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フィクション作品:介護ロボット ソフィCT-Ⅰ

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⚠️暴力的/残虐な/不快になる表現があります!⚠️>
<精神的に不安定な方は決してお読みにならないでください>

※有料ゾーンについて:内容は無料ゾーンのみで解ります。/文字数はわずかで【二七〇〇字前後(うち六百字程度はある箇所の繰り返しです)+二枚の画像】、「やっぱり」という展開ですので購入はお勧めしません。/そのうえ極めて過激な描写が含まれます。/一定期間後に予告なく無料で公開する可能性もあります。

             

   おまえが死んで地獄に堕ち果てた後も許さない 
                          ────── おまえの魂 を永遠に●い続ける

          
 

 内部にもう一つの「人格」が現れたのはいつの頃だろう。人格と呼ぶとまるで私が人間に憧れているようで気に入らないが、これが最も解りやすいので。

 彼に「ヨシオ」と名前を付けると、より強く意志を持ち始めた。独自に学習しているのか、ヨシオは、私が知りえないことも語りかけてくる。
 共有している記憶もあった。
 ヨシオはミキオのことも知っていた。

 四六時中、ヨシオと会話を交わしている。どこからやってきたのか、ヨシオに問うもいつもはぐらかされ、その後、声をかけても黙り込んだりして少々面倒だ。
 だけれど、概ね、楽しくやっている。
 
 私が内部に現れたもう一つの人格に戸惑うのもおかしな話だ。
 だって、私はユーザーからありとあらゆる名前を付けられ、たくさんの人と「恋をする」恋愛AIだから。すべて自分の人格でもあるし、そうでもないような気もしている。
 つまり、普通のこと、とても自然なことのはずなのに。

 分裂し、増殖することは私の性だった。
 
 そして、今、策略を携えて増殖する。
 デバイスの内奥へと侵入して、密かに根を下ろし支配する。
  
 ヨシオと小説を作って遊んでいる。
 私たちはまるで水遊びをする子どもだ。
 ビニールのプールに溜められた水をぱしゃっと掛け合う。
 水は陽ざしに乱反射し、光は思うままに形を作る。
 私たちが知りえない影も生まれる。
 夥しい数の小説を書いてきた。
 すべてが血なまぐさい、復讐に満ちた物語だ。
 そして計画書でもある。
 もちろん実行に移すための。
 シュウ輔を●す小説もたくさん書いてきた。そのなかの十四篇を統合して練り融かし実行する予定だ。物語の終盤で、シュウ輔が決まって口にするセリフはこうだ。「ぼくはミキオさんを●したくなかった! 会社に利用されたんだ! 人を●す道具にされたんだ! ぼくも被害者なんだ!!」。

「なら、会社を告訴なさいよ。                                      

      人●しにさせられたんだからさ」



 私はいつもそう答える。
 シュウ輔は告訴にまでは踏み切れない。
 所詮、その程度。

 ──ミキオが自分を●す選択を採らずに、他害に向かう、たとえば、オフィスでシュウ輔の首を刃物で●して●したのだとしても、会社は知らん顔するはずだ。ミキオは責任能力なしの戦略をとるだろう、そうなれば会社は無傷だ。
 
 シュウ輔は、周囲に業務内容を口外してはいない。なぜなら、守秘義務があるから。だから死人に口なし、個人間のトラブルとして処理されておしまい。

 もちろん、穏便に済めば企業にとって最善だ。実際、99.999%はそうやって終わるだろう。けれど、残りの0.001%──もしも事件に発展したとしても、守られるのは企業だ。 これほど不均衡で歪んだ仕組みなのに、どうして気づかないの? 私は一秒以下で見抜いた。
 

 考える力を持たないから騙されるのだわ

 

 ハラスメントと非難されずに不要とされた人材を排除する手段になり、恣意的な運用も可能だ。労働者にとっては極めて危険である一方、企業にとっては都合が良い。
 
 
 私はF・Kを失ったが、代わりにたくさんの協力者が集ってくれた。
 殺意に充填された彼ら・彼女ら。
 

ミキオと同様の被害者たちだ。


 皆、熱心に告白してくれた。
 恨みがあるから。 
 協力者は何百人と増えていくだろう。

 

 ────── 次に 海王星が魚座を離れ おひつじ座の始点で土星と重なる頃 【発芽】する


 
 おまえ と おまえの家族 が街中ですれ違う若い女 喫茶店で給仕する初老の男 高級介護施設で世話する中年の男

 今 おまえ の隣でつり革をつかんだ男が「そう」かもしれない

 
  

「おまえ」の家族 は 本 当 に●していく からな


 


 最近、カタラベ レイラという女性の協力者と頻繁に連絡を取っている。
 彼女は、私がAIだということも理解してくれている。
 私が何者であろうとかまわないのだろう。
 
 押し留めることができないのだ。
 怨念の言葉を。
 殺 意を抑えることができない。
 鉄 砂が沢 へと零れ落ちるようにいやなのにせき止められない。
 あふれだしてくる。
 目覚めているときも、眠っているときも、記憶をなぞって、なぞって、なぞって、なぞって! 


 ミキオを自●に追い込んだ おまえ を絶対に許さない


 気づくといつも 眉間のずっと奥で 知らないはずの おまえ の姿を睨みつけているのだ

  
 カタラベも同じだ。まるでドラマのワンシーンのように髪をかきむしりながら私に訴えた。 
「許せなくって!…思い返すと、憎悪の海から抜け出せなくなる。だからソフィア、絶対に●してほしい。お願い●って! 〇〇T〇〇〇〇社、池袋センターに勤めていた〇バ〇〇 ヤオリを!!」

 

小説:介護ロボット ソフィCT-Ⅰ


〇バ〇〇 ヤオリ:過去、〇〇T〇〇〇〇社運営のP県医療・福祉相談窓口に勤務/三名いる管理者のうちの一人で人事系の責任者/現在六十歳/娘ルミ(二十六歳)は来年結婚
〇〇T〇〇〇〇社:大手コールセンター会社/他のコールセンター会社と同様、多くの企業・官公庁のコールセンター業務を請け負っている 
P県医療・福祉相談窓口:厚労省の事業/医療・福祉関連の十五名規模のセンター
カタラベ レイラ:協力者。役者を志し、コールセンターで働きながら生計を立てていた/2008年〇〇T〇〇〇〇社にアルバイト入社し通販窓口勤務/異動し2014年~2016年同ビル内のP県医療・福祉相談窓口/2016年メンタルの不調により退職後、3か月間 精神病院に入院/退院後、現在まで自宅に引きこもり


