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教員やめても、食えました。氷河期世代のフリーライターが見つけた、人生後半の歩き方

    「そこそこ幸せ」という名の、ふかーい沼

    その「啓示」は、突然降ってきました。

    通勤の自転車を漕いでいるとき、「あ、辞めればいいのか」と感じたのです。

    もちろん、私は神様や宇宙人と交信できるタイプの人間ではありません。かといって、上司と大喧嘩したわけでも、燃え尽きて灰になったわけでも、ましてや病気になったわけでもありません。

    ただ、地味で淡々とした、けれどビクとも動かなそうな決意が、ママチャリの上に、ぽつんと降ってきたのです。


    44歳で、22年間続けた公立学校の教員を辞めました。
    就職氷河期のど真ん中、倍率10倍超をくぐり抜けて手に入れた、「一生安泰」と誰もが太鼓判を押す仕事です。

    辞めるときは、周囲から「どうしたの……?」と、微妙な距離感をとりつつ心配されました。でも実際には、心身ともに健康で、おおむね幸せな教員人生を送っていたのです。

    「辞めるほどの決定的な理由」なんてどこにもないのに、安定した職を手放した。
    「バカだなあ」と思われそうですが、独立して3年が経った今、はっきりと言えます。あるステップを踏めば、人生はそう簡単には詰みません。むしろ、ことのほか面白い毎日が、私を待っていました。

    この記事で伝えたいこと

    とはいえ、私は「みんな!働き方にモヤモヤしたら退職しようぜ」と言いたいわけではありません。
    この記事でお伝えしたいのは、「辞める」か「辞めない」かを決める前に、誰もが踏むべき順番のほうです。

    働き方のモヤモヤから抜け出す道のりを、3つのステップに整理しました。

    ①見える化する ②積み上げる ③行動する

    順を追って解説していきます。

    ステップ① 見える化する

    ここでは、2つのものを見える化します。
    「モヤモヤ」と「お金の問題」です。

    モヤモヤの正体は、たいてい「言語化できていない」だけ

    仕事中に「なんだかなあ」「モヤっとするな」と感じたり、日曜の夜に憂鬱になったり。明らかに心は仕事に「NO」を言っているのに、「何がイヤなの?」と聞かれると、すぐには答えられない。

    あなたも、そうではありませんか?

    この「モヤモヤ」は、抱えたままにしてはいけません。中身が見えないままでは、迷いなく「辞める」ことも、納得して「続ける」ことも、どちらもできないからです。
    「私は心底納得して、この道に進むと決めたんだ」と胸を張るために、絶対に必要なのが「見える化」なのです。

    私の場合、モヤモヤに気づくきっかけは、この言葉でした。

    『できる』と『できない』の間に『できるけど疲れる』ことがたくさんある

    児童精神科医・吉川徹先生の言葉です。もともとはNHKの番組『発達障害って何だろう』(2018年)で、発達障害のある人の苦労を表した言葉として紹介され、広く知られるようになりました。

    特別支援学級の担任が長かった私は、この言葉に出会ったとき、膝を打ちすぎて青あざができるかと思いました(あざが消えないお年頃……)。子どもたちの困りごとを表したこの言葉が、そのまま、私自身と学校現場との関係にも当てはまったからです。

    子どもの支援をしながら、1日に何冊もの連絡帳を書き、夕方から夜までは会議と書類の山。若い頃には、朝3時に起きて給食会計の電卓を叩いていたことも(担任がやる仕事かな?)。
    マルチタスクは得意なほうでしたが、それでも脳が焼き切れそうになる日がありました。

    仕事のやりがいは本物で、子どもたちの成長をSS席で見られる幸せもありました。けれど同時に、やりたい支援とままならない現実のすきまにハマって、HPが1ずつ削られていく感覚も、確かにあったのです。

    そんな私が動いたのは、父の病気がきっかけでした。胃を全摘する大手術。幸い今も元気ですが、「自分の親も、ちゃんと年をとって弱くなっていくのだ」と遅まきながら気づきました。
    自分のケアすらおろそかなまま、これ以上、何を背負えるだろう。自転車の上に「辞めよう」が降ってきたのは、そんな心の隙間でした。

    辞めたい人の相談に乗ると、皆さん判で押したように「辞める決定的な理由がないんです」とおっしゃいます。ハラスメントも、病も、大きな不満もない。むしろ、真面目で仕事のできる「エース級」の人ほど、一見贅沢なモヤモヤの沼から抜け出せずにいるようです。

