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好奇心は、散らかっていない ― バラバラな興味を一本の線に束ねる「抽象度を上げる」思考法

    「で、結局あなたは何の人なんですか?」

    昔、転職エージェントとの面談で、ある質問をされたときのことです。

    私のこれまでの経歴を一通り聞き終えたエージェントが、少し考えてから、こう問いかけて下さいました。

    「いろいろやってこられたんですね。……で、結局、何の人なんですか?」

    悪気はなかったと思います。むしろ親切な人でした。ただ、私の職務経歴書を上から下まで見て、軸を見つけられなかったのかもしれません。
    採用→制度→HRBPという経験の流れを見るとある意味一貫性があるように見えつつ、エージェントとして、何を強みとしてクライアントに伝えるのかで少し困ってしまったのかもしれません。

    無理もありません。新卒で理科の教員を目指していたのに、気づけば転職エージェントになり、採用RPOをやり、外資系企業で人事制度を作り、スタートアップでコンサルタントをやり、今は空港運営会社でHRBPをやっている。おまけに少し雑談を挟むと、東洋哲学の話やら、印象派の絵についての関連性などを話はじめ、コーチングもやっているなどなど。

    自分でも、並べてみると「お前は何者なんだ」と突っ込みたくなるラインナップです。

    そのとき私は、うまく答えられませんでした。「人に関わる仕事が好きで……」と口ごもりながら、内心ではこう思っていました。

    ああ、自分はやっぱり、何も定まっていない人間なんだな、と。

    興味が広いことは、ビジネスの世界ではしばしば「浅い」「軸がない」「定まらない」と同義に扱われます。だから多くの人は、こうアドバイスします。「一つに絞りなさい」「好きなことを捨てて、専門を決めなさい」と。私もずっと、そうすべきだと思って、できない自分を恥じていました。

    でも、色々な思考プロセスを経て、それは間違いだと今は考えています。

    バラバラに見える好奇心は、捨てる必要も、絞る必要もありません。 ある一つの思考操作を加えるだけで、それらは勝手に一本の線に束ねられます。そして束ねられた線は、専門を一つに絞るより、はるかに強い武器になる。

    これは精神論ではありません。誰でも同じ手順で再現できる、思考の技術です。私自身が、14年以上のキャリア迷子から抜け出すのに実際に使った方法を、4つのステップに分けてお渡しします。

    では、いきましょう!

    まず、犯人は「あなた」ではない

    最初に、はっきりさせておきたいことがあります。

    あなたの好奇心がバラバラに「見える」のは、あなたの好奇心が実際に散らかっているからではありません。あなたが、自分の好奇心を「対象」というレベルでしか見ていないからです。犯人は、好奇心そのものではなく、それを見る「解像度」のほうにあります。

    少し回り道になりますが。。。「具体と抽象」という話はご存知でしょうか。
    私がこの考え方に出会ったのは、細谷功さんの『具体と抽象』という本でした。これが、私のものの見方を根っこから変えてくれた一冊です。

    物事には「抽象度のレベル」があります。

    たとえば、昔飼っていた一匹の猫。名前は『ムーン』と言いましたが、これは最も具体的なレベルです。
    これを一段引き上げると「猫」になり、さらに上げると「哺乳類」「動物」「生き物」となっていく。上に行くほど、個別の違いが消えて、共通する本質だけが残っていきます。

    好奇心も、これとまったく同じ構造を持っている、と私は感じています。

    試しに、私の好奇心を「対象」という一番具体的なレベルで並べてみます。

    • 理科(光合成、化学反応)

    • 人事(採用、組織、評価制度)

    • 東洋哲学(空、禅)

    • 絵画(印象派、モネ)

    ……どうでしょうか。自分でもどうしたものかと思うくらいに見事にバラバラです。もはや、なぞかけです。
    「猫とイルカと人間とミジンコ」を並べて「共通点は?」と聞かれているようなもので、この具体のレベルで見比べている限り、答えは永遠に出ません。かつての私が「自分には軸がない」と思い込んでいたのは、ずっとこの低い解像度で自分を眺めていたからでした。

    ところが、これを一段「抽象化」してみると、風景が一変します。では、その操作を実際にやってみましょう。

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    メソッド:好奇心の抽象度を上げる4ステップ

    ここからが本題です。あなた自身の好奇心に、そのまま使える手順です。できれば、紙とペン(スマホのメモでも大丈夫です)を用意して、一緒に手を動かしてみてください。読むだけより、時間はかかりますが、格段に得られるものがあると思います。
    今どき、AIにこの記事を放り込んで一緒にステップを進めても面白いかもしれないですね(もし、やった方がいたら結果を教えて欲しいです)


    ステップ1:好奇心を、恥ずかしがらずに並べる

    まず、今までに「面白い」と感じてきたこと、つい時間を使ってしまうことを、ジャンルを問わず10個ほど書き出します。

    ここでの唯一にして最大のルールは、「仕事に関係あるか」で選り分けないことです。子どもの頃に夢中になった図鑑も、最近やめられないスマホゲームも、なぜか気になって仕方ない歴史上の人物も、全部入れてください。むしろ、後でいちばん効いてくるのは、たいてい「これは仕事に関係ないから」と切り捨てそうになる、その一個だったりします。