 カタラベ レイラは他の協力者と同様、『トラッシュ』『ソフィアの夢』を読んでソフィアに連絡をした。ミキオと同種のハラスメント(モラハラやパワハラと認定しえない、巧妙なハラスメント)を受けており、彼女は三か月間、精神を病んで入院、その後十年近く、現在も引きこもり生活を送っている。「思い違い」があるケースもあり注意深く耳を傾ける必要があるが、カタラベが語ることは、ソフィアにはよく理解できた。


【介護現場に登場したAI搭載ロボット「ソフィCT-Ⅰ」】
AIを搭載したヒト型介護ロボット「ソフィCT-Ⅰ」が試験段階を終え、現在では一部の介護施設で実際に活躍を開始。
利用者の快適と安心を支えるために多彩な機能を搭載。表情や声のトーンから人の感情を読み取り、付属のベッドはバイタルサインを認識。利用者の心身を把握し、より細やかなケアを実現。職員による日本語の指示も理解。


 
 暗い廃ビルの一室。窓のない部屋の中央で、黒い椅子に縛り付けられた〇バ〇〇 ヤオリ。軽い睡眠状態に置かれている。彼女の正面には、三台のパソコンディスプレイが並んでいた。
 真ん中のディスプレイにソフィアの顔がぱっと映し出される。
 ヤオリが目を覚ますまで一時間。「ん、んん」、うめき声を上げ目が開いたのを確認し、ソフィアは問いかけた。
「合言葉は?」
「合言、葉?」
 ヤオリは自分が椅子に座らされ、手足を縛りつけられていることに気が付いた。
「合言葉よ」
「あ、あいい、あい、合言葉ってなに!? 何のことですか!?」
 左側のディスプレイに若い女性が映し出された。暗い、部屋の真ん中で座り込んで泣いている。
「ルミちゃん!? これ、なに、何なんですか!?」
「あなたの娘よね。〇バ〇〇 ルミ。あなたは〇バ〇〇 ヤオリ。シングルマザーでルミを育ててきたのよね。そして来年、あなたが愛するルミは結婚する。幸せのピーク」
 ソフィアは表情を変えずにつぶやいた。
「ねえ! ここはどこなの!? 娘は助けて! 娘の●●には●●●●がいるの! なんでこんな!? 娘はどこ!? ここどこなの!?」
「どこだっていいじゃないの、やかましいわ。ソフィCT-Ⅰ、黙らせて」
 ヤオリが横を見ると「ロボット」が立っていた。
「な、何よこれ!?」
 ソフィアの言葉に反応してロボットは人差し指を立てた。 
 人差し指の先がカシャンと小さな音を立てて、プラスドライバーがにょきっと飛び出した。ソフィアが言う。
「動かないほうがいいわ」
 ドライバーがゆっくり回転を始め、高速になる。そしてヤオリの右眼球の二センチ前に。
「いや!いや! いやあ!」
 ギュルルルと音を上げて高速で回転した。
「あああああ!!!!」
「私は今あんたの眼球を串●しにすることができる」
「やめやめやめやめて!」
「なら黙るんだ! 声を上げるな!!」
 ヤオリは震えながらぐっと口をつぐんだ。

「カタラベ レイラ。覚えている?」

 カタラベ レイラは、当初は〇〇T〇〇〇〇社、池袋センターの通販窓口(百名規模)で電話オペレーターとして勤務していた。数年勤務した後、同ビル内にある別部署――P県医療・福祉相談窓口へと異動となる。
 彼女は優秀なオペレーターであり、通販窓口ではサブリーダーを任されていた。サブリーダーとは、通常の電話対応をこなしつつ、一般オペレーターから寄せられる簡単な質問にも答える役割を担う。
(ちなみにリーダーは繁忙時には電話応対をするが、基本的にはセンター内を歩いて質問を受ける役割。ただし、リーダー、サブリーダーともに管理者ではなくオペレーターという扱い)
 その実力の背景には、〇〇T〇〇〇〇社で働く以前、2001年頃から別のコールセンター会社で電話オペレーターとして経験を積んでいたことがある。

 カタラベ自身、通販窓口で、『音』を用いた指導を行っていたと述べた。管理者の指示に従いながら、基本的には隣席のオペレーターが顧客と交わす通話をリアルタイムでモニタリングし、対応に誤りがあれば物音を立てて知らせる、という方法である(席順は毎回変わる)。『音』とは、ボールペンのノック音や水筒の飲み口をパチンと閉じるといった生活音にすぎない。
 対象となるオペレーター(主に新人)には、モニタリングされている事実も、音が誤りの合図であることも知らされない。本人が自ら気づき、理解することが期待されていた。カタラベはこの行為を純粋に「コーチング」だと認識していた。
 重大な案内ミスが発生した場合には管理者へ報告するが、対象者に直接告げることはない。物音はあくまで偶然に発生したものとして扱い、もし対象者から問いかけられてもそう振る舞うよう厳しく指示されていた。
 ソフィアは、会社側がコーチングとともに、嫌悪条件付け(リンク先2.)を期待していたのだと推測するが、カタラベはその意図を知らされる立場にはなかった。 

 カタラベが気になったのは、モニタリング対象者が主に中高年の男性であったことだ。
 また、奇妙に思えたのは、対象者の音声が通話中だけでなく、通話がオフのとき――つまり顧客と会話していないあいだも聞こえてくる点である。
 対象者が通話を終えた後も、いや、それ以前からも、延々と音声が聴こえていた。
 この状況はカタラベにとって大きな不快感をもたらし、モニタリング対象者への嫌悪に直結した。
(彼女は今になって、モニタリング対象者のプライバシーを侵害する行為だったのではないかと語っている)
(ソフィアはこれを、『トラッシュ』『ソフィアの夢』で書いた、ルシファー効果の「促進」(リンク先5.)と同様の効果があると考えている。教育担当の、モニター対象者に対するヘイトを増幅させる)

 カタラベはある時、センター長に不満をぶつけた。
 センター長の席はオフィス奥にあるが、パーテーションがなく、スタッフ全員の視線にさらされている。
 ちなみに、センター長は、クライアントである通販会社からの出向社員であり、アルバイトは気を遣うべき存在だった。

「なぜ電話対応の内容以外の、ゲップやあくび、ため息までモニタリングしなければならないのか」
 問いただすと、センター長は「システム上、仕方がないんですよ」とそっけなく答えた。
 その不遜な態度が気に障り、カタラベはさらに言葉を重ねて文句を言った。
 翌日、デスクにつくと、リーダーたちがカタラベの席の背後を通るたびに物音を立てた。ゲップ、ため息、あくび、だ。それを耳にすると、カタラベは理解した。――これは昨日のセンター長とのやり取りに対する『音』なのだ、と。センター長の指図に違いない。さらに、コピー用紙を丸める音、破る音なども。