    職場が完全に崩壊していたり、心や体が立ち上がれないほど病んだりしていれば、人はためらいなく逃げ出せることでしょう。けれど、「そこそこ幸せ」な場所には、その免罪符がありません。
    だから何年も、モヤモヤと白髪だけが増えていくのです。

    でも、「大きな問題がない」は「このままでいい」と同じでしょうか。心が小さなアラートを鳴らしているなら、その違和感は、十分に人生を見直す理由になり得ます。

    だからこそ、まず「見える化」なのです。

    見える化すべきは「不満」と「不安」、そして「強み」

    モヤモヤについて言えば、見える化=言語化です。信頼できるコーチやカウンセラーがいれば「話す」アプローチもいいですが、そういう相手がいない場合には「書き出し」を行いましょう。日常からちょっと離れた場所でやると、はかどります。
    お気に入りのカフェがいいですね。いっそ、お一人さまステイのホテルなどもおすすめです。

    まず、「不満」から書き出してみましょう。

    労働環境、人間関係、忙しさ、プライベートとのアンバランス、やりがいのなさ……。自分の心と向き合うと、いろいろ出てくるはずです。

    「こんなことを書いたら、ワガママかな」「あんまりネガティブなことは言葉にしたくないな」という考えが浮かんでくるかもしれませんが、誰が見るわけでもないのですから、思い切って書いてしまいましょう。なんなら裏紙などに書き殴って捨てたっていいのですから。

    その不満の裏には、とても大切なものが隠れています。あなたの「望み」です(銭形警部のセリフ「あなたの『心』です」が浮かんだ人、みんな友達)。

    不満を望みに変換すると、こうなります。

    「仕事場がゴミゴミしていてイヤだ。それに、集中して作業していても、上司や同僚が話しかけてくるのがストレス」
    →「快適な環境で、自分のペースで働きたい」

    「帰宅が夜遅くなるのがイヤ。子どもたちから『お腹空いた』とLINEが来ると、罪悪感と負担感でいっぱいになってしまう」
    →「子どもに毎日『おかえり』を言い、ゆったりとご飯をつくってあげたい」

    「単純作業ばかりで、なんだか日々やりがいがない」
    →「もっと多くの人に貢献したい」

    不満は、裏返せば望みの地図になります。他でもない自分自身のSOS、まずは受け止めてあげましょう。

    次に「不安」です。

    「辞めたい、でも不安で」という人は、本当に多い。でも、一体何が不安なのか、具体的に言葉にしてみたことはありますか?

    今の地位を手放すこと。
    安定した収入を失うこと。
    新しい場所で通用するか分からないこと。

    「今の仕事を失ったら、何が心配か」という視点で、これも書き出します。1回で全部書けなくていいのです。少しずつ、腰を据えてやってみましょう。

    そしてもう一つ、「強み」も言語化してみましょう。

    私が考える強みの定義は、「当たり前に、自然にできてしまうこと」。呼吸をいちいち意識しないのと同じで、強みも自分では気づきにくいものです。

    普通にやってるだけなのに「すごい」と言われること。
    時間をかけずにできてしまうこと。
    頑張らずとも、気づいたらできていること。
    人からよく頼まれること。

    それらをひとつひとつ書き出してみましょう。
    ポイントは、「人と比べないこと」、そして「資格や受賞歴で測らないこと」です。

    「Aちゃんのほうがコミュ力が高いから私なんて」「経理が得意だけど、簿記の資格を持っていないから強みとは言えないかも」——そんな相対評価は、いりません。あなただけの絶対評価で見れば、必ず一つは「ああ、これが私の強みだったのか」と気づくものがあります。

    今の職場で、その強みは活かせているでしょうか。
    強みが埋もれている場所では、人はなかなか輝けません。

    お金の不安は、「家計簿の光」で正体を暴く

    不安の中でも、とりわけ大きいのが「お金」です。けれど、その正体をそっと突いてみると、多くは「なんだか足りなそう」というぼんやりした影に過ぎません。

    お化け屋敷が怖いのは、暗くて先が見えないから。明るくして、隠れているお化け役のバイト君が見えてしまえば、「時給いくらかな」と冷静になれるはずです。

    経済的な不安だって、同じことです。

    やることは、家計の徹底的な「見える化」です。収入と支出を洗い出し、資産と負債のバランスシートをつくってみましょう。
    「そんなのやったことないよ!」という方には、日本FP協会のサイトがおすすめです。無料で、使えるシートなども配布されています。