    この段階では、バラバラで構いません。というより、バラバラなのが正常です。安心してください。


    ステップ2:「何が面白いのか」を、一言ずつ添える

    次に、並べた一つひとつに、「これの何が、そんなに面白いんだろう?」という問いの答えを、一言で添えていきます。

    これが、このメソッドの心臓部です。そして、やってみると驚くほど難しい。

    正直に告白すると、私が初めてこれをやったときは、半分以上の項目で手が止まりました。「理科が好き」とは言えるのに、「理科の"何が"好きなのか」と問われると、言葉に詰まる。「いや、なんとなく……」としか出てこないのです。

    でも、その「なんとなく」を、なんとか言葉にしようともがくプロセスにこそ、意味があります。うまく言えなくていいんです。何度も書き直していい。むしろ、一発で言語化できないものほど、奥に深い軸が眠っていると感じています。
    ちなみに、私が理科の好きな部分を考える際には「アハ体験」のような強い「わかった!」という感動は何だったかを思い出すようにしました。
    そこで出てきたのは
    4年生の頃に学んだ「なぜ川が蛇行している箇所の内側に大きな石や砂利が溜まりやすいのか」ということを一生懸命考えて、緊張しながら手を挙げて、先生に当てられて答える。それが見事に予想通りだったときの『そういうことか!!』
    という体験です。

    他の例も加えて、4つだけですが、私のケースを参考に載せておきます。(あまり思考を引っ張られないように気を付けてください)

    • 理科 →「授業や実験を通して『そういうことだったのか!』とわかる、あの瞬間の快感」

    • 人事 →「人がなぜそう動くのか、その奥にある仕組みを知りたい」

    • 東洋哲学 →「目に見える現象の、さらに奥にある本質に触れたい」

    • 絵画(印象派)→「具体的な輪郭をあえて崩して、光や空気という本質だけを描いているのが面白い」

    お気づきでしょうか。対象(What)の話から、「何に惹かれているのか(Why)」の話へと、視点が一段ずれています。この、ずらす作業こそが「抽象度を上げる」ということです。


    ステップ3:添えた言葉の「共通の動詞」を探す

    ステップ2で書いた「面白さの言葉」を、今度は横に並べて、じっと眺めます。そして、こう問いかけます。

    「これらの面白さに、共通している"動詞"はないか?」

    ここでのコツは、名詞(対象)ではなく、動詞(自分がどう関わっているか)に注目することです。

    私の場合、4つの「面白さの言葉」を眺めているうちに、ある共通項がぬっと浮かび上がってきました。

    理科で味わった快感も、人事で知りたかったことも、哲学で触れたかったものも、絵画で惹かれた点も――よく見ると、すべて「目に見える個別の現象の、その奥にある構造やパターンを掴む」ことだったのです。

    理科は、自然現象の奥にある法則を。人事は、人間行動の奥にあるメカニズムを。哲学は、世界の奥にある本質を。絵画は、対象の奥にある光を。対象はバラバラでも、私がやっていたことは、ずっと同じ、たった一つの動詞でした。

    私の散らかって見えていた理科・人事・哲学・絵画への好奇心は、「現象の奥の構造を掴む」という一語で、きれいに束ねられた。これが、好奇心の抽象度を上げる、ということの正体です。

    このプロセスを自分の中で確立できたときは本当に嬉しかったです。まさに私の好奇心を叶える「構造化」そのものが、出来た瞬間でした。
    また、自分は「飽きっぽくて軸のない人間」だと思い込んでいたのに、実は一度も、軸はブレていなかったということを説明できるようになったことも嬉しかったです。


    ステップ4:束ねた軸を、「未来の動詞」に変える

    最後のステップです。ステップ3で見つけた軸は、過去と現在の自分を説明するものでした。これを未来に向けて使うために、軸を「これから自分がやりたい動詞」へと翻訳します。

    私の場合は以下のようなまとめです。
    「現象の奥の構造を掴む」という自分の軸を、「その、構造を掴む面白さを、今度は他者の中に起こす」という動詞に変換したのです。

    理科少年だった頃に味わった、あの「そういうことだったのか!」という発見の喜び。それを、今度は自分が味わう側ではなく、人に起こす側に回る。そう定義し直した瞬間、人事の仕事も、コーチングへの関心も、哲学も、絵画も、すべてが「人の中に、発見の瞬間を仕掛ける」という一つの未来の軸に、自然とまとまっていったように感じました。

    バラバラだった点が、過去から未来までを貫く一本の線になった瞬間でした。


    このメソッドが、仕事で効く3つの理由

    ここまでは、自己理解の話に聞こえたかもしれません。ですが、この「好奇心の抽象度を上げる」という操作は、極めて実利的です。具体的に、仕事の現場で3つの効き方をします。

