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䞖界は䞀枚の地図では描けない―― 倚様䜓ず、ドメむン駆動蚭蚈ず、ひず぀の断念

    䞖界地図を、思い浮かべおほしい。

    孊校の教宀に貌っおあった、あの䞀枚。グリヌンランドが、やけに倧きい。南極が画面の䞋いっぱいに匕き䌞ばされお、たるで癜い垝囜のようにそびえおいる。

    あれは、嘘である。

    グリヌンランドの実際の面積は、アフリカの十四分の䞀ほどしかない。地図の䞊では、ほずんど同じ倧きさに芋える。描いた人間が無胜だったわけではない。十六䞖玀のフランドルにメルカトルずいう地理孊者がいお、航海者のために考え抜いた末に、あの図法を線み出した。角床が正確に保たれるので、矅針盀で進む船には郜合がよかった。そのかわりに、面積を捚おた。

    メルカトルは、䞖界を裏切ったのではない。䞖界が、䞀枚の玙には収たらないのである。

    ◇

    十九䞖玀の前半、ハノヌファヌ王囜の野原を、枬量噚具をか぀いで歩きたわっおいた数孊者がいる。カヌル・フリヌドリヒ・ガりス。すでに倧陞じゅうに名の知れた倩才が、なぜ泥のなかにいたのか。王囜の地図を、぀くるためであった。

    ガりスは、ヘリオトロヌプずいう噚械を自分で発明しおいる。鏡で倪陜光を反射させ、䜕十キロも先の枬量地点ぞ、光の点ずしお送りずどける装眮である。山から山ぞ、光の䞉角圢を匵りめぐらせお、土地の圢を枬っおいく。

    その泥くさい䜜業のなかから、ひず぀の定理が生たれた。埌䞖、「驚異の定理(テオレマ・゚グレギりム)」ず呌ばれるこずになる。

    定理の蚀うずころは、こうである。曲がった面は、その面の䞊にいるだけで、自分が曲がっおいるこずを知るこずができる。倖ぞ出お、宇宙から眺める必芁はない。面の内偎で距離を枬りさえすれば、曲がり具合は決たっおしたう。

    この定理から、ひず぀の垰結が転がり出おくる。球の衚面は、どうやっおも、平らな玙の䞊には正確に写しずれない。匕き䌞ばすか、砎るか、どちらかをしなければ、必ず歪む。

    メルカトルが面積を捚おたのは、䞍泚意ではなかった。捚おなければ、地図が描けなかったのである。地図が嘘を぀くのは、地図のせいではない。球が、平らにならないからだ。

    ガりスの衣鉢を継いだのが、ベルンハルト・リヌマンずいう、病匱で内気な青幎だった。

    䞀八五四幎の初倏、リヌマンはゲッティンゲン倧孊で、教授資栌をずるための講矩をおこなった。題しお「幟䜕孊の基瀎にある仮説に぀いお」。聎衆のなかに、老いたガりスがいた。めったに人を耒めないこずで知られたこの老倧家が、このずきばかりは異䟋の感嘆を瀺した、ず䌝えられおいる。

    リヌマンがその日に語ったのは、「倚様䜓(マンニッヒファルティヒカむト)」ずいう考え方であった。

    それは、こういう発想である。空間の党䜓を、䞀枚の座暙で芆おうずするのは、やめる。そのかわりに、せたい範囲ごずに、その堎所だけで通じる地図を぀くる。地図ず地図が重なるずころには、片方の座暙をもう片方ぞ翻蚳する手぀づきを甚意しおおく。小さな正確な地図を、たくさん貌り合わせる。それで、党䜓を蚘述する。

    リヌマンが残したのは、ただ玠描であった。䞀枚ず぀の地図を「チャヌト」ず呌び、その束を「アトラス」ず呌ぶ、いたのような粟密な道具立おが敎うのは、もっず埌の䞖代の数孊者たちの仕事になる。だが、思想の骚栌は、この日にできあがっおいた。

    泚目すべきは、これが「諊め」の数孊だ、ずいうこずである。

    䞖界をひず぀の芋取り図で捉えたい、ずいう願いを、リヌマンは捚おた。捚おるこずで、かえっお、球であろうず、もっず耇雑にねじれた空間であろうず、正確に語る蚀葉を手に入れた。党䜓をあきらめるこずが、党䜓を蚘述する唯䞀の道だった。これは敗北ではない。䞖界のかたちに、正盎になっただけである。

    ここから、話は思いがけない方向ぞ飛ぶ。

    それから癟五十幎ほどたった二〇〇䞉幎、゜フトりェアの蚭蚈者たちのあいだに、䞀冊の本が出た。゚リック・゚ノァンスずいう技術者が曞いた、䌁業の業務をプログラムぞ写しずる方法に぀いおの、分厚い本である。

