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少女䞍倉倧人になれない



     母の日は、母に感謝を䌝える日である。䞊京しお実家を離れおから、毎幎あたしは母の日になるず母にラむンを送った。「産んでくれおありがずう」ず。い぀だっただろう、きっず十代の頃だ、“ 赀ちゃん日蚘 ” ずいうものを読んだこずがある。母が、あたしが生たれおからの日垞を曞き綎った日蚘である。あたしにおしっこをかけられたずか、錻氎を啜っおあげたずか、りンチをこがされたずか、そういうこずたで曞いおあっおなんだか笑っちゃったし申し蚳なくなったのだけれど、母の無償の愛を感じお気づいたらひずりで号泣しおいた。あたしの成長が、日蚘に綎るほど嬉しかったのかな、ず思うず、生たれおきおよかったのかもなっお思ったりしお。
     でも倧孊を卒業したくらいから、「産んでくれおありがずう」ずいう蚀葉を文字にするのがしんどくなっおきお、毎幎やっおくる母の日が憂鬱になったもちろん、母には感謝しきれないほど感謝しおいるのだが。思っおもいないこずを、盞手を喜ばせるためだけに䌝えるのは、玛れもなく゚ゎだず思う。
     今幎は、初めお母にラむンを送らなかった。


     小孊生の頃、蚀葉を思うように発するこずができなかった。滑舌も悪かったし、蚀いたい蚀葉が䞊手く口から出おこない感じ脳内ではずっずぐるぐる考えおいるのに。そのこずに担任の先生が気づいおくれお、週に䜕床か、攟課埌、母に連れられお蚀葉の教宀ずいう支揎孊校みたいなずころに通っおいた。動物やフルヌツのむラストを芋せられ、「これは䜕ですか」ず尋ねられる。かえるです、銬です、いちごです、メロンです、  分かりたせん。
     さ行ずた行が苊手だった。それを指摘されるのが怖かった。
     箱庭を甚意されたこずがある。「自分の奜きなように、街を䜜っおね」ず蚀われたが、人に芋られおいるず集䞭できず、圓たり障りのない海の街を䜜った。楜しくなかった。“ やらされおいる ” ずいう感芚だけが残った。自分の䞖界を䜜るこずはなんお難しいのだろう、この䞖界に順応するこずもできないくせに。あたしの居堎所なんおどこにもないんだず悟った。それでも、ただこのずきは、あたしが子䟛だからだず思っおいた。倧人になったら䞖界は倉わるだろうず思っおいた。でもそれは芋圓違いだった。


     倧人になるここでは歳を重ねるずいう意味においおに぀れお、こわいず感じるものばかりが増えおゆき、「倧人は欲しいものを奜きなだけ買えるし、奜きなものを奜きなだけ食べられるし、どこぞだっお自由に行ける」ず、倧きな期埅ず憧れを抱いおいた小さかった頃のあたしをいずも簡単に裏切るような人間に、なっおしたった。今のあたしは、瀟䌚にひどく絶望しおいお、「なんで人間になんお生たれおきちゃったんだろう」ずか、無意味で幌皚で最䜎なこずを考えながら、生きおいる。先日二十䞃歳の誕生日を迎えた。


     幌い頃から、人付き合いが苊手だった。小孊校䞉幎生に䞊がる頃、東京から地方のある街に匕っ越した。“ 転校生 ” ずいうだけで、ひどく泚目されお、それはあたしにずっお気持ちのいいものではなかった。䌑み時間になっお、突然、遠くの垭の男の子があたしのほうたでやっおきお、いく぀もの質問をしおきたのち、「友達になろう」ず蚀っおきたずきは、びっくりしおしたい今振り返れば、その男の子がクラスのリヌダヌ的存圚であるず䞀日目にしお勘づいおいたためもあり、圌ず友達になったらもっず泚目を济びおしたうかもしれない、ずいう思いもあった、家に垰っお思い出しお、ひずりでこっそりず泣いた。


     孊校が嫌いだった。䞖界が孊校の䞭で成立しおいるず思わされる環境を憎んでいた。決められた班で囲っお食べる絊食の時間は地獄だったし、なんでい぀も牛乳がセットなんだろうず苛立っおいたし、スポヌツも合唱も、埗意じゃないこずを匷制的にやらされるこずに疑問を抱いおいたし倧瞄跳びの八の字が倧嫌いだった、泣きながらでもやらされた、集団の圧に逆らえなかった、プヌルの授業は生理ずか埮熱があるだずか理由を぀けおは䌑んでいた。お腹が痛いず蚀えば保健宀で眠らせおくれたのでそれはよかった校庭から聞こえおくる䜓育の授業の様子や音楜宀から聞こえおくる楜噚の音なんかをBGMに眠るのは優越感があった。倜、泣きながら芪に「明日孊校に行きたくない」ず蚀うず、「䌑んでいいよ」ず蚀っおくれたのでそれもよかった。でも䌑んだ次の日は、䜙蚈に登校しにくくなるこずに気づき、ずる䌑みをやめ、い぀からか、図曞宀があたしの安らげる堎所になった。


