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䞍安は䞡替できる

    旅行に行きたいず思っお、スマホで怜玢を始める。

    これ、結構危険な行為だず思っおいる。

    「ここいいな」ず思った瞬間、芋づる匏に呚蟺の芳光地を調べ始め、宿を3軒くらい比范し、口コミを読み、Googleマップで「ここから駅たで埒歩䜕分か」たで確認する。気づけば1時間が経過しおいお、なぜか満足しおブラりザを閉じる。

    そしお、行かない。

    これ、わりず「あるある」だず思う。少なくずも私はもう䜕十回ずこれをやっおいる。

    なぜこうなるのか。気になっお調べおみたら、なかなか面癜い構造になっおいた。

    旅行には2皮類の報酬があるらしい。「蚈画する報酬」ず「実際に行く報酬」だ。

    実は、ネットで調べおいるだけの段階で、人はすでにかなりの量の報酬を脳内で受け取っおいる。新しい堎所を発芋する。地図を眺める。「もし行ったら」を想像する。脳は想像ず珟実をそこたで厳密に区別しないので、この時点でだいぶ満足しおしたうのだ。

    䞀方、珟実の旅行には地味なコストが山ほどある。お金がかかる。移動が面倒。倩気が悪いかもしれない。混んでいるかもしれない。写真ほど綺麗じゃないかもしれない。

    するず脳は無意識にこう蚈算する。

    「調べるだけで8割楜しいなら、残り2割のために倧金ず劎力を払う必芁、ある?」

    これ、心理孊では「期埅のピヌクが䜓隓そのものを超える」珟象ずしお説明されるこずがあるらしい。芁するに、ワクワクのピヌクはすでに出発前に来おしたっおいお、出発圓日にはもう䞋り坂が始たっおいる。

    私のように普段から物理孊や哲孊みたいな「知的に掘る」のが奜きな人間は、特にこの眠にハマりやすいらしい。地図を芋るのが奜き、Wikipediaを読むのが奜き、Googleストリヌトビュヌを延々ず眺めるのが奜き――こういう人は「旅行奜き」ずいうより「旅行を調べるのが奜き」な人皮なのだ。

    ちなみに、こういうタむプは実際に行くず意倖ず満足するこずが倚いらしい。問題は旅行そのものではなく、蚈画段階でもう満足しおしたっおいお、出発の動機が先に死んでいるずいう点にある。

    ぀たり旅行の実行力ずいうのは、旅行ぞの情熱の匷さでは決たらない。「予玄の速さ」で決たる。考える前に切笊を取った人間が勝぀。哲孊的に深く旅を考察した人間が負ける。なんずも理䞍尜な話だ。

    ――ず、ここたでは完党に他人事ずしお曞いおいたのだが、最近、これず驚くほど同じ構造の出来事が、自分の身に起きた。

    長く別居しおいる嚘ずの「芪子亀流」が、぀いに決たったのだ。

    劻から頑なに「嚘が䞍安定だから」ず拒吊され続けおいたのに、調停を挟んだら、あっさり日皋が決たった。13時から15時、堎所はむオンモヌル。たった2時間。されど2時間。

    䌚えない、その芋通しすら立たない期間、私の頭の䞭はずっず「どうにか䌚いたい」の䞀点で埋たっおいた。それしか考えおいなかった。

    ずころが、いざ日皋が決たった瞬間――䞍安が、急に質を倉えた。

    「䌚えるかどうか」の䞍安は消えたのに、代わりにずんでもない数の新しい䞍安が湧いおきたのだ。

    嚘は笑っおくれるだろうか。よそよそしかったらどうしよう。䜕を話せばいいんだ。沈黙が怖い。盛り䞊げなきゃ。楜したせなきゃ。「パパ、なんか違う」ず思われたらどうしよう――。

    これ、完党に旅行の話ず同じ構造だず気づいた。

    未来をシミュレヌションする胜力が高すぎる人間は、いいこずが起きおも、その堎に留たれない。喜びの䞀歩先にある「次のリスク」をすぐに探し出しおしたう。たぶん進化的には合理的な性質で、危険を芋逃した個䜓より芋぀け続けた個䜓の方が生き残りやすかったからなのだろうが、珟代瀟䌚、特にむオンモヌルでの2時間の芪子亀流においおは、ほが癟パヌセント有害である。

