
玉の輿結婚が幸せの必須条件になった背景
高学歴、高身長、しかも儲かるしかない業界の会社の3代目社長、年収2000万円以上ときたら、
私にとっては願ってもない、玉の輿の結婚に違いなかった。
年齢が7歳も上だろうが、
前髪の生え際が思ったよりも、ちょっと上だなとか、
ズボンにお腹がどっしりと乗っていようが、
笑った時に歯ではなく、長い歯茎しか見えないことも、正直、初めて会ったときにかなり気にはなった。
それでも、よく見たら雛人形のおだいりさまに顔が似てなくもないし、
おだいりさまといえば、昔のやんごとなき顔だし、
時代が時代なら、高貴なお顔立ちとも言えるし。
そんなやたらポジティブな発想で、時空を超えたイケメンだとキャッチフレーズをこっそりつけてみたりした。
雛人形のおだいりさまの横には、涼やかにお雛様が座ってるし、私には財力は全くないけれど、若さだけはハツラツとあった。
大学のミスコンには、なんとかファイナリストに残ったから、見栄え的には問題ないと感じていた。
目の前に、お金持ちの男性が現れたのだから、何とかしてそれを理想の王子様に仕立てたい気持ちがあった。
なんとか、理想の王子様だと自分自身が納得できれば、もう、あとは踏み込むだけだとさえ感じていた。
とんでもないイケメンだと思い込むんだ、私。
だってこれが叶えば、私は玉の輿婚が見えているのだから。
そうやって、玉の輿に乗れば、パパとママはきっと喜んでくれる。
***
子供の頃から、勝気な私に父親はことあるごとに、こんなふうに言っていた。
「お前は、顔がそんなに可愛いわけでもないし、どちらかといえば妹の方が可愛いから、外見じゃなく、内面で勝負しろ」
どこに言っても、チヤホヤされる妹とは対照的に、勉強を叩き込まれたのは、強気な性格が災いして、結婚が遅れるだろうという父親からの、ある種の愛情ゆえだったのだろう。
お金持ちとの結婚をすれば、お金に困ることもないし、食いっぱぐれることはなくなるだろう。
それなら、幸せな結婚生活を送れるだろうと父親は考えていた。
「内面を磨いて、高学歴、高身長、高収入の男と結婚したら、幸せになれるよ」
その言葉を信じていた。
「顔なんて、ついてればいいんだから」
その言葉を間に受けた私は、条件だけで相手選びをすることを好むようになっていた。
好条件で、他の人が選ばないような外見の男性なら、逆に狙い目じゃね?
とすら考えるようになった。
いつからか、「私は顔はついてたらいいの。内面と条件で相手を選びたいのよ」と口癖のように女友達に話すようになっていた。
感覚的ではなく、打算的に相手選びをすることのほうがかっこいいとまで思うようになり、
そんなわけで、私は親のすすめで、お見合いをするようになった。
まるで、いつかの時代のように、相手の釣り書きが丁寧に印刷された紙で送られてきた。
履歴書と職務経歴書を簡単にまとめたようなものと、顔と全身の写真。
一眼見た時に、「これは絶対にあり得ない」と心が叫んだのを、無理やりかき消した。
「いや、見様によっては、可愛く見えるかもしれない。美人は3日で飽きるという言葉もあるし、長く見えているうちに、可愛く見えてくることもあるだろうって」
ポジティブ思考な私は、相手の外見うんぬんの前に、自分の理想の相手だと信じることで、本音をかき消すことに成功した。
そうすれば、私はきっと玉の輿に乗れるし、
玉の輿に乗った私を見て、パパとママは安心するだろう。
結婚相手がお金持ちだけでなく、
歴史の授業に登場する偉人の末裔であることも、きっとパパとママの幸せにつながるだろうと考えた。
そうすれば、色気のある妹に勝てる気もするし、私への誇りも一層高まるだろう、と考えた。
パパとママが「すごいね」と私を褒め、幸せに感じてくれるなら、きっとそれは私の幸せにもなるはず。
結婚前の私はずっとそう信じて、疑わなかった。
**
結婚式後の初夜、
私と夫は老舗有名ホテルのスイートルームに宿泊した。
ブランド物のウエディングドレスを着るために、6ヶ月もの間、過酷なダイエットで作り上げた私の体は、完璧だった。
しかし、ドレスを脱いで、シャワーを浴びようとする私の気持ちは、沈んでいた。
(じゃあ、パパとママが死んだら、私はこの夫と2人きりになるんだ。)
今は元気いっぱいの両親が死んだ後のことを考えてみた。
お葬式の横にいる夫。
夫しか私の家族が残されていない状態。
両親のお葬式で、泣く私を励ます歯茎の長い夫。
親戚となんかうまくやりとりをする細い目の夫。
なんだか全然しっくり来ないのに、
私には夫しか残されていない状態なのだ。
そうして、私の隣には、お金持ちの夫がひしと肩を抱きしめているのに、
私はひとりぼっちで、孤独だと感じているのだろう、と。
ふと、そう気づいた瞬間、
パパとママの幸せは、私の幸せなのか…?
と、気づいてしまった自分がいた。
じゃあ、パパとママがいなくなった後、その幸せは誰のためのもの?
この結婚で、そもそも私は幸せを感じているのか?
寝室では、夫がゆったりと足を伸ばし、シャワーから出てくる予定の新妻を待っているだろう。
全裸で呆然となっているのも知らずに。
つづく