ドーナツが渡すもの
小3息子、運動会の日の今日は、朝登校しかけたものの、学校前でくるりとUターンして家に戻って来た。
じゃあ、お散歩でもしようかとふたりで家を出た。
公園の池の中の水草を親子でしゃがんでじーっと観察する。
濁った水の中は緑色で、さまざまな葉の断片やちいさな虫などが混在しており、いくら見たって計り知れないと思う。
後ろから声を掛けられた。
「この辺で背の小さいホームレスのじいさん見なかった?」
くたくたのジャージに、白い髭はバラバラの長さ。深い皺が刻まれた顔は褐色に日焼けしていて、まるでどこか異国の旅人のような渋いおじさんだった。来た道を思い返し、見かけませんでしたよと答えると、「そうね」と言って、自転車で走り去ってしまった。
なのに、ちょっとしたら戻って来て、
「おい坊主、これ食べんね。おっきくなれよ」と言い、息子にドーナツを手渡した。
あまおういちご味のドーナツ。
息子も私もきょとんとしてたと思う。
そしたらおじさんは、「毒は入っとらんけん」と笑って私たちを見た。
きっと生活は楽ではないはず、お返しすべきだろう、でも返しちゃったらおじさん悲しむかもしれないなんて、くるくる頭を回し始めた矢先に、なんと息子はその場でビリッとドーナツの袋を開け、パクっと食べた。
えええええ!……食べちゃった?
普段から少食の息子、今日はなぜだか速攻で食べた。
思わずすみませんと言いかけたけど、おじさんがとっても嬉しそうな顔をしたから、ありがとうございますとお礼を言いました。
「どってことない」と照れながら、仲間のホームレスのおじいさんを探していること、食べ物に困っていないか心配していることなどを色々ひと通り話し終えると、まだ探さないかんと、自転車に乗って行ってしまった。
優しさを手渡す人を探してたんだなぁ、おじさん。
偶然もらったなぁ、優しさ。