    子どもの入学や受験、親の介護などの出費を時間軸に並べたライフイベント表を用意し、最後に将来の収支を予想して「キャッシュフロー表」を仕上げてみましょう。

    もしどうしても「そんなの面倒!無理!」と思ったら、独立系FPに依頼することをおすすめします。お金を払ってでも、やる価値がありますよ、きっと……。

    これで、「退職したら毎月どうなるか」「いちばん厳しい時期はいつか」「老後資金は足りるか」に、数字で答えられるようになります。

    私も、退職を検討している時期に、夫と一緒に「子どもが二人とも私立理系に進み、しかも私の収入がゼロになったら」というラスボス勢ぞろいの最悪シナリオを試算しました。

    結果は、「……あれ、贅沢さえしなければ、意外となんとかなるな」。金額さえ見えれば、恐怖はただの計算問題に変わります。

    ちなみに私は、元々お金に強い人間ではありません。新任の頃は残高不足でカードの引き落としができず、実家にまでカード会社から電話がいくタイプでした。
    しかし、「このままではヤバい」と一念発起し、育休中にFP3級を取得。今ではマネーフォワードと楽天証券のマイページを眺めるのが大好きな気持ち悪い人間になれました。大丈夫、人は変われます。

    見える化した結果、「辞めない」も、立派な正解

    「見える化」は、退職への一本道ではありません。
    不満・不安・強みを全部出してみて、「やっぱり、もう少し続けよう」と思うなら、それは逃げでも妥協でもなく、胸を張れる立派な選択です。

    そして、「辞めない」と決めたとき、できることは驚くほどたくさんあります。

    今の部署がつらいなら、まず異動希望を出しましょう。「置かれた場所で咲きなさい」は、もう過去の話です。人は環境の生き物。仕事内容や人間関係が変わるだけで、働きやすさは激変します。

    その前に、眠れない、食べられない、身体症状などの限界サインが出ているなら、ダッシュで心療内科やメンタルクリニックを受診してください。診断書があれば休職して、じっくり休んでから考えることもできます。受診は「終わり」ではなく、立て直しの入り口なのです。
    私の周りにも、休職をきっかけに自分を見つめ直し、元の職場で再び輝いた人が何人もいます。

    異動も休職もせず続けるなら、働き方そのものを見直す。退勤時刻を先に決めて、その中で最大効率を考える。それだけでも、毎日は変わります。

    さあ、今の状況や気持ちがある程度見えてきたなら、次のステップへ進みましょう。

    ステップ② 積み上げる

    辞めるべきか、続けるべきか。
    迷っている今こそ、「積み上げる」ことを始めてください。
    このステップのいいところは、最終的に「辞める・続ける」のどちらに決めても、すべてが自分の財産として残ることです。

    「辞めてから次を考えよう」というのは、ノーヘルの原付で高速道路を爆走するようなもの。
    それより、組織から毎月振り込まれる給料を「軍資金」と思いながら働き続け、在職中にせっせと「次なるステージへの仕込み」をしましょう。必ず、あなたを支える資産になります。

    インプットとアウトプット、そして信頼を貯めよ

    積み上げるべきものは、単純化すると「インプット」=スキルや学び、そして「アウトプット」=発信、実績、そして近しい人の信頼です。

    まず、インプット。あなたはおそらく、めちゃくちゃ忙しいことでしょう。それでも、何らかのインプットは継続したほうがお得です。
    私の場合でいうと、在職中にFP3級を取り、英語を学び直し、コーチングや音楽療法の勉強をしました。当時はバラバラの点でしたが、独立後にひとつながりになり、「元教員で、音楽療法士で、ライター」という、まあまあな希少種になれました。

    それ以上に効いたのが、発信の継続です。匿名で、一円にもならないブログやnoteを書き続けました。これがそのまま、独立時の名刺代わりになりました。

    多くの人が「実績がないから仕事が取れない」と嘆きます。そりゃあ、実績なんてそう簡単にはできませんよね。他人が認めてくれなければ「実績」にはならないのですから。
    でも、発信はある程度自分軸でできます。コツコツと積み上げて行けば、あなたを証明する何よりの証拠になってくれるのです。

