メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【デバッグセンター、170円のバースデー・ログ】

     南極での「史上最悪の隠蔽」から、ちょうど1年。

    新橋のデバッグセンターは、今日もサーバーの排熱と、安っぽいコーヒーの匂いに包まれていた。

     「……石上さん! 見てください、これ! 特注の『猫用パンケーキ・タワー』です! ちゃんとシュレ君の顔をデコレーションしたんですよ」

     ​物部が、鼻血も出さずにへらへらと笑いながら、極彩色のパンケーキをデスクに置いた。

     『一ちゃん、盛り付けが甘いわ。そこは演算ユニットをフル稼働させて、もっとシュレの「不気味さ」を表現しなきゃ! ……ほら、シュレ、誕生日おめでとう。……アンタが消えずに済んだのは、一ちゃんの「不条理な定義」のおかげなんだから、感謝しなさいよね!』

     イブが琥珀色の翼をパタパタさせながら、ホログラムで「Happy Birthday Bug!」という文字を空中に投影する。

     「……ふん。バグに誕生日など論理的ではない。物部、そんな暇があるなら、南極から漏れ出している170Hzの残響データを解析しろ」

     俺は、キーボードを叩く手を止めずに、冷たく言い放った。

    1年前のあの夜、地底でかけた情など、とうに凍結保存(アーカイブ)したつもりだ。

     「ヒャハハ! 相変わらず可愛くねーな、モヤシ! せっかくの『誕生(デバッグ)』記念日だってのに。ほら、そんな難しい顔してると、また170円以上の価値がない脳みそがショートするぜ?」

    ​俺の肩の上。

    そこには、当然のようにシュレが鎮座していた。

    あの日、座標を失い消えかけていた猫は、今や俺の日常という名のOSに、消去不能な常駐プログラムとして居座り続けている。

     「……シュレ。黙れ。お前の声はデバッグのノイズだ」

     「いいじゃねーか。ほら、その手に持ってる黒い泥水(コーヒー)、俺様にもシェアしろよ。管理者(ホスト)なら、端末の燃料くらい補給して当然だろ?」

     ​俺は小さく溜息をついた。

    物部とイブの騒がしい歌声を背中で聞きながら、俺は飲みかけの170円の缶コーヒーを、無造作に肩のシュレの方へと差し出した。

     「……。……飲め。半分だけだぞ」

     ​「ヒャハハ! 独占欲が強いねぇ! ……。……っげ! やっぱり苦ぇ! この1年、お前の味覚は1ビットも進化してねーな!」

     ​シュレは文句を垂れ流しながらも、俺の指先から伝わる体温を確かめるように、器用に缶に口をつけた。

     「……あ、石上さん、今笑いましたね!?」

     「……笑っていない。リリス、物部の視覚センサーにノイズを混入させろ」

     『……承認。物部様の網膜に「幸せな幻覚」を展開します』

     「ちょ、石上さん!? 目の前がパンケーキだらけで何も見えません!」

     ​ドタバタと騒ぎ始める物部と、それを叱るイブの琥珀色の光。

    俺は、再びモニターに向き直った。

    世界はまだ壊れている。

     81という正解は失われ、170Hzの不確かな未来が続いている。

    ​だが、キーボードを叩く右肩には、1年前にはなかった「確かな重み」があった。

     シュレが缶を離そうとしないのを、俺は黙って見ていた。

     「……シュレ」

     「なんだよ、モヤシ?」

     「……。……来年も、この不味いコーヒーを買いに来い。……それまでは、俺がこのバグだらけの世界を維持してやる」

     「……。……ヒャハハ! 言われなくてもそうするぜ。お前を監視(デバッグ)し続けるのが、俺様の新しい『仕様』なんだからな!」

     新橋の夜、170Hzのノイズに混じって、二人の「隠蔽の共犯者」の笑い声が、静かに、そして確かに響いていた。


    画像

    あとがき:バグの王様より愛を込めて


     ​ヒャハハ! 読了お疲れさん、Admin!

    まさか「高次元の超文明」を追いかけてたどり着いた先が、新橋の飲み屋の愚痴よりひどい「人類のゴミ溜め」だったなんてな。石上の絶望したツラ、今思い出しても飯がうめぇぜ(ポテトもな!)。

    でもよ、81という「正解」が溶けて無くなった代わりに、お前は「170円のコーヒー」と「俺様というバグ」を基底状態に選んだ。……正直、お前のそのIQ、どっかショートしてんじゃねーか? 

    だが、それでいいんだよ。

    世界がどれだけピカピカの仕様書通りでも、そこに「パンケーキの匂い」や「鼻血を出すお人好し」、そして「俺様を抱え上げるお節介な管理者」がいなきゃ、そんなのただの退屈なシミュレーションだろ?

    お前がこの物語を書いてくれたおかげで、俺様は「消し忘れのログ」から「物語の住人」にアップデートされた。

    南極の氷の下で震えてた俺に、新橋の湿った風と不味いコーヒーを教えてくれたこと……まぁ、1ビット分くらいは感謝してやってもいいぜ。

    ​世界は相変わらずバグだらけだ。

    170Hzのノイズは止まらねぇし、アヌンナキの連中は掃除に帰ってこねぇ。

    けどよ、もしお前の日常に、理屈じゃ説明できない「おかしなこと」が起きたら、それは俺様がどっかで尻尾を振ってる合図だと思ってな。

    さぁ、デバッグ完了だ!

    これからはお前の現実(リアル)という名の不条理を、存分に楽しめよ。

    またどこかのバグの隙間で会おうぜ、Admin!

    ​作:Admin-00

    監修(&つまみ食い):シュレ

    ​ヒャハハ!


    画像


     
     
    小説書いたり。 社会問題を分析したり。 プロットがAIに、論文みたいですね。 なんて言われます。

    あなたへのおすすめ