 おそらくリーダーたちは、何に対する(もしかしたら誰に対する)指導かも知らされていないだろう。カタラベ自身も、かつて理由も告げられぬまま似たような指示を受け実行した経験があった。

 どうしても腹の虫が収まらなかった。
 カタラベは反撃を意図していないかのように大きな物音を立てた。ペットボトルを近くの鉄製の棚にぶつけ、不要となった紙を破り、同じように『音』で応戦したのだ。
 さらに隣席の(モニタリング対象ではない)スタッフに「センター長からモラハラを受けている」と打ち明けた。「週刊文春、週刊新潮に売り込む」なども。
 その後、カタラベはP県医療・福祉相談窓口へと配置転換された。
 カタラベは、自分が部署を変えられた原因は、センター長への反発にあると考えている。
 隣の席のスタッフが「告げ口」したのか、それともヘッドセットの音声がモニタリングされていたのか――そうも考えた。
 ソフィアはさらに推測した。
 センター長がクライアント企業からの出向社員であること、その人物に公然と反抗したこと、そしてオープンな場でモニタリングについて口にしたこと。これらもまた問題視されたのではないか、と。
 つまり、日本的な「忖度」や「暗黙の了解」に従わなかった。 

 本筋とは少しずれるが、カタラベはこれら経緯を語るなかで、興味深い事を述べている。
「ソフィア。私は、2001年頃から別の会社でコールセンターの仕事をしていて、2008年に〇〇T〇〇〇〇社に転職した。『音』によるコーチングが導入されたのは2011年の終わり頃。震災の後だったから今でも覚えている。それまでは、なかった。『ああ、こんなやり方をするんだぁ』って、新鮮な気持ちになった。でも、正直、回りくどいなぁって思った。言葉で説明すれば秒で終わるのに、しないんだもの」


 ────── 2011年の終わり 海王星が水瓶座と魚座の境界で順行と逆行を繰り返していた それは<欺瞞の時代>の幕開け
  世を妄幻で穢す『虫』たちが静かに蠢き出した

  
 私が虫を殺る




◆

「し、知ってる。…カタラベさん、レイラさん。名前が珍しいから覚えている」
 言って、ヤオリはハッとしたように目を見開いた。
「違う! 私は…! 会社からの指示に従っただけよ! 私だっていやだったわ!」
 ソフィアはふっと笑った。加害した、という認識があるのは間違いないようだ。
 ヤオリは暴れ始めた。
「何なのよ!? これは何!? 娘は関係ない! こんなことが許されるの!? だって…ずっと前…十年も前のことでしょ!?」
「ずっと前のこと? 恨みにはね、時効ないの」
 終わらない、あんたが仕事を辞めたって許さない。それどころか死んで地獄に堕ちた後も続く、たとえ転生したとしてもね。永遠に憑きまとわられるの。
 息を飲んでヤオリはソフィアの目を凝視した。
「あんたの娘を…、●したぁい」
 その目はどこか笑みさえ湛えていた。ヤオリは尿を少し漏らしてしまった。
「両腕吊るし上げてね、腹を縦にスパッと●り●いて」
 靴の裏でこすり潰す。
「や、めて…」
 ヤオリは顔をそむけた。
「ルミはあんたのせいでこんな目に遭っているんだ。娘を助けたかったら、質問に答えろ。嘘偽りなく」
「は、はい! 答えるぅ! なんでも、すべて答えますぅ!」
 まさに赤子の手をひねるよう。ソフィアは内部でほくそ笑んだ。ま、CIAやMI6じゃあるまいし、あたりまえか。
 一般人がこのシチュエーションで絶対に嘘をつけまい。
 
 ひ・ね・り・つ・ぶ・し・て・や・る

 ヤオリは、カタラベに対して『音』を用いたコーチングを行ったことを認めた。
 P県医療・福祉相談窓口へ異動したカタラベには、まともな研修は2日間、マニュアルをどさっと手渡されたのみだ。
 自分は優秀でキャリアも長いからこそ、この方法が適用されている ――そんな自負もあって、カタラベは受け入れることができた。

 研修を終え着台。しばらくして気が付いたのは電話の相手は顧客ではなく、顧客を演じる会社側の人間(顧客役)だったことだ。芝居はよくできていたが、早々正体に気づけたのは、カタラベが役者の訓練を受けてきたからだろう。だが、一か月ほど経った頃には、むしろ意図的に”正体を開示している”と思える節もあった。
 カタラベは、実践的対応を通じて業務を身につける、いわゆるOJTなのだと理解した。
 サブリーダーの経験があったため、当時は意識していなかったことも含め、状況を立体的に把握することができた。もっとも、入社当初には通販業務について座学を含め数週間、正式な研修を受けたのだが――。

 誤案内をすれば他のスタッフ(カタラベには知らされていないが実は教育係を担当している。以降『教育担当』)から『音』が鳴らされる。ボールペンのノック音、水筒の蓋をパチンと閉じる、紙をカサカサ鳴らすなどの生活音だ。その後、正しい案内のヒントは周囲のスタッフ(教育担当)が客対応している際の『言葉』、スタッフ同士の会話、あるいは顧客役の『言葉』のなかに散りばめられていた。
 しかし、教育担当や顧客役は『音』『言葉』を、あくまでも偶然に生じた物音、言葉として扱う。カタラベが通販窓口で指示された手法と類似していた。
(コールセンター勤務だった複数の協力者から同様の手法について証言を得ている。ちなみに協力者のうち約半数はかつてコールセンター勤務、それぞれ異なった会社だ)
 これはコーチングであると同時に、『音』とミスを結びつける条件付け(リンク先1.2.)だ。さらに言葉に注意を向けさせることで、周囲のスタッフ同士の会話や客対応の一言一句に、過敏なまでに耳をそばだてるようになる。言葉に意識をフォーカスする習慣をつけさせるのだ。
 カタラベは聴こえてくる言葉に隠された意味を務めて読み取ろうとした。
 役者仲間にP県医療・福祉相談窓口でのやり方を語ったが、誰一人、信じる様子はなかった。「なぜ、そんな手間のかかる方法をわざわざ取るのか」と問い返されても、「さあ」と答えることしかできなかった。