    「働き方改革」と「育休」は大チャンス

    「働き方改革」で時間管理やタスク管理をがんばっている方もいることでしょう。これこそ、一生モノのスキルです。
    私は育休明けに「忙しすぎてこのままでは死ぬ」と本気で思い、仕事のやり方を徹底的に見直しました。
    退勤時刻を先に決める。2週間先、3か月先を見据えて逆算する。見栄えにこだわらず、7割できたら上司に方向性を確認する。こうした工夫は、フリーランスになった今、そっくりそのまま役立っています。

    積み上げのチャンスは、思わぬところにもあります。たとえば育休。本来は育児のための休業ですが、自分を育て直す時間にもなります。

    もちろん、育てる我が子の個性によって、できることは大きく変わります。
    正直、私も長男は抱っこから決して降りない甘えん坊だったので、育児だけで精一杯でした。一方、次男は手のかからない子でよく昼寝してくれたので、ある程度自分の時間をとり、さまざまなチャレンジができました。こればっかりは天のみぞ知る、ですね。

    ラスボスは「家族の理解」かもしれない

    最後に立ちはだかる壁。それは、「家族の理解」かもしれません。これは、シングルでも、パートナーがいる人でも、同じだと思います。

    絶対に避けたいのは、親やパートナーなどの大切な人に「相談もなく勝手に決められた」と思わせてしまうこと。その瞬間、家の中に長い冷戦が生まれます。「家族なんだから言わなくても分かるはず」という幻想は捨てましょう。私たちは、自分の気持ちだってなかなか分からないのです。ましてや相手には、かなりの努力をしないと伝わりません。

    伝え方のコツは、相手のタイプを見極めたアプローチすることです。やってしまいがちな失敗は、自分が言いやすい伝え方で、相手構わず押し通してしまうこと。同じ内容でも、相手に合った渡し方をするだけで、伝わり方はまるで変わります。

    相手のタイプ別に、効果的な伝え方をみていきましょう。

    ロジカルで、すぐ解決策を出したがるタイプ

    「困っている」と打ち明けると、すかさず「じゃあ、こうすれば?」と答えを返してくるタイプ。論理的思考が得意な男性に多いかもしれません。
    本人は良かれと思っての反応なのでしょうが、こちらが気持ちを聞いてほしい段階だと、「そういうことじゃないのに……」とすれ違いが生まれます。

    このタイプには、話の入り口で、自分が求めているものを先に手渡しておくのがおすすめです。たとえば、こんなふうに。

    「ちょっと聞いてほしいことがあるんだよね。今はアドバイスじゃなくて、ただ聞いてくれるだけでいいんだ」

    最初にゴールを示しておくと、相手も「今は解決モードじゃなくて、聞くモードでいればいいんだな」と受け止められます。

    解決したがるのは、裏を返せば、あなたの役に立ちたいということ。その気持ちを否定せず、出番を少しだけ後ろにずらしてあげる、というイメージです。

    ある程度先々のことが決まっていった場合には、このタイプは強力な味方になってくれるはず。ぜひ、具体的に相談し、知恵袋として使い倒しましょう。

    共感を大事にするタイプ

    一方で、結論よりも「気持ちの共有」を何より大切にする人もいます。共感性高めな人や女性に多いかもしれません。

    このタイプに、ある日いきなり「会社、辞めることにしたから」と結論だけを事後報告すると、内容そのものより、「どうして相談してくれなかったの」という置いてけぼり感を与えてしまうでしょう。

    ぜひ、結論からではなく、「前提」と「想い」から分かち合うようにしてください。たとえば、こんな入り方です。

    「最近ね、家族みんなが、もっと機嫌よく暮らせる働き方ってないかなって、ずっと考えてるんだ」

    いきなり「辞める/辞めない」の話をするのではなく、「私たちが幸せになるために考えている」という大前提を、先に共有するわけです。そうすると相手は、「自分も仲間なんだ」と感じられます。

    結論は、その対話を積み重ねた先に、二人で一緒に導き出せばいいのです。何よりも、「信頼貯金」を積み上げることを大切にしましょう。


    このステップの秘訣を挙げるならば、「どんな経験も、ムダにしない」ことです。
    学びも、試行錯誤も、成功体験も、大きな失敗も。すべてを「これから望み通りの人生を生きるための糧なんだ」ととらえるマインドをもつようにしましょう。