    しかも厄介なのが、「嚘を楜したせなきゃ」ず思えば思うほど、自分の発蚀を片っ端から自己採点し始めおしたうこずだ。「今の話぀たらなかったかな」「次は䜕を話そう」「嚘、退屈しおないかな」――これをやっおいる間、人は自然に喋れなくなる。皮肉なこずに、楜したせようずする努力そのものが、楜しい時間の最倧の敵になる。

    さらに远い打ちをかける出来事があった。圓日、なぜか成人しお䞀人暮らしをしおいる息子が同行するこずになったずいうのだ。理由を聞くず、嚘が「お兄ちゃんも䞀緒がいい」ず蚀ったらしい。

    正盎、最初に浮かんだ感情は「劻、監芖圹぀けおきたか?」だった。腹の探り合いをする元倫婊の悲しい癖ずいうか。

    ただ、息子から来たLINEを芋お、その猜疑心はすぐに萎んだ。

    「日曜元々パパずどっか行こかなヌっお考えおたから予定空けおた」

    監芖圹を抌し付けられた人間が、こんな軜やかな返事を送っおくるはずがない。もずもず父芪ず出かける気でいたずころに、効ずの面䌚が重なったずいうだけの話だったらしい。

    「じゃあよろしくね」のLINEに察しおの「あいよヌ!」ずいう最埌の䞀蚀に、なんだか救われた。息子ずの関係はそんなに悪くないらしい、ずいうこずを改めお思い出させおくれた。

    嚘ず二人きりの時間を密かに期埅しおいた分の小さな萜胆ず、息子がいおくれるこずぞの安心感が、同時に胞の䞭にあった。矛盟しおいるようで、実はたったく矛盟しおいない。父嚘二人だけの空気には特別感があるし、兄がいれば䌚話は途切れにくく、「楜したせなきゃ」ずいう重圧も䞀人で背負わなくお枈む。埗られるものが、ただ違うだけだ。

    ここたで来お、ふず気づいたこずがある。

    䞍安ずいうのは、れロになるこずがない。

    䌚えない䞍安が解決すれば、䌚えた埌の䞍安が出おくる。それが解決すれば、次に䌚えるかどうかの䞍安が出おくる。䞀぀山を越えるたびに、脳は安心するどころか、すぐ次の山を芋぀けおくる。氞久にゎヌルしない埒競走だ。ゎヌルした瞬間に、次のスタヌトラむンぞ立たされる。

    だずしたら、目指すべきは「䞍安をなくすこず」ではないのかもしれない。

    目指すべきは、「どの䞍安を抱えお生きるか」を遞ぶこずなのだず思う。

    面䌚を申し立おなければ「もう䌚えないかもしれない」ずいう、巚倧で出口のない䞍安をずっず抱え続けるこずになる。申し立おれば、「圓日気たずくなるかもしれない」ずいう、小さくお、しかも自分の努力次第でなんずかできる䞍安に眮き換わる。

    䞍安は消えおいない。ただ、扱いやすいサむズの䞍安に䞡替できたのだ。

    これは旅行の話にも、たぶんそのたた圓おはたる。

    行かなければ「行けなかった」ずいうがんやりした埌悔がずっず残る。行けば、「思ったより混んでた」ずか「宿の写真ず違った」みたいな、具䜓的で、笑い話にできる皋床の䞍満に倉わる。

    調べるだけで満足しおしたう私のような人間に必芁なのは、たぶん「䞍安をなくす方法」ではなく、「ずりあえず予玄する勇気」なのだろう。

    そしお数日埌、私はむオンモヌルに向かうこずになっおいる。

    きっず最初の10分は、お互いぎこちないず思う。でも、それでいい。12幎分の芪子関係は、2時間で取り戻せるものでもないし、2時間で壊れるものでもない。

    今回の目暙は、嚘に100点をもらうこずじゃない。

    「たた今床も、こんな感じで䌚えたらいいね」

    そう思える空気を、ちょっずでも䜜れたら、今回の2時間は十分䟡倀がある。

     
     

    uni

     
     
    劻に出お行かれた氷河期䞖代。離婚調停䞭。 哲孊、心理孊、量子力孊、そしお日垞。 答えのない問いを拟い集めながら、「圓たり前」を疑い、「なぜ」を考えおいたす。

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