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『君への道のり』第九十三章 二人の距離 ー最終章ー

    一平は身支度を整え、
    ソファに腰を下ろして麻衣子を待っていた。

    昨日、
    売店の片付けを終えたあと、
    何気ない流れで、
    明日の予定の話になった。

    「一平さん。
    明日の夕食、一緒にどうですか?」

    「うん。
    いいですよー」

    何を食べるか話しているうちに、
    一平はふと思ったことを口にした。

    「麻衣子さんが、普段作ってる料理が食べたいな」

    一瞬、間があって。

    「……本当に、
    それでいいんですか?」

    「うん」

    そう答えると、
    麻衣子は少し考えてから言った。

    「お酒飲むなら、迎えに行きますよ」

    「じゃあ、
    お言葉に甘えて」

    それだけのやり取りだった。

    ―――

    インターホンが鳴る。

    「お待たせしましたー」

    「ありがとう、今出るね」

    準備していたビールと、食後用の甘いものを手に取り、
    車に乗り込む。

    ―――

    「お邪魔しまーす」

    「どうぞー」

    玄関で靴を揃え、ゆっくりと部屋に入る。

    ほのかに甘い香り。
    目に入る、大きめのソファ。

    「すぐ用意するので、先に飲んでてください」

    「じゃあ、
    お言葉に甘えて」

    グラスにビールを注ぎ、
    「お疲れさまです」と小さく言って喉を潤す。

    テレビはついているが、内容は頭に入らない。

    「何か手伝う?」

    「大丈夫ですよー」

    少しして、麻衣子が振り返る。

    「本当に……
    普段のごはんしか用意してないけど、いいの?」

    「それが食べたい」

    その言葉に、
    麻衣子はふふっと笑った。

    ―――

    「できましたよー」

    小さなテーブルに並んだ、
    オムライスと数品のおかず、スープ。

    「いただきます」
    「いただきます」

    一口食べて、一平は言う。

    「……美味い」
    「…良かった」

    「これ、覚えてます?」
    「前に話した、“ひと手間”のオムライスでしょ」
    「そう」

    試してみたら、気に入ったらしい。

    そこから、
    ハウスでの出来事、
    松本や佐藤の印象、
    出会った頃の話へと、自然に流れていく。

    「……綺麗な人だな、
    って思った」

    一平の言葉に
    照れながら答える麻衣子。

    「優しそうな人だなって」

    「……んーーー、
    よく言われます」

    少し不満そうな一平に、
    麻衣子はおかずを刺したフォークを差し出す。

    「はい」
    「……美味い」

    小さく笑い合う。

    ―――

    食事を終え、麻衣子が台所に立つ。

    一平はソファに座り、
    いつの間にか横になっていた。

    テレビを眺めながら、
    足を伸ばし、
    肘掛けを枕にする。

    ゆっくりと、
    意識がほどけていく。

    ……これか

    まどろみの中で、
    あの“こだわり”を理解する。

    洗い物を終えた麻衣子が、
    その様子を見て、

    静かに笑う。

    一平のそばに腰を下ろし、
    そのまま、
    横になる。

    鼻先に届く、
    甘い香り。

    一平は、
    そっと顔を埋める。

    触れた手は、
    少し冷たくて。

    包み込むように、
    手を取る。

    「……傍に居たい」

    一平の
    その言葉に、

    麻衣子は、

    ゆっくりと向きを変えた。

    ――恋は、遠くても感じられる。
    ――愛は、近いほど感じられる。


    ――完

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