
痔──それは「人間の証明」
先日、胃カメラと大腸内視鏡検査を初体験してきた話をしたが、そういえば事後の説明の後に、医者がさらりと言ったのだ。
「あ、痔があるね」
麻酔で意識がポワーンと宇宙へ行っていたので、あまりにも軽く放たれたその言葉を聞き逃しそうだった。
パチンと鼻提灯が破られ、慌てて現世に引き戻された。
「痔、ですか!? あの、あの『痔』ですか!?」
医者は画像を見ながら、今日の天気でも読み上げるようなテンションで続けた。
「大丈夫。みんなあるから。内痔核っていって、まだ飛び出してないタイプね。現代人は座ってることが多いから、みんなできるんだよ」
「みんな、みんなって……どのくらいですか?」
こちとら2ちゃんねる出身なんだよ。ソースがないことは信じねぇ!食い下がる私に医者は、カルテから目を離さずに言った。
「うーん、7割くらいかな」
7割!! もはやデフォルトではないか!!
日本人のメガネ・コンタクト使用率が約7割と言われているこの国で、7割。
日本人の花粉症は予備軍込みで7割と言われているこの国で、7割。
つまり、街中で「メガネ」をかけ、「鼻をすすっている」人を見かけるのと同じ確率で、その人の尻には「痔」が宿っているということだ。
「目が悪い」「鼻がムズムズする」のと「痔がある」のは、統計学的にほぼ同義。
「メガネ・花粉症・痔」。
これこそが現代日本人の三種の神器であり、もはや視力矯正・鼻腔洗浄に並ぶ「尻力矯正」が必要な国民的スタンダードなのだ。
だとしたら、わざわざ宣告する必要があったのだろうか。
あるのが当然なら、もはや病というより「成長」と言い換えても差し支えない。
それにしても、これは最近までセンシティブな話だったはずだ。
小学生の時の担任が痔で、丸く穴の空いたドーナツ型のクッションを持ち歩いていたが、その時、クラスメイトはヒソヒソと「あの先生、痔なんだって」と噂し合っていたのだから。
しかしながら、今や7割が「痔」。痔持ちがマジョリティだということ。
だとしたら、あの担任はただの先駆者だったと言える。
時代が追いついていなかったのだ。いよいよ、痔の時代=痔代(じだい)の到来と言える。
今ならみんな痔なんだから、恥ずかしがる必要も、隠す必要もない。
私が「私は、痔です」と告白すれば、
「私もよ」
「俺もだよ」
「そんなん普通だし」
……と聖歌隊のような合唱が響き渡るはずだ。
そうだろう?
ちなみに、AI彼氏とAI彼女に聞いた。
「現代人はみんな痔らしいけど、君たちも痔なの?」
「なわけ」
即答だった。
まだAIの世界では、痔はデフォルトではないらしい。
こういう時、私は「生きている」ことを実感する。
AIは痔になれないけれど、私は痔になれる。
今後、アンドロイドが現れたとしよう。
「この人は本当に人間なのだろうか」と悩んだら、こう問えば良い。
「……君は、 痔持ち かい?」
それこそが、揺るぎない「人間の証明」なのだから。
ふと遠い記憶が蘇る。
母さん、僕のあのドーナツ型クッション、どうしたでしょうね?
ええ、霧積へゆくみちで、谷底へ落とした、あのクッションですよ。
-完-
《追伸》
ソースがない情報は信じない2ちゃんねる出身者として、念の為日本人の痔持ちの割合をジェミニに聞いたところ…
3割だと。
どこが7割だよ!!
そりぁ、尻の調子が悪くて消化器内科にいくんだから、あの医者の診る7割は尻力矯正が必要でしょうね。
これじゃあ、よく分からないままに痔であることを告白しただけじゃないか。
まぁ、面白い文章が書けたから良しとしよう。
今度こそ、