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問題のない作品

    「映画審査部門を新設します」

    社長の言葉に拍手が起こった。

    「理念はただ一つ。誰も傷付けない作品を作ることです」

    数日後。

    「この主人公、『撃つぞ!』と叫んでいます」

    「暴力的ですね。『強く反対します』に変更します」

    次の脚本が開かれた。

    「こちらは悪役が『ぶっ殺すぞ』と」

    「攻撃的ですね。『あなたとの関係を見直します』に変更します」


    さらに別の脚本が運び込まれる。

    「主人公が復讐を考えています」

    「好ましくありませんね。それに、加害の連鎖を助長する恐れがあります」

    「対話による解決を目指しましょう」

    「賛成です」

    修正版が完成した。

    主人公は宿敵と語り合い、互いを理解し、和解する。

    「良い作品になりましたね」

    「しかし、有名なセリフにも問題があります」

    「どのような問題ですか?」

    「生命倫理上の問題です」

    「でしたら、『様々な可能性について前向きに考えてみましょう』に変更します」

    審査は無事に終了した。

    「これで誰もが安心して楽しめます」

    すると、一人の審査員が首を傾げた。

    「ところで、この主人公は何に悩んでいたんですか?」

    審査員たちは誰も答えられず、部屋は静まり返った。

    その時、隅で黙っていた監督が立ち上がり、机に拳を振り下ろした。

    「生きるべきか、死ぬべきか! それが問題だ!」

    監督の怒声が響く中、机から『ハムレット』の脚本が滑り落ちた。

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