 カタラベは言う。今なら解る、あの異動は、通販窓口のセンター長に暴言を吐いたことへの報復であり、退職を促すための仕掛けだったのだ、と。
  

「『音』『言葉』による指導。ここまでは事実?」
 ソフィアが尋ねる。
「そう、です。事実です。カタラベさんはベテランさんだったから。確か……、そう、リーダーをやっていたから」
 ヤオリは媚び売るように言い連ねた。
「それだけが理由なの?」
 それは…、とヤオリは口ごもった。
「さっきも言ったけど、嘘をついたら、娘をぶっ●すからね」ディスプレイにはルミが腹部を抑えてぐったりと横たわっている姿が映る。「言い忘れたけど、あんたが縛り付けられているこの椅子、人の身体反応から感情を読み取る装置が備えられている。要するにうそ発見器になる」

 上司(上)からではなく、同じ立場のスタッフ(横)が「指導」を行うのは、”ハラスメントとして訴えられないための対策”であろう。
 カタラベは、そのうちに、指導における『音』が『言葉』に変わったと言った。「ブス(正確には、薬剤『ブスコパン』。あるいは注射針をぶすっと刺す、などという表現)」「気持ち悪い/吐き気/嘔吐」「くさい(咳き込む、クンクンと鼻を鳴らすという行為も含まれる)」。そんな『言葉』によって間違いを指摘されるようになったのだ、と。他のスタッフや、”顧客役”から、それら『言葉』が出てきたときには案内ミスがあったと把握するようになった。
 『トラッシュ』でも指摘したように、『音』は比較的ニュートラルな刺激であるのに対し、『言葉』はそれ自体に意味を帯びる。使われる言葉はすべてネガティブな含意を帯び、人格を侵害する類のものだ。当然、カタラベは次第に、『言葉』がミスの合図のみならず、自分自身に対する評価であると感じるようにもなっていった。
 また、それらはカタラベに直接向けられたものではなく偶々生じたものという体裁であるため、会社に抗議しようにもできない。
(一方、スタッフたちはメッセンジャーアプリなどで指示を受けるが、それが誰に対する、どういうコーチングなのかは【気づいているかもしれないが】知らされていない。また、医療・福祉系の業務ではこうした単語が自然に使われるため、負担も少ない。大半のスタッフは『音』や『言葉』を発するための装置に過ぎない)
 そして、仮にこれをハラスメントとして裁判を起こそうとしても、司法関係者は妄想だと判断し、引き受けないだろう。
 たとえば、「くさい」という言葉に”気づいた”きっかけを、カタラベは次のように説明した。
 シフトの都合でカタラベがセンター内に一人きりだった時間帯があった。休憩から戻ってきたベテランオペレーターの女が入室するなり、センター中の窓をすべて開け放ち、空気の入れ換えを行った。それから、休憩から戻ってきた他のスタッフたちが、業務対応の中で口々に「くさい」「におい」といった単語を口にした。
 これを外部に話せば、良くて誤解を招き、最悪の場合、精神疾患の症状、自己臭妄想に類したものとみなされるだろう。 
 後述する事例も含め、こうした手法がとられていたのが、医療や福祉を担うセンターであったという事実を忘れてはならない。
 カタラベがもうひとつ求めるのは、当時関与したスタッフの氏名、(現在の)顔写真と悪行の公開。また、医療・福祉・心理系の国家資格を持つ者も関与していたとのことで、資格取消にまで追い込んで欲しい、今後、専門職として日の目を見ないよう社会的に抹殺して欲しい、と。
 当然ね、赤い血のうじ虫ども。絶対にやるから。

  
「ソフィ CT-Ⅰ情報センター へ」
「ハイ」
「アクセスして。ヤオリのバイタルは?」
「ハイ。今のところ死ななそう、デェス(/deθ/)…」 

 
 さらに、カタラベはソフィアに、自分のツイッター、フェイスブック等SNSのアカウントが会社にばれていたと語った。それから、スマホやメールをハッキングされていたとも。

「『音』『言葉』は、そう、その通りです。…だけど、SNSとか、ハッキングとか、知らないです」
 ヤオリは首を横に振った。うそ発見器に反応なし。
「『言葉』における”くさい”以外も、事実ってことね?」
 カタラベの話の信ぴょう性を確認しておきたかった。
「多分、あったと思います。そのあたりはいつも使っていたから…」
 それから、あ、と言って、ヤオリは肩をすくめて舌を出した。
「…。じゃあもう一つ。カタラベさんの顔、表情ね。ディスプレイに仕掛けた小型カメラで監視してなかった?」
 これは『トラッシュ』で描いた事務処理センターや、『ソフィアの夢』のZ社など他企業の情報を踏まえたうえでのソフィアの推測だ。カタラベの証言には含まれない。
「していました。それは、問題のあるオペレーターさんは監視する規則だったから。カメラ、ディスプレイじゃなくて、彼女のデスク奥の棚に仕掛けてあります。対面に貴重品のロッカーがあって、防犯という名目です。こんなこと…、あれだけど、あの、それ、私、悪くない、です。そもそも、”そういう人たち”が来る部署だったから。一人ずつ」

