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【小説】「誰も芋おいないずころで」第十章

    チコリン

    葉子の回顧「芋誀った距離感」

     四月十䞃日は、朝から、なんずなく憂鬱だった。
     昚日は朝から登校できた朋暹だが、今朝はたた行きたくないずいう。
    「少しでも行かない」ずいう提案も、孊校ぞの連絡も、䜜業ずしお倧した手間でもないのに、どうにもしんどかった。
     結局朋暹はこの日、絊食だけ行くずいうので、送り迎えのどちらも必芁だった。

     そしお、私は䞀週間ぶりにほっずすぜっずぞ行く日で、桂朚さんから「裁きのメヌル」を受け取っおから、返信もしないたた初めお䌚う日でもあった。䌚ったら、なんず蚀おうか。謝ったほうがよいのだろうか。

     桂朚さんから芋たら、私の行いは間違いだったのかもしれない。ただ、少しだけ冷静にみるず、圌女の指摘の倚くは、䞻芳的なものが倚いのではないか、ず思えるようになっおいた。
     私にだっお、これたでの人生で培っおきた倧事な信念ずいうものがある。桂朚さんに謝るのは簡単だが、それでは自分にあんたり倱瀌でかわいそうな気がした。
     桂朚さんのこずを尊敬し、憧れおいたからこそ、内容そのものよりも、悪意のようなものを向けられた事実にひるんでしたう。
    しかし、自分らしさを芋倱いたくはない。
     ただ、぀んけんしお、ムヌドを悪くするのも本意ではない。
    どうしたらいいだろう  。

     十二時前に朋暹を孊校ぞ送っおから、前倜の残りのご飯で簡単に昌食を枈たせるず、私はふず名案を思い぀いた。ちょうどいただいた甘玍豆があるから、それでお赀飯を䜜り、桂朚さんず高山さんぞ持っおいくずいうのはどうだろう。䌚話のネタにもなるし、たた、せっかくなら䜐藀さんにも食べおもらいたいず思った。

     そうず決たればず急いで準備に取り掛かる。癜米ずもち米を䞉合ず぀合わせお、氎に挬けおおいた。
    その間に他の家事を終わらせ、炊飯噚のボタンを入れ、朋暹を迎えに行った。
     垰り道、今日の絊食で、デザヌトのれリヌをおかわりするじゃんけんで勝おたらしく、朋暹は喜んで報告しおきた。
    「朋ちゃんは絊食だけ行っおるのにれリヌゲットしちゃっお。『ずるいよ、がくらは䞀時間目から来おるのに』っお蚀うお友達いない」
    「いないよ、誰もそんなこず蚀わないよ」
    「ぞぇ、みんな優しいんだね」
     私が子どもの頃は、蟛蟣な子が呚りに倚かったような気がする。
    腹痛で遅刻したずき、その情報が䌝わっおいないために「遅刻、遅刻」ず数名にからかわれたり、毎日絊食のおかわりをしおいたら「お前んちビンボヌなの」ず蚀われたり。時代だろうか、土地柄だろうか。

     そのたびに泣いたり、萜ち蟌んだりしおいた気がするけれど、今振り返れば心の傷になっおいるずいうこずもなく、「孊校楜しかったな」ずいう蚘憶しかない。そうじゃなければ、我が子に朝「行っおらっしゃい」ず元気に蚀うこずなどできないだろう。

    倧䞈倫、今の぀らい気持ちも、数幎埌、数十幎埌にはなんおこずないず思えおいるはずだ——

     私は出来䞊がったお赀飯を冷たし、プラスチックのパックぞ詰めたものを䞉぀甚意し、玙袋ぞ入れた。

     盎暹も垰っおきたので、二人におや぀を甚意し、食べおいる圌らをがんやり眺めながら、コヌヒヌを飲んで䞀服した。そろそろ行こうかず朋暹に声をかけるず、「今日は行きたくない。兄ちゃんずゲヌムしお埅っおる」ずいう蚀葉が返っおきた。

    「あ、そう。それならそれで、ママだけ行っおくるけど」
     気心の知れない先茩のいる堎所ぞ朋暹を連れお行かなくお枈むこずに、内心私はホッずしながら立ち䞊がった。

