始められます。
対象:高齢者、介護施設の利用者、家族、レクリエーション担当者
状況:公開済み
設計の根拠:
認知症ケアの世界では「失敗が存在しないデザイン」の遊びが実際に使われています。オランダ発の遊びの装置Tovertafelは、世界4,000以上の介護施設に導入されています
認知症のある人には、誤りを経験させない「エラーレス学習」のほうが試行錯誤型より日常課題の習得に有効という研究の蓄積があります(レビュー)。「どこを触っても必ず反応が返る」設計は、この考えに基づいています
2020年には米FDAが子どものADHD治療用ゲームを史上初めて医療機器として認可しました。「遊び」がケアの道具になる流れは、世界的に進んでいます
6. Daily Voice Check

2026年7月20日に公開した、毎日の声を使ったチェックアプリです。声は日によって少しずつ違います。特別な機器を使わず、ウェブブラウザだけで試せる小さな入口として作りました。公開したばかりなので、使った方の感想を聞きながら説明や位置づけを直していきます。
使う:
https://daily-voice-check.vercel.app/
状況:2026年7月20日公開
備考:医療上の診断を行うものではありません
設計の根拠:
声の高さ・速さ・間の取り方から心身の状態の手がかりを読み取る「音声バイオマーカー」の研究が、近年世界的に進んでいます
高齢者のうつでは、話す速度の低下や間(ポーズ)の増加といった特徴が一貫して報告されています(系統的レビュー)
フレイル(虚弱)の推定に声を使う研究も複数あり、体に負担のない手軽な把握方法として注目されています(BMC Geriatrics, 2022)
とはいえ、まだ研究途上の分野です。だから本アプリは診断をせず、「毎日声を出して、自分の変化に気づく入口」に徹しています
7.きょうも、いっしょ。

歳をとった愛犬と暮らす毎日を記録し、お別れのあとの気持ちまでを、ひとつのアプリでそっと支えます。今日の様子を数タップで残し、写真とひとことを積み重ねていくだけ。呼吸に合わせてふくらむシャボン玉などで飼い主自身がひと休みでき、お別れのあとは画面が「思い出モード」に切り替わります。スマホでもパソコンでも、登録なしで使えます。
使う:https://kyoumo-issho.vercel.app/
対象:老犬・シニア犬と暮らす飼い主、介護中の家族、ペットロスに向き合う人
状況:公開済み
設計の根拠:獣医療の「QOLスケール(HHHHHMMなど)」で終末期の様子を日々見守る考え方を、家庭向けにやさしくしたペットとの死別の悲しみは「公認されにくい悲嘆(disenfranchised grief)」として研究・支援の対象になっている気持ちや思い出を書き出す「筆記・回想」が悲嘆を支える方法として使われており、「一日ひとつの問いかけ」「お別れの手紙」はこれに基づく海外では Hospet・Ralph(一緒に過ごす時期)と My Pet Memoria(お別れのあと)が別々に存在するが、本作は両方を一つにまとめた
共通して守っていること
ゲームの中身は違っても、設計のルールは共通です。
大きな文字と大きなボタンを使う
やさしい日本語で説明する
誤タップしても、必要以上に責めない
長い登録作業やログインを求めない
個人情報をできるだけ集めない
短い時間でも遊べるようにする
医療効果を安易にうたわない
家族や支援者と一緒にも使えるようにする
公開後に利用者の声を聞き、少しずつ直す
機能を増やすことより、「これなら自分にもできそう」と思ってもらえるかどうか。判断に迷ったときは、いつもここに戻ります。
完成品を発表するのではなく、公開しながら育てる
どのアプリも、最初から今の形だったわけではありません。「ボタンが小さい」「ルールが分かりにくい」「簡単すぎる」「スマホだと絵が見づらい」。公開して実際に触ってもらうと、企画書の段階では見えなかった問題が次々に出てきます。
だからAIアルケミアでは、制作の過程ごと公開しています。小さく作る。遊んでもらう。感想を聞く。直す。必要なら別の形に作り替える。この繰り返しで、単なる作品ではなく、誰かが使い続けられる小さな事業に育てていくつもりです。ゆくゆくは運営方法や更新手順まで整えて、次の担い手に引き継げる形にすることも考えています。
「作ってほしい人」ではなく「一緒に育てる人」と出会いたい
介護や福祉の現場には、外からは見えにくい小さな困りごとがたくさんあります。家族の側にも、「こんな遊びなら親と一緒にできそう」「文字をもう少し大きくしてほしい」といった気づきがあるはずです。
私は現場をすべて知っている専門家ではありません。だからこそ、勝手に正解を決めたくない。実際に使う人、支える人の声を聞きながら育てたいと思っています。
遊んでみて感じたことがあれば、短い一言で構いません。「ここで迷った」「これは楽しそうだった」「施設で使うなら、こうしてほしい」。その声が、次のゲームと改善の材料になります。
AIアルケミアが目指しているもの
AIアルケミアが作りたいのは、派手なAIデモではありません。年齢や特性、IT経験にかかわらず、人が自分らしい形で参加できる仕組みです。
遊ぶ、考える、思い出す、人と話す、昨日とは少し違う自分の状態に気づく。そういう小さな活動を、AIとウェブ技術でそっと支える。社会課題を、触れて試せる小さな形に変えていく。それが私の考える「AIアルケミア」です。
公開中のアプリの最新一覧は、この記事で日々更新しています。新しいアプリと、その設計の根拠、改善の記録を、これからも足していきます。
AIで人を置き換えるのではなく、人の可能性を拡張する。
この考えを、言葉だけでなく、実際に触れられる形で積み重ねていきます。
追伸:
ちなみに、今日作ったDaily Voice Check。自分はなんと57歳(実際の私の年齢は43歳)


シニア向けに作ったはずが40代の自分に今必要なアプリになってしまっています。