「最悪の芸人」と呼ばれた男が、誰にも言わずに被災地へ向かっていた
江頭2:50。テレビ出禁多数。「嫌いな芸人ランキング」で長年1位を取り続けた男だ。
過激な下ネタ、予測不能な行動、生放送での暴走。
2022年の生放送では女優を追いかけ回して泣かせた。
一方で2022年には、代々木アニメーション学院の入学式にサプライズ登場し、「嫌いな芸人1位だった自分が言うのも何だが」と前置きして、夢を追う若者へ向けた手紙を読み上げた。
会場の新入生が泣いた。感動して、だ。
「最悪の芸人」と、「感動を生む人間」が、一人の男に同時に存在している。
2011年3月。震災が起きた
東日本大震災が起きた日、江頭はNHKのニュースを見ていた。
福島県いわき市の老人ホームが孤立していた。物資が届いていなかった。トラックが途中で引き返してしまうという報道だった。
「ふざけんじゃねえ。俺しかいない」。
そう思った。
事務所には言わなかった。マネージャーにも言わなかった。
誰にも言わずに、一人で
消費者金融のアコムで20万円を借りた。
コストコへ向かった。事情を話すと、コストコ側が全面協力してくれた。飲料水、紙おむつ、ペーパータオル、生理用品。知人の運送会社から2トントラックを借りて積めるだけ積んだ。
帽子とサングラスで変装して、一人で福島へ向かった。
誰にも言わなかった。カメラも持たなかった。
現地で何が起きたか
老人ホームに物資を運び込んでいるうちに、バレた。
「江頭さんですよね」と気づかれた。
そこで江頭は帽子とサングラスを外し、「遅れてごめんな!」と声をかけた。
そして避難している人たちの前でギャグを披露した。
暗かった避難所が、少し明るくなった。
「一生忘れない」という声が出た。
物資を届け終えると、感謝するスタッフに「バイトの時間だ」と言い残して、次の届け先へ向かった。
そのまま競輪場の集荷場へ残りの物資を届け、何も告げずに帰った。
なぜ黙っていたか
「売名と言われたくなかった」。
「嫌いな芸人ランキング1位」の人間が被災地に行けば、売名だと言われる可能性がある。
だから変装して、一人で行った。証明できるものを何も残さなかった。
この話が世間に広まったのは、江頭本人の発信によるものではない。
物資を受け取った被災者がTwitterに「エガちゃんが来た」と投稿したからだ。
助けた側ではなく、助けられた側が発信した。
それを知った江頭はこう言った。「営業妨害だよ!」。
後にYouTubeでこう語っている。
「お金がないから、体で払ってきただけなんだよ」「何日もボランティアやってるやつに比べたら、全然大したことじゃない」。
自分の行動を、徹底的に小さく言った。
余が思うこと
人間の評価というのは、外側で形成される。
テレビに映る姿、発言の切り取り、ランキングの数字。
そういうものが積み重なって「あいつはどういう人間か」が決まる。
「嫌いな芸人1位」という評価も、そうして形成されたものだ。
だが内側は、外側とは全く別の形をしていることがある。
2022年の代々木アニメーション学院でのスピーチで、江頭はこう言った。
「簡単に手に入らないから夢なんです。なりふり構わず真剣にやれば、誰かが笑ってくれる。誰かが認めてくれる」。
「嫌いな芸人1位」のまま、体を張り続けた男の言葉だ。
誰かに見せるためではなく、誰かのために動いた人間の言葉には、重さがある。
本当に優しい人間は、優しさを黙って置いていく。