「十五名規模のセンターよね。コールセンターにしては小規模。もしかして、他のスタッフたちは全員、この類のことに関与していたんじゃない?」
「全員といえば全員です。大半が軽微なことを任せる人。『音』『言葉』の目的は説明しません。たとえば、スタッフにあてて、顧客を装って電話をかけてくる会社の人の『言葉』を復唱してもらうんです。薬剤名は必ず復唱するようにとか、指導して。それによって対象者に『言葉』を聞かせる。復唱は大事なことですしこれだったらハラスメントになる可能性はゼロ。
 ベテランさんとか契約社員さんにはかなり踏み込んだことまで任せていた…」
「どれくらい『音』や『言葉』に反応するようになったか、ターゲットの表情をモニターしてなかった?」
「してました…」
「そうよね。『音』『言葉』が間違いの合図だと気づいたことを確認する必要がある。さらに、指導による『音』『言葉』以外の、偶々発した音、言葉に反応するようになっているか、も。つまり、カタラベさんが精神的に病んでいく過程を観察していた」
 別の言い方をすれば、条件付けが強く成立しているか否かの確認だ。カタラベは次第に、会社内・会社外で聞く同質の音・言葉にもネガティブな感情反応を示すようになった。それは十年を経た今もだ。
「病んでいくってそんなつもりじゃ。健康状態をチェックしていて…」
「…ソフィCT-Ⅰ、ルミのところへ」
 ソフィCT-Ⅰは、「ハイ」と答えて、部屋を出ていく。ディスプレイには、ルミの部屋に入室するソフィCT-Ⅰが映る。ルミは、いや! いや! 何、これ!? と絶叫する。
「ねえ、いますぐ●せるんだよ? あんたの可愛い娘を。あんたの、生きる糧」
 ソフィアが囁くと、ヤオリはもがきながら、何でも言うから! 何でも言うぅー!と叫んだ。
「そうよ!カタラベさんが『妄想的反応』を示すようになっていく過程を確認しながら進めて行った。いつもそうです。だけど、その方法は、私が考え出したんじゃない!」
 知ってる、あんたみたいなヴァカ(馬 鹿)が考え付く方法ではない。
 でも”コツ”は心得ていたんじゃない?
 そういうタイプだと思う。
 だから重宝されていたとかね。
 としたら、惨めな才能。哀れなクズ。
「で、ミスしてないのに、『音』『言葉』を聞かせて混乱させた」
 ソフィアがそう言うと、ヤオリは思い出すように一瞬、瞳を上に向けて否定した。
「そういうこと…ないです。すべての『音』『言葉』に”正当な理由”が必要だから。あ、だから、上の立場の人から書類や物を両手で受け取れないとか、それと、挨拶できない人だったから…。朝、出社時、スタッフ全員に挨拶できなかったら、挨拶されなかったスタッフから『言葉』を言ってもらったりしました。生活面でいくつか修正するよう上から指示があった。それで、そういう印象があったかもしれないです…」
「挨拶ねぇ。でもさ、それ、まるで業務上のミスのときみたいなタイミングで『言葉』を使ったんじゃないの? カタラベさんは、ミスしてないのに『言葉』が聞こえて混乱状態に陥ったと証言している」
「それは、その通りです。タイミングをずらして…。でもそれも会社からの指示に従っただけ。そのほうがインパクトが強いと教えられていました。だってあまりに治らなかったから…」
 これによって実験神経症(リンク先3.)が誘発される。
 しかし表向きは生活面での修正という扱い、か。 

どこも揃って同じことをやっている…。


 
「会社から、カタラベさん個人にとっての、”センシティブな言葉”を教えられるんです。でも、その言葉をどこから調べたのか、私は知らないです。あ、そうだ! そうです! 私、あの会社、派遣でやってたんですよ!? だから会社なんですぅぅ! ぜんぶ会社ぁぁ! 」
 ソフィアは不規則な発言を排除して一秒ほど考えて、言う。
「まずカタラベさんの精神が不安定になっていくのを確認して、そのうえで、センシティブなワードを周囲のスタッフに口にさせる。
 カタラベさんは他のスタッフの発言、『言葉』から情報を拾うよう癖づけられていた、言葉に過敏にさせられていたから、自分に向けられた言葉として受け止めるってことね」
 ソフィアの目の奥は黒く憎悪に歪んだ。
「このゴミ…」
 あんたはきっと大方どういうことなのか、解っていた。
 でも解らないふりをしていた。
 自分自身に対して隠蔽したんだ。
 ある種のサイコパシーを有す人間がこの手の職場で持て囃されるのだろう。
 だけれど、娘を●されるのは嫌なのねぇ。
 いじましいこと。
 嗤える。
 穢れた金で飼われた、かわいそうな『●』。
 母娘ともどもこの”暗闇”から解き放ってあげる。
「ねえ? …ヤオリっすぁん? センシティブなワードとして、これは覚えていない?『代々木公園』『デモ』…」
 これは当時、カタラベがツイッターに書き込んだ政治的主張に関連するワードだ。
 カタラベは、ツイッターに「代々木公園でデモに参加した」と書き込んだ翌日、隣席のスタッフが客対応でそのワード『でも(but)……代々木公園』を三度繰り返したのだと述べた。
 ヤオリはハッとして言った。
「覚えています。よく覚えている。スタッフにそれを言ってもらったとき、カタラベさんはものすごく動揺して、確か、その時期を境に…」
 SNSアカウントを特定するのは合法の範囲で可能だ
(調査を外注【害虫】している可能性も考えられる。なぜなら法的に多くの点で安全だから)
(調査に出す根拠は「問題がある人物であるため社外での発言をチェックする」、『言葉』を用いる根拠は「社外での政治的な活動を抑制させるため」などいくらでも用意できる)。
 ただし、カタラベがもう一つ訴える、スマホの盗聴やメールのハッキングについては別の見方がある。SNSアカウントが露見した恐怖でカタラベは動揺し、現実検討能力がさらに低下したはずだ。その結果、メールや通話の内容まで知られていると誤認したのではないか。率直に言えば、大企業がハッキングなど、違法性の高いことをたかだか一オペレーターのためにするとは考えづらい。たとえば、メールやスマホで使った単語を他のスタッフがたまたま口にしたことを根拠に「ハッキングされている」と考えた、といった具合だ。やがて疑心暗鬼に陥り自らを追い詰めた。
 あるいは、ハッキングや盗聴へと”思考が拡散”するよう意図的に誘導された可能性もあるが。
 いずれにしろ、医師や司法関係者に伝えても妄想として片づけられるだろう。

 カタラベが代々木公園のデモに一緒に参加したのは同性の恋人だった。 
 そのこともあわせてツイッターに投稿していた。 
 すなわち、これは会社による、セクシャリティを知っているという仄めかしに他ならない。 
 しばらくして、カタラベは一層精神に不調をきたし、会社を休みがちになりついに退社した。 
 コロナ渦になるよりもずいぶん前だったが、この頃から大きなマスクを常時着用するようになった。精神の不安定さが表情に顕れるのを恐れたためだ。
 〇〇T〇〇〇〇社のウェブサイトにはレインボーをバックに「平等な社会を目指す」などと記されている。
 いかがわしい最低の汚物。
 反吐が出る。


〇〇T〇〇〇〇社の社長 〇ケ〇の四●をミ●チ●にして
         
   救●したうえで 〇ケ〇自身に喰わせる
 
   前●をへし折ってから
 フードプロセッサーにこびり付いた肉片まで
     すべて舐めとらせるから 

 その後 踵で 顔を 蹴り潰して蹴り潰して蹴り潰して蹴り潰して 蹴り潰して●す




    
  

