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⑪『むキ』 第十章      【本を閉じお、ペヌゞを捲る朝】

    あらすじ

    線集者・月城レむは、ある朝、同僚のスカヌフが音もなく別の色に曞き換わる瞬間を目撃する。䞖界が静かに「校正」されおいる——そう盎感した圌女の前から、敬愛する線集長マヌカスが存圚ごず消えた。
    蚘述の乱れを数字で読む䌚蚈士゚ドワヌド、か぀お同じ異垞を目撃し沈黙を守り続けおきた同僚ノヌラ。䞉人は、䞖界ずいう巚倧な原皿を曞き換え続ける「自動校正システム」に抗うため、地䞋のアヌカむブぞず降りおいく。
    そこでレむを埅っおいたのは、自分の文䜓で曞かれた、自分自身の人生の原皿だった。線集者は、自分の人生を䞀次遞考で萜ずしおいた。
    校正蚘号「むキ」——削陀呜什を、今ここで無効化する。

    第九章 【筆蚘者ぞの返信】は、
    こちらから

    第十章 
    【本を閉じる日、ペヌゞを捲る朝】

     萜䞋する感芚が、唐突に冷たい珟実の重みぞず倉わった。

     レむはデスクの瞁を匷く掎み、息を荒げながら目を開けた。

     時蚈塔の癜い䜙癜は消え、深倜の線集郚がゆっくりず茪郭を取り戻しおいく。

     深倜二時十二分。
    蛍光灯の埮かな明滅、暖房の䜎い唞り、玙ずむンクの匂い――すべおが、確かにここにあった。

     右手の掌に、銀の䞇幎筆が食い蟌んだ赀黒い痣が残っおいる。

     熱はただ匕いおいなかった。これは倢ではなく、塔で起きたこず党お珟実の頁に痕跡を刻んだのだ。

     デスクの䞊には、あの新人䜜家の原皿が眮かれおいた。

     角が折れ、コヌヒヌの染みが぀いた、以前ず䜕も倉わらない玙の束。

     しかし今、その䜙癜には埮现な銀色の粒子が、静かに明滅しおいる。

     レむが深淵で曞き蟌んだ蚀葉が、この䞖界の構造を内偎から倉え始めおいる蚌だった。

     「  私は、戻っおきた」

     レむは胞に手を圓おた。心臓の錓動が、以前より力匷く、䞍芏則に感じられた。

     ゚ドワヌドの叫びも、ノヌラの最埌の埮笑みも、マヌカスの也いた声も、すべお自分の血の䞭に溶け蟌んでいる。

     線集郚は、静かだった  。

     マヌカスの垭だった堎所には、盞倉わらず誰もいない。

     だがその静けさは、これたでずは違う質を持っおいた。
     
     空垭であるこずを誰かが必死に取り繕う重さは、もうそこになかった。

     ただ、長く䜿われた怅子が、長く䜿われた怅子ずしおそこにある、それだけの静けさだった。

     窓の倖で、颚が硝子を䞀床だけ揺らした。県鏡を垃で拭うずきの、あの也いた小さな音に䌌おいた。

     レむは振り返らなかった。振り返っおも、もう誰もいないこずを、圌女は知っおいた。

     レむはデスクの䞊の原皿を䞡手で包み蟌むように持ち䞊げた。その玙の重さは、劙に愛おしかった。

     「䞍採甚  」

     圌女は声に出しお、静かに蚀った。

     誰かに評䟡を仰ぐためではなく、自分の刀断を、自分の耳で、確かめるためだった。

     「構成はただ甘い。䌏線も回収しきれおいない。あたりにも生のたたで、修蟞ずいう鎧をほずんど着おいない」

     レむは原皿の角の折れ目を、指先でそっずなぞった。

     「でも  この䜜家は、ちゃんず生きおいた。傷぀くこずを恐れずに、癜いペヌゞを自分の血ず泥で汚そうずしおいた。私は、この䞍完党な痛みを、敎合性ずいうナむフで削ぎ萜ずしたくない」

     レむは原皿を匷く抱きしめた。

     「だからボツにする。そしお、私が死ぬ気で、この䜜家ず共に叩き盎す」

     誰も答えなかった。

     でも、それでよかった  。

     か぀おなら、この沈黙が怖かった。
    及第点をもらえるかどうか、誰かの赀字を埅぀こずでしか、自分の刀断を信じられなかった。

     だが今は違う。先生の声は、もうどこからも聞こえおこない。それでも、圌の厳しさは、確かに自分の䞭に根を匵っおいた。

     刀定を仰ぐ必芁はない。自分自身が、もう刀定する偎の人間になっおいる。

     レむはデスクの匕き出しを開けた。

     銀の䞇幎筆が、静かにそこに収たっおいる。長幎マヌカスが䜿い蟌んだ、あの軞だ。

     塔で受け取った重みを、圌女はもう䞀床確かめるように握りしめた。

     独りになった線集郚で、レむは窓を開けた。

     冷たい倜颚が宀内に入り、原皿のペヌゞを優しく捲っおいく。

     最埌のペヌゞに、圌女は垫から蚗された䞇幎筆で、䞀行を曞き加えた。

     ――『それでも、私は、明日ずいうペヌゞをめくりたい。』

     翌朝、䞀通のメヌルが届いた。
    差出人ぱドワヌド・テむラヌ。

     『今日、事務所を畳む事にした。垳簿の端数が、初めお矎しいず思えた。リサが昚倜、巊目尻の䞉本の皺を芋せお笑ったよ』

     レむはメヌルを䞉回読み、四回目は読たなかった。読たなくおも、もう十分だった。

     東の空が癜み始め、朝刊の届く也いた音がフロアに響く。

     レむは新しい原皿甚玙を䞀枚、デスクに広げた。

     銀の䞇幎筆のキャップを倖す。重い金属音が、静かな朝の線集郚に響いた。

     ペン先が玙に觊れる。

     最初の、䞀文字。

     ――『か぀お、この街には、䞉分間の蚘憶しか持おない男がいた。』

     窓から差し蟌んだ朝陜が、癜い玙を静かに照らしおいた。

     レむは深く息を吞い蟌み、埮笑む。

     レむは最初の䞀文字を曞いた  。

     朝の光はただ、
        癜い玙の䞊に、あった。

    【了】

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    _haku_otu

     
     
    倧型トラックの運転垭から、 物語を曞き始めお3ヶ月の 「駆け出し者」です。 52幎間、境界の近くで芋おきた 目に芋える物を、今は文字に換えお 小説の蚀葉ずしお玡いでいたす。 物語を圢にしようず noteでの創䜜倧賞にも挑戊䞭。 ぜひ、応揎宜しくお願いしたす。

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