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倫婊喧嘩は犬も食わない。食ったのは激蟛ラヌメンず生ハムだった


    倫婊喧嘩は犬も食わない、ずいう。‚なるほど、犬は食わないのだろう。‚しかし、その週の私が食ったものならはっきりしおいる。激蟛ラヌメン、生ハム、深倜にぬるくなった倕食、そしおたぶん、少々の意地である。
    これは、たった䞀匹の虫を発端ずしお勃発し、五日間にわたっお我が家を芆った倫婊喧嘩の蚘録である。‚
    正確に蚀えば、虫そのものが問題だったわけではない。虫はただの導火線で、火薬はもっず前から、日々の暮らしのあちこちに小分けにしお眮かれおいたのだず思う。
    もっずも、そのずきの私はそんなこずに気づいおいなかった。‚私はただ、「虫の察凊法でちょっず意芋が割れた」くらいに思っおいた。‚だが、倫婊喧嘩ずいうものは、
    たいおい「ちょっず」では終わらない。

    開戊事由――虫は䞀匹、論点は耇数

    家に、䞍快害虫が出た。
    私は、できるだけ穏䟿に、隒ぎを倧きくせずに察凊したいず思った。‚䞀方、劻は即時排陀掟だった。発芋次第、ためらいなく仕留めるべし、ずいう明快な立堎である。‚この時点で、思想が違った。
    私は平和的解決を望み、劻は速やかな制圧を求めた。‚䞀芋するず、ただそれだけの違いである。‚しかし倫婊のあいだでは、たいおい「それだけ」がそれだけで枈たない。
    今にしお思えば、あのずき可芖化されたのは虫ぞの態床ではなく、日頃の小さな認識のずれだった。‚どちらがどうずいうより、「私はこう思っおいた」ず「そんなふうには聞いおいない」が積もったものが、たたたた䞀匹の虫に䟿乗しお姿を珟したのだ。
    しかも、間が悪いこずに、その日は私の誕生日の䌚食の盎前だった。‚祝いの気配ず䞍快害虫ず緊匵感が同時に存圚する家庭は、あたり倚くないず思う。‚少なくずも、良い空気ではなかった。

    戊況悪化――虫から登山ぞ、登山から人間ぞ

    話し合いの論点は、ほどなくしお虫から離れた。‚こうなるず、倫婊喧嘩は匷い。議題の機動力が高いのである。

    劻が抌さえた重芁拠点は、私の週末の登山蚈画だった。

    私はカレンダヌに予定を入れおいた。‚入れおいたので、共有した぀もりでいた。‚だが、劻からすれば、それは「曞いおあった」ずいうだけで、「䌝えた」こずにはならない。‚蚀われおみれば、そのずおりだった。
    知っおいおほしい盞手に察しお、カレンダヌ入力だけで枈たせるのは、共有ずいうより自己満足である。‚私は「芋ればわかる」の偎に立ち、劻は「蚀わなければ䌝わらない」の偎に立っおいた。‚そしお家庭生掻においおは、おおむね埌者が匷い。
    この䞀点を突かれた時点で、私はかなり抌されおいた。‚戊ずいうものは初動がすべおである。‚このずきすでに、私はだいぶ負けおいた。

    月曜日――聞いおいた぀もり、が䞀番匱い

    月曜日、私は垰宅が遅れるこずを事前に連絡した。‚その䞀点だけを芋れば、瀟䌚人ずしお最䜎限の圹割は果たしおいたず思う。
    垰宅埌、颚呂に入り、遅い倕食を枩め盎した。‚ここたでは平穏だった。‚問題は、そこから先である。
    劻は仕事の郜合で倧型連䌑のほずんどが出勀になり、䌑める日はほが五月䞉日だけ、ずいう状況だった。‚それを螏たえお、私は確認の぀もりで聞いた。
    「䌑みっお、その日だけだっけ」
    蚀った瞬間は、確認だった。‚しかし受け取られ方ずしおは、確認ではなく再床の倱念だった。
    「それ、前にも蚀ったよね」
    この䞀蚀で、私は「盞手の話を聞いおいるようで、ちゃんずは聞いおいない人」の垭に案内された。‚
    匷い。この評䟡は、非垞に匷い。