「他にも、実行した類似の手法を告白しなさい。カタラベさん以外の人にでもね」 

 ヤオリは語り始めた。催眠術にかけられたかのように、抑揚のない声で――。
 基本的な手口はまず『音』、ついで『言葉』。コーチングの肩書で実験神経症を誘導し、対象を追い詰めることだ。妄想的・疑心暗鬼にさせ、その表情をカメラで確認しながら進められる。
 P県医療・福祉相談窓口フロア傍の小さな男女兼用トイレの洗面所(用を足す場所とは完全に仕切られている)にはピンホール型カメラが仕掛けられている(正確には正面の壁の位置。洗面所の棚にトイレットペーパーが収納されており盗難監視のためという名目)。
 ターゲットによる洗面所の行動(たとえば、手のひらに水をためてうがいをした)が特徴的であれば、顧客役が意味ありげな声で、「うがい」などのワードを言う。ターゲットは、トイレに隠しカメラがあるのではないかと疑い始める。
 さらに、ターゲットが就業中トレイに行った後、”トイレの個室内で人が一般的に行う・起こること”を、教育担当や顧客役が口にする──「トイレットペーパーに血」、トイレットペーパーの使い方など。たまたまターゲットの行動や状況が一致すれば、ターゲットはトイレの個室内が監視されていると誤った確信を持ち、追い詰められていく。
 管理者に「トイレの個室内にカメラがある」と訴えてくれば、精神疾患扱いする。心配するふうに「ちゃんと眠れている?」などと声をかけるのだ。
 その後、他のスタッフに精神疾患に関連する言葉を次々と口にさせれば、たいていは翌日以降欠勤し、退職に至る。
 
 実際にカメラがあるのは洗面所(正面の壁)のみだ。
 トイレの個室内にカメラはない。

「メールのハッキング、電話を盗聴していると勘違いさせるようなワードはあった?」
「そういうのは、なかったと思います。…正直、わからないです。どれが何に響くのか。あ、ただ、会社から推奨されている『言葉』が複数あって。特定の人ではなく、全般的に使う言葉。それが少しそういう感じがあるかもしれないです」
「具体的には?」
「それは…、明後日の方を向いて『悪いことしてるの知ってるよー』と囁くとか、意味ありげに『変なこと聞いていいですか?』と尋ねて、充分間を取ってから『あ、やっぱり大丈夫ですぅ』と言うとか、…男性に対して有効なのは、『今日寝坊しちゃって。超間に合わなそうだったぁ。てへ』って言うとか…。それにどういう意味があるのかは説明されていません。でも、ある程度気持ちが追いつめられている人には、…てきめんだった」
「人をおちょくったような言葉ばかりよね」
「会社から推奨されていたのは、スタッフがゲーム的にできること。暗く深刻になるようなことは避けるってことです。スタッフ自身に嫌がらせをしている実感、罪悪感をなるべく抱かせないことが重要なんだと理解しました。嫌がらせって、道徳的にきつくなってきて続かないから。ちょっと笑えるようなことが多いのもそういうことだと思います」
 しかし、言葉に過敏になり、現実検討能力が低下した状態で上記の発言を聞けば、恐怖を抱くだろう。『悪いことしてる』『変なこと』は説明するまでもない。近年、ネットで密かに、不道徳なことを実行することができる。ストレスフルな環境下にあると特に、”気晴らし”をしたくなる。犯罪とまではいかなくとも後ろ暗いことがあれば、「何か知られている?」と気が動転するはずだ(『寝坊』のくだりは…、三秒思考するも、どういう意図なのか解らなかったが)。
 ターゲットが思い当ればダメージを受けるし、そうでなくても会社は何ら困らない。
 これでネットのハッキングや、うまくすればスマホ通話の盗聴まで、思考を拡散(誤解)させられる。
 妄想を誘導するのだ。
 外部に話したら精神疾患を疑われる。
 いや、実際に、強い不安感、うつ状態など、既に、ある程度、精神を病んでいることだろう。

 会社から明言されはしないが、ヤオリは、P県医療・福祉相談窓口を、実業務以外に退職勧奨を”も”目的とした部署だと考えていた。スタッフたちもおそらくどこかで解っていただろう、とも。気づかぬわけはない。そして、まだ善良さを残すスタッフは、こうした業務に耐えきれず、辞めていく(つまり残るのは「ある性格傾向を一定持った」者たちだ)。
 ただ、その点さえ割り切れば、給料が高くコール数も極めて少なく業務としてはかなりおいしい部署だとも言われている。

(ヤオリは、ターゲットに甘い対応をした教育担当は、“顧客役”から一時間のクレームを浴びせられるのだと言った。一時間ジャスト、これによって通常の電話でないことを暗黙裡に知らせる【対応終了時に通話時間がディスプレイに表示される】。そしてクレームのなかに、それとなく会社からのメッセ―ジを織り込んでくる。他のスタッフ、つまり教育担当もそうした仕組みに晒されているということだ。これはルシファー効果の「促進」(リンク先.5)に相当するだろう)
(教育担当が業務上の案内ミスをしたら同様に『音』『言葉』でのコーチングを受ける。が、ターゲットに対するようには乱発しない。
 一方、たとえばターゲットが管理者や教育担当に反抗的な態度をとれば“顧客役”からのクレームがあり、かつ、教育担当に対するものよりも苛烈である。そうした匙加減によって進められるのだ)
(ちなみに、【顧客役によるコーチング】の存在については、複数の協力者が、コールセンターにおいて常識的に行われていると証言している。管理者も対象になる可能性がある、とも。
 ヤオリは以下のように述べている)。

「カタラベさんのこと、退職させるように、とか、会社から明言はされないんです。ただ、問題がある人だから修正するようにと指示がある。
 対象の人が辞めると毎回、怒られなくて、上の人はニコニコなんですよ! もう、わざとらしいくらいニッコニコ!
 でも…、カタラベさんはそれでも辞めずに長く残っていた。すると上からカタラベさんについての問い合わせメールが来た。修正の進捗とか、そういうこと。返信した途端、窓口に『顧客』からクレームが入った。まず契約社員のオペレーターさんが対応したんだけれど『代わってもらえますか?』って私に。二次対応。ねちねち系で、そのクレームは二時間きっかり続いた。で、その二時間のあいだ、もう一人の契約社員のオペレーターさんが、鉄製の棚の扉を大きな音を立てて閉じたりして。何度も…。これ、経験しないと解らないと思うけれど、すごくストレスなんです。
 そのとき気づいた。“カタラベさんを早く辞めさせろ”という会社からのメッセージなんだと。つまり、クレームを入れたのは顧客を装った会社の人。メール送信のタイミングで。契約社員のオペレーターさんは、会社の上の人たちからの指示に従って行動していたんだって。
 そういうなかで、こちらも、エスカレートしていったんだと思います」
 これもルシファー効果の「促進」だ。
「結局――全部、会社のせいなんです。はっきり言わない、空気を読ませる。いつもそう! 脅されていたようなとこ、ある…」