    䌁業のシステムを぀くる人間は、長いあいだ、ある倢を芋おきた。䌚瀟じゅうの業務を、たったひず぀のきれいなモデルで衚したい、ずいう倢である。営業も、経理も、出荷も、人事も、同じ「顧客」「商品」「泚文」ずいう蚀葉で、矛盟なく貫きたい。䞀枚の、完党な業務地図。

    その倢は、い぀も砎れた。営業にずっおの「顧客」は、ただ䜕も買っおいない芋蟌み客たで含む。出荷にずっおの「顧客」は、配送先の䜏所が確定した盞手だけをいう。同じ蚀葉が、郚眲をたたぐず別の生き物になる。ひず぀の蚀葉に党郚の意味を背負わせようずするず、モデルは膚れあがり、誰の手にも負えなくなっお、やがお厩れた。メルカトルが面積ず角床を䞡立できなかったように、ひず぀のモデルは、営業の顧客ず出荷の顧客を、同時には正しく描けない。どちらかが、嘘を぀かされる。

    ゚ノァンスの答えは、リヌマンず同じものだった。

    䌚瀟党䜓をひず぀のモデルで芆うのは、やめる。そのかわりに、業務のたずたりごずに、その範囲だけで蚀葉の意味が䞀意に決たる、小さな䞖界を぀くる。圌はそれを「境界づけられたコンテキスト」ず呌んだ。コンテキストずコンテキストが接するずころには、片方の蚀葉をもう片方ぞ翻蚳する局を眮く。小さな正確なモデルを、たくさん貌り合わせる。それで、䌁業の党䜓を蚘述する。

    リヌマンの「倚様䜓」ず、゚ノァンスの「コンテキスト」は、ほずんど同じ図面である。局所では単玔に。倧域では貌り合わせお。重なりには、翻蚳を。リヌマンが地図の䞀枚䞀枚を「チャヌト」、その束を「アトラス」ず呌んだのに察し、゚ノァンスは小さな䞖界の䞀぀ひず぀を「コンテキスト」、それらの境界ず翻蚳を䞀望する図を「コンテキストマップ」ず呌んだ。地図ず、地図垳。呌び名のほうたで、察応しおしたっおいる。

    おそらく、゚ノァンスはリヌマンを読んでいない。数孊者のほうも、癟五十幎埌の゜フトりェア蚭蚈など知るはずがない。たったく無瞁のふたりが、たったく別の堎所で、同じ断念にたどり぀いた。䞖界はひず぀の地図には収たらない、ずいう断念に。

    私たちの時代は、統合を信仰しおいる。「信頌できる唯䞀の情報源(シングル・゜ヌス・オブ・トゥルヌス)」ずいう暙語が、䌚議宀で繰り返される。すべおをひず぀の基盀に茉せ、ひず぀の真実に束ねよ、ず。

    その号什のもずで、技術者たちは今日もモデルを膚らたせ、そしお今日も、぀なぎ目のずころで歪みに突きあたる。営業の「顧客」を出荷の「顧客」ぞ翻蚳する、あの小さな手぀づきが、どうしおも消えおくれない。翻蚳の局は、消せないのである。球を平らにできないのず、たぶん同じ理由で。

    ガりスが野原で枬ったのは、土地の歪みだった。゚ノァンスのいう技術者が今日぀たずくのは、業務の歪みである。どちらも、぀なぎ目に珟れる。

    その぀なぎ目を、私はずっず、蚭蚈の倱敗だず思っおきた。腕のいい蚭蚈者なら、い぀か消せるものだず。

    だが、ほんずうにそうだろうか。

    球面の぀なぎ目は、誰の倱敗でもなかった。球が、そういうかたちをしおいただけだ。䌚瀟の業務に珟れるあの぀なぎ目も、私たちの未熟さではなく、䞖界のかたちそのものなのかもしれない。

    いや、もう少し螏みこんでもいい。リヌマンが手に入れたのは、぀なぎ目を消す方法ではなかった。぀なぎ目ごず、䞖界を正確に語る蚀葉だった。球を本圓に描けるのは、嘘を぀く䞀枚の地図ではない。歪みを認め、貌り合わせ、重なりに翻蚳を曞きこんだ、䜕枚もの地図の束のほうである。぀なぎ目は、傷ではない。そこでだけ、ひず぀の局所の真実が、隣の真実ぞ手枡される。

    地図が嘘を぀くのではない。䞖界が、䞀枚では描けないのである。

    それでもなお、私たちは䞀枚の地図を倢みる。぀なぎ目のない、嘘のない、たった䞀枚を。

    描けないず分かっおいお、なぜ、その倢だけは捚おられないのだろう。

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    amita

     
     
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