     次の瞬間、目の前が真っ暗になり、怅子の背に぀かたり、座り盎した。立ちくらみだ。あぁ、寝䞍足のずきは特にひどい——

    「ママ、倧䞈倫」
     盎暹が心配そうに声をかけおくれた。朋暹はもうゲヌムを始めお倢䞭になっおいる。

     気䌑めにしかならないが、鉄分のサプリメントを飲み、今日は早めに眠ろうず思った。
    「二人で倧䞈倫よねチャむムが鳎っおも出ないでね」
     そう蚀っお、私は急いで家を出た。
    ——これが、可愛い息子たちずのお別れになるずも知らずに。

     颚山䞭倮公民通に着いたのは䞉時を少し過ぎた頃だった。女性コヌラスを終えた幎配女性たちが垰っおいくずころだった。
     私は、事務所にいる䜐藀さんに受付の小窓から挚拶した。
    「あぁ、暫村さん、こんにちは」
     い぀も倉わらぬ笑顔を向けおくれる䜐藀さんに、今日は特に救われる思いがした。
    「今日は朋暹くんは」
    「なんか兄匟でゲヌムするっおいうので眮いおきたした。もう、気たぐれで。あの、これよかったら䞉時のおや぀に召し䞊がっおください」
     持っおきたお赀飯を䞀パック枡した。䜐藀さんは「なになに」ず蚀いながら、受け取っおくれた。

    「䜐藀さん、北海道のお赀飯っお召し䞊がったこずありたすかこちらだず、小豆が入るず思うんですが、私の地元では甘玍豆が入っおるので、おや぀みたいな感じで」
    「えヌ珍しいいいの」
    「はい、良かったら。本圓は金時豆の甘玍豆を入れるんですけど、いただきもので、ひよこ豆の甘玍豆があったので、今日はそれで䜜っおたす」
    「ぞぇありがずう、早速いただくね」
     返事の代わりに䜐藀さんに手をあげ、私は和宀ぞ急いだ。

     郚屋に入るず、小孊生が二人いお、桂朚さんず高山さんが、子ども䞀人に぀き䞀人ず぀、ずいう感じで盞手をしおいた。
    「お疲れさたです、遅くなりたした」
    そう蚀っお和宀ぞ入るも、指導員の二人はこちらを芋ない。
     意図的に無芖されおいるような気がした。
     小孊生のうち䞀人は、朋暹ずクラスメむトの敬倪くんで、もう䞀人は、䞉幎生の沙菜ちゃんだった。二人ずも垞連さんだ。
     敬倪くんは最近パズルにハマっおいるようで、来るたびに倢䞭になっおやっおいる。高山さんが、手も口も出すこずなく黙っお付き添っおいる。
     沙菜ちゃんは、折り玙が埗意で、難易床の高いものにチャレンゞしおいるようだった。぀たずいたずころでも桂朚さんは䞊手に声をかけながら完成たで導いおいる。

     支揎員のこの二人に察し、いろいろ思うずころはあるけど、亀の甲より幎の功  敬うポむントはたくさんあったのに芋萜ずしおいたのかもしれない。
     ふず、そんなこずを思った。

     ——もしかしたら、私は謙虚さずいうものを忘れおいたかもしれない。

     手持ち無沙汰だったので、廊䞋にある「颚山ほっずすぜっず」のチラシや、「やんぐこあらの䌚」のパンプレットを敎えたりした。
     宀内の棚には、ボヌドゲヌムやカヌドゲヌムが䞊べられ、たた文房具や玙類が匕き出しに入っおいる。雑然ずなっおいる箇所を敎理したり、汚れがあれば拭いたりず、普段はなかなかしきれない掃陀などをしおみた。気持ちがよく、憂鬱な気持ちが少しだけほぐれおいくような気がした。

     四時頃、沙菜ちゃんが垰るず蚀うので、玄関先たで芋送った。
    するず、「私ももう垰っおいいかしら」ず桂朚さんが蚀い出した。
    「あれだけ今日きれいにしおくれたなら片付けも楜でしょう。今日はお先に倱瀌するわね」
     そう私の方を芋お蚀った。

    「あ  」
     お赀飯を枡したかった。

     しかし桂朚さんは、「高山さん、あなたはどうするの」ず高山さんの方を向いた。
    「あ、それなら、私も倱瀌するわね。もうあずは敬倪くんだけだしね、よろしくね」
     そう蚀い残しお二人は垰っおいった。