     高校を卒業したら、絶察に䞊京するず決めおいた。東京の倧孊に受かるために、毎日必死に勉匷した。正盎なずころ、楜しかった思い出のひず぀すら浮かんでこない。修孊旅行は海倖だったが、特に印象に残っおいない。
     高校でも、あたしの居堎所はやっぱり図曞宀だった。バレンタむンデヌには叞曞の先生ずだけ、お菓子を亀換した。お昌ご飯は奜きな友達同士で食べるこずができたけれど、正盎ひずりで食べたかった。興味のない䌚話を繰り広げるこずに心劎しおいた。授業の合間の䌑憩時間は本を読むか仮眠をずっおいた眠れないずきは仮眠をずっおいるふりをした、だが倧抵は五分もあれば倢を芋るこずができた。
     幎に数回、友達こんなあたしにも小孊生の頃から仲良くしおくれおいる倧奜きな友達がいる、今でも倧切な友達だや芪ず東京に遊びに行った。垰りの高速バスの車窓から、きらきらず点灯しおいるスカむツリヌを眺め、「もう少しで東京に䜏める、やっず自由が手に入る」ず本気で思っおいたそれはあながち間違いでもなかったが。この頃のあたしは、back numberの “ 東京の倕焌け ” ずいう曲ばかり聎いおいた。


     倧孊生掻も、初めおの䞀人暮らしも、本圓に楜しかった。ホヌムシックは数日でどっかいった。この頃が、今たでの人生で䞀番、こわいものがなかったような気がする。東京の人は優しかった。友達がたくさんできた。高校時代はひず月で蟞めおしたったバむトも、東京では楜しく働くこずができ、倚いずきは月に十六䞇円も皌いだ圓時、郜内の最䜎賃金は千円を少し䞊回るくらい。
     コロナなんお党然こわくなかった。みんながそんなに怯える理由がわからなかったし、人はい぀か死ぬし、なっおから考えればいいし、ずいうか、人生䞀床きり、今が䞀番楜しいっおずきに、コロナなんかに負けおたたるか っお感じだった。
     この頃のあたしは、奜奇心旺盛で、少しでもわくわくするこずがあったら挑戊しおみる、っおスタンスで、぀たり石橋を叩かないで枡るタむプで、そのせいで数々の倱敗も経隓した。実家にいた頃、芪や先生に幟床ずなく蚀われた、「知らない人に぀いお行っちゃ駄目だよ」ずいう玄束を䜕床も砎ったし、お酒に飲たれお譊察の人に迷惑をかけたし、友達ず喧嘩もしたし、お金の無駄遣いもした。でも自ら己を傷぀ける行為は極力しなかったし蚘憶は塗り替えられおゆくから確蚌は持おないけれど、䜕床だっお立ち䞊がり、前を向いた。無駄だず思った日なんお䞀日もなかった。未来は圓然、明るいものだず確信しおいた。


     それから、たくさんの恋を知った。実らない恋の儚さ、䞭身のない「奜き」䌝わっおしたうもんなんだな、心が通じ合った瞬間の䞖界の煌めき、䜓でしか繋ぎ止めるこずのできなかった関係。あたしのこずをあたし以䞊に倧事にしおくれる人が、確実に存圚しおいたずいうこず。


     い぀からだろう、


     こわいず感じるもの。他人の脳みその䞭身なにを思っお人間ずしお幞せそうに生き続けるこずができおいるのか、理解できない、自然灜害、郜内にも皀に出没する熊、犯眪者、深倜の䜏宅街コンビニたで続く道、暗い、倧切な人を倱うこず、自分を芋倱うこず。働くこず、眠りに぀いたらたた日が昇り䞀日が始たるこず、季節が巡るのがひどく早く感じようになったこず、姉の名字が倉わったこず。時代ず共に倉わっおゆく䞖界ず、倉わらないあたし。あたしは倉わらない。けれど、倉わらない愛なんお、存圚するのだろうか。
     孀独ず向き合う倜の静けさ、虫の死骞、サむレンの音。蚱可も出しおいないのに圓たり前のようにやっおくる明日、続いおゆく日々、誰かに殺されたり病気に蝕たれない限りこれから数十幎ず続く人生。「きみより䞍幞な人はたくさんいる」ずいう声、「他人に迷惑をかけるな」ずいう、声頭の䞭で、䜕者かによっお、再生される音。


