色彩
今、彼はここにいる。ここにいて、少し憂鬱げに携帯を眺めている。
紫だった雲が細くたなびき、鮮やかな夕陽が辺りを柑橘色に染め上げる。
幻想的で美しい風景に、彼の意識は奪われた。手元から、単語を読み上げる音が聞こえる。
しかし色を持たないその音は、鮮やかに染まった少年の脳を染め上げる事が出来ず、用済みとでも言わんばかりに、無慈悲に大気に吸い込まれていった。
塗り替えられやすい少年のキャンパスは、幾度となく色を変えていく。
その色はどこからでも染み付いてくる。透明な色など、入り込む余地はない。
彼のキャンパスは、いつでも鮮やかだ。
その鮮やかさにうつつを抜かし、本当に見るべき色を見失っている。
日が落ち、夜が空を染め上げる。彼はそれに目もくれず、網膜に焼き付いたあの柑橘色の風景を、何時までも夢想し続けている。
暗闇が、彼を包み込んでいく。