
営業冥利。毎度の暗黒営業話じゃない。 (1-2)
わぁっと大林君が突然泣き出した。
会社での朝礼が終わった時だ。
「ちゃぁしゅーさん~、どわわ~っ」
なんだ、なんだいっ。
いったいどうした?
「なんだ、ちゃぁしゅー、いじめたのか?」
僕を茶化してきたのは、長い付き合いのF係長だ。
僕がそんなことをする人間ではないと分かった上での冗談だが、営業所の所長まで心配そうにこちらを伺っていた。
すると大林君が
「盛岡営業所で、ちゃぁしゅーさんと働いて
……今日で1年になりました!」
大林君の言葉に、F係長はやれやれと肩をすくめた。
大林君は、僕が「雇用創出」を目標に掲げて必死に数字を積み上げ、やっと獲得した三人目の増員枠でやってきたメンバーだ。
最初は一人、自分のチームに営業メンバーを増やしたい。
その一心で活動していた。
しかし、僕が作った売上を元に増員された二人は、次々と拠点の別部署へと配属された。
それでも僕はめげなかった。
三人目の増員要件を満たした頃、
新たに着任した支店長から、ようやく自部署への増員許可が下りた。
「若い子を、僕の手で独り立ちさせてみたい。」
それが僕の願いだった。
ただし、一つの条件がついた。
仙台支店の大林君を引き取ってほしい、というものだ。
当時の僕は、彼のことを知らなかった。
「まあ、彼はいろいろあってな。
お前に任せる。」
支店長はそう言って、彼を僕に託した。
その彼が、配属から丸一年経った日の朝礼で、突然大泣きをしたのだ。
僕はその日、彼と同行することにした。
すると、移動中の営業車の車中で、彼が理由を話し始めた。
「ちゃぁしゅーさん、実は僕、
会社を辞めようと思っていたんです。」
「え!?」
僕は困惑した。
すると、彼は僕の困惑を否定した。
「違います、違います、盛岡に来る前です。」
「え、去年とか?」
「そうです。
実は……僕は仙台で予算も持たされず、
ただ毎日、飛び込み営業を繰り返すよう指示さ
れていました。」
大卒で配属されてからの二年間、
彼はOJTもないまま外に放り出されていた。
必死に食らいつき、二、三件の新規商談を掴み取っても、上司からはアドバイスも労いもなかった。
自分が成長しているのかも、どこへ向かっているのかも分からない。
暗闇の中を一人で走るようで、限界を感じ、
新支店長の着任と同時に辞表を提出したのだという。
その時、支店長が彼にこう言った。
「月百件の飛び込み営業をしていた人間が、今、盛岡にいる。
そいつに逢ってみるか。」
それが、僕だった。