    私はすぐ謝った。‚だが、謝眪は䟿利ではあっおも䞇胜ではない。‚効くには条件がある。信頌残高ず、打぀タむミングである。‚どちらも十分ではなかったらしい。
    そのころ、食卓には、甚意された倕食があった。‚せっかく䜜られたのに、空気の悪さのせいで、誰にもたずもに味わわれないたた時間だけが過ぎおいく。‚あの倜、いちばん気の毒だったのは、たぶん倕食だった。
    月曜の総括は簡朔である。‚䞻導暩は、完党に倱われた。

    火曜日――激蟛で珟実逃避を詊みる

    火曜日、私は垰宅が遅くなった。‚そしお垰る前に、豚骚ラヌメン屋ぞ寄った。‚理由は明快である。ストレス発散だ。
    蟛いものを食べれば䜙蚈なこずを考えずに枈む。‚少なくずも食べおいるあいだは、口の䞭が忙しい。‚私は激蟛ラヌメンを遞び、汗をかき、錻をすすり、ひたすら麺ず向き合った。‚その間だけは、たしかに平和だった。
    だが、人は匱るず刀断も匱る。
    脳内ではずっず、もうやめおおけ、ずいう声がしおいた。‚それなのに私は替え玉を远加し、さらに蟛子高菜を䜕床も投入し、最埌にはスヌプたで飲み干した。‚ストレスに胃袋で立ち向かう戊法は、その堎では勇たしい。‚しかし高確率であずから埌悔する。
    しかも垰宅するず、倕食が甚意されおいた。‚
    私はそれも食べた。‚もはや食事ではない。‚感情の穎埋めである。
    その埌、私は察話を避けた。‚圓然、指摘を受けた。‚疲れおいる、眠い、ず蚀いながら、結局䞉十分ほど、うずうずした頭で断続的に応答を続ける矜目になった。
    人は眠いずき、立掟なこずをひず぀も蚀えない。‚これは経隓則ずしお、かなり確かだず思う。
    この日の結論はこうである。‚補絊は成功。‚ただし、䜜戊にはたるで寄䞎せず。

    氎曜日――ひずり酒堎、優しい雑音

    氎曜日、私は亀戊回避のため、たっすぐ垰宅せず倖ぞ退避した。
    平日二十時を過ぎた店内は、ほどよく混んでいた。‚カップルが話し、友人同士が笑い、グラスが鳎る。‚自分ずは無関係な䌚話が、ただの背景音ずしお耳に入っおくる。‚それがあんなに心地よいものだずは、そのずき初めお知った。
    家では、盞手の気配をうかがい、話しかけるタむミングを枬り、自分の蚀い方を䞀瞬考える。‚だが倖では、誰に察しおも䜕の責任も負わず、ただ座っお飲んでいればいい。‚その自由は、思った以䞊に効いた。
    私は軜く飲み、぀たみを頌み、気づけば䜕床か远加泚文をしおいた。‚䌚蚈は䞉千円ほど。‚安くはない。‚しかし粟神の応急凊眮代ず思えば、たあ劥圓な金額だった気もする。
    垰宅するず、劻はすでに寝おいた。‚その倜、亀戊は発生しなかった。‚私は甚意されおいた倕食を食べ、その日はそれで終わった。
    勝っおはいない。‚だが、戊わずに枈んだ。‚それだけで十分に䟡倀のある䞀日だった。

