
眠らない海|3つのお題に空想のひらめきを|名前のない物語
霜月が間近。
霜降の言葉通り、先週までの暑さがウソのように、重ね着が必要になった。
マフラーはあったかしら——そう思って引き出しを開けると、青いマフラーが出てきた。
祖母が編んでくれたものだ。もう二十年も前のこと。
記憶の中の祖母は、いつも編み物をしていた。
朝も、昼も、夜も。
「おばあちゃん、眠らないの?」
子どもの頃、私は訊いた。
「眠るわよ。でも、こうして手を動かしていると落ち着くの」
祖母は微笑んだ。
「そうね。私は、まるで、海みたいね」
「海?」
「波は、眠らないでしょう。ずっと動いている。私も、そうなの」
眠らない海——そんな言葉が、子どもの私には不思議だった。
青いマフラーを手に取った。少し色褪せているけれど、編み目は今でも綺麗だ。
祖母は、このマフラーを編みながら、何を考えていたんだろう。
試みに巻いたマフラーが首に温かった。
「これは、私とあなたの夢を集めたものなのよ」
マフラーを渡してくれた時、祖母がそう言ったのを思い出した。
「夢?」
「一目一目が、夢のかけら集めだったの。そしてあなたへの思いを編み込んだの。元気でいてほしい、幸せでいてほしい」
祖母が亡くなって、もう五年。それなのに当時のその一言一言を思い出した。
眠らない海のように、ずっと動き続けていた祖母の手。
その手が編んだ、夢のかけら。
窓の外を見た。
都会の街並みの向こうに、遠い故郷の海が見えた。
波は今も、眠らずに動いている。
片桐みかんさんの企画に参加させていただいています。
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