    効き方1:キャリアの「一貫性」を、堂々と語れる

    冒頭の面談に話を戻します。

    あのとき言葉に詰まった私ですが、今、同じ質問をされたら、迷わずこう答えます。

    「私は一貫して、"現象の奥にある構造を掴み、それを別の言葉に翻訳する"ことをやってきました。採用も、制度設計も、HRBPも、対象が変わっただけで、やっていることはずっと同じです」

    経歴を時系列で語ると、転職や異動が多い人ほど「一貫性がない」と見られてしまいます。でも、一段上の抽象度で軸を語れる人は、経歴がどれだけ多彩でも「ブレない人」に見える。一貫性は、経歴という具体のレベルには存在しません。その一段上の、抽象のレベルに存在しているのです。 これに気づいてから、私は自分の多彩な経歴を、恥じるのではなく、武器として語れるようになりました。

    効き方2:異分野が「掛け算」になる

    専門を一つに絞った人は、その分野の中だけで勝負します。でも、複数の好奇心を一本の軸で束ねた人は、分野と分野を掛け合わせられます。

    具体的な場面を一つ、お話しします。

    あるとき、事業部の責任者から「現場で頑張ってくれている若手を、もっと早く引き上げたいんだよね」という、ふわっとした相談を受けました。

    多くの人事は、ここで「では昇格基準を確認しますね」と、いきなり制度の話に入ります。でも、私がやったのは違いました。まず「その"頑張っている"って、具体的にどんな行動を指しますか?」と、現場の実感を一段ずつ掘り下げていく。次に、掘り出したその実感を、「評価制度のどの項目で表現できるか」へと、今度は逆向きに抽象化し直していく。

    これ、お気づきでしょうか。
    現象(現場の生の実感)の奥にある構造を掴み、それを制度という別の言語に翻訳する。
    理科少年が、目の前の自然現象を法則という言葉に翻訳していたのと、寸分たがわず同じ動詞なのです。私は「具体と抽象」という、本来は哲学の道具を、人事の現場に持ち込んでいたわけです。結果、その若手は半年後に抜擢されました。

    絵画も効いています。組織を見るとき、私は肩書きや人数といった「輪郭」を、印象派の絵のようにいったんぼかして、そこに流れている空気や力学という「本質」のほうを掴もうとします。これは、絵画への好奇心がなければ、決して持てなかった視点です。

    好奇心がバラバラなほど、束ねたときの掛け算は強くなる。 これは、一つに絞った人には、逆立ちしても持てない武器だと感じています。


    効き方3:枯れない。原動力が「動詞」だから

    対象(名詞)への興味は、いつか飽きます。一つの分野を極めると、ふっと熱が冷めることもある。

    でも、「現象の奥の構造を掴む」という動詞は、対象を乗り換えながら、一生使い続けられます。理科に一区切りついても、その動詞は人事に移り、哲学に移り、絵画に移り、次は何に移るのか正直自分でもあまり分かっていません。
    とはいえ、スタートが"動詞"である限り、原動力である好奇心がある限りは何かやり続けているのだと思います。
    人生100年時代など言われている昨今で、これは大切な考え方なのではないかと考えています。


    おわりに:好奇心は、散らかっていなかった

    長くなりました。最後に、伝えたいことを一つだけ。

    かつての私は、「で、結局あなたは何の人なんですか?」という問いが、怖くてたまりませんでした。答えられない自分が、未熟で、中途半端な人間に思えたからです。

    でも今は、こう思っています。

    あの頃の私の好奇心は、散らかっていたわけではなかった。
    ただ、それを見る私の解像度が、低すぎただけだったのだ、と。

    点と点がつながらないと嘆いていたのは、その点を、地面に這いつくばるような低い視点から眺めていたからでした。少し高いところに登って見下ろせば、点はとっくに、一本のきれいな線を描いていた。私に足りなかったのは、新しい才能でも、興味を絞る我慢でもなく、ただ「一段、視点を上げる」という、それだけの操作だったのです。

    もしあなたが今、自分の興味の散らかり具合に、どこか後ろめたさを感じているなら。

    どうか、好きなことを捨てないでください。その代わりに、一段だけ、視点を引き上げてみてください。バラバラに見えるその点と点の奥には、あなただけの一本の線が、きっと、もう引かれているはずですから。

    そして、あの会議室で言葉に詰まっていた過去の自分に、今ならこう言ってやれます。

    あなたの好奇心は、散らかってなんかいなかった。ただ、見る高さが、ちょっと足りなかっただけだよ、と。

    もし、まだ、紙を一枚用意して、好奇心を10個並べること、AIに放り込んでもいいので、ワークを開始することに手が止まっていた方は、一度、10個とは言わないので、少しでよいので始めてみませんか。
    「で、結局あなたは何の人?」は、もう怖い問いではなくなっているはずです。

    ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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    空港運営会社にてHRBPやりながら、HRBPのノウハウを発信しています。 経歴:転職エージェント/ 採用RPOプロマネ/ 外資系企業にて人事制度COE/ アルムナイサービスを展開するスタートアップ コンサルタント・CS担当/ 人事関連セミナーで登壇しています

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