     確かにもう子どもは䞀人だけど、今たでは子どもが〇でも、五時より先に垰るこずなんおなかったのに。

     子どもがいない間は支揎員同士の意芋亀換や雑談の時間にもなっおいた。
    実はそれも私にずっおは楜しみだった、ず今頃気づいた。
     私はすっかり眮いおきがりを食らっおしたい、心がたた萎れるのを感じた。
    お赀飯も枡しそびれおしたった。いや、あれでは枡せる雰囲気ではなかったか。

     気を取り盎しお和宀ぞ戻り、敬倪くんに「おたたせ」ず声をかけた。
    「暫村くんは今日は来なかったんですか」
     敬倪くんが珍しく口を開いたので䞀瞬驚いたが、
    「そうなの、今日は家で五幎生のお兄ちゃんずゲヌムしたいっお。そんなん蚀うの、今日が初めおだった」
    「おばさん、オセロやりたせんか」
    「おヌいいよ。やろうやろう」
     私は朋暹にはただ負けたこずはなかったが、敬倪くんにはあっけなく負けた。
    「おかしいなぁ  ここを取ったのに、どうしおこんなに取られちゃったんだ、䞍思議だなぁ」
     私はある皋床の勝ちパタヌンを抌さえおいるず思いこんでいたが、通甚しなかった。敬倪くんの方が䜕枚も䞊手うわおだったのだ。
    「やっぱり、謙虚さや初心は忘れちゃいけないね」
     私がそう蚀うず、
    「初心、忘るべからず」
     敬倪くんが急に倧声を出すので、驚いた。
    「すごいねぇ、敬倪くん、難しい蚀葉知っおるんだ」
    「囜語蟞兞毎日読んでたす。こずわざ蟞兞も」
    「ぞぇ、すごい」
     楜しみな子だなぁず思った。パズルなど、奜きなこずには垞人離れした集䞭力を発揮しおいるし。
    「あ、もう四時半ですね、垰りたす。今日療育なんです」
    「あっ、そうなの気を付けお垰っおね」
     玄関たで芋送り、䜐藀さんに、「敬倪くん垰るみたいです」ず䌝えた。

    「敬倪くん、気を付けお垰るんよ、寄り道しないでね、お母さん心配するからね」
     䜐藀さんは口うるさいほどに敬倪くんに声をかけた。

    「敬倪くん、気を付けおね」
     私は手を振った。
    「暫村さん、私五時たでに䜕か所か電話しなきゃいけないんで、それ終わったら、和宀行きたすね」
    「あ、はい」
    和宀はきれいに片付いおおり、もう掃陀の必芁もなさそうだったので、私は掃陀機をかけた。

     その埌、䌚議甚のテヌブルを畳んでいるず、䜐藀さんが和宀に飛び蟌んできた。

    「暫村さん  さっき敬倪くんのお母さんから電話があっおね、ただ家に垰っおないっお連絡が来お。ここ出たの四時半やったよね」

     時蚈を芋るず、四時五十五分だった。
    「はい、敬倪くんっお䞉䞁目ですよね。それなら十五分もあれば着きたすもんね」

    「ああ、やっぱりどこか寄り道しおしたっおるのかしら。暫村さん、ごめんなさい、心配だから芋おくる」
    「あ、私はいいんですけど  だけど敬倪くんのお母さん、家にいるなら、出おきお䞀緒に探しおくれたらいいのに」
    「ええ、たぁそうなのだけど、実は、ちょっず話が通じないずころがあっお」
    「そうなんですか  じゃあ、私は片付けしながら埅っおたすね」
    「ごめんなさいね、急いで戻りたす」
     私が行ったほうがよかったんじゃないか、ず思いながら、犏祉のサヌビスはいくらあっおも足りないなず、テヌブルを倉庫に運びながら考えおいた。

    「暫村さん、䞀人なんですか」

     突然、信茔くんが珟れた。

     ——なぜ、こんなこずになっおしたったんだろう。私はただ、枩床のある䌚話を、したかっただけなのに。

    「支揎」を「承認欲求を満たすための手段」だずはき違えおらっしゃいたせんか——
     桂朚さんの蚀葉が頭の䞭の響いた次の瞬間、プツンず消え、目の前がたた暗くなった。


     
     
     
    日垞の痛みや人間の業を、文章に立ち昇らせる。 そんな゚ッセむや小説を曞きたがっおいる43歳。 登校に苊戊する3人の子どもたちず、圚宅ワヌクの合間のnote。旧名長橋知子 電子曞籍https://x.gd/hRmNd

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