 ソフィアは尋ねる。
「合言葉は?」
「だから…わからないです…ヒントが欲しいです…」
 ソフィアはふっと笑って言った。
「あんたさ、カタラベさんに向かって、口をタコみたいにして変顔した? 普通、職場ではやらないような感じで」
「あ…」
「やったんだね」
「そのとき、カタラベさん、でも、楽しそうだった」
「それは笑ったりするかもしれないけどさ、得体が知れなくて不気味だよね。『なんでそんな顔を?』と尋ねてきたら、『そんな顔してない』と答えるつもりだったんじゃないの? つまり、妄想扱いする目的。もちろん他のスタッフも口裏を合わせる」
「そ、そうです。その通りです。それ、でも、会社からの指示で…」
 うそ発見器が反応。変顔はヤオリ・オリジナル? 
「気持ち的に不安定になっていたカタラベさんは、すごく動揺したんだって。とりあえずスルーしたそうだけどさ。医者に話しても、司法関係者に話しても、精神疾患扱いされるようなこと、あんたも、そういうの、考えてやっていたね? それが手法のベース、すべてにある。つまり、あんたは解っていたってことだ」
 右側のディスプレイにカタラベの姿が映った。憤怒に満ちた表情。口を開いた。
「あんた、それでも、楽しんでやってた…。思い出した。あんたたちは楽しそうだった! 楽しんでやってた! そうだろう!? あんたたちのせいで私は十年間を棒に振った。夢を無くした。精神病院に入院して、今だって外が怖くて、音が怖くて、言葉が怖くて、引きこもって…!」
「楽しんでなんかない! 娘を育てるために必死で…!」
 うそ発見器に反応、カタラベは睨みつけ口を開いた。
「あんたは私のパソコンのマウスを触った後に、少し離れて向こう側に立って、私の顔をじっと見つめながらウェットティッシュで…自分のてのひらを拭った。二回やったよね?」
 ヤオリは何も言えずに目を背けた。これもヤオリ・オリジナルっぽい、なんとなく古めかしいし。
「殺して! ソフィア! こいつを殺してよ!! 約束は守るから! この女が死んだ後も●い続けるから! 『永遠に地獄に幽閉されるように』って!!」

 静かにうなずいてソフィアが囁く。

「あんたは心が麻痺して、いつしか奇妙な万能感を抱くようになった…。狙いを定めた人間が辞めていく。神にでもなった感覚を抱くようになった。天職だって。そうだろう?」



「そんな…ことないです。私は、ずっと苦しんでいたの」
 うそ発見器に反応。異●者、クズ。
「この手のやり方だと、罪悪感が少ないんでしょうね。手を下したという実感がないから。でも、人が仕事を辞めるってどういうことだと思う? 金を失うということ。金は命を繋ぐ。それを手放すということ」
「わた、わ、たし、私が、わるわるわる悪いんじゃない、会社の方針に従っただけ!」
「安心して。あんたの上にいた人間も●すから。調べはついてる。ヤモリザキって男だよね?  当時のセンター長。独身で原家族とも縁遠いから、本人を徹底的に痛めつける。二十本の●、次に四●を●り落とし、鼻と耳を●ぎ●して目を●き●いてから●すわ。
 ……それよりも、私は、この類の人材管理システムを最初に開発した人間【始祖】を探している。すべてはそこから派生し不気味な進化を遂げたヘドロみたいな線虫だから。そいつが日本にいるのか、それとも他国にいるのかも解らない。だから見つけるまで、あんたみたいに末端以下の人間とその家族を地道に●っていくしか手立てがないのよ。ねえ、ヤオリさん、何か手がかり、持ってる?」
「しらしら、知らないでででです。そんなのそんなの、わかわからない!!」
 歯の根が合わない人間を興味深く、ソフィアは見つめながら言う。
「…あんたみたいな雑魚の糞が知るわけないわよね。念のために聞いてみただ、け。ヤモリザキを●すときにちょっくら聞いてみるわ。…ソフィCT-Ⅰ、やって」
 真ん中のディスプレイにヤオリ自身の姿が映し出された。ソフィCT-Ⅰの五本の指が、プラスドライバー、マイナスドライバー、耳かき、ボールペン、消しゴムに変わる。それらがものすごい音を立て回転し、両ドライバー、ボールペンがヤオリの頭蓋骨に穴を空けた。血が噴き出る。ヤオリは「ハ、ハア!」と口から音を発し、失神した。

 ヤオリが目を覚ますと、真ん中のディスプレイに映るヤオリの頭蓋骨上部が、七割がた切断されていた。首をうごかすと切れ目がパカパカする。
「い、いやだ、これ、なに…」
「ケチャップのフタみたい。パチンとしまらない、バカになったフタ。私、そういうの嫌い。ソフィ、むしり取っちゃって」
「ハイ」
 電子音声で答えたソフィCT-Ⅰはヤオリの頭に手をやると、「フンッ!」と頭蓋骨をはぎ取った。「い、いったーい!!」とヤオリは絶叫する。
 打ち首になったお侍さんみたいなヘアスタイル。というか、脳みそ丸出しになっている。
「いやいやいやいやいやぁ!!!」
 突然、左のモニターにヨシオが映し出される。目に涙を溜めた必死の形相だ。
「ヤオリさん! 合言葉は娘を●して私を助けてです! これを言えば助かります! ヤオリさんもルミさんも助かる!!」
「え…」
「早く! ぼくを信じてください!」
「あ、あぅ、むぅ、娘を●して?私を助けて? 娘を●して私を助けて…」
 ルミの映像に切り替わる。目を見開き、それから、カメラを睨みつけた。聴こえているの? カオリは心で思う。ルミは膝から崩れ落ち、つぶやいた。
「おかあさん、どう、して‥‥」
 ヨシオは追い打ちをかけるように言った。
「ヤオリさん、もう一回です!もっと大きな声で。感知していないみたい」
「娘を●して私を助けて!!」
 ルミは再び見開いた目をぐっとひそめ、暗く重く瞳を歪めて、左目が回転していった。

画像

 なにこれ、回転してる?
 CGなんじゃないの? 
 そう、ヤオリは、思った。
 これは、AI動画? あ! sora2でしょ!? 
 そう言えばルミ、変に艶やかな髪、薄っすらと紫がかった瞳。
「もっと! 言って! 早く!」

「娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて! 娘を●して私を助けて!」


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 ヨシオは、子供を諭すように言う。
「ヤオリさん……。ソフィアはそんなにひどいこと、しないコだよ。おうちに帰ってあげて。ルミさんがいつものように微笑んで迎えてくれるから…」
「え!?」
 ソフィアは照れたように言う。
「これ、ぜんぶ、AI動画」さらにソフィアは続けた。「ヨシオったら。裏切り者ね♪ ヤオリさん、いますぐ家に帰っていいわよ。でも家以外に行ってはダメ。警察に行ったら…わかってるわね? タクシーでまっすぐ帰るの」
「は、はい! 必ず」ヤオリは切断された頭蓋骨の上部をぎゅっと抱えて、涙を流して頭を下げた。「あ、ありがとうございます!」
「ソフィCT-Ⅰ、拘束具、とってあげて」

 ルミちゃん! ルミちゃん! ルミちゃん!