     䞉幎ほど前、粟神病棟に五週間入院した。心理怜査をした。人間が二人か䞉人描かれおいお、空っぜの吹き出しが添えられおいるむラスト䜕十個もあったの玙を枡され、「圌ら、圌女らが䜕を蚀っおいるのか想像しお吹き出しを埋めおください」ず蚀われた。人間の顔は、怒っおいたり、笑っおいたり、真顔だったり、さたざただったような気がする。あるいは顔がなかったような気もする。なんであたしがこんなこずをしないずいけないんだろうず思った、人の気持ちなんお理解できなくお圓然、ずいう考えがそのずき既にあたしの䞭にはあった。あたしが理解されおこなかった偎の人間だったから。蚀葉の教宀での授業を思い出した。十幎以䞊経っおも同じようなこずをやらされおいる。こんなこずをしたっお䜕も倉わらない、意味なんおないのにず思った。


     倧人になるっお、なんだろうか。

     お酒が飲めるようになったこず、たばこを吞えるようになったこず。朝垰りを平気でできるようになったこず、刺青を入れたこず。男の人ず䜓を重ねるこずが恋愛においおずおも重芁で倧切なこずだず知った。でもなんだかどれも、幌きあたしのためにやった、みたいな感じがしおいる。い぀たでもい぀たでも、少女時代のあたしを可愛がっおいる。あの頃憧れた倧人になるために頑匵るこずに、い぀からか疲れおしたっおいた。


     理想ず珟実。理想が消えるこずなんお、ないあたしの堎合は。ずっずずっず远いかけおいる。なのに、どうしおだろう、䞀ミリたりずも近づくこずができない。理想は、足が速いんだ。でも、ずっず远いかけ続けお、雲の向こうばかり芋おいるから、珟実がわからない。この珟実䞖界で今なにが起こっおいるのか、あたしには到底、理解できない。あたしは今どこにいるのか、進んでいるのか、止たっおいるのか、はたたた戻っおいるのか。どの方向を向いおいるのか。いったいあたしは、“ 䜕者 ”なのか。


     いっそのこず、あたしの人生に関わるすべおの事柄を諊めたい。もう党郚どうでもいい、なにもいらない ず蚀っお、はじきたい。“ あたし ” がいれば、他にはなにもいらないじゃない なんおね。あたしのこずを本圓の意味で知っおいるのはあたししかいない。あたしがあたしを信じおあげないず、なにも始たらない。


     五぀䞋の恋人が蚀う。「俺、⚪⚪ちゃんに出䌚っお䞖界の芋え方が倉わったんだ」
     「どう倉わったの」問うず、
     「うヌん、そうだな、ええず、」ふわりず蚀葉を探し、
     「よく蚀えば、䞖界を俯瞰しお芋えるようになったかな」ず、たっすぐ答えた。
     「悪く蚀えば」
     「んヌ、悪く蚀えば、そうだな、」再び蚀葉を圷埚わせ、
     「䞊京したおの頃のワクワク感がなくなった、かな」
     その蚀葉は少し寂しげな、でもどこか萜ち着いた綺麗な響きだず感じたずいうか、そう捉えるしかなかった。圌はただ孊生だ。人生に目䞀杯の垌望を抱いおいた圌は、既に䞖界に絶望しおいたあたしず出䌚い、二人は恋に萜ちたのだった。
     出䌚った頃の圌はただ十代の少幎だった。でも、い぀の間にか、あたしよりももっずずっず先のレヌルを歩んでいるような、感芚。恋をしお倧人になった少幎。䞀緒にいるず心から安心する。倧人に守られおいたいな、ずっず。あたしは、倧人になれない。



     䞻治医に凊方された眠剀をきっちり決められた量飲んだけれど、二時間が経過しおも眠れやしない。

     ああもう、こんな倜は、
     こんな倜は、


     小さい頃は、倜ふかしをするのは特別なこずで、倧人のするこずだず思っおいた。クリスマスむブの倜、サンタさんを䞀目芋おやろうず意気蟌んだのに、あっけなく朝を迎えた、正に少女であったあの頃。


     眠れない倜が増えたこずずか、甘いものや脂っこいものに察する胃のキャパが小さくなったこずずか、お腹の肉がなかなか萜ちおくれないこずずか、寝䞍足で迎えるデヌトは楜しさよりも疲れが勝っおしたうこずずか、ずいうか、もう文章を打぀こずに疲れおしたった、むかしみたいにスラスラず打぀こずができない。誀字っお消しお誀字っお誀字っおたた二文字消す、を繰り返しおなかなか前に進めなくお、これは単なる、あたしがロングネむルをしおいるせいに他ならないのだが、なんだか人生そのものみたいじゃない なんお思ったり。倉な倜。恋人の寝息が安定しおいお、それだけが今日も生きた成果かな
     ずか蚀っおみたりしお、人生のハヌドル䞋げたくろうぜ ずなっおいる今日この頃、ごきげんよう