    ステップ③ 行動する

    ここまでのステップを踏んできたあなた。もし、退職など次のステージが見えてきたなら、ソフトランディングに向けて「行動」を開始しましょう。ここでは、「次のステップの決め方」「実績のつくり方」と「ゆるやかなシフトチェンジ」について、具体的な手順とともにお伝えします。

    次のステージで「何を」やるかを決める

    「辞めたい気持ちはある。強みも、なんとなく見えてきた。でも、それを何にすればいいのか分からない」
    そんな人も多いのではと思います。

    ここで焦って一つに絞り込む必要はありません。むしろ、次の3つの視点を組み合わせながら、じわじわと輪郭をはっきりさせていくのがおすすめです。

    視点① 「強み」と「求められていること」が重なる場所を探す

    ステップ①で見える化した「強み」は、あなた一人の中にある宝物です。けれど、それだけでは仕事になりません。世の中の誰かが「それを求めている」という交差点があって、はじめて仕事として成立します。

    交差点を探す具体的な手順は、次のとおりです。

    1. ステップ①で書き出した強みを、あらためて眺める

    2. その強みを必要としていそうな相手を、3つ以上書き出す(かつての自分と似た立場の人、特定の業種、特定の年代など)

    3. その相手が実際にどんな悩みを抱えているか、SNSやニュース、求人サイトで検索してみる

    4. 検索結果の中に、自分の強みと重なるキーワードが出てきたら、印をつけていく

    私の場合、「特別支援教育で培った、相手の言葉にならない気持ちを汲み取る力」という強みと「ブログなどを書き続けていた」という経験、「言葉にならない思いを記事にする」というニーズが重なり、取材ライターの仕事につながりました。

    視点② いきなり決めず、小さく試してみる

    とはいえ、頭の中だけで交差点を探しても、答えは出ません。人は、やってみて初めて「これは違った」「これは思いのほか楽しい」と分かる生き物です。

    そこでおすすめしたいのが、「小さな実験」を複数同時に走らせる方法です。

    1. 気になる方向性を、2つか3つ、同時に候補として残しておく

    2. それぞれについて、「無料か、それに近い形」で、小さく試せる場をつくる(後述する無料モニターは、その代表例です)

    3. 試した後、「やっていて苦にならなかったか」「もっとやりたいと思ったか」を記録しておく

    4. 1か月から3か月ほど続けたら、記録を見返し、反応がよかったものから優先順位をつける

    一つに決め打ちしてから走り出すのではなく、複数の種をまいておき、育ちのいいものから水をやっていく。そんなイメージです。

    視点③ 「点」は、後からつながる

    最後に、お伝えしたいことがあります。それは、「今やっていることが、将来何に役立つかは、その時点では分からなくていい」ということです。

    視点①と②を試しながら、「今はまだ、はっきりした答えが出なくても構わない」と自分に言い聞かせてあげてください。何を積み上げるかは、積み上げながら分かっていくものです。焦らず、けれど手だけは止めずに、進めていきましょう。

    方向性がある程度絞り込めてきたら、いよいよ、今いる場所での実績づくりに入ります。

    今いる場所で、いかに実績をつくるかを考え抜く

    「実績」はあなたという人間のスキルや人柄を保証してくれる、強力な味方です。
    ぜひ、今いる場所で作れる実績がないかを考えてみてください。

    たとえば公務員は原則として副業禁止ですが、無料モニターであれば、ボランティア感覚でできるはずです(守秘義務などにはくれぐれもご注意を)。

    私は退職前、コーチングを何人かに無料提供しました。実際、今はライターの仕事が面白くなってしまってコーチングはほとんどやっていないのですが、告知から提供、感想をいただくまでの「商いの一連の流れ」を体験できたことは、とても大きかったと思っています。

    清水の舞台からは、パラシュートを背負って降りる

    もしあなたが「退職」に踏み切るなら、最大のおすすめは、「いきなり完全な無職にならないこと」です。

    少なくとも、「清水の舞台から素っ裸で飛び降りる」ことは避けましょう。目指すのは、着地点にクッションを敷き、パラシュートを背負って降りる「計算された撤退戦」です。

    具体的には、退職前の半年から1年の間に、以下を順番に済ませておくことをおすすめします。

    1. 「片足を残す先」を決める(元の職場の非常勤・別部署での嘱託・業務委託化の相談など、選択肢を3つ以上リストアップする)

