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人生中和滴定理論

    高校の化学で、中和滴定という実験をした。

    ビュレットから液体を一滴ずつ落としていく。

    ぽた。

    ぽた。

    透明。

    まだ透明。

    「これ、本当に変わるの?」

    そんなことを思いながら見ていた。

    じれったくなって、

    もう少したくさん入れたくなる。

    でも先生に止められる。

    「こら、慌てないの。」

    「はぁい」

    仕方なく、また落とす。

    ぽた。

    ぽた。

    そして、ある1滴で色が変わる。

    さっきまで透明だった液体が、パッと色づく。

    その瞬間が好きだった。

    あの頃は受験生だった。

    横ばいの模試の結果を見ながら、

    「私も、いつか変われるのかな。」

    そんなことをぼんやり考えていた気がする。

    ⸻

    それから何年も経って、

    私はあの実験を思い出すことが増えた。

    あの色は、

    最後の1滴だけで変わったわけじゃない。

    ⸻

    水泳をしていた頃、

    ベストタイムがなかなか出なかった。

    今日は調子が良かった気がした。

    でもタイムは変わらない。

    「なんでだろう。」

    そんな日を繰り返した。

    ある日、コーチがタイムを読み上げる。

    「え、出た。」

    そのくらいだった。

    急に速くなったわけじゃない。

    ただ、目に見えなかっただけで、

    何かはずっと積み重なっていた。

    ⸻

    逆もあった。

    脚が痛かった。

    でも、少し我慢すれば走れた。

    だから、そのまま練習を続けた。

    何か月も。

    周りに

    「さすがに病院へ行ったら?」

    と言われて受診すると、

    疲労骨折だった。

    「え。」

    その一言しか出なかった。

    急に折れたわけじゃない。

    その日だけ無理をしたわけでもない。

    見えないところで、

    限界は少しずつ近づいていた。

    ⸻

    努力も。

    我慢も。

    成長も。

    限界も。

    色が変わった瞬間だけを、

    「変化」と思ってしまっていた。

    ⸻

    何かがうまくいかない日ほど、

    あの理科室を思い出す。

    ビュレットを握りながら、

    「これ、本当に変わるの?」

    そう思っていた。

    ぽた。

    あのときは、

    気づいていなかっただけだ。

    色が変わる前から、

    変化は始まっている。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
    海から上がり、空から降り、 ただいま人生方向転換中。 海外生活を終えて帰国したアラサー女が、 気になったことをあれこれ話します。 まあ、聴いてやってください🙂‍↕️

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