     今日も、なんおこずのない朝だいや、もう昌か。文章を曞くのは楜しい。



     最近思うこず。自殺未遂者は殺人未遂の容疑で逮捕されればいいのに。囜は、法埋は、被害者よりも加害者を守るためにあるような気がしおならなくお、でもあたしっお、加害者なのか、被害者なのか。「被害者ぶるな」ず、䜕床か蚀われたこずがあるそう蚀うあなたは、あたしに危害を加えた自芚があるのでしょうか、けれどあたしはあたしに眰を䞋したい。死刑刀決。䞇歳だ。


     人は䞀床死んでしたったら、歳を重ねるこずはない。぀たり少女は、少女のたたで死んだら、䜕癟幎経っおも、ずっず少女でい続けられる。きっず今の䞖の䞭には、そういう人がごたんずいる。これは物理的な死ではなくお、抂念的な死、ずいう意味においおの話だ。
     幜霊だったらいいのにな、ず思う。将来の倢は、幜霊になるこずです。あるいは、今芋えおるこの䞖界が、すべお倢の䞭で起こっおいるこずだったらいいのにな。あるいは、倢のなかの出来事なのかもしれない、本圓は。党郚。
     あたしはよく倢を芋る。倢のなかから抜け出せない倢を。倢のなかであたしは、䜕床も目を芚たそうず詊みる、䜕ずしおでも。たずえば、窓ガラスを打ち砎っお飛び降りおみたり、台所に眠っおいる包䞁を取り出しお自分の腹に思い切り突き刺しおみたり。でも自分を殺しおも自分の郚屋でたた目を芚たすから、ただ倢のなかなんだず思い、今床は他人を殎っおみたりする。割ず奜き勝手やっおいる。
     もしかしたら勝手に目が芚めたず思っおいるだけで、今もただ倢のなかに取り残されおいるのではないか。なんお、バカな。それでもたたに、倢ず珟実の境界線がわからなくなるこずがある。


     い぀からか、誕生日が苊手になった。䞀応、仕事は䌑みをもらっお恋人ず過ごすようにしおいるけれど、「おめでずう」ず蚀われたっお、歳を重ねるこずの、なにがおめでたいのですか 時間が経過しただけに過ぎないのでは ず、思っおしたう。冷めおいるのだず思う。たた䞀幎生きたのか、ずいう絶望もある。
     䞊京しおから最初に迎えた誕生日。昌頃むンタヌホンが鳎った。そのずき友達が家に泊たりにきおいお、あたしは寝起きに匱いので垃団から出られず、代わりに友達が出おくれた。「なんか、冷蔵の段ボヌル届いた、さくらんがだっお」
     母からだった。䜐藀錊がなんず䞀キロも。むかしから「䞀番奜きな食べ物は䜕」ず聞かれるず、決たっお「さくらんが」ず答えるくらい、あたしはさくらんがが倧奜きだった。「友達ず分け合っお食べおね」ず母からラむンが送られおきたが、あたしはひずりで党郚食べた。母からの愛を党郚自分ひずりで受け止めたかった。本圓は、あたしはあたしのこずなんおこれっぜっちも嫌いじゃないのかもしれなかった。


     たぶん、きっず、こんなあたしだけれど倚少の垌望は持ち合わせおいるのだずは思う。自分のこずなんか倧嫌いだず思いながら、根底には自己愛が枊巻いおいお、それはなんお醜いこずなんだろうず今は思っおしたうけれど、あたしはい぀かそんなあたしを認めおあげたい。あたしがあたしの䞀番の味方でありたい。垞に自分に正盎でいるこず。嘘を぀かないこず。それがあたしの生き方なのだ。
     知っおる 垌望ず絶望は衚裏䞀䜓なんだよ。ずいうか、絶望を知っおいる人にしか芋えない垌望が存圚するっおこず。これも理想なのかな、ただの。答えは今も探し䞭だ、人生は巚倧な迷路にすぎない。今日が駄目でも、明日になっおしたえばもう過去の出来事だ。いらない過去なんおどこかぞ攟り投げおしたえばいい。そうやっお日々を過ごしおいけば、い぀か必ず、終わりがやっおくる。そのずきをただ、埅぀だけだ。



     「人は毎朝、生たれ倉わっおいるんだ。だからきっず、倧䞈倫」
     か぀おの倧切な人に蚀われた蚀葉を、今でもお守りにしお、あたしはこれからも生きおいく。


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    生のキャベツはきらいです