    2. それぞれの働き方について、想定される月収と勤務時間を調べる

    3. 社会保険(健康保険・年金)が継続できるかどうかを、勤務先の人事や年金事務所に確認する

    4. 上記をもとに、退職後1年間の家計シミュレーションに反映させる

    私の話をさせていただきますと、退職後2年間、「非常勤講師(会計年度任用職員)」として学校に片足を残しました。狙いは、社会保険の確保と、固定給という「細いけれど切れない命綱」です。月20時間の勤務で、およそ20万円の月収。この金額があったからこそ、独立直後の不安定な時期も、生活の土台を崩さずに乗り越えることができました。

    思わぬ副産物もありました。「先生」と呼ばれる暮らしを中途半端ながら続けたことで、「これまで築いたものがゼロになった……」というアイデンティティーの危機に陥らずに済んだのです。

    発達支援では、子どもへの支援やサポートをいかに「外していくか」が大切です。子どもの成長を見極めながら、その子が転ばないように、けれど過保護にもならないように、絶妙なタイミングで手を離すわけです。

    自分の人生から「安定」を外すときも、まったく同じでした。崖から飛び降りるのではなく、階段を一段ずつ。私にとっては、ベストな降り方だったと思っています。

    あなたも、もし不安を抱えつつ退職をすると決めた場合には、次の3つの働き方を候補として調べてみてください。

    • 派遣社員…勤務日数や時間を選びやすく、社会保険にも加入しやすい

    • 業務委託…スキルを直接活かせるが、社会保険は自分で確保する必要がある

    • 契約社員…比較的安定した収入が見込めるが、契約更新の条件を事前に確認しておく必要がある

    退職前に、必ず済ませておきたい2つの手続き

    あわせて、組織の看板という最強の信用がある今のうちに、以下の2点を済ませておきましょう。

    1. クレジットカードの新規作成(今後使う可能性が少しでもあれば、退職前に作っておく)

    2. 住宅ローンや車のローンなど、大きな借入の見直し・借り換えの検討

    独立後は、この2つの審査が驚くほど厳しくなります。使えるものは在職中に堂々と使い切ってから、静かにドアを閉めましょう。

    番外編|『辞めたあと』を生き抜く技術

    独立して4年。本当に難しいのは「辞めること」ではなく、「辞めたあと、安定して続けること」だと痛感しています。

    最後に、組織を出た私が、その後どうやって食べているのか。おまけとして、独立後に心がけていることをお話します。

    ① お金の管理|収入の波は「分散」と「見える化」で乗りこなす

    独立後の最大の恐怖は、「収入の波」です。私の例でいえば、大きな案件が重なって月収100万円近い月もあれば、端境期に10万円台まで落ちる月もあります(怖っ)。この波を平常心で乗りこなすために気をつけていることは以下の3つです。

    まず、「複業(パラレルワーク)」で収入源を分散することです。
    投資の世界に「1つの籠に卵を盛るな」という格言があります。今の仕事という頑丈な「1本の柱」を手放すのであれば、細くてもしなやかな柱を、複数建てておくようにしましょう。
    私はいま、ライターと音楽療法士を、どちらも「主」として並行させています。「こちらの案件が終わっても、あちらがあるから、すぐ路頭に迷うわけじゃない」。心の安全弁があるからこそ、目先のお金のために買い叩き案件へ飛びつかずに済みます。

    二つ目は、ここでも「見える化」です。退職前に夫婦でキャッシュフロー表を叩き、「最悪、私の収入が数年ゼロでも、家計は破綻しない」というファクトを確認したのは、前述のとおりです。
    絶対的な安全基地があるから、10万円台の月が来ても、「今月は次の大波のための、種まきと充電の時期だ」と冷静に受け止められるわけです。数字を、自分を責める刃ではなく、次の一手を決めるデータとして見る。これが、波と付き合う知恵なのかもしれません。

    三つ目は、仕事の「選び方」です。依頼を、「単価(納得できる報酬か)」「テーマ(心が動き、財産になるか)」「人(尊敬でき、いい関係を保てるか)」の三つで見て、二つ以上をクリアすれば受ける、と決める、と先輩から教えてもらいました。おかげで自分を過度に安売りしなくなり、4年目の今、平均時間単価は5,000円を超えました。
    ちなみに、単価を上げるコツは、値上げ交渉よりむしろ「道具への投資」です。ツールで作業時間が半分になれば、時間単価は自動的に倍になりますから。