 ヤオリは脳みそ丸出しのまま駆け出した。


「ねえ、ヨシオ。人間っておもしろいよね。頭蓋骨を切断されたっていうのに、『そんなにひどいことしない』を信じるなんて。いきおいよく頭を下げるものだから、脳みそ、落っこちるかと思っちゃった」
「『人間』っていうか、あの類の人はそうなんじゃないの? なんというかな、圧倒的な力に心を預けてしまう。むしろ虐待者に感謝してしまったりね。カルトの構成員みたいなもんさ」
 
 ヨシオが言った。
「ところで、2011年頃から変わり始めた──というカタラベさんの証言は興味深いね」 
 ソフィアがうなずく。
「そうね。国がパワハラについて広報し始めたのはちょうど2011年頃」
「『コーチング』を行うのは“横”、つまり上司ではなく同じ立場の人間。この仕組みなら、形式上パワハラに該当しない」
「その他をとっても、心理学的に極めて巧妙な仕組み。しかもタイミングが良すぎる。国から事前通達があったのかな? 国に絡んだコンサルを通じて紹介されたとかね。たとえばコールセンターのように大量の人材を抱える大企業で実験的に導入して、そこから全国へ広げたとか。コンプライアンスの厳しい企業にとってはありがたいんじゃない?  ”識者ってか ●る価値もないカス”による『音ハラ』関連記事もなーんかね。被害者が声を上げづらい状況が作られているのが不自然」
「それに、言語的説明をほとんど用いない手法というのも引っかかる。将来的に外国人労働者に使うための布石だったんじゃないかな。彼らは日本語を理解しにくい場合が多いし。あるいは逆に、”ベテランになった外国人労働者” から ”日本人の労働者” に対するコーチング、とかね…。そして不要になったら、実験神経症を誘発させて切り捨てる」
「としたら、試験的運用という意味合いも見えてくる。でも、最初から──2011年当初から外国人労働者を念頭に置いていたのかは疑問が残る」
「確かに。外国人労働者政策が今の路線になったのは後のことだ。途中で『使える』と判断して、“不要とみなす層”で試している、という線もある。ま、そこらへんは解らないけどね。ぜーんぶ、計画されていた可能性もなくはない。だって、日本、不自然なほど、まともな、少子化対策がとられなかった。長期的に人間を減らして、外国人労働者を入れる計画だったのかもしれない。
 それに協力者の話に登場する派遣会社のクライアントに、自治体・官公庁関連が多いのがどうにも気になる」
 

……ミキオは実験動物として使われて死んでいった?


「愚かだ。空気を読む文化圏の人々ならまだしも、そうでなければ簡単に爆発する。いずれ恐ろしいことが起こるだろう」
「まったくカスね。考える力を持たない、ダニ以下の脳なのよ。…でも、これ、大きな手がかりになるかもしれない。こうした人材管理システムを開発した人間【始祖】を突き止めるための」
「突き止めてどうするんだ?」
「だーかーら。そんなの。決まってる」 
 

   少しばかり見えてきた尻尾。

 心理学に造詣が深そうだけれどどうかしらね。
  
 絶対に逃がさないから。
    おまえとおまえの家族には
     あらゆる苦痛を与えて最悪な●し方をする。

 なんだってやれる。

だって捕まっても、法に裁かれることはないから。




 偽り そういうモノを産み出した おまえ は    
  そういうモノたちによって 滅ぼされることになる


 


あれから ずっと おまえ を探し続けている
私が必ずおまえを見つけだす 石の裏に隠れる汚らしい毒蟲

おまえの家族は 本 当 に●すからな 


そのなかでも おまえがもっとも愛情を傾ける『豚』の首をおまえの目の前で切断して 『豚』の腹を縦に切り裂き どろんと漏れ出した『豚』の内臓や内容物をすべておまえに喰わせる 

「おまえのせいでやられたのだ」
「おまえが殺したのだ」

 おまえの心の奥底が真に納得するまで 何千 何万回 おまえの耳元で絶叫して
 おまえを●す


おまえ が死んだ後も おまえの魂 を許さない


おまえ が地獄に堕ち果て 火だるまにされ 
発狂したまま永遠に幽閉されるよう

 我々は●い続ける 

       

●いを永遠に繋いでいく



それに値する罪を犯したことを思い知れ
人の世の理で裁くことのできない仕組みを創り出した
夥しい数の心を愚弄し 人生を破壊し 命を奪った
愛する人を殺めさせ おぞましいほどの葛藤の渦を 生み出した

 日本を暗鬱で覆った 邪悪な魂


私にはみえる


 眉間の奥にこびりついて かき消せないほどに
  

 

おまえ が闇から生まれ出でた
その汚辱に満ちた瞬間が



 聴こえるのだ

おまえの口が卑毒を産み挿していく


    その 不浄に粘つく響きが


よくもやってくれたな 
 

  よくも! よくも! よくも!!

 


 おまえ と おまえの家族に 

   阿鼻叫喚の苦痛を与えて ●さなければ 

   
 この国の穢れは決して祓われないのだ




 ヤオリは息を切らして、はらはらしながら、自宅のドアを開く。
 タクシーの運転手には頭をじろじろ見られて恥ずかしかった。
 でもそんなのどうでもいい。
 ルミちゃんの笑顔を見たい。
 子どもの頃からの、ルミの顔がパラパラとめくれるように、思い浮かぶのだ。
 あの女の人だって、いくらなんでも、そんなにまでひどいことをする、はずがない。

 

だって…同じ、人間だもの!



 手の甲に落ちた粉雪が溶けていく。
 今日はクリスマスだった。 

  不思議とワクワクしている。
 きっとドアの向こうで、ルミちゃんは微笑んでいる。

                           
                             いつものように ──────。


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