
『君への道のり』第十六章 休日の話
午前中の作業が終了し、昼休憩に入った。
一平はいつも通り、車内で食事を済まし、
不機嫌そうな空模様をしばらく眺め、
その後ハウスに向かった。
ハウスの出入口が目の前に見えた時、
事務所棟から出てきた麻衣子が視界に入った。
お互いに「お疲れ様です」と挨拶を交わす。
「今日も眺めてたんですか」
麻衣子が無邪気な口調で言った。
「……ええ、今日も『お一人様』で空眺めながら、おにぎり食べてましたよ」
一平も、無邪気な口調で応じる。
お互いに目じりを下げ、口角を上げて笑った。
不意に、一平が質問する。
「三浦さんは、どこで食事しているんですか?」
「佐藤さんと一緒に、休憩室でお昼食べてますよ」
続けて麻衣子は、少し強調するように言った。
「藤島さんも、お昼一緒にどうですか」
一平は少し驚き、額に皺を寄せながら答える。
「休憩室は……何となく敷居が高く感じて、ちょっとね……」
一平の表情と返答を、麻衣子は予想外に感じたのだろう。
屈託のない笑顔と、大きな笑い声で返してきた。
午後の作業まで、まだ少し時間がある。
二人はハウス内の壁際で水分補給をしながら、会話を続けた。
「昨日、休みだったんですか?」
一平が、ふと思い出したように聞いた。
「ええ。毎週木曜日はお休みです。
外は暑いから、家でダラダラしてましたよー」
軽い調子で、麻衣子はそう答えた。
「ダラダラ過ごすのも、必要ですよー」
何も悩まず、何にも捕らわれない時間。
それが必要だという感覚を思い返しながら、一平は言葉にした。
「家にいただけですけど」
麻衣子はそう言って、少し考え、付け加えた。
「犬を飼っているんですけど、
少し体調が悪い様子だったので、傍に居て、
一緒に寝てました」
一平は、黙ってうなずいた。
休みの日に、何かをしなければならない、
という感覚は、いつの間にか薄れている。
出入口から、次々と従業員が入ってくる。
その様子を見て、昼休憩の終わりに気づいた。
麻衣子は背伸びをして、キャップを被り直す。
「では、午後も頑張りましょう」
「了解です」
それだけのやり取り。
二人は、それぞれの列へ戻っていった。
距離は、先日までと同じくらい。
近づきもしないし、離れすぎもしない。
一平は、作業に戻りながら思う。
特別な話は、何もしていない。
休みの話を、少ししただけだ。
それでも、
現場の中で交わす言葉が、
以前より少しだけ軽くなっている。
それで十分だと、一平は思った。
手を伸ばし、次の実を確かめる。
判断は、今日も静かに続いていく。