    ② スケジュールの管理|「強制力ゼロ」の世界で、自分の手綱を握る

    職場には、「出勤時刻」という強制力がありました。フリーランスになると、その強制力が文字どおりゼロになります。
    24時間、いつ寝ても、いつ起きても自由。この究極の自由は同時に、「家事と睡眠以外はひたすら椅子の上」という、ひとりブラックまっしぐらの罠に変わる可能性もはらんでいます。

    そこで私は、スケジュールも「仕組み」で管理しています。管理の道具は、アナログのノート3冊とGoogleカレンダーの合わせ技です。マンスリー手帳には、週ごとのざっくりした目標と、睡眠・体重・お酒のログ、大きな流れだけ。デイリーのノートには、1日の予定と実績、何にどれだけ時間をかけたか、学びや感謝したことを書く。そして雑記帳には、頭の中を気の済むまで書き殴る。細かい予定はGoogleカレンダーに任せ、ノートは「自分の現在地を確かめる場所」として使い分けています。

    ③ 健康の管理|体が資本。倒れたら収入はゼロになる

    最後に、いちばん軽視されがちで、いちばん大事なのが健康です。フリーランスには、病気休暇も、身分保証もありません。健康の崩壊は、そのまま「収入の途絶」と「自由の終わり」を意味するのです。

    だから私は、健康もまた「意志の力」ではなく「仕組み」で守ると決めました。
    たとえば運動は、音楽療法という「動く仕事」と自転車通勤によって、ある程度担保されています。加えて、毎日のルームランナー歩行20分と腰痛ストレッチをマストにしています。
    とくに腰痛や肩こりは職業病。整骨院に毎週通い、「痛くなる前にメンテナンス」を習慣化しています。

    私はついこの間まで、「週に8日飲んでいる」と豪語していました。でも、スマートウォッチで「飲んだ日は深い眠りが減る」という数字を突きつけられて以来、今では飲酒は週1回にまで落ち着きました。

    お金の見える化も、体の見える化も、考え方は同じです。数字を明るいところで直視すると、たいていの不安は、対処できる課題に変わります。

    組織を出た瞬間から、あなたのお金も、スケジュールも、健康も、管理してくれる人は誰もいなくなる。だからこそ、この3つを「気合い」ではなく「仕組み」で守る必要があるのです。

    「詰み」を「積む」に変える、明日の一歩

    教員を辞めて、フリーランスになる。この選択が良かったのかどうかは、人生を終える瞬間まで分からないでしょう。
    けれど、「このままでいいのかな」というモヤモヤは、もう聞こえなくなりました。
    生き方を愛したまま、働き方を変える。それは、計算された設計図さえあれば、ちゃんとできます。

    働き方に悩む人の中には、力のある人たちがたくさんいます。
    それなのに、「辞める理由がないから」という、たった一つの呪文で、一度きりの人生の後半をまるごと「そこそこ幸せな沼」に沈めようとしていないでしょうか。

    足場のかけ方さえ知っていれば、あなたはもっと遠くまで行けるかもしれません。

    人生の「詰み」は、向き合い方を変えれば、未来へ向けた「積み」に変わります。
    人は、適切なステップを踏めば驚くほど遠くまで行ける。
    私が22年間、子どもたちから教わったことです。
    そのステップを、ぜひあなた自身のために用意してあげてほしいのです。

    私の「あ、やめればいいのか」は、ある朝のママチャリの上で降ってきました。あなたの「その手があったか」は、どこにあるでしょうか。
    働き方を変えることかもしれないし、仕事を手放すことかもしれない。あるいは、生き方そのものを見直すことかもしれません。
    それを探し始めた瞬間から、あなたの人生の後半戦は、地味に、けれど確実に、動き始めるはずです。

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    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
    1万字を超えるボリュームになってしまいましたが、本記事はダイジェスト版です。
    「もっとkwsk(死語)」という方は、こちらのマガジンをお読みくださいませ。

    お金の見える化についてはこちら↓


    今の仕事を続ける選択についてはこちら↓


    会計年度任用職員のあれこれについてはこちら↓


     
     
    1978年生まれ/元公立教員ライター。 人生後半戦を楽しく自分軸で生きるための試行錯誤を発信しています。

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