
メロンパンの余韻 最終話
こんにちは、つむぎです。
今回はメロンパンシリーズ、最終回です。
少し久しぶりになってしまいました。
これまでのお話はこちらからどうぞ。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
普通ならまだ静かな早朝だけれど、
この時間に鳴るのは、
もう珍しいことではない。
オートロックを解除して間もなく、
控えめに玄関をノックする音が聞こえた。
「どうぞ〜」
あらかじめ鍵を開けておいた玄関へ向かって声をかける。
まるちゃんは「にゃあ」と鳴きながら、
代わりにお出迎えへ向かった。
扉を開けた晃さんは、
手慣れた様子でまるちゃんを抱き上げる。
「おはようございます。お出迎えありがとう、まるちゃん。」
「晃さん、おはようございます。
今、サラダとスープを準備してたところです。
コーヒーで大丈夫ですか?」
「大丈夫。
俺が淹れとくから。
むぎちゃんはブラックでいいよね?」
「はい。
それでは、お言葉に甘えて。」
「これ、いつもの。」
そう言って、
見慣れたパン屋の紙袋を手渡してくれる。
晃さんは迷うことなく棚を開け、
コーヒー豆とミルを取り出した。
豆を挽く音。
部屋いっぱいに広がるコーヒーの香り。
この時間が、
今ではすっかり週末の始まりになっていた。
……と、いけない。
つい手が止まってしまった。
せっかく買ってきてもらったパンが冷める前に、
サラダとスープを盛り付けなくては。
「むぎちゃん、ゆっくりで大丈夫だよ。」
慌てているのが伝わったのだろう。
顔を上げると、
晃さんは笑いを堪えるような顔をしていた。
「別に急いでなんていませんよ?」
「ごめん、ごめん。
美味しく淹れるから許して。」
そう言いながら、
今日も丁寧にコーヒーを淹れてくれる。
学生時代、
カフェでアルバイトをしていたらしく、
ラテアートまでお手のものだ。
毎回違う絵柄になるから、
今日は何だろうと考えるのも、
休みの日の小さな楽しみになっていた。
結局、
それを見ると許してしまう。
買ってきてくれたメロンパン、
バケットサンド、
それから季節のパン。
軽く温めて、
半分ずつに切り分けて、
お気に入りのお皿に並べる。
いろいろなパンを少しずつシェアして食べるのも、
週末の楽しみのひとつだ。
食べ終わったら、
罪悪感を減らすために二人で散歩へ行く。
それも、いつの間にか日課になっていた。
隣の部屋から漏れてくるテレビの音。
窓から入る穏やかな風。
ゆっくり揺れるカーテン。
向かい側では、
まるちゃんを膝に乗せた晃さんが、
優しく微笑んでいる。
敗北感を覚えたあの日に思い描いた景色が、
今では、
当たり前の日常になっていた。
「変な感じ。」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何でもありません。
やっぱりメロンパンには、コーヒーですね。」
まるちゃんのラテアートが描かれたカップを手に取り、
一口飲む。
それから、
メロンパンを一口。
今日もまた、
あの日の温かいメロンパンを思い出して、
自然と頬が緩んだ。