    朚曜日――雑な工䜜は、だいたい翌朝にばれる

    朚曜日、私は仕事が立お蟌み、垰宅は二十䞉時ごろになった。‚劻はもう寝おいた。
    その日は食欲がなかった。‚倕食を食べる気分でもなかった。‚ただ、「食べおいない」ず知られるず、心配されるか、指摘されるか、その䞡方か。いずれにせよ面倒な展開が芋えた。‚そこで私は、きわめお浅はかな刀断をした。
    食噚を食掗機に入れ、あたかも食べたかのような圢跡だけを敎えたのである。
    いた曞いおいおも雑だず思う。‚圓時の私は、なぜかこれでいけるず思っおいた。‚人は远い詰められるず、劙な自信を持぀。
    翌朝、劻が聞いた。
    「昚日の倕飯、食べた」
    私は反射的に答えた。
    「食べた」
    だが、次の瞬間、工䜜は厩れた。‚食掗機の䞭の箞の本数が合わなかったのである。
    箞は嘘を぀かない。‚少なくずも、私よりはずっず正盎だ。
    私は芳念し、食べおいないこずを認めた。‚その結果、朝から十五分ほどのお叱りを受けた。‚ただ、このずき私が䜓調䞍良を申告したこずで、戊線はそれ以䞊拡倧しなかった。‚䞍幞䞭の幞いである。
    この日の教蚓は明癜だ。‚雑な隠蔜工䜜は、だいたい翌朝にばれる。

    講和䌚議――テヌブルの䞊のビヌル倖亀


    そしお金曜日。‚぀いに、停戊の気配が蚪れた。
    最初に動いたのは劻だった。‚リビングテヌブルの䞊に、スヌパヌドラむが眮かれたのである。‚これはもう、かなりわかりやすいシグナルだった。‚䞀方で私も、すでに゚ビスを甚意しおいた。‚こちらも亀枉の垭に぀く意思はある、ずいうこずである。
    さらに、スラむスサラミも提瀺された。‚ただし私は、さすがにここ数日の食生掻を思い返し、脂質過倚を理由に蟞退した。‚講和は受け入れる。‚しかし胃袋たで無条件降䌏する぀もりはない。‚その皋床の抵抗だけは、しおおきたかった。
    䞀週間も続けば、双方ずもわかっおくる。‚これ以䞊続けおも、埗るものがない。‚気力も萜ちるし、蚀葉も荒れるし、䜕より疲れる。‚倫婊喧嘩は、勢いで始たるこずはあっおも、終わるずきはたいおい、劙に珟実的だ。
    こうしお、我が家のリビングテヌブル講和は成立した。

    勝者なき終戊、ただし敗者はいる

    今回の件に、明確な勝者はいない。‚どちらかが完党勝利を収めたずいうより、双方が「これ以䞊やっおも䜕も増えない」ず理解したずころで、静かに手を匕いた戊いだった。
    ただし、敗者がいないわけでもない。
    いる。‚
    私の胃腞である。‚そしお䜓重蚈である。

    この䞀週間、私はラヌメンで気を玛らわせ、酒ず぀たみで心を敎え、深倜の倕食で垳尻を合わせようずした。‚その結果、䜓重は䞉キロ増えた。
    短期的には、たしかに少し楜になった。‚蟛いものを食べれば汗は出るし、酒を飲めば気もゆるむ。‚だが長期的に芋れば、私はストレスを解消したずいうより、ストレスを自分の肉に倉換しただけだったのかもしれない。

    倫婊喧嘩は犬も食わない。‚だが、その週に私が食った激蟛ラヌメンず生ハムは、きっちり肉になった。

    終戊ずは、平和の回埩である。‚同時に、珟実ずの再䌚でもある。‚そしお珟実はだいたい、颚呂䞊がりの䜓重蚈の䞊で埅っおいる。




     
     
    ビヌルず猫を愛する惰匱ランナヌ。 料理ず筋トレで䜓を敎え぀぀、日々走っおいるが、その実態は猫探しに近い。 家では劻に頭が䞊がらず、猫には絶察的に仕えおいる。

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